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8/25

第8話 天才少女も、泣く

前書き

勇者を育てる名門「王立勇者学院」。




そこで最低評価を受ける落ちこぼれの少年には、誰にも言えない秘密があった。








彼にだけ、死んだ英雄たちの姿が見える。








剣聖、賢者、大魔導師、聖女、軍師。歴代最強と呼ばれた百人の英雄から教えを受け、最弱だった少年は仲間との友情や恋、冒険を通して成長していく。








しかし、百人の中には一人だけ「英雄ではない者」が紛れていた。








その正体は、かつて世界を滅亡寸前まで追い込んだ初代魔王。








なぜ英雄たちは少年を選んだのか。




そして、魔王の本当の目的とは。








これは落ちこぼれの少年が、百一人目の英雄を目指す物語。

サブタイトル

強いから泣かないんじゃない。泣けないほど、ずっと強くあろうとしていただけだ。


天井が、落ちてきた。


「セレス!」


悠真は考えるより先に走った。


少女の身体へ飛びつき、そのまま地面を転がる。


直後。


轟音。


さっきまで二人が立っていた場所を、巨大な岩塊が叩き潰した。


「っ……!」


衝撃。


土煙。


視界が消える。


耳鳴りの向こうで、まだ岩が崩れている。


「セレス!」


返事がない。


腕の中を見る。


金髪。


閉じた瞳。


青ざめた頬。


「おい、セレス!」


心臓が凍る。


肩を揺らそうとした瞬間。


『落ち着け!』


ガルディオの声が飛んだ。


『まず息を見ろ!』


悠真は慌ててセレスの口元へ耳を寄せた。


微かな呼吸。


胸も。


動いている。


「……生きてる」


全身から力が抜けそうになる。


だが。


安心するには早かった。


十三階層は、まだ崩れている。


しかも。


ガルディオの右腕は半透明のまま。


聖女リリアの姿も。


さっきより薄い。


「リリア……」


『私ではなく、その子を』


「でも」


『悠真!』


いつも穏やかな聖女が、珍しく声を張った。


『生きている人を先に助けなさい!』


悠真は唇を噛んだ。


「……分かった」


今。


助けられる人から助ける。


それも。


先生たちから教わったことだった。


1 天才少女が、立てない

『脚だ』


ガルディオが言った。


『右脚を見ろ』


悠真が確認する。


「まずい?」


『俺に聞くな』


「先生だろ!」


『俺は剣の先生だ!』


「そうだった!」


『こういう時はリリアだ!』


「リリア!」


『はいはい。急に先生扱いが雑ですね』


こんな状況なのに。


いつもの調子だ。


少しだけ。


悠真の呼吸が戻る。


リリアがセレスの横へ膝をつく。


死者である彼女は身体に触れられない。


それでも。


長年、人を治療してきた聖女の目が少女の身体を追った。


『大きな出血はありません』


「うん」


『頭も強く打ってはいないと思います』


「うん」


『問題は右脚です』


悠真の表情が固まる。


『先ほど痛めたところを、またひねっています』


「歩ける?」


リリアは少し迷った。


『できれば歩かせたくありません』


「……分かった」


その時だった。


「ん……」


小さな声。


「セレス!」


青い瞳がゆっくり開く。


「……悠真?」


「よかった……!」


思わず。


悠真は顔を近づけてしまう。


「本当によかった!」


セレスが数度瞬きをした。


そして。


「……近い」


「え?」


「顔」


「うわっ!」


悠真は飛び退いた。


『馬鹿』


クロウの冷静な一言が刺さる。


「うるさい!」


「誰に怒っているの?」


「人生!」


「また人生?」


目を覚まして三十秒。


もう突っ込まれた。


大丈夫そうだ。


少なくとも意識ははっきりしている。


セレスは身体を起こした。


「みんなは?」


「分からない」


悠真は正直に答えた。


ディランたちとは崩落で分断された。


ミアはさらに奥に取り残されたまま。


そして。


あの黒い棺。


《零番目》。


百人の英雄を殺したとガルディオが言った存在。


問題は何一つ解決していない。


「だったら早く行かないと」


