神様と、掃除係
「それじゃあ、取引成立ということで、」
「うん、そうだね。よろしくね、掃除婦さん。」
語尾にハートが付きそうなセリフを言った春様は微笑んだ。私は手を腰にやり春様を見る。
「ついでに言うと、条件、というか約束は、随時追加させて頂きます。」
私が春様と出会ったなかでこれまでで一番の笑顔を見せると春様は引きつった顔で私を見た。
うん、春様いい顔ですね!
* * * * * * * * *
手元に置かれた『掃除婦の条件!』と書かれた私直筆の紙には条件と『春』と書かれた神様の直筆のサインがある。口約束にはさせない私の出頭さに春様も驚いていた。
それにしても、と私は紙を眺めて思う。神様だからなのか、春様のサインはとても達筆だった。ぶっちゃけ、『春』と書いているはずなのになんて書いてあるか分からなかった。
そんな春様は、先ほど膝から落としてしまい機嫌が悪い黒猫を慰めるために膝に乗せて私の方を向いて座っていた。私は近くに置いてあったお茶を一口飲むとぬるくなっていた。
「あっ、それ。私がさっき飲んだお茶だ!間接キスだね、美空ちゃん!」
黒猫膝にのせた神様がキャッキャしている。お前は女子中学生か!
と思いつつも自分もつい最近までは高校生だったので言われてしまえば意識してしまう女なのであとでよく歯磨きしておこうと思う。
そんなことよりも……
「それよりも!」
「それより、じゃないよ美空ちゃん。私間接キス初めてなのに!」
「いやどうでもいいです。」
冷めた目でみれば春様は黙った。すごく悲しそうな顔をしていたけれど。
「……掃除のことなんですけど、神社って毎日汚れるものでもないでしょうから、週に3回程度でいいでしょうか?」
「はい、却下。」
でたよ、却下。
「……なぜです?」
「だって美空ちゃんと毎日会えないし、葉っぱが落ちてくるので掃き掃除してほしいです!というか、それ以外はたまにです!神様的に!」
「神様的にって……だいたい、ずっとつっこまなかったですけど春様の神社って神主さんっていないんですか?」
そのひとが、普通やるものでしょう。といえば春様は目を反らした。この神様って嘘が苦手そう。そうおもっていれば案の定に春様は「今旅に出ている」といいだす。まぁ、いいけどさ、こっちだった色々言いたくないことあるし。にしても嘘がつけないんだなぁ、生暖かい目で見れば春様は慌ただしく髪をいじっているし。
「まぁ、とりあえず毎日掃き掃除と、週一程度に大がかりな清掃って感じですかね、」
小太郎くんにも手伝って貰おうかな、なんていえば春様はむっとした顔で私を見る。なにか文句あんのか?と、見れば春様も私を睨む。
「なんでコタがでてくるのさ?」
「だって小太郎くん以外と手伝ってくれるし、」
反抗期らしいけどなんやかんやで色々お手伝いとかしてくれる。引っ越し作業でそれはそれはよく知っている。元気な少年の力は有効に使わなければ。そう思っている私とは裏腹に、
春様はとても面倒くさい。
「大体朝だってさぁ?コタなんで美空ちゃんとこ来たの?」
「お漬け物もらったんですよ、」
「それにしてはすごく親しそうだった!」
「引っ越しの時手伝って貰ったからですよ。」
それだったら、私を呼んでくれれば一瞬なのに、と拗ねた顔で呟いた神様をガン無視して、
貰ったお漬け物で思い出す。そういや朝ご飯食べてない、時計をみればもうお昼。ぐーっとお腹が鳴る。神様ってお腹なるのかな?なんてどうでもいいことを考える。
「ねぇ、美空ちゃんきいてる?」
うわぁ、卑屈神様面倒くさそ。
神様を面倒くさがる掃除婦と掃除婦の近辺が気になって仕方がない神様。