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7/28

第7話 百人の先生にも、分からない敵

勇者を育てる名門「王立勇者学院」。


そこで最低評価を受ける落ちこぼれの少年には、誰にも言えない秘密があった。




彼にだけ、死んだ英雄たちの姿が見える。




剣聖、賢者、大魔導師、聖女、軍師。歴代最強と呼ばれた百人の英雄から教えを受け、最弱だった少年は仲間との友情や恋、冒険を通して成長していく。




しかし、百人の中には一人だけ「英雄ではない者」が紛れていた。




その正体は、かつて世界を滅亡寸前まで追い込んだ初代魔王。




なぜ英雄たちは少年を選んだのか。


そして、魔王の本当の目的とは。




これは落ちこぼれの少年が、百一人目の英雄を目指す物語。

サブタイトル

答えを教えてくれる先生がいなくなった時、悠真は初めて「自分の答え」で誰かを救う。


十。


九。


八。


数字が減るたび。


先生が、消えていく。


「ガルディオ!」


悠真は叫んだ。


十三階層。


存在しないはずの地下迷宮。


巨大な石扉に浮かんだ赤い文字が、冷たく明滅している。


《英雄回収まで》


《残り七秒》


剣聖ガルディオの右腕が。


光の粒になった。


『……こいつは』


ガルディオ自身が。


消えていく腕を見ている。


いつも豪快に笑っていた男。


世界を救った剣聖。


悠真が初めて勝つ方法を教えてくれた先生。


その顔から。


笑いが消えていた。


「先生を助ける方法は!?」


悠真が振り返る。


百人の英雄。


大魔導師エレノア。


暗殺王クロウ。


聖女リリア。


竜騎士。


賢者。


騎士。


勇者。


誰でもいい。


誰か。


答えてくれ。


いつもみたいに。


「どうすればいい!?」


誰も。


答えなかった。


答えられなかった。


《残り六秒》


その時。


黒い影が動いた。


「悠真!」


セレスの声。


悠真が振り返る。


黒い甲殻。


六本の脚。


顔はない。


あるのは。


裂けたような巨大な口。


未知の魔物が。


セレスへ飛びかかった。


「セレス!」


剣閃。


セレスの剣が走る。


ガキィン!


甲高い音。


「っ……!」


剣が。


弾かれた。


「硬い……!」


次の瞬間。


黒い脚が。


横薙ぎに振るわれた。


「セレス!」


どん。


少女の身体が。


石壁へ叩きつけられた。


「……っ」


そのまま。


崩れ落ちる。


「セレス!」


悠真が走ろうとする。


しかし。


《残り五秒》


ガルディオの肩が消えた。


先生。


セレス。


魔物。


石扉。


頭の中が。


ぐちゃぐちゃになる。


「どうすれば……」


助けたい。


二人とも。


でも。


方法が分からない。


だから。


また。


悠真は。


先生を見る。


「ガルディオ!」


ガルディオが。


悠真を見た。


『……俺を見るな』


「え?」


『敵を見ろ』


「でも!」


《残り四秒》


『俺はもう教えられねえ』


ガルディオが笑った。


身体の半分が。


光になりながら。


それでも。


いつもの剣聖の顔で。


『だから』


『お前が考えろ』


悠真の胸が。


強く打った。


昨日。


模擬戦。


勝とうとするな。


十秒生きろ。


今日。


分からないなら見ろ。


俺たちの答えがないなら。


お前の答えを作れ。


そして今。


残り四秒。


悠真は。


木剣を握った。


「……分かった」


先生を見るのを。


やめた。


初めて。


敵を見る。


1 先生の教えを捨てる

三秒。


黒い魔物が。


セレスへ向かう。


「させるか!」


悠真が走った。


『悠真!』


エレノアが叫ぶ。


『正面からは無理よ!』


「分かってる!」


『甲殻に剣が通らない!』


「それも分かってる!」


『なら何をする!?』


「知らない!」


全力で答えた。


一瞬。


英雄たちが黙る。


「だから今から探す!」


二秒。


悠真は。


魔物を見た。


黒い甲殻。


六本脚。


大きな口。


赤い目。


さっき。


セレスの剣は弾かれた。


剣が弱い?