セレスが立ち上がる。


「待って!」


一歩。


踏み出した瞬間。


「っ……!」


表情が歪んだ。


身体が傾く。


「危ない!」


悠真が受け止める。


近い。


いや。


今はそれどころではない。


「歩けないじゃん!」


「歩けるわ」


「今、倒れた!」


「まだ一歩目だから」


「二歩目で治るの!?」


「気合いで」


「聖剣姫ってそういう職業なの!?」


セレスが睨む。


だが。


もう一度立とうとはしなかった。


悠真は少し安心する。


そのまま。


崩れた通路を見る。


進みたい。


ミアを探したい。


みんなと合流したい。


でも。


セレスを置いていくわけにはいかない。


どうする。


また。


無意識に先生たちを見そうになった。


その瞬間。


第7話でガルディオに言われた言葉が蘇る。


俺を見るな。


お前が考えろ。


悠真は視線を戻した。


「……まず休もう」


セレスがこちらを見る。


「でも」


「十分だけ」


「悠真」


「脚が動かなくなったら、もっと困る」


言い返そうとして。


セレスが止まった。


「それに」


悠真は暗い通路を見る。


「俺も考える時間が欲しい」


「あなたが?」


「ひどい!」


「冗談よ」


少し。


笑った。


その笑顔を見て。


悠真は初めて気づいた。


セレスも。


疲れている。


当然だ。


怖くないはずがない。


なのに。


彼女はずっと。


誰より先に進もうとしている。


なぜだろう。


その答えを。


悠真はまだ知らなかった。


2 二人だけの十三階層

崩落を免れた横穴を見つけた。


狭いが。


天井は安定している。


中には古い石台と、壊れた木箱。


「ここなら少し休めそう」


悠真は乾いた木片を集めた。


「火が欲しいな」


エレノアが鼻で笑う。


『誰に言っているの?』


「八十七歳」


『大魔導師よ!』


「両方正解」


『一つは不必要よ!』


小さな炎が飛ぶ。


木片へ。


ぱち。


火が灯った。


暖かな光が洞窟を満たす。


セレスが目を丸くする。


「今……何をしたの?」


悠真。


固まる。


当然。


セレスにはエレノアが見えない。


「えっと」


「何もしていないのに火がついたわよね?」


「……人生経験」


「人生経験で火はつかないわ」


「俺の人生、いろいろあるから」


「十五歳でしょう?」


鋭い。


エレノアが肩を揺らして笑っている。


悠真は無視した。


セレスを壁にもたれさせる。


自分の外套を脱いだ。


「これ」


「要らないわ」


「寒いだろ」


「悠真は?」


「俺は平気」


「震えてる」


「これは寒さじゃなくて恐怖」


「もっと駄目じゃない」


外套を押し返された。


悠真は少し考え。


半分をセレスへ。


半分を自分へかけた。


「これなら?」


「……」


肩が触れる。


近い。


金色の髪。


焚き火の匂い。


普段なら絶対に気になる距離。


なのに。


今日は。


不思議と落ち着いた。


『青春だな』


ガルディオ。


「黙れ」


「人生?」


「人生」


セレスが少し笑う。


だが。


笑い声はすぐに消えた。


遠くから。


岩が崩れる音。


二人とも。


そちらを見る。


「……悠真」


「何?」


「怖くないの?」


予想していなかった質問だった。


「俺?」


「ええ」


悠真は少し考え。


正直に答えた。


「怖い」


「そう」


「ものすごく怖い」


「そこまで?」


悠真は指を折る。


「知らない階層」


一本。


「知らない魔物」


二本。


「先生を消そうとする変な扉」


三本。


「零番目」


四本。


「ミアは行方不明」


五本。


「出口も分からない」


六本。


セレスが悠真の手を見る。


「指、足りなくなるわよ」


「だからもうまとめる」


悠真は息を吐いた。


「全部怖い」


格好悪い。


勇者学院の生徒が。


しかも。


首席の少女の前で。


でも。


本当だった。


「できれば帰りたい」


セレスは笑わなかった。


しばらく。


炎を見る。


そして。


「……そう」


小さく言った。


「私も」


悠真は顔を上げた。


