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第7話/通算37話 「英雄百人より、仲間四人」

第4部「英雄のいない村編」


英雄に教われば、正しい答えが見つかる。




悠真は、ずっとそう思っていた。




剣の振り方も。


魔物の倒し方も。


仲間を守る方法も。




百人の英雄たちは、いつだって悠真より多くの答えを知っていた。




けれど。




英雄の答えが、誰かを傷つけるとしたら?




百一人目の勇者という、新たな謎を残したまま学院へ戻った悠真。




そんな彼に与えられたのは、初めての学院外実地任務だった。




向かうのは、北方の小さな村《レムナ村》。




魔物を倒し、村を守る。




ただそれだけの、簡単な任務のはずだった。




しかし、そこで悠真を待っていたのは、




「助けてほしい人」ではなかった。




百人の英雄がいても、答えが出ない。




教科書にもない。




正解すら、あるのか分からない。




なら。




悠真は初めて、英雄たちの答えではなく、




自分と、今を生きる仲間たちの答えを探し始める。




英雄に教わる少年から。




英雄の答えを疑える少年へ。




そして、




英雄にはない答えを、仲間と作れる少年へ。




第4部。




「英雄のいない村編」




ここから始まるのは、




英雄がいれば人は救えるのか。




その「当たり前」を疑う物語です。

三人で考える


「悠真! もう無理!」


炭焼き場へ戻った瞬間、ミレナの叫びが飛んできた。


二つの炭窯。その手前を塞ぐ木柵。


柵の向こうには、赤い目と牙が幾重にも重なっている。


「あと、どれくらいもつ!?」


「知らない! でも次で壊れる!」


ミレナが杖を振った。


雷光が先頭の狼型を弾き飛ばす。


一匹倒れても、後ろから二匹が押し寄せる。


悠真の頭の中で、百人の英雄が一斉に声を上げた。


『左の柵を捨てろ!』


『中央を開けて誘導しろ!』


『雷撃を地面へ――』


「待って」


声が止まる。


悠真は剣を握ったまま、隣を見た。


「セレス。どうする?」


セレスは一瞬だけ目を見開いた。


けれど、すぐ前を向く。


「まずミレナと合流。残ってる戦力を確認する」


「分かった」


「相談するなら早くして!」


「今行く!」


二人はミレナの横へ滑り込んだ。


「遅い!」


「ごめん!」


「カイルは?」


悠真の喉が詰まる。


「怪我した。トーマが診てる。命に別状はない」


ミレナの表情が消えた。


「……そう」


杖を握る手だけが、強くなる。


「俺の作戦で――」


「それ、あと」


「え?」


「反省会はあと! 今は勝つ!」


雷が走る。


セレスが小さく笑った。


「同じこと、もう言われたでしょ?」


「……うん」


本日二回目だった。


悠真は魔物を見る。


以前なら、ここで先生に聞いた。


一番正しい答えを。


でも今、必要なのは百年前の正解じゃない。


この場所で戦っている仲間の答えだ。


「ミレナ。大きい雷は?」


「あと二発。小さいのは七」


「セレスは?」


「まだ動ける。でも柵が全部破られたら、私一人じゃ止められない」


悠真は二人の言葉を頭の中で並べる。


完璧な答えじゃない。


保証もない。


だからこそ、今の答えだった。


「私は左を崩したい」


ミレナが言った。


「あそこだけ密集してる。大きいのを落とせば、群れは右へ逃げる」


「右は村への道だよ」


セレスが眉を寄せる。


「だから、その途中で止める」


ミレナが悠真を見る。


「二人で」


セレスが剣を構えた。


「私はやれる」


「俺も」


『待て』


ガルディオの声が割り込む。


『危険すぎる。抜かれたら村へ行く。俺なら――』


『今日は先生、休みでいいんじゃない?』


ゼルだった。


『……は?』


『今、いいところだから』


『死んだらどうする』


少しの沈黙。


『だから仲間がいるんでしょ』


ガルディオは、それ以上言わなかった。


四人目


「おーい!」


村側から声が飛んできた。


振り返る。


トーマがいた。


その横には、肩から背中を包帯で固定されたカイル。


「なんで来たんだよ!」


「歩いてねえ! 村の人に肩貸してもらった!」


「そういう問題じゃない!」


「俺も言った!」


トーマまで怒鳴る。


カイルは痛みに顔をしかめながら、それでも笑った。


「前には出ねえよ。でも作戦会議なら参加できる」


悠真は言葉を失う。


「仲間なんだろ?」


「……うん」


悠真は炭焼き場を指した。


「ミレナが左へ雷を落として、右へ流す。俺とセレスで止める。どう思う?」


カイルは群れを睨んだ。


「そのまま右へ流したら速すぎる」


「じゃあ?」


「あそこを使え」


指したのは二つの炭窯だった。


窯と窯の間は狭い。


魔物が横に並べる幅ではない。


セレスが気づく。


「一度に来る数を減らせる」


「そういうこと」


カイルが笑う。


悠真も頷いた。


「それでいこう」


「トーマ」


「何?」


「カイルを絶対に前へ出さないで」


「任せろ」


「俺の扱いだけ雑じゃない!?」


今度は誰も答えなかった。


完璧じゃない


「撃つよ!」


ミレナが杖を掲げる。


「三!」


柵が軋む。


「二!」


一本が折れた。


「一!」


轟音。


白い雷が左側の地面を抉った。


魔物の群れが崩れ、右へ雪崩れる。


「来る!」


悠真とセレスが炭窯の間へ走った。


狭い通路へ、一匹目。


「左!」


「分かった!」


悠真が斬る。


浅い。


二匹目が重なる。


「伏せて!」


ミレナの小さな雷撃が頭上を走り、二匹目を痙攣させる。


