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第3話/通算第53話 「百二人目は誰ですか?」

第6部『勇者制度編』




百一人目の勇者。




その正体は、ずっと自分を導いてきた先生、ゼルだった。




けれど、本当に恐ろしいのは、




「百一人目がいたこと」ではない。




なぜ、彼は勇者だったのに歴史から消されたのか。




なぜ、魔王を倒さなかったのか。




そして――




そもそも、誰が「勇者」を決めているのか。




これまで悠真は、百人の英雄たちから答えを教わってきました。




戦い方も。




人を守る方法も。




正しい答えを疑うことさえも。




だから今度は、




先生から答えを教えてもらわないことを選びます。




「また、先生の答えを信じるだけになるから」




ゼルの答えではなく。




王国の答えでもなく。




歴史に書かれた答えでもなく。




悠真はセレスとともに、自分たちで確かめる道を選びます。




その先で見つかるのは、




《勇者選定院》




勇者は、誰が選ぶのか。




何をすれば勇者になれるのか。




そして、なぜ勇者という存在が必要なのか。




第6部『勇者制度編』。




ここから物語は、




「消された一人の勇者」の謎から、「勇者という制度そのもの」の謎へ。




そして最後に、悠真たちは一つの言葉へたどり着きます。




勇者は、作られる。




では――




誰が、何のために?

