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第2話/通算第52話 「勇者になるには、王国の許可が必要ですか?」

第6部『勇者制度編』




百一人目の勇者。




その正体は、ずっと自分を導いてきた先生、ゼルだった。




けれど、本当に恐ろしいのは、




「百一人目がいたこと」ではない。




なぜ、彼は勇者だったのに歴史から消されたのか。




なぜ、魔王を倒さなかったのか。




そして――




そもそも、誰が「勇者」を決めているのか。




これまで悠真は、百人の英雄たちから答えを教わってきました。




戦い方も。




人を守る方法も。




正しい答えを疑うことさえも。




だから今度は、




先生から答えを教えてもらわないことを選びます。




「また、先生の答えを信じるだけになるから」




ゼルの答えではなく。




王国の答えでもなく。




歴史に書かれた答えでもなく。




悠真はセレスとともに、自分たちで確かめる道を選びます。




その先で見つかるのは、




《勇者選定院》




勇者は、誰が選ぶのか。




何をすれば勇者になれるのか。




そして、なぜ勇者という存在が必要なのか。




第6部『勇者制度編』。




ここから物語は、




「消された一人の勇者」の謎から、「勇者という制度そのもの」の謎へ。




そして最後に、悠真たちは一つの言葉へたどり着きます。




勇者は、作られる。




では――




誰が、何のために?

