第2話/通算第62話 「知らない戦場を、俺は知っている」
第7部『勇者継承機構編』
勇者は、選ばれるものではない。
《勇者は、作られる》
第6部の最後、古代施設の石壁に刻まれていた言葉が、勇者の歴史を根底から揺るがしました。
才能も魔力も最低。職業は《無職》。
そんな神谷悠真は、百人の死んだ英雄たちに教わりながら、少しずつ強くなってきました。
けれど、もし勇者の強さが、誰かから受け継がされるものだったとしたら?
受け継ぐのは、剣の技なのか。
戦いの経験なのか。
それとも、他人の記憶や想いまでなのか。
百人の先生たちが一斉に苦しみ、百一人目の勇者ゼルが初めて本気で悠真を止めた理由。
そして、百年前の記録に残された《百二人目》の謎。
その答えを求め、悠真とセレスは《勇者継承機構》の真相へ踏み込んでいきます。
しかし、真実に近づくことが、大切な人を守ることにつながるとは限りません。
先生の答えを信じるのか。
自分自身で答えを選ぶのか。
そして、誰かの過去を受け継いだあとも、自分は自分でいられるのか。
第7部『勇者継承機構編』。
これは、最弱だった少年が、強さの秘密ではなく、**「自分自身であり続ける意味」**を問い始める物語です。
悠真とセレス、そして百一人の先生たちが迎える新たな試練。
ぜひ、最後まで見届けてください。
知らない誰かの恐怖
「助けろ!」
誰かが叫んだ。
目の前で、一人の兵士が倒れた。
俺は、その人を助けようとして走り出した。
……待て。
俺は、あいつを知らない。
名前も知らない。
顔だって、見たことがない。
それなのに。
どうして、こんなに必死なんだ?
足元には、泥。
空には、黒い煙。
遠くで炎が燃え上がっている。
剣と剣がぶつかる音。
悲鳴。
怒号。
そして。
鼻を刺す、血の臭い。
……まただ。
昨日、《勇者継承機構》から離れたあとに見た光景。
知らない戦場。
握ったことのない剣。
経験したことのない恐怖。
あの光景が。
今度は、夢の中に現れていた。
俺は、右手を見た。
血に濡れた剣を握っている。
でも。
この手は、俺の手じゃない。
指の太さも。
腕についた傷も。
知っているものとは違う。
それなのに。
剣の重さが分かる。
足の運び方が分かる。
次に相手がどこから斬りかかってくるのか。
身体が、知っているようだった。
「……何なんだよ」
声を出そうとした。
でも、口が動かない。
俺は、この身体を動かしている誰かの目を通して。
戦場を見ているだけだった。
目の前には、煙に隠れた人影。
その背後には、二つに分かれた尾根が見える。
山の手前を細い川が流れていた。
川には、古い石橋がかかっている。
橋の片側は崩れ落ちていた。
……あれ?
昨日は、こんなところまで見えなかった。
いや。
見えていたのに、気づかなかったのか?
その時。
目の前の人影が、こちらへ剣を向けた。
身体が勝手に動く。
右足を引く。
腰を落とす。
剣先を斜めに構える。
次に何をするべきか。
なぜか、分かる。
だが。
その感覚よりも強く。
別のものが流れ込んできた。
恐怖。
後悔。
怒り。
そして。
倒れている誰かを、何としても助けたいという焦り。
……誰なんだ?
俺は、誰を守ろうとしている?
俺は、あの人を知らない。
知らないはずなのに。
失いたくない。
どうしても。
失いたくない。
人影が剣を振り上げた。
避けろ。
避けなければ。
だが。
身体は動かなかった。
いや。
動かせなかった。
俺は、見ているだけだ。
この剣を握っているのは。
俺じゃない。
「……やめろ!」
叫んだ。
その瞬間。
剣が振り下ろされた。
「……っ!」
目が覚めた。
身体が跳ね起きる。
息が苦しい。
額から汗が流れていた。
心臓が、激しく鳴っている。
右手を見た。
何も握っていない。
血もついていない。
泥もない。
ただ。
指先だけが、小刻みに震えていた。
「……夢?」
見慣れない天井。
白い寝具。
窓から差し込む、朝の光。
ここは。
王立アストリア勇者学院の医務室だった。
昨日。
古代施設から戻ったあと。
俺は、念のためここで休むことになった。
《勇者継承機構》の扉に触れて、身体から力が抜けた。
そのあと、知らない戦場の光景まで見た。
学院長も、セレスも。
無理をせず休むように言っていた。
俺も、そうするつもりだった。
なのに。
眠っている間まで。
あの戦場は、俺を離してくれなかった。
「……何なんだよ」
両手で顔を覆った。
昨日。
俺は、セレスに聞いた。
『今の、誰の記憶だ?』
でも。
誰にも答えられなかった。
そして、今。
俺は同じ戦場を、もう一度見た。
しかも。
昨日より、はっきりと。
知らない場所。
知らない兵士。
知らない剣。
それなのに。
あの恐怖だけは。
間違いなく、俺の胸を締めつけていた。
……もし。
これが本当に誰かの記憶なら。
俺は。
いったい何を受け取ってしまったんだ?