百二人目は、俺なんじゃないか。


そう思った瞬間。


自分でも怖くなるくらい、全部がつながって見えた。


俺だけが、百英雄を見ることができる。


俺は、この世界の人間じゃない。


そして。


百年前の《勇者選定院》の記録には、


《登録候補者総数 百二名》


そう書かれている。


百英雄は百人。


歴史から消された百一人目の勇者。


ゼル先生。


そして。


あと一人。


俺は切り取られた名簿を見つめた。


「……もしかして」


「何?」


隣にいたセレスが顔を上げる。


「俺なんじゃないか?」


「何が?」


「百二人目」


セレスが黙った。


学院長も俺を見る。


百英雄も。


そして。


ゼル先生も。


誰も何も言わない。


だから俺は続けた。


「俺だけ、先生たちが見える」


セレスは黙って聞いている。


「俺は異世界から来た」


そして。


名簿を指さす。


「そこに百二人って書いてある」


三つ。


全部がつながっているように見えた。


「だったら」


俺は息を吸う。


「俺が百二人目の勇者候補なんじゃ――」


「証拠がないわ」


言葉を切られた。


「……え?」


セレスだった。


真っ直ぐ。


俺を見ている。


「証拠がない」


もう一度。


はっきり言った。


「いや、でも」


「悠真だけが百英雄を見られる」


「うん」


「悠真は異世界から来た」


「うん」


「記録には百二人とある」


「そう」


セレスが名簿を指さす。


「そこに神谷悠真と書いてある?」


「……ない」


「百二人目が異世界人だったという記録は?」


「ない」


「なら?」


答えは。


分かっていた。


「……俺が百二人目だという証拠はない」


「正解」


一瞬。


何も言えなかった。


学院長がわずかに口元を緩める。


「学院長」


「なんだ」


「今、笑いました?」


「笑っていない」


絶対笑った。


でも。


セレスはまだ俺を見ていた。


「それに」


「まだあるの?」


「あるわ」


嫌な予感がする。


セレスは容赦なく言った。


「先生を疑うくせに、自分に都合のいい答えは信じるの?」


「…………」


痛い。


ものすごく痛い。


「痛いところ突くなあ」


「大事なところでしょう」


「はい」


そうだった。


俺はゼル先生に答えを聞かなかった。


先生の言葉を。


そのまま正解にしたくなかったから。


自分で調べると決めた。


なのに。


自分で思いついた答えなら。


簡単に信じようとした。


それじゃ。


何も変わっていない。


「……そうだった」


俺はもう一度、名簿を見る。


「俺が百二人目かもしれない」


「ええ」


「でも」


一度。


言葉を止める。


「今は、分からない」


セレスが頷いた。


「それでいいと思う」


分からないことを。


無理に答えにしない。


それも。


自分で答えを探すためには必要なのかもしれない。


「だったら」


セレスが新しい資料を机へ置いた。


「調べましょう」


「うん」


俺は頷いた。


百二人目が誰なのか。


答えがないなら。


証拠を探せばいい。


消された一人


それから。


俺たちは資料室に残された記録を片っ端から調べた。


探すものは三つ。


勇者候補者名簿。


勇者認定記録。


そして。


当時の学院関係資料。


名前そのものが消されているなら。


別の場所に痕跡が残っているかもしれない。


出身地。


推薦者。


試験結果。


何でもいい。


百二人目が存在した証拠を探す。


「こっちは違う」


セレスが帳簿を閉じる。


「第六期。候補者は八十四人」


「次は?」


「第八期。九十七人」


「第七期だけ百人を超えてる?」


「今確認できる範囲では」


第七期。


先生たちの時代。


魔王との戦争が続いていた時代。


百二人。


偶然かもしれない。


でも。


偶然ではないかもしれない。


今は。


どちらとも決めない。


「……ないな」


何冊目か分からない帳簿を閉じる。


名前がない。


百二人目だけ。


どこにも見つからない。


人数は残っている。


でも。


一人分だけ。


記録が存在しない。


まるで。


最初からいなかったみたいに。


「ゼル先生と同じなのかな」


俺は呟いた。


歴史から消された。


百一人目の勇者。


セレスが顔を上げる。


「可能性はあるわ」


「でも」


俺は先に言った。


「証拠がない」


セレスが少し笑った。


「学習したわね」


「俺だって成長する」


「数時間前まで自分が百二人目だと思っていた人が?」


「それは忘れて」


「記録しておくわ」


「消して」


「歴史改竄はよくないでしょう?」


「今それ言う?」


思わず。


二人で笑った。


張りつめていた空気が。


少しだけ緩んだ。


こういうとき。


セレスがいてくれてよかったと思う。


一人だったら。


たぶん俺は。


自分の考えに飲み込まれていた。


俺が百二人目だ。


だから先生たちが見える。


だから異世界へ来た。


そんな。


分かりやすい答えに飛びついていた。


でも。


分からないものを。


分からないままにしておく。


それは。


逃げることじゃない。


答えを決めつけないために。


必要なことなんだ。


二人で調べる理由


どれくらい時間が経ったのか。


分からなくなった。


地下資料室には窓がない。


時間まで閉じ込められているみたいだった。


学院長は途中で別の資料を取りに出た。


残ったのは。


俺とセレス。


そして。


百一人の死者。


「……悠真」


「ん?」


「眠いなら寝たら?」


「寝てない」


「今、目を閉じていたわ」


「考えてた」


「口も開いていたけど」


「深く考えると開くんだよ」