勇者は、選ばれるものだった。


学院長の机の上。


古びた一本の鍵に、その名前は刻まれていた。


《勇者選定院》


「学院長」


「なんだ」


「勇者って……選ぶものだったんですか?」


学院長はすぐには答えなかった。


机の上の鍵を見る。


「少なくとも、昔の王国はそう考えていた」


「昔の王国?」


隣でセレスが聞き返す。


「百年前には、勇者候補を選定するための専門機関が存在した」


学院長が鍵を指した。


「それが《勇者選定院》だ」


勇者を選ぶ。


その言葉に、妙な違和感があった。


勇者って。


魔王と戦った人とか。


誰かを救った人とか。


そういう人が、あとから呼ばれるものじゃないのか。


「じゃあ」


俺は聞いた。


「勇者になるには、王国の許可が必要だったんですか?」


学院長の眉がわずかに動いた。


「許可という言葉が正確かは分からん。だが、王国による認定は必要だった」


「認定されなかったら?」


「制度上は、勇者ではない」


まただ。


制度上。


第51話から何度も聞いている言葉。


「どれだけ強くても?」


「ああ」


「人を救っても?」


「ああ」


「それって……変じゃないですか?」


学院長が俺を見る。


「何がだ」


「人を救ったかどうかより、王国が認めたかどうかのほうが大事ってことでしょう?」


「悠真」


セレスが口を挟んだ。


「制度があること自体がおかしいとは限らないわ」


「そう?」


「誰でも勝手に勇者を名乗れるほうが危険でしょう」


「あ」


確かに。


強い人間が全員、


「今日から俺が勇者だ」


なんて言い始めたら。


たぶん、とんでもないことになる。


「戦時なら、なおさら管理する必要があったはずよ」


セレスは続けた。


「だから、最初から王国が悪いと決めないこと」


「……俺、そんな顔してた?」


「してた」


学院長も頷いた。


「していたな」


二対一だった。


背後から小さな笑い声がする。


『いい相棒だね』


振り返る。


ゼル先生。


いつものように、少し困ったような顔で笑っていた。


「聞かないから」


『まだ何も言ってないよ』


「どうせ先生なら何か知ってるんだろ」


『聞く?』


「聞かない」


ゼル先生が少し目を丸くする。


『本当に頑固になったね』


「先生が育てたんだろ」


一瞬。


ゼル先生が黙った。


それから。


『責任重大だ』


と笑った。


俺も少しだけ笑う。


でも。


聞かない。


先生が知っている答えを、そのまま自分の答えにはしない。


まず、自分で見る。


調べる。


考える。


それから決める。


「学院長」


俺は鍵を見る。


「この鍵、どこで使うんですか?」


「分からん」


「……え?」


「私も、この鍵を使ったことはない」


「学院長」


「なんだ」


「本当に何も知らないですね」


「帰れ」


「すみません」


セレスが横で笑った。


鍵が開けたもの


鍵穴が見つかったのは、学院地下だった。


英雄墓廟より上。


古い教材や学院資料を保管している地下書庫。


学院長が持ってきた百年前の図面と、現在の図面。


その二つをセレスが机に並べていた。


「ここ」


セレスが指を置く。


「壁の位置が違う」


「本当だ」


現在の図面では、そこで行き止まり。


でも百年前の図面には。


その先に、小さな空間がある。


三人で壁際の棚を動かす。


埃が舞った。


「げほっ」


「悠真、大丈夫?」


「百年分吸った気がする」


「百年分は吸えないわよ」


「気持ちの問題」


棚の裏には石壁。


そして。


セレスがしゃがんだ。


「これ」


石の隙間に埋もれていた金属片。


埃を払う。


剣。


その後ろに円。


鍵と同じ紋章だった。


中央には、小さな鍵穴。


学院長が古い鍵を差し込む。


カチッ。


次の瞬間。


ゴゴゴゴゴ――


石壁がゆっくり奥へ沈んでいった。


冷たい空気が流れてくる。


その先には。


暗い通路。


「……本当にあった」


セレスが呟く。


学院長も黙っている。


たぶん。


この人も知らなかったんだ。


「学院長」


「なんだ」


「本当に何も」


「神谷」


「黙ります」


今度こそ危なかった。


通路の先にあったのは、小さな資料室だった。


本棚。


机。


積み上げられた木箱。


そして壁には。


剣と円の紋章。


その下に、消えかけた文字が残っていた。


《王国勇者選定院》


「ここが……」


「選定院そのものではないわ」


セレスが周囲を見る。


「学院の地下だもの」


「じゃあ、選定院の資料を保管してた場所?」


「その可能性はある」


学院長が答える。


なぜ。


こんな場所に。


なぜ。


壁まで作って隠した?


疑問はいくつも浮かんだ。


でも。


今は一つずつだ。


俺は手袋をつけ、古い帳簿を開いた。


名前。


年齢。


出身。


魔力量。


剣術。


魔法適性。


推薦者。


そして。


「認定……結果?」


セレスが横から覗き込む。


《候補》


《審査》


《認定》


三つの欄が並んでいた。


「やっぱり」


俺は呟く。


「勇者って、審査されてたんだ」


強ければ勇者。


じゃない。


誰かを救えば勇者。


でもない。


候補に選ばれ。


審査され。


そして。


認定される。


勇者は。


制度の中で決められていた。


強ければ、勇者なのか


「悠真」


別の帳簿を調べていたセレスが俺を呼んだ。


「これを見て」


一人の候補者の記録。


剣術。


優。


魔力量。


優。


戦闘評価。


優。


ほとんどの項目が高評価だった。


「すごいな、この人」


俺より。


という比較すら失礼なくらい強そうだ。


なのに。


最後の欄。


《認定見送り》


「……なんで?」


理由は書かれていない。


「これだけ強いのに?」


「分からない」


セレスが別のページを開く。


今度は。


剣術。


並。


魔力量。


並。


戦闘評価。


並。


目立って高い項目はない。


なのに。


最後の欄には。


《認定》


俺は二枚の記録を見比べた。


強い人間が、勇者になれない。


それほど強くない人間が、勇者になる。


「強さじゃない?」


「少なくとも」


セレスが答える。


「強さだけではなかったみたいね」


だったら。


何を見ていた?


性格?


家柄?


忠誠心?


出身?


誰かを守ろうとする意志?


それとも。


俺たちがまだ知らない何か?


「……気持ち悪いな」


「何が?」


「基準が見えない」


選ばれた人。


選ばれなかった人。


そこには確かに何かの基準がある。


なのに。


俺たちには見えない。


まるで。


答えだけが残って。


問題文だけ消されている。


「でも」


セレスが言った。


「一つは分かった」


「何?」


「勇者は、一番強い人を選ぶ制度じゃなかった」


俺はもう一度、二人の記録を見る。


確かに。


一つ。


分かった。


そして。


分かったからこそ。


新しい疑問が生まれた。


だったら。


王国は。


何を基準に勇者を選んでいた?