「……悠真?」
すぐ近くで、声がした。
顔を上げる。
そこには。
セレスがいた。
一人にしないと決めた人
「……セレス?」
窓際の椅子に座って。
膝の上に資料を広げたまま。
彼女は、俺を見つめていた。
「大丈夫?」
「……うん。たぶん」
「また、何か見たの?」
俺は頷いた。
「……昨日と同じ戦場」
セレスの表情が引き締まった。
「同じ?」
「うん。でも、少し違う」
俺は、震える右手を握った。
「昨日は分からなかった地形が、見えたんだ」
「地形?」
「山があって……川があって……壊れた石橋もあった」
セレスは、すぐに質問を重ねなかった。
俺の呼吸が落ち着くのを待っている。
その間。
俺は、ふと気づいた。
窓の外は、もう明るい。
彼女は、昨日と同じ服を着ていた。
膝の上の資料も、開かれたままだ。
それに。
少しだけ、目元が疲れているように見える。
「……なあ、セレス」
「何?」
「もしかして……ずっとここにいた?」
彼女の手が止まった。
「……ええ」
「え?」
「昨日から」
俺は、窓を見た。
朝だ。
完全に朝だ。
「……寝てないの?」
「少しは休んだわ」
「どこで?」
「ここで」
彼女が、座っている椅子を示した。
……待て。
「……椅子で?」
「そうよ」
「一晩中?」
「何度も聞かなくても分かるでしょう」
彼女は、少しだけ顔を背けた。
俺は、言葉を失った。
「……どうして?」
思わず聞いてしまった。
「俺、眠ってただけだぞ?」
「そうね」
「何かあったら、先生たちもいるし」
「ええ」
「それに……セレスだって、疲れてるだろ?」
彼女は、すぐには答えなかった。
膝の上の資料を閉じる。
それから。
俺を見た。
「……夜中に、何度かうなされていたわ」
「……え?」
「何かを必死に止めようとしていた」
胸が冷たくなった。
……あの夢だ。
「私が声をかけても、すぐには目を覚まさなかった」
「……そうだったのか」
「だから、怖かったの」
俺は、顔を上げた。
セレスが。
怖かった?
いつも冷静で。
俺が慌てている時ほど、落ち着いている彼女が。
「……セレス?」
彼女は、まっすぐ俺を見ていた。
「昨日、あなたは本当に苦しそうだった」
「……うん」
「誰のものか分からない記憶が、突然頭に入ってきたのよ」
「……」
「もし、夜中にまた同じことが起きたら」
そこで、少し声が小さくなった。
「目が覚めた時、誰もいなかったら……もっと怖いでしょう?」
俺は、何も言えなかった。
「……だから」
セレスは、静かに続けた。
「一人にしないって決めたから」
画像
……あ。
胸の奥が、熱くなった。
いつもなら。
ここで冗談を言っていたと思う。
学院史上最低の《無職》には、首席の付き添いが必要なのか。
そんなことを言って。
笑って。
何でもないようにする。
でも。
今回は、できなかった。
彼女は、本当に。
一晩中ここにいてくれたのだ。
俺が。
目を覚ました時。
一人にならないように。
「……セレス」
「何?」
「……ありがとう」
彼女が、目を見開いた。
「……え?」
「本当に、ありがとう」
俺は、彼女を見た。
「……いてくれて、助かった」
しばらく。
セレスは、何も言わなかった。
それから。
「……そう」
小さく答えた。
「それなら、よかった」
彼女は、顔を背けた。
耳が、少し赤い。
……見なかったことにしよう。
俺も、何となく顔が熱かった。
その時。
背後から。
『……ほう』
低い声が聞こえた。
振り返る。
剣聖ガルディオ先生が、腕を組んで立っていた。
『ようやく、まともに礼が言えるようになったか』
「先生、いたの!?」
『最初からな』
「じゃあ、何か言ってくれよ!」
『何でだ?』
「何でって……!」
先生は、豪快に笑った。
『いい場面だったじゃねえか』
「先生!」
『俺だって、邪魔するほど野暮じゃねえよ』
……この人。
本当に。
伝説の剣聖なのか?
