↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/82

第1話/通算31話「英雄なんて、来なくていい」

第4部「英雄のいない村編」

英雄に教われば、正しい答えが見つかる。


悠真は、ずっとそう思っていた。


剣の振り方も。

魔物の倒し方も。

仲間を守る方法も。


百人の英雄たちは、いつだって悠真より多くの答えを知っていた。


けれど。


英雄の答えが、誰かを傷つけるとしたら?


百一人目の勇者という、新たな謎を残したまま学院へ戻った悠真。


そんな彼に与えられたのは、初めての学院外実地任務だった。


向かうのは、北方の小さな村《レムナ村》。


魔物を倒し、村を守る。


ただそれだけの、簡単な任務のはずだった。


しかし、そこで悠真を待っていたのは、


「助けてほしい人」ではなかった。


百人の英雄がいても、答えが出ない。


教科書にもない。


正解すら、あるのか分からない。


なら。


悠真は初めて、英雄たちの答えではなく、


自分と、今を生きる仲間たちの答えを探し始める。


英雄に教わる少年から。


英雄の答えを疑える少年へ。


そして、


英雄にはない答えを、仲間と作れる少年へ。


第4部。


「英雄のいない村編」


ここから始まるのは、


英雄がいれば人は救えるのか。


その「当たり前」を疑う物語です。

初めての学院外任務は、魔物を倒すだけの簡単な仕事だった。


少なくとも、村に着くまでは。


百一人目の勇者。


百一人で王都を出て、百人だけが英雄になった。


名前を消された、一人。


王立史料院から学院へ戻って三日経っても、その数字は悠真の頭から離れなかった。


「また考えてる」


廊下を歩きながら、セレスが横目で見る。


「考えてない」


「嘘」


「即答だな」


「顔に書いてあるもの」


悠真は苦笑した。


少し前なら、百英雄を問い詰めていただろう。


どうして教えてくれない。


何を隠している。


答えをくれ、と。


今は違う。


話せないなら、自分で調べる。


書かれた答えがおかしいなら、疑う。


そのくらいは、できるようになった。


「でも今日は、その顔やめたほうがいいわよ」


「なんで?」


「初任務で教官に『帰りたいです』って顔してる」


「そこまで書いてある!?」


セレスが少し笑った。


その直後、二人は任務掲示室へ呼ばれた。


◆ 初めての学院外任務


「北方の《レムナ村》で魔物が増えている」


担当教官が地図を指した。


王都から馬車で二日。


山と森に囲まれた、小さな農村。


確認されているのは灰牙狼と小型の角猪。上位個体はいない。


悠真は思わず聞いた。


「……それだけですか?」


教官の眉が動く。


「初任務に竜を出してほしいか?」


「遠慮します」


隣でセレスがため息をついた。


今回派遣されるのは五人。


悠真、セレス、剣士のカイル、魔術師のミレナ、治癒術師のトーマ。


戦力だけを見れば十分だった。


灰牙狼の群れ程度なら、学院で何度も対処法を習っている。


「勘違いするな」


教官が言う。


「任務は魔物を倒して終わりじゃない。現地で情報を集め、住民と連携し、被害を確認し、必要な対策を残して帰る。そこまでが実地任務だ」


悠真は真面目に頷いた。


「最後に報告書も提出」


「そこだけ急に難度上がってません?」


「上がってない」


ミレナが吹き出した。


セレスは呆れた顔をしている。


教官は五人を見回した。


「村を守ってこい」


その言葉に、悠真の胸が少し熱くなる。


村を守る。


人を助ける。


勇者を目指した日から、何度も聞いてきた言葉だ。


百英雄たちも教えてくれた。


力は、人を守るために使え。


だから今回も、難しくないと思った。


魔物がいる。


村人が困っている。


自分たちが行く。


倒す。


助ける。


それでいい。


この時の悠真は、本気でそう思っていた。


◆ 英雄百人、遠足気分


出発の朝から、百英雄はうるさかった。


「北方なら干し肉がうまいぞ!」


「任務だって言ってるだろ!」


「蜂蜜酒もあったな」


「学生に酒を勧めるな!」


ゼルが楽しそうに笑う。


「初めてのおつかいだね」


「誰が子どもだ」


「迷子にならないように」


「村まで一本道だよ!」


「迷子って、道だけの話じゃないからね」


「急に意味深になるのやめてくれる!?」


その横でガルディオが腕を組んだ。


「気を抜くな」


「分かってる」


「村に入る前に地形を見ろ。魔物の痕跡だけじゃない。家畜の怯え方、森の静けさ、鳥の飛び方まで見ろ」


悠真は少し笑った。


「やっぱり先生だな」


「なんだ、その言い方は」


「なんか安心する」


「気持ち悪いこと言うな」


「ひどくない!?」


いつもの百英雄。


隣にはセレスたちがいる。


任務難度も低い。


これ以上ない初任務のはずだった。


◆ 《レムナ村》


二日後。


「見えたぞ」


御者の声で、悠真は馬車から身を乗り出した。


谷間に三十軒ほどの家。


その向こうに畑。


さらに奥には深い森。


穏やかな村に見える。


けれど、近づくほど違和感が増した。


子どもの声がしない。