セレスが一匹目の脚を払った。


悠真が止めを刺す。


「次!」


三匹目。


四匹目。


多い。


想定より流れが速い。


胸の奥が冷えた。


また読み違えた。


また誰かが傷つく。


『悠真、下がれ!』


英雄の声。


その瞬間。


「悠真!」


セレスの声が、それより近くで響いた。


悠真は彼女を見る。


先生より先に。


「薪!」


遠くからカイルが叫ぶ。


「窯の横の薪を倒せ! もっと道を狭くしろ!」


「でも燃えたら――」


「生木だ!」


村長が叫んだ。


「それならすぐには燃えん! みんな、押せ!」


村人たちが動く。


積まれた薪が崩れ、通路がさらに細くなる。


一度に入れる魔物は、一匹。


「ミレナ!」


「あと五発!」


「セレス!」


「右は任せて!」


「トーマ!」


「村側は俺が見る!」


答えが次々と返ってくる。


悠真はそれを一つにつなげた。


「じゃあ、このまま一匹ずつ止める!」


完璧じゃなかった。


ミレナの雷が外れた。


セレスが泥に足を取られた。


悠真の剣が牙に弾かれた。


そのたびに。


「右!」


「今!」


「一歩下がって!」


「次、来るぞ!」


誰かの声が穴を埋めた。


誰かが間違えれば、別の誰かが直した。


英雄の戦い方とは違う。


格好よくない。


泥だらけだ。


怒鳴り声ばかりだ。


それでも。


最後の狼型が跳んだ。


悠真の剣は間に合わない。


セレスが横から踏み込み、前脚を払う。


「悠真!」


体勢が崩れた。


「今!」


悠真は踏み込んだ。


一閃。


魔物が地面へ落ちる。


静寂が来た。


英雄百人より


しばらく、誰も動かなかった。


荒い呼吸だけが聞こえる。


やがて村長が柵の向こうを見た。


「……逃げていく」


残った魔物たちは森へ戻っていた。


追う必要はない。


村から離れればいい。


ミレナがその場に座り込んだ。


「もう無理……」


「大丈夫?」


「魔力、空っぽ」


「小さいの七発って言ってなかった?」


「最後の二発は気合い」


「魔法って気合いで増えるの?」


「増えない。だから今、死ぬほど頭痛い」


「トーマ!」


「呼んだ!?」


遠くから返事が飛んだ。


カイルもいる。


トーマもいる。


ミレナも、セレスも。


全員、生きている。


悠真は剣を下ろした。


『三十点だな』


ガルディオが言った。


「低っ!」


思わず声が出る。


セレスが振り向く。


「どうしたの?」


「ガルディオに三十点って言われた」


「高すぎない?」


「もっと低いの!?」


頭の中で英雄たちが笑った。


『撤退判断が遅い』


『魔術師の配置も甘い』


『窯を使った判断は悪くない』


『それは剣士の案だ』


前なら、全部聞いた。


百点になるまで。


正しい答えを覚えるまで。


でも今日は。


「じゃあ、次に直すよ」


それだけだった。


『……悠真』


「何?」


『それでいいのか?』


悠真は仲間を見る。


泥だらけのセレス。


地面に座り込んだミレナ。


トーマに座らされているカイル。


一緒に薪を動かした村人たち。


「うん」


三十点でもいい。


「全員、生きてるから」


ガルディオは黙った。


代わりにゼルが笑う。


『いい授業だったね』


「先生、休みだったんじゃないの?」


『だから見学』


「ずるい」


『先生だからね』


「意味分かんない」


悠真も笑った。


百人の英雄から教わった。


剣。


魔法。


戦術。


勝ち方。


でも、一番知らなかった。


隣にいる人間へ、


「どう思う?」


と聞くこと。


一緒に間違えること。


そして、間違えたら一緒に直すこと。


百人の英雄から教わった俺が。


一番知らなかったのは。


仲間との戦い方だった。


戦いのあと


村へ戻る途中。


「悠真」


セレスが呼んだ。


「なに?」


「腕」


「え?」


見ると、袖が裂けていた。


その下に細い傷が走り、血が滲んでいる。


「これくらい平気」


「痛くないの?」


「全然」


即答した。


セレスが傷の横を指で押した。


「いったぁぁぁ!」


「……全然?」


「今のは反則!」


「格好つけた?」


「つけてない」


「私に?」


悠真は口を開いた。


閉じた。


「……違う」


「じゃあ誰に?」


答えられない。


セレスが笑った。


その笑顔を見た瞬間。


さっきまで魔物に囲まれていたときより、心臓がうるさくなった。


「帰ったらトーマに診てもらって」


「うん」


「ちゃんと頼って」


セレスは少しだけ間を置いた。


「私にも、ね」


先に歩いていく。


悠真は、その背中を見つめた。


魔物との戦いは終わった。


なのに。


悠真の心臓だけは。


まだ戦闘中だった。


第37話 完


次回 第8話(通算38話)


「セレスにだけは、格好つけたい」


激戦の翌朝。


傷だらけの悠真は、それでも「平気」と言い張る。


「痛い?」


「全然」


傷口を押される。


「いったぁぁぁ!」


「全然?」


「……ちょっとだけ」


魔物には勝てた。


でも、セレスの前ではどうしても格好つけたい。


そして彼女は、悠真の包帯を結びながら言う。


「次はちゃんと頼って。私には、ね」


戦闘より厄介な何かが、始まりかけていた。



この物語の続き・ほかの連載はnotehttps://note.com/momokun1


作品情報・連載案内はMomokun Officialhttps://momokun.jp/

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