『ガルディオ』
大魔導師エレノア先生が、冷たい声を出した。
『病み上がりの弟子をからかうのはやめなさい』
『分かってるよ』
『それより、悠真の身体を心配するべきでしょう』
「……ありがとうございます、エレノア先生」
『当然です』
……よかった。
まともな先生もいる。
『それにしても』
エレノア先生が続けた。
『セレスさんは、実に献身的ですね』
「先生もそっち!?」
セレスが首を傾げた。
「……悠真?」
「……何でもない」
『青春だなあ』
「ガルディオ先生、黙って!」
「……誰と話しているの?」
「……人生の先輩たちと」
「……?」
セレスが、不思議そうに俺を見る。
その顔を見て。
俺は、ようやく少しだけ笑えた。
でも。
右手の震えは。
まだ、完全には消えていなかった。
セレスが、それに気づいた。
「……悠真」
「……うん」
「夢のこと、調べましょう」
「……いいの?」
「もちろん」
彼女は、閉じた資料を持ち上げた。
「ただし、無理はしないこと」
「……分かってる」
「それと」
「何?」
「勝手に一人で調べないこと」
俺は、思わず笑った。
「……昨日も言われた」
「今日も言うわ」
「……はい」
セレスは、少しだけ笑った。
その笑顔を見て。
俺は思った。
知らない戦場が。
俺の中に入り込んできたとしても。
今。
俺の隣にいるのは。
確かに、この人だ。
そのことだけは。
誰の記憶でもなく。
俺自身が知っていた。
百年前の戦場を知る先生
「……その場所、もう一度説明してくれ」
ガルディオ先生の声が変わったのは。
俺が夢の地形について話し始めた時だった。
朝食を済ませ、体調を確かめたあと。
俺とセレスは、医務室の机に紙を広げていた。
夢で見た戦場を、記録しておくためだ。
「……これが川」
俺は、線を引いた。
「こっちが石橋で……」
さらに横へ、二つの丸を描く。
「向こうに山があった」
セレスが、紙を見た。
「……悠真」
「何?」
「この丸は?」
「山」
「……そう」
「その反応は何!?」
「いえ、特徴的な山だと思って」
「絶対そう思ってないだろ!」
セレスは、小さくため息をついた。
「地形は、私が描くわ」
「……はい」
……情けない。
勇者候補なのに。
地図一枚、まともに描けない。
いや。
勇者に絵心は必要なのか?
そんなことを考えていた時だった。
『……待て』
ガルディオ先生が、紙を覗き込んだ。
『悠真』
「……何?」
『さっき、山が二つに分かれていたと言ったな』
「うん」
『川は、その間を流れていたのか?』
「……いや」
俺は、目を閉じた。
あの戦場。
燃える空。
泥。
煙。
その向こう。
「……山の手前だったと思う」
『橋は?』
「川にかかってた」
『石橋か?』
「うん」
『……崩れていたのか?』
「片側が落ちてた」
ガルディオ先生が、黙った。
……何だ?
「先生?」
『……似た場所を知っている』
俺は、顔を上げた。
「……え?」
『昔の戦場だ』
胸の奥が、冷たくなった。
「……先生が戦った場所?」
『分からねえ』
「……え?」
『俺が覚えている地形と似ている。だが、同じ場所かどうかまでは分からねえ』
先生は、腕を組んだ。
『戦場なんざ、いくつも見てきた。似た地形だってある』
「……うん」
『だが、二つに割れた尾根と、川にかかった古い石橋』
先生は、言葉を切った。
『……そこまでは、覚えがある』
俺は、息を呑んだ。
「……百年前の戦場?」
『その可能性はある。だが、正確な時期までは言えねえ』
俺は、すぐにセレスへ伝えた。
彼女の表情が引き締まる。
「ガルディオ先生が、地形を知っているのね」
「……うん」
「でも、同じ戦場だったとは限らない」
「……そうだな」
セレスは、紙に情報を書き込んだ。
それから。
「……悠真」
「何?」
「一つ、確かめたいことがあるわ」
「……うん」
「ガルディオ先生は、あなたが見た人物に心当たりがあるの?」
俺は、先生を見た。
「……先生」
『何だ?』
「夢の中で、俺は剣を握ってたんだ」
『ああ』
「その人が、誰だったのか分からない?」
ガルディオ先生は、しばらく黙っていた。
そして。
『……分からねえ』
低い声で答えた。
「……先生の記憶じゃないの?」
『それも、断定できねえ』
「でも、場所を知ってるんだろ?」
『知っている場所で戦ったのが、俺だけとは限らねえだろ』
……あ。
そうか。
先生は、続けた。
『あの頃、戦場には大勢の人間がいた』
「……うん」
『勇者も、兵士も、名も残らねえ連中もな』
先生は、自分の右手を見た。
『仮に、地形が一致したとしてもだ』
その声が。
少しだけ、低くなった。
『お前が見ていたのが誰の目だったのかは、分からねえ』
俺は、黙った。
先生が知っている戦場。
でも。
誰の記憶なのかは分からない。
……そんなことがあるのか?