「え?」


「怖いわ」


その声は。


今まで聞いたことがないほど。


小さかった。


3 天才少女も、怖かった

「意外?」


セレスが尋ねた。


「……ちょっと」


「正直ね」


「ごめん」


「別にいいわ」


焚き火の光が。


少女の横顔を照らす。


学院首席。


公爵令嬢。


《聖剣姫》。


いつも。


何でもできる少女。


「みんな」


セレスが言った。


「私を天才って呼ぶでしょう?」


「うん」


「首席だから」


「うん」


「《聖剣姫》だから」


「うん」


「だから」


膝を抱く腕に力が入る。


「怖がっちゃいけない気がするの」


悠真は黙って聞く。


「私が怖がったら」


少し。


声が震えた。


「後ろにいる人まで怖くなるでしょう?」


迷宮でも。


セレスはいつも先頭だった。


魔物が現れれば。


誰より早く剣を抜いた。


誰かが迷えば。


すぐに決断した。


怖がる姿なんて。


見たことがない。


「だから」


セレスが笑おうとする。


けれど。


うまく笑えない。


「怖くないふりが、上手になったの」


胸が。


ちくりと痛んだ。


強いから。


怖くないのだと思っていた。


違う。


怖くても。


先頭に立っていた。


「私が勇者を目指した理由」


セレスが呟く。


「聞きたい?」


「……うん」


しばらく。


沈黙。


焚き火が。


ぱち。


弾けた。


「姉がいたの」


悠真は何も言わない。


「私よりずっと優しくて」


セレスの表情が少し柔らかくなる。


「私より料理が下手で」


「そこ比較する?」


「大事よ」


「そうなの?」


「すごく」


少しだけ。


二人で笑う。


「私が転んだら」


セレスは続けた。


「いつも最初に来てくれた」


幼い頃。


故郷が。


魔物に襲われた。


空が赤く染まり。


家が燃え。


人々が逃げた。


幼いセレスには。


何が起きているのか分からなかった。


ただ。


姉の手だけを。


必死に握っていた。


「姉は最後まで」


セレスの声が詰まる。


「私の手を離さなかった」


悠真の指が動く。


触れたい。


でも。


今触れていいのか。


分からない。


「魔物が来て」


セレスは俯いた。


「姉が私を庇った」


それ以上。


具体的には言わなかった。


悠真も。


聞かなかった。


聞く必要はなかった。


「私だけが」


少女は自分の手を見る。


「生き残った」


ぽつり。


涙が落ちた。


悠真は息を止めた。


「その時」


セレスの声が震える。


「何もできなかった」


剣も。


魔法も。


何もなかった。


「ただ泣いてた」


また。


涙。


学院首席。


《聖剣姫》。


いつも強い少女が。


悠真の隣で泣いている。


「だから」


セレスは乱暴に涙を拭いた。


「強くなろうと思った」


剣を振った。


魔法を学んだ。


誰より勉強した。


誰より訓練した。


「強ければ」


声が崩れる。


「もう誰も失わないと思った」


一滴。


また落ちる。


「もっと強かったら」


「……」


「お姉様を助けられたかもしれない」


「セレス」


「だから負けちゃいけない」


涙が止まらない。


「怖がっちゃいけない」


「……」


「逃げちゃいけない」


セレスが。


悠真を見る。


その顔は。


学院首席ではなかった。


《聖剣姫》でもない。


ただの。


十五歳の少女だった。


「また誰かが死んだら」


声。


震える。


「今度こそ」


涙。


「私のせいになる」


悠真は。


ようやく分かった。


セレスは強かったんじゃない。


強くいなければならなかった。


泣かなかったんじゃない。


泣いたら、もう立てなくなると思っていた。


だから。


ずっと。


一人で立っていた。


4 弱いから、できること

悠真は自分の外套を。


全部。


セレスへかけた。


「……何?」


「寒そうだから」


「悠真は?」


「俺は弱いから」


「話がつながってないわ」


「今からつなげる」


隣に座る。


「俺」


焚き火を見る。


「強くない」


「知ってる」


「即答!?」


