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私立一之宮学園〈特科〉  作者: ヲトオ シゲル
これは14日間のおはなし。
11/83

day 2 おとうさんといっしょ。








今朝は宇宙工学の高等授業があるからと、都とは食堂で別れた。こうやって自分の興味のある授業には積極的に飛び入りで参加している。




食事中にはスポーツ専攻科の生徒数人に自習になったから遊ぼうと誘われて、史隆はサッカーをしに行ってしまった。

自動的に和隆も付いて行くようになり、和隆が行くなら琴野も、琴野と一緒にコッティもという具合に、親子ふたりが取り残される。


適当に落ち合う約束をして一時解散となった。


残されたおっさんにさしかかった子どもと、現役高校生の父親は、特に会話もなく食後のお茶を飲んだ後、学園内を歩くことにした。


「え……と。なんて呼んだらいいんでしょう。お父さん……は、変ですよね。名前も呼びづらいし。……でも他の人が聞いたら……」

「お父さんでいいよ、別に。誰も気にしないって。それより敬語の方が変でしょ。みんなにもね。フツーに話せば良いよ」


周りの目を気にしてもしなくても、どっちにしたって妙で複雑な感じになって、難しく考えがちなよつばに、ああ、とリュカが笑う。


「確かにややこしいとは思うけど。こんなもんだって気にしないで。すぐに慣れるから」



そう言われれば昨日から充分妙で複雑なんだった。

体の力を抜いて向き合って笑う顔は、親子だけあってよく似ている。





学園の敷地内をふたりは影の下を選びながら歩いた。


授業中の今は静かで落ち着いた雰囲気で、色々な施設をふたりで回って、必要なものを買いに 店までぶらぶらと歩いていく。


学園の生徒は全員が学内だけで使用するカードを持っている。特に学園の8割を超える寮住まいの生徒にはなくてはならない命綱で、食事も買い物もそのカードを使っている。

生徒である事を証明し、授業の出欠や、施設への出入りや、何かと事あるごとに必要だし、いつも身につけていないと不便なものだ。


食事や買い物の代金は後日まとめて保護者が清算するのだが、特科の場合は理事長の一ノ宮が支払っているので、無茶苦茶に使っても理事長には後からで少々注意を受けるだけ。


特科の裏にあるエンジンの付いたアレらや、物置のアノものらや、教室の円卓に山積みの、カオスに似たソレらも好きにした結果だとリュカは笑った。


よつばの食事は全部、都がカードを使って支払っていた。


それを告げると気にする事はないと、必要のないもので買い物をさせられて、その代金は全てリュカのカードで支払った。


買い物が済んで店を出ると、授業が終わっていたらしく、リュカはすぐに女子生徒数人に囲まれて、少しずつその人数が増えていく。


生まれた国の気質がそうさせるのか、リュカは女生徒達の気を悪くさせない、むしろ気を良くさせることで周囲にどんどん人が集まってくる。

天然で人を惹きつけておいて、それが面倒だからと、相手に悟られないように上手く遠ざけるという、なんとも回りくどい事をしている。


よつばもそれに倣って、柔和な態度をとれば、なぜだか人だかりは増えていった。


「もうそろそろ授業が始まるからね」


見事な微笑みからのひと言で、周りの女子達も同じ様な微笑みを浮かべ、口々にお別れの言葉を述べて離れていった。


もしかしてこの中にお母さんがいるのかもと、よく見ようと思っても、人数が多すぎて全員を見るヒマもないまま、女子生徒たちはそれぞれの場所に散っていく。


「よつばは誰か探してるの?」


ニコニコしながら聞くリュカに、このヒトわざとからかって面白がっていやしないかと思った時点で、よつばの母親捜索は打ち切りになった。




近くの校舎の食堂で、休憩して冷たいものを飲んで、またのんびり木陰の下を歩いていると、頭上から声が聞こえた。


声のする方を見ると、校舎の三階から都が手を振っている。

そこに行くから待っててと言った途端に窓辺から姿が消えて、どんなスピードで走ったのか、驚くほど早く父子のところまでやって来た。


先生につかまってなかなか離してもらえなかった、困っていたから助かったと言い、手に持っていたモノをもらったのだと嬉し気に見せてくれた。

小さな手のひらに乗るほどの、四角い金属製の何かの部品は、複雑に組み合わさっていて、見た目よりもずっしりと重たい。

都は細かくそれが何かと説明していたが、リュカにもよつばにも一体何なのか、結局最後まで解らない。

ひとつ解ったのは、都の部屋があんな状態な理由だけだった。







スポーツ専攻科のグラウンドでは二十人近い男どもがひとつのボールを追い掛け回して右往左往していた。

自習時間だった為、いつもの真剣さはなくぎゃあぎゃあ大きな声が響いている。


ほとんど雲のない空の下、スポーツ専攻科のギャラリーも大きな声を飛ばし、清涼飲料水のコマーシャルのような爽やかさだ。


ただ、特科の見学している方は清涼感ゼロ。爽やかでも気持ち良くもなかった。


そのほとんどが男で構成されたスポーツ専攻科。見学にきた琴野は大変優遇されて、屋根の下にいた。

といっても屋根はトタン製、骨組みは木製で壁なんてない。雨が降ってもそんなには濡れないといった程度のお粗末なつくりをしている。

どこから拾ってきたのか分からない青いベンチは、何とか乳業と書いてあるが字も消えかかって判読できない。



時々、奇跡のように風が吹いても焼けたトタン屋根の下ではなんの助けにもならない。


ベンチに座る和隆は、焼き魚の気分だと嘆いている。


史隆はちょこちょこボールに触っている程度。適度に人と距離を保ちながら走り回っている。一日中スポーツをしている人達に囲まれて、ボールを奪ったり、得点に絡むなんてムリに決まっている。


それはそれで好都合でもある。

ついムキになって本気を出してしまえば、何が起こるか。

史隆本人にすら分からない。


周囲にいる人間が、いつもより早く走れるとか、いつもより疲れなくてなんか良いとか、ちょっと調子が上がったゼ☆それくらいがみんなが楽しめる。


和隆が加われば、それは全く逆の効果。

本気になればどうなるか、試してみる気にもならないような事態が起こる。


本来なら和隆だって体を動かすことは好きなはずなのに、いつでもなんでもセーブするようになって、今ではほとんど自分から何かしようとはしない。

いつになったら終わるのかと、騒がしく走り回る大勢を退屈そうに眺めている。




琴野は和隆のそばにいる事が最重要事項なので、貴重な女性ゲストにカッコ良いところを見せようとはりきってプレーする男どもは見ているようで見ていないし、暑いも何も、そんな事はどうでもいい事だった。









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