『……それに』
ガルディオ先生が、ぽつりと言った。
『俺自身、あの頃のことを全部覚えているわけじゃねえ』
「……先生?」
『覚えている場所もある。覚えていない戦いもある』
先生は、少しだけ笑った。
『百年前の話だからな』
いつもの豪快な笑顔だった。
でも。
その目は、笑っていなかった。
俺は、何も言えなかった。
百人の先生たちは。
死んだ英雄たちだ。
少なくとも。
俺たちは、そう思ってきた。
でも。
先生たちの記憶にも。
分からないことがある。
もし。
俺が見た戦場を。
先生自身も、はっきり思い出せないのだとしたら。
……いや。
今は、そこまで考えるべきじゃない。
「……悠真」
セレスが、俺を呼んだ。
「分かったことを整理しましょう」
「……うん」
「あなたは、自分が経験していない戦場を二度見た」
「うん」
「その地形の一部に、ガルディオ先生が心当たりを持っている」
「……うん」
「でも、その戦場が実在したのか、誰の視点なのかは、まだ確認できていない」
俺は、頷いた。
「……そうだな」
彼女は、地図の横に書き加えた。
《場所・未確定》
《時期・未確定》
《記憶の主・未確定》
……全部、未確定か。
俺は、思わず苦笑した。
「何も分かってないみたいだな」
「そんなことないわ」
「……え?」
「昨日は、地形さえ分からなかったでしょう?」
俺は、紙を見た。
川。
石橋。
二つに分かれた尾根。
……確かに。
「少しだけ、前へ進んだのか」
「ええ」
セレスは、頷いた。
「小さなことでも、確かめられるものから調べればいい」
俺は、彼女を見た。
……そうだな。
今までの俺は。
先生たちに答えを聞くことばかり考えていた。
でも。
分からないことを、自分で調べる。
そのために。
今、隣にいてくれる人がいる。
「……ありがとう、セレス」
「……また?」
彼女が、少し驚いた顔をした。
「……何?」
「今日は、よくお礼を言うのね」
「……駄目?」
「駄目じゃないわ」
セレスは、少しだけ目を伏せた。
「……悪くないと思う」
……あ。
また。
顔が熱くなった。
背後で。
『……おい』
ガルディオ先生が、低い声を出した。
『調査はどうした』
「先生が言う!?」
『俺の前で、二人だけの世界に入るんじゃねえ!』
「先生!」
……まったく。
この人は。
でも。
その声が、いつもどおりだったことに。
俺は、少しだけ安心していた。
知っているだけでは、剣は振れない
「……本当にやるの?」
セレスが、心配そうに聞いた。
その日の午後。
俺たちは、学院の訓練場にいた。
医務室で休んだあと、身体の調子は落ち着いていた。
ただ。
俺には、一つ確かめたいことがあった。
夢の中で見た剣の動き。
あれを。
自分でも再現できるのか。
「……少しだけ」
俺は、訓練用の木剣を握った。
「無理はしないから」
「昨日もそう言っていたわ」
「……そうだった?」
「そうよ」
セレスが、じっと俺を見た。
「少しでも具合が悪くなったら、すぐに中断すること」
「……分かってる」
「本当に?」
「本当です」
……信用がない。
いや。
昨日のことを考えれば、仕方ないか。
『いいじゃねえか』
ガルディオ先生が、腕を組んで笑った。
『ただし、妙な動きをするなよ』
「……妙な動き?」
『お前は時々、頭だけ先に行くからな』
「……どういう意味?」
『やれば分かる』
……何だよ、それ。
俺は、木剣を構えた。
目を閉じる。
夢の中の戦場。
泥。
煙。
血に濡れた剣。
その剣を握っていた誰かの動き。
……覚えている。
不思議なほど、はっきりと。
右足を半歩引く。
腰を落とす。
相手の剣を受け流すように、剣先を斜めへ動かす。
そこから。
身体を回して。
一気に斬り返す。
頭の中では。
完璧だった。
……いける。
俺は、右足を動かした。
次の瞬間。
「うわっ!?」
足がもつれた。
腰が回らない。
剣だけが前へ出る。
身体が、完全に置いていかれた。
そして。
「ぐえっ!」
俺は、訓練場の床に転がった。
木剣が、乾いた音を立てる。
……痛い。
ものすごく痛い。
特に。
自尊心が。
「悠真!」
セレスが駆け寄ってくる。
「大丈夫!?」
「……うん」
「どこか痛めた?」
「……膝と、少しだけ心が」
「心?」
「……何でもない」
彼女が、ため息をついた。
「だから、無理しないでと言ったでしょう」
「……ごめん」
その背後で。
『ぶはっ!』
ガルディオ先生が、盛大に笑っていた。
『何だ、今の!』
「先生!」
『剣より先に自分が倒れてどうする!』
「分かってるよ!」
『お前、あれじゃ敵が来る前に自滅するぞ!』
「そこまで言わなくても!」
先生は、腹を抱えて笑っていた。
……ひどい。
弟子が倒れているというのに。
でも。
やがて。
その表情が変わった。
『……悠真』
「……何?」
『さっきの動き』
「……うん」
『誰に習った?』
俺は、首を傾げた。
「……習ってない」
『何?』
「夢で見ただけだよ」
ガルディオ先生が、黙った。
『……もう一度、説明してみろ』
俺は、木剣を拾い上げた。
今度は動かずに、ゆっくりと剣の軌道だけを示した。
「ここで相手の剣を避けるんだ」
『……ああ』