「事実でしょう?」


「今いい場面だったのに!」


セレスの口元が少し上がる。


「続けて」


「はい」


悠真は息を吐いた。


魔法。


使えない。


剣術。


最低。


職業。


《無職》。


先生たちから教わって。


ようやく。


少しずつ前へ進んでいる。


「俺、一人じゃ誰かを守るなんて無理だと思う」


セレスが黙る。


「先生たちがいないと、何もできなかった」


第7話で。


初めて。


自分で考えて戦った。


でも。


それだけだ。


まだ弱い。


「だからさ」


悠真は笑った。


「守れない時は、一緒に逃げよう」


セレスが目を丸くする。


「逃げるの?」


「うん」


「勇者を目指しているのに?」


「俺、無職だから」


「またそれ?」


「便利なんだよ」


少し。


セレスが笑う。


「一人で全部背負わなくてもいいんじゃないかな」


「でも」


「無理なら逃げる」


「……」


「逃げられないなら二人で考える」


「……」


「それでも駄目なら」


少し考え。


「百人で考える」


ガルディオが笑った。


『今度は丸投げじゃねえな』


悠真も。


少し笑う。


そして。


セレスを見る。


「姉さんのこと」


少女の表情が固まる。


「俺には」


悠真は慎重に言葉を探した。


「分からない」


セレスがこちらを見る。


「その時のことを知らないから」


簡単に。


君のせいじゃない。


なんて。


言いたくなかった。


自分はその場にいなかった。


彼女の痛みを全部理解したような顔なんて。


できない。


「だから」


悠真は言った。


「簡単に大丈夫とは言わない」


炎が揺れる。


「でも」


手を差し出す。


「これから怖くなった時は」


少し迷って。


「半分くらい、俺に持たせて」


「……何を?」


「怖いの」


セレスが瞬きをする。


「半分?」


「うん」


「全部じゃないの?」


「無理」


「そこは格好よく全部って言うところでしょう?」


「俺、弱いから」


「本当に弱いわね」


「知ってる!」


セレスが。


笑った。


涙を流しながら。


笑った。


そして。


ゆっくり。


悠真の肩へ。


額を預けた。


「……セレス?」


返事はない。


ただ。


肩が震えている。


泣いていた。


声を押し殺して。


悠真は。


背中へ手を回しかけ。


迷う。


『行け』


ガルディオ。


『抱け』


エレノア。


「……先生たち」


『何だ』


「黙ってて」


一瞬。


静かになった。


今度は。


本当に。


誰も茶化さなかった。


百人の死者たちは。


ただ。


二人を見守った。


セレスは泣いた。


今まで。


泣けなかった分まで。


悠真の肩で。


泣いた。


5 昨日までとは、少し違う

しばらくして。


セレスが顔を上げた。


目が赤い。


「……忘れて」


「無理」


「まだ何も言ってない」


「言うと思った」


「忘れなさい」


「無理」


「命令よ」


「公爵令嬢って便利だな!」


「悠真」


「はい」


「忘れて」


「じゃあ条件」


「何?」


「俺が泣いた時も忘れて」


セレス。


少し考える。


「嫌」


「なんで!?」


「見てみたいから」


「ひどい!」


「お互い様よ」


いつもの。


セレス。


でも。


少し違う。


悠真も。


少し違う。


昨日まで。


彼女は。


遠い人だった。


学院首席。


天才。


何でもできる少女。


今は。


違う。


怖がる。


泣く。


強がる。


それでも。


誰かを守ろうとする。


一人の少女。


セレスティア・アルヴェイン。


悠真は。


初めて。


彼女をちゃんと見た気がした。


「悠真」


「ん?」


「ありがとう」


「……どういたしまして」


「何がありがとうなのか聞かないの?」


「聞いた方がいい?」


「聞かないで」


「じゃあ聞かない」


セレスが笑った。


悠真の心臓。


大きく。


一回。


鳴る。


背後。


ガルディオ。


親指を立てる。


エレノア。


満面の笑み。


クロウですら。


小さく頷いている。