「初めて聞いたわ」


セレスが呆れた顔をする。


俺は机に頬杖をついた。


「セレスは眠くないの?」


「眠いわよ」


「じゃあ帰れば?」


口にしたあと。


少しだけ後悔した。


帰ってほしいわけじゃない。


ただ。


こんな時間まで。


俺の調査に付き合わせるのが悪いと思っただけだ。


でも。


セレスは帰る準備をしなかった。


何も言わず。


次の資料を開く。


「セレス?」


「一人で調べるより二人のほうが早いでしょう」


「……それだけ?」


言ってから。


自分でも何を聞いているんだと思った。


セレスの手が止まった。


一秒。


二秒。


俺を見ないまま。


小さく答える。


「……今はそれだけ」


「今は?」


セレスが顔を上げた。


「悠真」


「はい」


「寝なさい」


「はい」


顔が。


少し熱かった。


たぶん。


地下資料室の空気が悪い。


そういうことにしておこう。


百二人という記憶


そのときだった。


『……百二』


低い声がした。


俺は顔を上げる。


ガルディオ先生だった。


「先生?」


先生は。


第七期の名簿を見つめている。


返事がない。


『百二……』


もう一度。


呟いた。


「ガルディオ先生?」


様子がおかしい。


いつもなら。


細かいことなんて気にするなと笑い飛ばす人だ。


その先生が。


頭を押さえていた。


『待て』


「何が?」


『待て……』


百英雄たちが振り返る。


エレノア先生。


クロウ先生。


リリア先生。


みんな。


ガルディオ先生を見る。


『百二人』


その言葉を聞いた瞬間。


何人かの表情が変わった。


『……何?』


エレノア先生が自分の額に手を当てる。


クロウ先生も目を細めた。


『この感じは……』


リリア先生が胸元を押さえる。


『私も……知っている?』


「何を?」


答えはない。


ガルディオ先生が。


突然。


目を見開いた。


『あ……』


「先生?」


『いた』


俺は立ち上がった。


「誰が?」


『分からねえ』


「でも今、いたって」


『いたんだ』


先生の声が震えている。


『俺たちと一緒に』


ガルディオ先生の目は。


ここではない何かを見ていた。


百年前。


戦場。


並んでいる人影。


百人の英雄。


そして。


ゼル先生。


その隣。


もう一人。


誰かがいる。


なのに。


顔が見えない。


名前も。


分からない。


そこにいることだけが。


分かる。


『誰だ……?』


ガルディオ先生が呟く。


「先生?」


『誰だ、お前……』


俺に言っているんじゃない。


先生は。


記憶の中にいる誰かへ問いかけていた。


『俺は……』


頭を押さえる。


『知ってる』


エレノア先生が顔を上げた。


『私も……』


クロウ先生が呟く。


『何だ、この記憶は』


リリア先生も。


小さく息を呑んだ。


『いた……?』


百英雄がざわめく。


全員ではない。


でも。


何人も。


同じ違和感を感じている。


名前は分からない。


顔も見えない。


でも。


誰かがいた。


百二人という数字は。


帳簿の間違いじゃないのかもしれない。


俺は。


ゼル先生を見る。


先生だけは。


黙っていた。


いつもの笑顔もない。


「ゼル先生」


先生が俺を見る。


聞けば。


何か知っているかもしれない。


百二人目は誰なのか。


先生なら。


答えを持っているかもしれない。


でも。


俺は口を閉じた。


聞かない。


今は。


先生の答えじゃなく。


自分たちで証拠を探す。


ゼル先生も。


何も言わなかった。


そのとき。


ガルディオ先生がゆっくり顔を上げた。


「先生?」


先生の目が。


俺を見る。


怯えていた。


あの。


剣聖ガルディオが。


敵ではなく。


自分自身の記憶に怯えている。


『悠真』


「うん」


『俺たちは……』


先生は。


百英雄を見回した。


ずっと。


百人だと思っていた。


歴史にも。


そう書かれている。


《百英雄》。


でも。


記録には百二人の勇者候補。


百一人目のゼル先生。


そして。


記憶の中に。


顔も名前も思い出せない。


もう一人。


ガルディオ先生が。


震える声で言った。


『俺たちは……最初から百人じゃなかった』




第53話 完


次回 第6部 第4話/通算第54話


「英雄百人の中に、勇者じゃない人がいました」


《百英雄》と《勇者》。


同じものだと思っていた二つの言葉。


だが、勇者選定記録と英雄名簿を照合した悠真たちは、奇妙な事実にたどり着く。


百英雄全員が、正式に「勇者」と認定されていたわけではない。


では。


英雄とは誰なのか。


勇者とは誰なのか。


そして。


それを決めたのは、誰なのか。


さらに資料の奥から見つかる、新たな制度。


《勇者認定取消》


その第一号には。


歴史から消された男の名前が残されていた。


《第百一勇者 ゼル》


だが。


その下には。


もう一つの欄があった。


《第二号》


名前は。


削られていた。





「百二人目は誰だと思う?」「ガルディオたちは、なぜ忘れている?」など、一言でも感想・コメント・メッセージをいただけると嬉しいです。

この物語の続き・ほかの作品は、note「momokun」と Momokun Official で公開しています。

Note:momokun https://note.com/momokun1 https://note.com/dreamy_bonobo524

Momokun Official https://momokun.jp/

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