「それから、足を入れ替えて」
俺は、木剣を斜めに構えた。
「相手が体勢を崩したところで、斬り返す」
先生は、じっと見ていた。
『……なるほどな』
「……知ってる技?」
『似た動きはある。だが、それだけで誰の技かなんざ分からねえ』
「……そうか」
俺は、自分の右手を見た。
「でも……変なんだ」
『何が?』
「頭の中では、ちゃんとできるんだよ」
夢の中。
あの誰かの身体は。
迷わず動いていた。
足も。
腰も。
剣先も。
すべてが、一つにつながっていた。
なのに。
今の俺は。
一歩目から転んだ。
「……分かってるのに、できない」
思わず呟いた。
ガルディオ先生が、俺の前に立った。
『……当たり前だ』
「……え?」
『知ってるだけでできるなら、剣士は何年も修行なんかしねえ』
先生は、俺の足元を指さした。
『お前は、どこへ足を置くか分かっていた』
「……うん」
『だが、そこへ身体を運ぶだけの力も、姿勢を保つ技術も足りてなかった』
「……そうだな」
『頭の中で百回成功したって、身体が一度もやってなきゃ意味がねえ』
俺は、黙った。
……そうか。
知らない戦場を見た。
知らない剣の動きを覚えていた。
だから。
少しだけ、期待してしまった。
もし。
これが歴代勇者の記憶だったら。
その技まで使えるんじゃないか。
今までの修行を。
一気に飛び越えられるんじゃないか。
そんなことを。
考えてしまった。
『悠真』
先生が、俺を呼んだ。
『お前は今まで、何回転んできた?』
「……数えきれない」
『何回、剣を振り損ねた?』
「……それも数えきれない」
『何回、俺に怒られた?』
「……そこは先生が数えてくれよ」
『数えきれねえな!』
「……ひどい」
先生は、笑った。
そして。
俺の肩を軽く叩こうとして、その手を止めた。
『だがな』
「……うん」
『それで覚えたことは、ちゃんとお前のものだ』
俺は、顔を上げた。
『転んだ痛みも、失敗した理由も、次にどう動くかを考えた時間もな』
「……先生」
『誰かの剣を知ってることと、自分の剣を振れることは違う』
先生は、はっきり言った。
『お前が今日転んだのは、その証拠だ』
……そうか。
記憶を見たからといって。
その経験の全部が。
自分の力になるわけじゃない。
少なくとも。
今の俺には、ならなかった。
俺は、木剣を握り直した。
「……じゃあ、また練習すればいいんだな」
『そういうことだ』
先生が、豪快に笑った。
『ただし、今日はもう終わりだ』
「……え?」
『その膝で続けたら、今度こそ医務室へ逆戻りだぞ』
「……はい」
俺は、木剣を戻した。
セレスが、隣へ来た。
「もう終わり?」
「……うん」
「珍しいわね」
「……何が?」
「あなたが、自分から訓練をやめるなんて」
「俺だって成長してるんだよ」
「……そうね」
彼女は、少しだけ笑った。
「前のあなたなら、あと三回は転んでいたでしょうね」
「……そこまで?」
「少なくとも二回は」
「……ひどい」
彼女が笑う。
俺も、つられて笑った。
……でも。
今日は、一つ分かったことがある。
知らない剣の動きを覚えていても。
俺は、その剣を振れない。
知っていることと、できることは違う。
それは。
俺が自分で転んで、確かめた答えだった。
そして。
もう一つ。
俺は、思った。
誰かの経験を受け取れたとしても。
俺自身が積み重ねてきた時間まで。
なかったことになるわけじゃない。
……少なくとも。
そう信じたい。
三つの言葉が示すもの
「……《記録》?」
夕方。
俺たちは、学院に保管された古い資料を調べていた。
昨日、《勇者継承機構》の内部で確認した文字。
《経験》
《記憶》
《技》
そして。
《継承》。
それらと関係する資料がないか、確認するためだ。
学院長と王国の担当官も、調査を続けていた。
ただし。
古代施設への再接触は、まだ許可されていない。
あの魔法陣も。
名前のない椅子も。
今は、触れてはいけない。
俺は、右手を見た。
昨日。
あの扉に触れた瞬間。
百人の先生たちが、一斉に苦しみ始めた。
……忘れられない。
あんなことを。
もう一度起こすわけにはいかない。
「……悠真」
隣から、セレスの声がした。
「……何?」
「また、あの場所へ戻りたいと思っていたでしょう」
「……いや」
「嘘ね」
「……はい」
彼女は、ため息をついた。
「調べるのはいいわ。でも、危険なことは別」
「……分かってる」
「それなら、今は資料を見ましょう」
セレスは、古い紙の写しを広げた。
「これ、昨日の壁面記録と用語が似ているの」
「……どこが?」
「ここよ」
彼女が示したのは。
古い文字で書かれた、一つの見出しだった。
《記録》
「……記録?」
「ええ」
「何の記録?」
「そこまでは、まだ分からないわ」
セレスは、周囲の文字を指さした。
「ただ、経験や戦闘判断に関係すると思われる語が、いくつか残っている」
俺は、息を呑んだ。
……経験。
戦闘判断。
昨日。
俺が見た、知らない戦場。
頭の中に残っていた剣の動き。
何かが。
つながりそうな気がした。
「……セレス」
「まだ、結論は出せないわ」
「……はい」
先に止められた。
……俺って、そんなに分かりやすいのか?