「見るな!」


「何を?」


「人生!」


「今日の人生、楽しそうね」


「俺以外はね!」


少しだけ。


普通の時間が戻った。


その時。


『……っ』


小さな声。


悠真の顔から。


笑みが消えた。


「リリア?」


聖女の身体が。


また薄くなっている。


足元。


指先。


光の粒。


「リリア!」


『大丈夫です』


「全然大丈夫じゃない!」


セレスが不思議そうに見る。


「悠真?」


「……」


説明できない。


悠真はリリアへ手を伸ばした。


触れない。


『私たちは死者です』


「だから何だよ」


『悠真』


「ガルディオも消えかけた」


拳を握る。


「今度はリリア」


誰も。


何も言わない。


「次は誰なんだよ」


百人の先生。


本来。


とっくに。


この世界からいなくなった人たち。


でも。


悠真にとっては。


もう。


単なる死者じゃない。


「絶対」


悠真は言った。


「消させないから」


リリアが。


困ったように笑う。


『本当に』


身体が揺らぐ。


『困った弟子ですね』


その時。


ズン。


地面が鳴った。


全員が振り返る。


洞窟の奥。


暗闇。


そこへ。


赤い文字が浮かび上がる。


《英雄番号 三十七》


悠真の顔色が変わる。


《対象 聖女リリア》


「やめろ」


《回収処理開始》


「やめろ!」


悠真が駆け出した。


だが。


突然。


文字が。


消えた。


「……え?」


代わりに。


黒い文字。


《回収権限》


《上書き》


沈黙。


エレノアの表情が変わる。


『上書き……?』


クロウが暗闇へ目を向ける。


『誰だ』


ガルディオは。


剣を抜いた。


『悠真』


「何?」


『後ろへ下がれ』


声が。


今までと違う。


本気だ。


「どうしたんだよ」


答えはない。


その時。


暗闇の奥で。


足音。


一つ。


二つ。


誰かが。


歩いてくる。


悠真は木剣を構えた。


やがて。


焚き火の光へ。


一人の青年が姿を現す。


黒髪。


若い。


穏やかな顔。


死者だ。


悠真には分かる。


でも。


知らない。


百人の中に。


こんな男はいなかった。


「……誰?」


青年は。


悠真を見る。


そして。


優しく笑った。


「初めまして」


一瞬。


ガルディオたちの空気が凍る。


「神谷悠真」


悠真の背筋が冷えた。


「なんで」


名前を。


知っている。


青年は答えない。


ただ。


こちらへ一歩近づく。


百人の英雄。


一斉に。


武器を構えた。


「待って!」


悠真だけが分からない。


「何なんだよ!」


青年は。


武器を向けられているのに。


笑ったままだった。


その表情には。


敵意がない。


恐怖も。


ない。


ただ。


妙に。


優しい。


「名前を聞いてもいい?」


悠真は尋ねた。


青年が目を細める。


「ゼル」


「ゼル?」


「そう」


そして。


手を差し出した。


「そう呼んでくれればいい」


誰も。


その手を取らない。


悠真だけが。


その男を見ていた。


百人の先生たちが。


なぜ。


これほど警戒するのか。


なぜ。


自分の名前を知っているのか。


そして。


なぜ。


初めて会ったはずなのに。


この男の笑顔を見ていると。


不思議と。


怖くないのか。


答えは。


一つも分からない。


ただ。


一つだけ。


分かった。


百人だった先生が。


今。


百一人になった。


第1部 第8話 完

次回 第9話

百一人目の死者

百人の英雄が武器を向ける中。


ただ一人。


笑っている男。


ゼル。


剣聖ガルディオが警戒し。


大魔導師エレノアすら言葉を失う。


それなのに。


悠真には。


彼が悪人には見えなかった。


そして。


ゼルは悠真へ問いかける。


「君は、なぜ勇者になりたい?」


剣でもない。


魔法でもない。


悠真が初めて受ける。


「答えのない授業」が始まる。

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