百年前の名簿


どれくらい調べただろう。


窓がないから、時間の感覚がない。


学院長は木箱。


俺は選定記録。


セレスは名簿を調べていた。


ゼル先生たち百英雄も、黙って資料を見ている。


触れることはできない。


ページをめくることもできない。


それでも。


何かを思い出そうとするように。


ずっと見ていた。


「先生」


呼びそうになって。


やめた。


すると。


ゼル先生のほうから言った。


『聞く?』


「聞かない」


『まだ何も言ってないけど』


「先生の答えを聞いたら、それで終わりそうだから」


『僕が間違ってるかもしれないよ』


「だったら、なおさら自分で調べる」


ゼル先生が笑った。


『やっぱり、頑固になった』


「先生が育てたんだろ」


『それ、便利な言葉にするつもり?』


「使えるものは使う」


『成長したなあ』


「褒めてないだろ」


『半分くらいは』


そのとき。


「悠真」


セレスの声がした。


さっきまでとは違う。


俺は振り返った。


「どうした?」


セレスは一冊の分厚い名簿を開いていた。


表紙には。


《第七期 勇者候補者名簿》


「年代を見て」


俺は横に立つ。


百年前。


魔王との戦争が続いていた時代。


百英雄が生きていた時代。


そして。


ゼル先生が。


百一人目の勇者だった時代。


「先生たちの時代……?」


背後で気配が変わった。


ガルディオ先生が近づく。


『見せろ』


俺はページをめくった。


名前。


名前。


名前。


大量の名前が並んでいる。


知らない名前ばかり。


でも。


途中で。


『待て』


ガルディオ先生が言った。


俺の手が止まる。


『そこだ』


一つの名前。


《ガルディオ》


俺は先生を見る。


「先生だ」


さらにめくる。


エレノア。


クロウ。


リリア。


知っている名前が。


次々と現れる。


百英雄。


間違いない。


これは。


先生たちが勇者候補だったころの名簿だ。


「じゃあ」


俺はページをめくる。


「ゼル先生も……」


あった。


《ゼル》


俺は先生を見る。


ゼル先生は。


笑っていなかった。


百英雄。


百人。


そして。


ゼル先生。


「百一人」


俺は呟いた。


数字が合った。


百英雄が百人。


歴史から消されたゼル先生が、百一人目。


だから。


この名簿には百一人。


そう思った。


「待って」


セレスが言った。


「何?」


返事がない。


セレスは名簿の最後を見ていた。


「セレス?」


「人数が合わない」


「え?」


セレスが最後のページを開く。


そこには集計欄があった。


《第七期 勇者候補者名簿》


その下。


《登録候補者総数》


俺は数字を見る。


一瞬。


意味が分からなかった。


「百……」


読み間違いかと思った。


もう一度見る。


でも。


数字は変わらない。


「……二?」


セレスも黙っている。


学院長がこちらへ来た。


「どうした」


俺は答えず。


数字を指さした。


学院長の表情が変わる。


そこには。


はっきり書かれていた。


《登録候補者総数 百二名》


「百二……」


俺は先生たちを見る。


百英雄。


百人。


ゼル先生。


百一人目。


だったら。


あと一人は?


『そんなはずはねえ』


ガルディオ先生の声だった。


いつも大きな声で笑う人が。


今は。


自分自身を疑うような顔をしている。


「先生?」


『俺たちは……』


ガルディオ先生が頭を押さえた。


『俺たちは……何人だった?』


「百人だろ?」


俺は答える。


「先生たち百英雄が百人。それにゼル先生で百一人」


『違う』


「え?」


『いや……』


ガルディオ先生の顔が歪む。


『分からねえ』


エレノア先生も。


クロウ先生も。


リリア先生も。


誰も答えない。


思い出そうとしている。


でも。


思い出せない。


俺は名簿へ視線を戻す。


もう一度。


一人ずつ確認しようとした。


そこで気づいた。


「……ここ」


綴じ目。


途中の一部だけが不自然だった。


紙が。


切り取られている。


セレスも気づく。


「誰かがページを抜いた?」


「分からない」


でも。


一つだけ確かなことがある。


記録には百二人と書かれている。


俺たちが確認できるのは。


百英雄。


そしてゼル先生。


百一人。


あと一人。


ゼル先生を見る。


聞けば。


何か分かるかもしれない。


先生も俺を見ていた。


でも。


俺は聞かなかった。


自分で確かめると決めたから。


名簿に視線を戻す。


《登録候補者総数 百二名》


百英雄は、百人。


ゼル先生が、百一人目。


それなのに。


記録には。


もう一人いる。


だったら。


百二人目の勇者候補は、どこへ消えた?


第52話 完


次回 第6部 第3話/通算第53話


「百二人目は誰ですか?」


百英雄は百人。


歴史から消されたゼルを加えて、百一人。


それでも《勇者選定院》の記録には、百二名の候補者が存在していた。


消されたページ。


思い出せない百英雄。


そして悠真は、一つの可能性にたどり着く。


――百二人目は、俺なんじゃないか?


だが、セレスはその仮説を一言で止める。


「証拠がない」


答えを急げば、また自分が信じたいものだけを信じることになる。


では、消された最後の一人は誰なのか。


第6部『勇者制度編』。


「勇者」という言葉の意味が、さらに崩れ始める。



「百二人目は誰だと思う?」など、一言でも感想・コメントをいただけると

この物語の続き・ほかの作品は、note「momokun」と Momokun Official で公開しています。

Note:momokun https://note.com/momokun1 https://note.com/dreamy_bonobo524

Momokun Official https://momokun.jp/

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