彼女は、別の紙を取り出した。
「それから、これも見て」
今度は、破損した古い記録の写しだった。
文字の一部が欠けている。
でも。
一つだけ、はっきり読める言葉があった。
《適合》
「……適合?」
「ええ」
「何に?」
「それを調べているところよ」
彼女は、二つの資料を並べた。
《記録》
《適合》
そして。
昨日の壁面記録の写しを、その隣へ置いた。
《継承》
三つの言葉。
俺は、じっと見つめた。
「……これ」
「気づいた?」
セレスが、静かに言った。
「同じ仕組みに関係する言葉だとしたら、順番があるのかもしれない」
「……順番?」
「ええ」
彼女は、最初の文字を指さした。
「まず、何かを記録する」
次に。
「受け取る側が、それに適しているかを確かめる」
最後に。
「そして、継承する」
俺は、息を呑んだ。
……待て。
それって。
「……勇者の経験を、次の勇者へ渡す仕組み?」
セレスは、すぐには頷かなかった。
「その可能性はあるわ」
「……でも?」
「まだ、三つの言葉が同じ手順を示しているとは確認できていない」
「……そうだな」
「順番も、本当にこれで正しいのか分からない」
彼女は、三枚の資料を見た。
「でも、別々の記録に残っている言葉が、一つの仕組みを示している可能性は調べる価値がある」
俺は、資料を見つめた。
《記録》
《適合》
《継承》
もし。
本当に、これが一つの仕組みだったとしたら。
《勇者継承機構》は。
誰かの経験や記憶を残し。
それを受け取れる人間を確かめ。
次へ渡す。
そんなことをしていたのだろうか。
……だとしたら。
昨日。
俺が扉に触れた時。
魔法陣が光ったのは。
何を意味していたんだ?
「……セレス」
「何?」
「俺、昨日……適合したのかな」
彼女の表情が変わった。
「……どうして?」
「扉に触れたら、魔法陣が動いた」
「……ええ」
「先生たちが苦しんで……そのあと、戦場が見えた」
俺は、自分の右手を見た。
「もし、あれが本当に誰かの記憶だったなら……」
そこで。
言葉が止まった。
セレスが、黙って俺を見ていたからだ。
……分かっている。
まだ。
何も確定していない。
俺が見たものが、本当の過去なのか。
あの魔法陣が、俺に何をしたのか。
《適合》が、何を意味するのか。
全部。
分からない。
「……ごめん」
俺は、小さく笑った。
「また、勝手に答えを出すところだった」
セレスは、首を横に振った。
「考えるのは悪いことじゃないわ」
「……うん」
「ただ、考えたことを事実にしてはいけないの」
「……分かった」
彼女は、もう一度資料を見た。
「それに」
「……何?」
「仮に、この仕組みが本当に存在したとしても」
セレスは、静かに続けた。
「誰のために作られたのか、まだ分からないでしょう?」
……誰のため。
勇者のため?
王国のため?
次の勇者を選ぶため?
それとも。
もっと別の理由があるのか。
俺は、第60話で見た言葉を思い出した。
《勇者は、作られる》
ずっと。
勇者は、強い人間が選ばれるものだと思っていた。
でも。
もし。
歴代の勇者が経験したことを、次の人間へ渡す仕組みがあるのだとしたら。
勇者になるということは。
単に強くなることではないのかもしれない。
過去の誰かが見たものを。
次の誰かが受け取る。
そういうことなのかもしれない。
……ただ。
「……怖いな」
思わず、呟いた。
セレスが、顔を上げた。
「……何が?」
俺は、資料を見た。
「もし、あの戦場が本当に誰かの記憶なら」
「……うん」
「俺は、知らない誰かの気持ちまで、自分のものみたいに感じたんだ」
夢の中の。
あの恐怖。
あの後悔。
誰かを助けたいという焦り。
全部。
俺が経験していないはずのものだった。
なのに。
確かに、俺の胸を締めつけていた。
「……もし、もっとたくさん入ってきたら」
俺は、言葉を止めた。
知らない経験。
知らない感情。
知らない判断。
それが増えていったら。
俺は。
自分のことを。
ちゃんと自分で決められるのか?