家畜の鳴き声も少ない。


畑に人はいるのに、誰もこちらを見ようとしない。


「静かすぎない?」


カイルが言った。


悠真も同じことを思っていた。


馬車が村の入口で止まる。


五人は学院の外套を羽織り、荷物を下ろした。


胸元には王立勇者学院の学院章。


普通なら、誰か迎えに来るはずだった。


誰も来ない。


畑の男と目が合った。


悠真が頭を下げる。


男は顔を背けた。


井戸のそばの女性は、子どもの肩を抱いて家へ入った。


戸が閉まる。


「……歓迎されてない?」


ミレナの声が小さくなる。


セレスは村を見回した。


「歓迎というより、警戒されてる」


その時、村の奥から白髪の老人が歩いてきた。


杖をつき、背は低い。


だが目だけは鋭い。


「村長さんですか?」


悠真が一歩前へ出る。


「王立勇者学院から来ました。周辺の魔物討伐任務を受けています」


老人は学院章を見る。


そして、悠真たち五人を見る。


「帰ってくれ」


悠真は瞬いた。


「……はい?」


聞き間違いだと思った。


「帰ってくれ」


二度目は、はっきり聞こえた。


「魔物が出てるんですよね?」


「ああ」


「家畜も襲われたって」


「ああ」


「だから俺たちが来ました」


老人の表情は変わらない。


「必要ない」


「でも」


「自分たちで何とかする」


悠真は思わず言った。


「危険ですよ」


その瞬間。


老人の目に、初めて感情が浮かんだ。


怒り。


いや。


もっと深い何かだった。


「危険?」


低い声。


「お前たちに、何が分かる」


周囲の家から村人たちが姿を見せ始めた。


近づいてはこない。


ただ、こちらを見ている。


冷たい目で。


「村長」


別の老人が現れた。


右足を引きずっている。


「そいつら、何だ」


「学院から来たそうだ」


「学院?」


男の視線が学院章で止まる。


顔から血の気が引き、それがすぐ憎悪に変わった。


「勇者か」


「いや、まだ学生です」


悠真は答えた。


「勇者を目指してはいますけど」


男が乾いた声で笑った。


「そうか。じゃあ、なおさら帰れ」


「でも魔物が――」


「魔物なら俺たちで何とかする」


カイルが眉を寄せる。


「灰牙狼が群れで出てるんだろ。村の人だけじゃ危険だ」


セレスがすぐに横を見る。


「カイル」


だが遅かった。


老人の顔が歪む。


「そうやって言うんだ」


悠真の背後で、百英雄が静かになった。


「昔もそうだった」


ざわめきが消える。


「俺たちは勇者だ」


老人は誰かの言葉をなぞるように続ける。


「俺たちなら助けられる。任せろ」


悠真の胸がざわつく。


百英雄の誰も何も言わない。


ガルディオも。


ゼルさえも。


老人は吐き捨てた。


「そして、全部壊していった」


「……何を?」


答えはなかった。


村長が杖を地面につく。


乾いた音が響いた。


「宿は貸さん。食事も出さん。今日のところは帰れ」


悠真は食い下がった。


「俺たちは助けに来たんです」


言った瞬間。


その言葉が、ひどく軽く聞こえた。


助けに来た。


正しいはずの言葉。


間違っているはずがない言葉。


なのに。


村人たちは誰一人、安心していない。


むしろ、怯えている者までいる。


「理由だけでも教えてください」


村長は黙る。


「俺たちが何かしたなら――」


右足を引きずる老人が言った。


「お前たちは何もしてない」


「なら、どうして――」


老人の目が、悠真の向こうを見る。


もちろん、彼に百英雄は見えない。


それなのに悠真には、老人が百人を睨んでいるように思えた。


「勇者なんて」


百英雄が息を呑む。


「もう二度と」


怒りなのか。


悲しみなのか。


悠真には分からない。


ただ、その言葉だけが村の入口へ落ちた。


「来なくていい」


悠真は何も言えなかった。


魔物の倒し方なら、百人の英雄が教えてくれる。


剣の振り方も。


魔法への対処も。


戦場で生き残る方法も。


けれど。


助けられることを拒む人を、どう救えばいいのか。


そんなことを教えてくれる英雄は、一人もいなかった。


第31話 完


次回 第32話

「助けに来たのに、嫌われている」


食事もない。


宿もない。


情報ももらえない。


それでも魔物は、確実に村へ近づいている。


「嫌われようが助けりゃいいだろ」


ガルディオの言葉に、悠真は頷きかける。


だが、セレスが静かに問いかけた。


「助けるって、誰が決めるの?」


『勇者学院の落ちこぼれ、死んだ英雄たちにだけ教えてもらえる』の続きはnoteでも公開しています。


note:https://note.com/momokun1

Momokun Official:https://momokun.jp/

『勇者学院の落ちこぼれ、死んだ英雄たちにだけ教えてもらえる』の続きはnoteでも公開しています。

note:https://note.com/momokun1

Momokun Official:https://momokun.jp/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。