違う。


セレスの剣だ。


自分の木剣より何倍も強い。


なら。


切るのは無理。


魔法?


エレノアが手を伸ばす。


『《炎槍》!』


炎が魔物を直撃。


爆発。


しかし。


黒い甲殻は。


焦げてもいない。


『魔法耐性……!?』


一秒。


《英雄回収開始》


赤い鎖が。


石扉から伸びた。


ガルディオの胸へ。


絡みつく。


『ぐっ……!』


「先生!」


駄目だ。


間に合わない。


その瞬間。


悠真は見た。


魔物が。


炎を受けた瞬間。


ほんの少し。


口を閉じた。


そして。


後ろへ下がった。


「……嫌がった?」


魔法が効かなかった。


でも。


反応はした。


何に?


炎?


違う。


地下十三階層。


ほとんど光がない。


赤い紋章だけ。


エレノアの炎。


一瞬。


辺りが明るくなった。


魔物は。


その時だけ。


動きを止めた。


「光……?」


クロウが。


悠真を見る。


『何?』


「こいつら」


悠真は。


叫んだ。


「光を嫌ってる!」


《英雄回収完了》


赤い文字。


点灯。


ガルディオの身体が。


一気に光へ変わる。


「先生!」


悠真が。


反射的に手を伸ばす。


触れない。


いつも。


触れられなかった。


死者だから。


でも。


その瞬間。


悠真の手が。


ガルディオの胸を。


すり抜けなかった。


「……え?」


触れた。


ほんの一瞬。


温かかった。


『……ほう』


ガルディオ。


目を見開く。


「先生……?」


次の瞬間。


悠真の腕から。


白い光が走った。


ガルディオへ。


流れ込む。


石扉。


文字。


乱れる。


《回収》


《失敗》


《対象との接続異常》


《再試行》


ガルディオの身体。


消滅が。


止まった。


「……止まった?」


『みたいだな』


「なんで!?」


『俺に聞くな』


「先生だろ!」


『知らねえもんは知らねえ!』


こんな時なのに。


いつもの。


会話。


悠真は。


思わず。


笑った。


「……よかった」


『安心すんのは早え!』


ガルディオが叫ぶ。


『後ろ!』


「え?」


黒い口。


目の前。


「うわああああ!?」


悠真。


横へ。


転がる。


牙。


鼻先。


通過。


『遅い!』


「今ちょっと感動してたんだよ!」


『戦場で感動すんな!』


「先生が消えかけたんだぞ!」


『後で泣け!』


「泣いてない!」


『声が泣いてる!』


「うるさい!」


セレスが。


壁際で。


目を開けた。


「……悠真」


「セレス!」


「あなた」


少し。


笑う。


「本当に……誰と戦っているの?」


「人生と魔物!」


「人生の比率が大きすぎるわ……」


よかった。


喋れる。


まだ。


大丈夫。


なら。


次は。


この魔物だ。


2 百人が知らないなら、一人で調べる

魔物。


三十体。


いや。


奥から。


まだ増えている。


「これ全部倒すの?」


悠真の声が引きつる。


クロウ。


冷静に答える。


『無理だ』


「即答やめて!」


『事実だ』


「そこをちょっと勇気づけて!」


『三十体に囲まれて木剣一本だぞ』


「急に現実を突きつけるな!」


エレノアが魔物を見る。


『さっきの仮説を試すわ』


「お願い!」


彼女が。


両手を広げる。


巨大な光球。


『《光輝》』


ぱっ。


暗闇が。


昼のように。


照らされた。


次の瞬間。


ギィィィィィィ!