「……悠真」
セレスが、静かに呼んだ。
「今は、そこまで決めつけなくていいわ」
「……でも」
「今日、あなたは剣の動きを再現しようとして失敗したでしょう?」
「……うん」
「でも、それは大切な結果よ」
「……結果?」
「頭の中では分かっていたのに、身体は同じように動かなかった」
「……そうだな」
「だったら、何かを知ったことと、それがあなた自身の力や判断になることは、分けて考えられるかもしれない」
俺は、彼女を見た。
……なるほど。
今日、転んだことにも。
意味があったのか。
「……セレスって、すごいな」
「……何が?」
「俺なら、転んだことしか覚えてない」
彼女が、小さく笑った。
「それは、覚えておいていいと思うわ」
「……そこは忘れさせてくれよ」
俺たちは、少しだけ笑った。
でも。
その時。
背後から、小さな声が聞こえた。
『……記録、か』
ガルディオ先生だった。
俺は、振り返った。
先生は、資料を見つめていた。
『適合……継承……』
「……先生?」
『いや』
先生は、首を振った。
『妙な言葉だと思ってな』
「……何か思い出した?」
『分からねえ』
その答えは。
いつもの豪快な先生らしくなかった。
『聞いたことがあるような……ねえような』
「……」
『昔の記憶も、全部残っちゃいねえからな』
先生は、笑った。
でも。
その笑顔は。
どこか、ぎこちなかった。
俺は、もう一度資料を見た。
《記録》
《適合》
《継承》
もし。
先生たち自身も。
この仕組みと何か関係しているのだとしたら。
俺たちは。
まだ。
入口に立ったばかりなのかもしれなかった。
百一人目の名前
「……神谷殿」
資料を調べ始めて、しばらく経った頃だった。
王国の担当官が、こちらへ歩いてきた。
手には、薄い冊子を持っている。
「少し、確認していただきたいものがあります」
俺は、顔を上げた。
「……何ですか?」
「古い資料の中から、関連があるかもしれない記録が見つかりました」
担当官は、机に冊子を置いた。
「ただし、破損が激しく、記載内容が完全かどうかは分かりません」
セレスが、頷いた。
「確認できる範囲だけで判断しましょう」
「ありがとうございます」
担当官は、古い頁を慎重に開いた。
そこには。
細かな文字が並んでいた。
番号。
人名。
そして。
いくつもの空欄。
「……これ、何の記録ですか?」
俺が聞くと。
担当官は、表題を指さした。
「古語の表記ですが、適合者の名簿と読むことができます」
「……適合者?」
「はい。ただし、何に対する適合なのかは、この冊子だけでは確認できません」
俺は、セレスを見た。
彼女も、真剣な表情で資料を読んでいる。
《適合》。
さっき調べたばかりの言葉だ。
「……セレス」
「ええ」
「つながってるのかな」
「可能性はあるわ」
彼女は、静かに答えた。
「でも、まず中身を確認しましょう」
俺たちは、慎重に頁をめくった。
古い文字。
欠けた行。
読めない名前。
何人もの記録が、並んでいる。
俺は、少しずつ目を動かした。
……難しい。
古語は、まだ得意じゃない。
セレスと担当官が読み取る内容を聞きながら、俺は番号を確認していった。
そして。
ある頁で。
目が止まった。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「……これ」
俺は、一つの名前を指さした。
文字の一部は、かすれている。
でも。
その名前だけは。
はっきり読めた。
《ゼル》
……え?
俺は、何度も見直した。
ゼル。
百一人目の勇者。
俺にとって。
一番話しやすくて。
一番優しい先生。
その名前が。
古い名簿に残されていた。
「……セレス」
「見えているわ」
彼女の声も、少し変わっていた。
「ゼル先生の名前ね」
「……うん」
担当官が、頁を確認する。
「第百一勇者ゼルに関係する記録の可能性があります」
俺は、息を呑んだ。
……ゼル先生。
先生が、百一人目の勇者だったことは。
すでに分かっている。
でも。
この名簿は。
勇者の一覧ではない。
《適合者名簿》。
その名前の横に。
別の文字が記されていた。
「……これ、何て書いてあるんですか?」
担当官が、眉を寄せた。
「……確認します」
セレスも、身を乗り出した。
二人が、古語の意味を確かめていく。
俺は、その様子を見守っていた。
背後には。
百人の先生たちがいる。
ガルディオ先生。
エレノア先生。
クロウ先生。
リリア先生。
そして。
ゼル先生。
……何だろう。
さっきまで、先生たちはいつもどおりだった。
ガルディオ先生は笑い。
エレノア先生は呆れ。
リリア先生は、俺の身体を心配していた。
でも。
この名前を見つけた瞬間。
ゼル先生だけが。
黙っていた。
「……悠真」
セレスが、俺を呼んだ。
「……何?」
「この欄」
彼女は、ゼルの名前の横を指さした。
「他の記録とは、違う言葉が書かれている」
俺は、目を凝らした。
古い文字が、二つ並んでいる。
「……読めない」
「最初の文字は、《継承》」
俺は、息を止めた。
《継承》。
昨日。
あの巨大な空間で見つけた言葉。
今日。
セレスが、三段階の一つではないかと考えた言葉。
「……じゃあ、次は?」
セレスは、すぐには答えなかった。
担当官と、もう一度確認する。
そして。
静かに言った。
「……《拒否》」
……え?
俺は、資料を見た。
継承。
拒否。
二つの言葉。
《継承拒否》
「……拒否?」
声が、かすれた。
「……ゼル先生が?」
セレスは、頷いた。
「少なくとも、この記録にはそう書かれているわ」
「……どうして?」
答えは、返ってこなかった。
俺は、背後を振り返った。
そこに。
ゼル先生がいた。
黒髪の青年。
いつも穏やかに笑っている先生。
でも。
今は。
笑っていなかった。
「……先生」
俺は、口を開いた。
「これ……」
ゼル先生は、何も言わなかった。
ただ。
古い名簿を見つめていた。
……何だ?