魔物たち。


一斉に。


後退。


「やっぱり!」


セレスも。


剣を支えに立ち上がる。


「光を嫌ってる?」


「たぶん!」


「倒せる?」


「分からない!」


「珍しく正直ね」


「いつも正直だよ!」


「人生と喋ってる人が?」


「そこは事情がある!」


魔物は。


光の外側。


暗闇へ。


逃げる。


でも。


倒れてはいない。


ただ。


近づけない。


悠真は。


見る。


考える。


試す。


先生に言われた。


分からないなら。


見ろ。


だから。


見る。


三十体。


光を嫌う。


でも。


攻撃は止まらない。


光が弱まれば。


戻ってくる。


「エレノア」


『何?』


「その光、どれくらい続く?」


『私は死者よ。今は魔力そのものではなく、残留思念で術式を再現している』


「つまり?」


『長くない』


「分かりやすく言って!」


『三十秒』


「最初からそう言って!」


『あなたが専門用語を覚えなさい!』


「今!?」


セレスが。


小さく笑った。


「仲がいいのね」


「先生だから」


言った。


止まる。


セレス。


こちらを見る。


「先生?」


「……人生の」


「また人生?」


「人生は教育熱心なんだ!」


危ない。


今。


普通に言った。


でも。


セレスは。


それ以上聞かなかった。


剣を構える。


「三十秒ね」


「うん」


「出口は?」


「……」


全員。


周囲を見る。


ない。


落ちてきた穴も。


閉じている。


石扉。


黒い壁。


一本道。


暗闇。


ただ。


魔物の向こう。


細い通路。


ある。


クロウが指す。


『あそこだ』


「敵の向こうじゃん!」


『だから言っている』


「嫌な言い方!」


セレス。


息を整える。


「突破するしかないわね」


「でも」


悠真は。


彼女の足を見る。


さっきの一撃。


明らかに。


右脚をかばっている。


「歩ける?」


「走れる」


「本当?」


「……」


「セレス」


「少し痛いだけ」


「どのくらい?」


「階段を百段上るのは嫌なくらい」


「それ結構痛くない?」


「でも」


セレスが。


悠真を見る。


「あなた一人では、もっと心配」


「俺そんな信用ない?」


「ない」


「即答!」


「でも」


セレス。


少し。


頬を緩める。


「一緒なら、少しある」


胸。


鳴る。


今。


この状況で。


やめてほしい。


いや。


やめないでほしい。


いやいや。


何考えてる。


「……行こう」


「ええ」


悠真とセレス。


並ぶ。


先生百人。


背後。


光。


残り。


二十秒。


「先生」


悠真が言う。


ガルディオ。


『何だ』


「作戦」


『聞こう』


「光が消える前に、あの通路まで走る」


『普通だな』


「普通で悪かったな!」


『続けろ』


「魔物は光から逃げる。だからエレノアの光を前に動かす」


エレノア。


眉を上げる。


『移動させる?』


「できる?」


『誰にものを言ってるの?』


「八十七歳」


『殺すわよ』


「もう死んでる!」


『もう一度殺す!』


「できるの!?」


『できる!』


「どっち!?」


「悠真」


セレス。


真顔。


「今、誰と喧嘩してるの?」


「八十七歳」


『言うなああああ!』


「……人生って大変なのね」


「本当にね!」


悠真。


木剣。


握る。


「光を前へ出して、魔物を押し退ける。その隙に走る」


クロウ。


『合理的だ』


リリア。


『でも、セレスさんの怪我が』


「そこは俺が支える」


セレス。


「要らないわ」


「なんで!?」


「恥ずかしい」


「命より!?」


「……少しだけなら」


「どっち!?」


セレスが。


悠真の肩へ。


腕を回す。


近い。


髪。


頬。


息。


「……」


「悠真?」


「今それどころじゃない!」


「私、何も言ってないけど」


『顔真っ赤だぞ』


ガルディオ。


「うるさい!」


『誰に?』


「人生!」


「便利ね、その言葉」


そして。


光。


残り。


十秒。


「行くよ!」


エレノアが。


光球を。


前へ。


押し出す。


魔物たちが。


悲鳴を上げ。


左右へ。


道。


開く。


「走れ!」


3 逃げるのは、負けじゃない

悠真。


セレス。


走る。


魔物。


左右。


黒い脚。


伸びる。


「右!」


クロウ。


悠真。


右へ。


「左!」


ガルディオ。


左。


「しゃがんで!」


リリア。


しゃがむ。


牙。


頭上。


通過。


「跳べ!」


「無理!」


「跳べ!」


「セレス抱えてるんだぞ!」


「誰と喋ってるの!?」


「人生!」


「今日の人生、要求が多いわ!」


「俺もそう思う!」


光。


弱くなる。


後ろから。


魔物たちが。


戻ってくる。


残り。


五秒。


通路まで。


遠い。


「間に合わない!」


エレノア。


『悠真!』


「何!?」


『光は消える!』


「知ってる!」


『なら考えなさい!』


「今考えてる!」


その瞬間。


悠真。


壁を見る。


赤い線。


十三階層の壁に。


ずっと。


走っている。


紋章。


赤。


光。


「……これ」


魔物は。


赤い紋章の近くには。


寄っていない。


なぜ?


光?


違う。


赤い光は弱い。


それでも。


避けている。


「セレス」


「何?」


「あの線、斬れる?」


「壁を?」


「線だけ!」


「分からないけど」


セレス。


剣。


構える。


「やる!」


一閃。


赤い線。


切れる。


その瞬間。


バチッ!


光。


爆発。


魔物。


ギィィィィィ!


大きく。


後退。


悠真。


目を見開く。


「これだ!」


エレノア。


『魔力回路よ!』


「分かるように!」


『壁全体に魔力が流れてる!』


「つまり!?」


『切れば光る!』


「最初からそう言って!」


『説明する時間くらい作りなさい!』


「敵に言って!」


悠真。


木剣。


振る。


赤い線。


ぱき。


切れる。


光。


爆発。


魔物。


後退。


「いける!」


木剣でも。


魔物は切れない。


でも。


壁なら。


切れる。


敵を倒す必要はない。


道を作ればいい。


昨日。


教わった。


勝とうとするな。


十秒。


生きろ。


今日。


悠真は。


初めて。


その教えを。


違う形で使う。


「倒さなくていい!」


セレス。


「え?」


「逃げる!」


一瞬。


セレス。


驚く。


そして。


笑う。


「それ、勇者の台詞?」


「俺、無職だから!」


「便利ね!」


二人。


壁の赤い線を。


切りながら。


走る。


光。


光。


光。


魔物が。


逃げる。


道が。


開く。


「あと少し!」


通路。


目の前。


しかし。


一匹。


巨大な魔物。


他の倍。


通路を。


塞ぐ。


「……ラスボス?」


「らすぼす?」


「最後にいる面倒なやつ!」


「説明が雑!」


巨大な口。


開く。


悠真。


止まる。


道。


ない。


後ろ。


魔物。


来る。


前。


巨大個体。


セレス。


剣を握る。


「私が」


「駄目」


悠真。


前へ。


出る。


「脚、痛いだろ」


「でも!」


「俺がやる」


「悠真」


「倒さない」


木剣。


握る。


「十秒生きる」


ガルディオ。


目を。


細める。


悠真。


敵を見る。


脚。


六本。


甲殻。


口。


光が嫌い。


でも。


この巨大個体は。


他より耐える。


なぜ?