昨日。
《勇者継承機構》の扉が開いた時。
先生は、俺を必死に止めた。
百人の英雄たちが苦しみ始めた時。
先生だけは。
何かを恐れているようだった。
そして。
今。
先生の名前が。
適合者の名簿に残されている。
その横には。
《継承拒否》。
俺は、拳を握った。
聞きたい。
今すぐ、聞きたい。
先生は、何を知っているんだ?
どうして、あの椅子を恐れていた?
そして。
何を拒んだ?
でも。
俺は、一度だけ深く息を吸った。
昨日。
先生に答えを聞く前に。
自分たちで調べると決めた。
その決意を。
今ここで捨てたくなかった。
だから。
俺は、もう一度資料を見た。
分かっていること。
ゼル先生は、百一人目の勇者だった。
その名前が、《適合者名簿》に残されている。
そして。
その横には、《継承拒否》。
……でも。
何を拒んだのかは、まだ分からない。
「……セレス」
「何?」
「これって……勇者になることを拒否したって意味なのかな」
彼女は、首を横に振った。
「分からないわ」
「……うん」
「勇者の認定と、継承が同じ意味だとは限らない」
俺は、顔を上げた。
「……じゃあ」
「勇者になったあとで、別の何かを受け取る段階があった可能性もあるわ」
……あ。
そうか。
ゼル先生は。
百一人目の勇者だった。
それは、変わらない。
でも。
もし。
勇者として認められることと。
何かを継承することが。
別のものだったとしたら。
……先生は。
いったい何を拒んだんだ?
俺は、もう一度ゼル先生を見た。
いつもなら。
先生は、穏やかに笑って。
俺に問いかけてくる。
『悠真は、どう思う?』
そう言って。
自分で答えを探すように促してくれる。
でも。
今は。
何も言わなかった。
俺は、先生の名前が刻まれた記録を見た。
百一人目の勇者。
俺の一番優しい先生。
その名前の横には。
たった四文字が残されていた。
《継承拒否》
先生は、勇者になることを拒んだのか。
それとも。
勇者になったあとで、何かを拒んだのか。
「……ゼル先生」
俺は、静かに呼んだ。
「先生は……何を拒んだんですか?」
ゼル先生は、俺を見た。
その目に。
昨日、巨大な石扉の前で見たものと同じ。
恐怖にも似た何かが浮かんでいた。
そして。
ゼル先生は、答えなかった。
第62話 完
次回予告
第7部『勇者継承機構編』
次回 第3話/通算第63話
「ゼル先生は、勇者を継がなかった」
百一人目の勇者ゼル。
誰よりも悠真を理解し、誰よりも優しく教えてくれた先生。
その名前が、古い《適合者名簿》に残されていた。
そして。
記録された不可解な言葉。
《継承拒否》
ゼルは、何を拒んだのか。
勇者になることなのか。
それとも。
勇者になったあとに待つ、別の何かなのか。
悠真とセレスは、さらに調査を進める。
しかし。
古い記録を追うほどに、百人の先生たち自身の記憶にも、新たな疑問が生まれ始めていた。
先生たちが覚えている過去は、本当にすべて正しいのか。
そして。
誰かの記憶を受け継ぐことは、何を意味するのか。
次回、百一人目の勇者が拒んだものへ。
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感想や今後の展開予想など、コメントで教えていただけるとうれしいです。
作者より
第62話をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、悠真が《勇者継承機構》に触れたあと、知らない戦場の記憶に苦しむ物語でした。
これまで悠真は、百人の先生たちから剣術や魔法、戦い方を教わってきました。
しかし今回、初めて「教わること」と「誰かの経験を受け取ること」の違いに直面します。
もし歴代の勇者の記憶を受け継げるなら、強くなれるのでしょうか。
それとも、知識だけが増えても、自分自身の努力が必要なのでしょうか。
悠真は、見知らぬ剣技を再現しようとして、見事に転んでしまいました。
しかし、その失敗は決して無駄ではありません。
知っていることと、できることは違う。
自分で積み重ねた経験には、それ自体に意味がある。
それが、今回の小さな答えです。
そして、セレスとの関係も少し進みました。
悪夢に苦しむ悠真を、一晩中そばで見守っていたセレス。
「一人にしないって決めたから」
その言葉には、彼女自身の気持ちが込められています。
二人はまだ、互いの感情をはっきりと言葉にはしていません。
それでも、以前より少しだけ、心の距離が縮まっています。
一方で、物語の最後には新たな謎が現れました。
《継承拒否》
百一人目の勇者ゼルは、いったい何を拒んだのか。
そして、その選択は、悠真が見た知らない戦場の記憶と関係しているのでしょうか。
次回、その謎へさらに近づいていきます。
あなたなら、歴代の勇者の経験や記憶を受け継げるとしたら、受け継ぎたいと思いますか?
ぜひ、感想や予想をコメントで教えてください。
次回もよろしくお願いいたします
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