目。


赤。


いや。


目じゃない。


胸。


小さな。


黒い石。


他の個体には。


ない。


「……あれ?」


悠真。


石を見る。


エレノア。


気づく。


『魔力核?』


「分かりやすく!」


『あそこが弱点かも!』


「最初から!」


『うるさい!』


巨大個体。


突進。


悠真。


避ける。


一秒。


壁。


衝突。


二秒。


振り返る。


遅い。


三秒。


口。


開く。


攻撃前。


胸の甲殻。


ほんの一瞬。


開く。


黒い石。


露出。


「見えた」


四秒。


突進。


五秒。


避ける。


六秒。


転ぶ。


「うわっ!」


『格好悪い!』


「知ってる!」


七秒。


魔物。


向き直る。


八秒。


口。


開く。


胸。


開く。


九秒。


悠真。


木剣。


構える。


「セレス!」


「何!?」


「光!」


セレス。


一瞬で理解した。


剣を。


赤い線へ。


突き刺す。


十秒。


光。


爆発。


巨大個体。


顔。


そらす。


胸。


全開。


悠真。


走る。


「うおおおおお!」


木剣。


突き。


黒い石。


直撃。


ぱき。


軽い。


音。


「……え?」


魔物。


止まる。


身体。


ひび。


一本。


二本。


全身へ。


そして。


崩れた。


黒い粒。


舞う。


悠真。


呆然。


「……倒した?」


ガルディオ。


笑う。


『倒したな』


「先生の答えなしで?」


『ああ』


「俺が?」


『他に誰がいる』


悠真。


木剣を見る。


震える。


嬉しい。


でも。


前とは。


違う。


模擬戦。


初勝利。


あの時は。


先生の言う通り。


動いた。


今回は。


自分で。


見た。


考えた。


試した。


外した。


また。


考えた。


そして。


勝った。


セレスが。


悠真の隣へ。


来る。


「すごいじゃない」


「……うん」


「もう少し喜んだら?」


「いや」


悠真。


魔物が消えた場所を見る。


「ちょっと怖い」


「どうして?」


「先生がいなくても」


言いかける。


止まる。


「……自分でできたから」


セレスには。


意味が分からない。


当然。


それでも。


彼女は。


悠真を見る。


「いいことじゃない」


「そうかな」


「そうよ」


少し。


笑う。


「誰かに教えてもらったことを、自分で使えるようになる」


そして。


「それが成長でしょう?」


悠真。


息を。


止める。


背後。


ガルディオ。


笑っていた。


少しだけ。


寂しそうに。


4 先生を超えるということ

安全な通路。


二人。


座り込む。


リリアが。


セレスの怪我を確認する。


もちろん。


セレスには。


見えない。


悠真が。


リリアの言葉を。


翻訳する。


「捻挫みたい」


「どうして分かるの?」


「人生経験」


「便利すぎない?」


「最近そう思う」


セレス。


足を動かす。


「帰れそう」


「本当に?」


「あなたに背負われるくらいなら」


「そんなに嫌!?」


「嫌ではないけど」


セレス。


目を逸らす。


「……近いでしょう」


「……」


悠真。


理解。


耳。


熱い。


『背負え!』


『今だ!』


『青春だ!』


『密着だ!』


英雄たち。


騒ぎ始める。


「黙れえええ!」


「悠真!?」


「人生!」


「今日、一番人生に怒ってる!」


ガルディオだけは。


少し離れた場所。


自分の右腕を。


見ていた。


戻っている。


完全ではない。


少し。


透けている。


悠真。


そちらへ。


歩く。


「先生」


『おう』


「大丈夫?」


『死んでる』


「そういう意味じゃない!」


『冗談だ』


「笑えないよ!」


ガルディオ。


自分の腕を見る。


『回収』


悠真。


黙る。


『さっきの扉は、俺をそう呼んだ』


「英雄番号、一」


『ああ』


「どういう意味?」


『知らねえ』


「……先生でも?」


『先生は万能じゃねえぞ』


「今日それ嫌ってほど知った」


『いいことだ』


「良くないよ」


悠真。


下を見る。


「消えるかと思った」


『死者が消えるだけだ』


「だけじゃない」


即答。


ガルディオ。


悠真を見る。


「先生だろ」


静か。


「死んでるとか」


「幽霊とか」


「そんなの」


悠真。


拳。


握る。


「関係ない」


ガルディオ。


何も。


言わない。


「俺に剣を教えた」


「逃げ方を教えた」


「生き方を教えた」


「だから」


少し。


声。


震える。


「勝手に消えるなよ」


沈黙。


やがて。


ガルディオ。


鼻を鳴らす。


『生意気になったな』


「先生が育てた」


『五日くらいしか教えてねえ』


「濃かったんだよ!」


ガルディオ。


笑う。


豪快に。


でも。


その目は。


少し。


濡れているように見えた。


死者に。


涙があるのか。


悠真には。


分からない。


『悠真』


「何?」


『お前、さっき俺の教えを捨てたな』


「……ごめん」


『謝るな』


「え?」


ガルディオ。


木剣を指す。


『教師の教えを守るだけの弟子なんぞ』


笑う。


『いつまで経っても教師を超えられねえ』


悠真。


目を見開く。


『教えろ』


『真似しろ』


『覚えろ』


『そして最後は』


ガルディオ。


自分の胸を。


拳で叩く。


『全部捨てろ』


「捨てる?」


『自分の剣を作れ』


その言葉。


悠真の胸に。


落ちる。


自分の剣。


まだ。


木剣。


魔法。


使えない。


職業。


無職。


強くもない。


でも。


少しずつ。


昨日とは。


違う。


「……うん」


ガルディオ。


笑う。


『それでいい』


その時。


パチン。


音。


ガルディオの胸。


一瞬。


赤く光った。


悠真。


顔を上げる。


「先生?」


ガルディオも。


自分の胸を見る。


赤い数字。


一。


浮かんで。


消える。


エレノア。


険しい顔。


『……今の』


クロウ。


『見た』


リリア。


『英雄番号』


「何なの?」


誰も。


答えない。


ただ。


ガルディオだけ。


一瞬。


十三階層の奥を見る。


その顔から。


笑みが。


消えた。


5 帰る道が、なくなった

「そろそろ戻りましょう」


セレスが。


立ち上がる。


「うん」


悠真も。


周囲を見る。


来た方向。


十三階層。


上へ戻る。


そのはずだった。


クロウ。


突然。


止まる。


『待て』


「今度は何?」


『道が違う』


「……え?」


振り返る。


さっき。


通ってきた。


一本道。


ない。


代わりに。


三本。


通路。


増えている。


「……迷宮」


セレス。


青ざめる。


「また変わった?」


エレノア。


壁を見る。


『いいえ』


「違う?」


『さっきと同じ』


「誰かが」


悠真。


呟く。


「作り替えてる」


その瞬間。


三本の通路。


一斉に。


松明。


点灯。


ぼっ。


ぼっ。


ぼっ。


赤。


青。


白。


三色。


そして。


壁。


文字。


浮かぶ。


《適合者試験》


「……試験?」


セレス。


読む。


「誰の?」


次の文字。


《対象》


《神谷悠真》


「俺!?」


セレス。


悠真を見る。


「どうしてあなたの名前が?」


「俺が聞きたい!」


英雄たち。


ざわめく。


《第一試験》


《教師を超えよ》


悠真。


動けない。


ガルディオ。


顔。


険しくなる。


さらに。


文字。


《成功》


「……さっきの?」


《第一英雄》


《回収失敗》


《再設定》


「再設定?」


嫌な。


音。


ガシャン。


鎖。


どこか。


奥。


一本。


二本。


十本。


百本。


鳴る。


英雄たち。


一斉に。


振り返る。


そして。


壁に。


数字。


浮かぶ。


百。


九十九。


九十八。


悠真。


息を呑む。


「何……これ」


数字。


百人分。


その中。


一。


剣聖ガルディオ。


赤い。


さらに。


もう一つ。


数字。


二。


点灯。


「……二?」


誰?


悠真が。


英雄たちを見る。


その瞬間。


一人。


光った。


聖女リリア。


『……え?』


自分の胸。


見る。


赤い。


《英雄番号 二》


悠真。


背筋。


凍る。


「待って」


石扉。


新たな文字。


《第二回収対象》


《聖女リリア》


「待てよ!」


リリアの身体。


粒子。


崩れ始める。


『……悠真さん』


「駄目!」


悠真。


走る。


でも。


遠い。


リリアは。


優しく。


笑っている。


いつも。


料理だけは。


壊滅的で。


でも。


怪我をした時。


一番心配してくれた。


先生。


「やめろ!」


壁。


最後の文字。


《第二試験開始》


その瞬間。


三本の通路のうち。


白い光の道。


奥。


声。


聞こえた。


「助けて……」


少女。


泣き声。


悠真。


止まる。


知っている。


声。


「ミア?」


セレス。


顔を上げる。


「ミア!」


忘れていたわけではない。


魔法陣で。


引き離された仲間。


癒術師。


ミア・ハーシェル。


声。


また。


聞こえる。


「神谷君……!」


「ミア!」


悠真。


白い通路へ。


一歩。


その瞬間。


ガルディオ。


叫ぶ。


『待て!』


「何!?」


ガルディオは。


リリアを見る。


消え始めている。


そして。


壁。


《第二試験》


文字。


続く。


《選択せよ》


《生者》


《死者》


悠真。


目を見開く。


セレスも。


文字を読む。


「……何?」


《制限時間》


数字。


浮かぶ。


十。


九。


悠真の。


顔から。


血の気が引く。


白い通路。


ミア。


「助けて!」


背後。


聖女リリア。


身体。


消えていく。


『悠真さん』


笑う。


「先生……」


『大丈夫ですよ』


八。


「大丈夫じゃない!」


『私は』


七。


リリア。


穏やかに。


言う。


『もう一度』


『死ぬだけですから』


「そんな言い方するな!」


六。


ミア。


悲鳴。


「いやあああ!」


セレス。


剣。


握る。


「悠真!」


五。


生きている仲間。


死んでいる先生。


どちらを。


助ける。


四。


ガルディオ。


黙る。


エレノアも。


クロウも。


誰も。


答えを言わない。


いや。


言えない。


三。


悠真。


木剣を。


握る。


震える。


怖い。


逃げたい。


選びたくない。


二。


その時。


あの言葉。


蘇る。


俺たちの答えがないなら。


お前の答えを作れ。


一。


悠真。


顔を上げる。


「……選ばない」


セレス。


「え?」


ガルディオ。


目を見開く。


《制限時間終了》


悠真。


白い通路ではなく。


壁へ。


木剣を向ける。


「どっちかなんて」


一歩。


踏み込む。


「誰が決めた!」


木剣。


振り下ろす。


赤い魔力線。


切断。


爆発。


視界。


白。


その中。


悠真。


叫ぶ。


「ミアも!」


もう一撃。


「先生も!」


壁。


亀裂。


走る。


「両方助ける!」


そして。


十三階層全体が。


震えた。


石扉。


文字。


乱れる。


《エラー》


《選択拒否》


《規定外行動》


《適合率》


数字。


高速。


上昇。


三十。


五十。


七十。


九十。


百。


そして。


百を。


超えた。


《適合率 一〇一%》


百人の英雄。


全員。


凍りつく。


ガルディオ。


呟く。


『……百を』


エレノア。


『超えた?』


その瞬間。


十三階層。


最深部。


巨大な扉。


ゆっくり。


開いた。


ごごごごご。


その向こう。


一基。


棺。


黒い棺。


英雄墓廟にある。


百基の墓と。


同じ形。


ただし。


そこに。


刻まれていた数字は。


《零》


悠真。


見つめる。


「ゼロ……?」


英雄たち。


誰一人。


答えない。


だが。


遠く離れた英雄墓廟。


名前を削られた黒い墓の前。


ゼルが。


目を開いた。


いつもの。


穏やかな笑顔は。


なかった。


『……まずいな』


初代魔王は。


誰にも聞こえない声で。


呟く。


『悠真』


黒い墓。


大きく。


亀裂。


『君は』


そして。


ゼルは。


初めて。


恐怖を浮かべた。


『僕より先に』


『零番目の英雄を起こしてしまった』


十三階層。


黒い棺。


内側から。


コン。


音。


悠真。


止まる。


コン。


もう一度。


セレスが。


悠真の腕を掴む。


「……悠真」


「うん」


コン。


三度目。


棺の蓋。


ほんの少し。


動いた。


そして。


中から。


声。


「ようやく」


男か。


女か。


分からない。


ひどく。


懐かしい声。


「百一人目が来た」


悠真の背後。


百人の英雄。


一斉に。


武器を構えた。


ガルディオだけが。


震える声で。


言った。


『悠真』


「何?」


『逃げろ』


悠真。


目を見開く。


ガルディオ。


黒い棺から。


目を離さない。


『今すぐだ』


「でも」


『あいつは』


剣聖の声。


震える。


『俺たち百人を』


棺。


開く。


暗闇の中。


二つの目。


光った。


『殺した奴だ』


第1部 第7話 完

次回 第8話

天才少女も、泣く

百人の英雄を殺したという《零番目》。


消え続ける聖女リリア。


迷宮の奥に取り残されたミア。


そして。


崩壊する十三階層で。


悠真とセレスは。


再び二人きりになる。


だが。


学院首席。


《聖剣姫》。


誰より強いと思っていた少女が。


暗闇の中で。


初めて悠真へ告げる。


「私、本当は……ずっと怖かった」


悠真はそこで初めて知る。


天才だから。


強いのではない。


失うことが。


誰より怖かったから。


彼女は。


強くならなければならなかったのだ。


そして。


セレスが涙とともに語る。


亡くした姉の記憶。


その話を。


百人の英雄の中。


ただ一人。


異様な表情で聞いている者がいた。


まだ悠真の前には現れていない。


謎の男。


ゼル。


なぜなら。


セレスの姉が死んだ事件には。


初代魔王だけが知る。


もう一つの真実があった。

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