第2話 先生が百人いると授業にならない
前書き
もし、誰からも「才能がない」と言われた少年の先生が、歴史に名を残した最強の英雄たちだったら。
この物語は、そんな逆転から始まります。
主人公・神谷悠真は十五歳。
勇者を育てる名門・勇者学院で待っていたのは、輝かしい才能の開花ではありませんでした。
魔力量は最低。
剣術適性も最低。
魔法適性なし。
そして与えられた職業は、まさかの、
《無職》
周囲から笑われ、落ちこぼれの烙印を押された悠真。
けれど、彼には誰にも知られていない力がありました。
死者の姿を見ることができる。
その力に導かれて学院地下の《英雄墓廟》へ足を踏み入れた夜、悠真の人生は一変します。
そこで待っていたのは、剣聖、大魔導師、聖女、暗殺王、竜騎士、そして歴代の勇者たち。
その数、なんと百人。
「才能がない?」
「なら、俺たちが教えればいい」
こうして学院最弱の少年は、死んだ英雄たちだけが知る技、知識、経験、そして彼ら自身の失敗まで受け継ぎながら、少しずつ成長していきます。
ただし。
先生が百人もいれば、授業がまともに進むはずもありません。
「まず剣だ!」
「魔法でしょう!」
「逃げ方を覚えろ」
「健康管理が先です」
「龍を捕まえに行くぞ!」
最強なのに、全員ちょっと面倒くさい。
そんな英雄たちに振り回されながら、悠真は学院生活を送り、仲間と出会い、友情を育て、やがて一人の少女へ特別な想いを抱いていきます。
けれど、この物語には一つだけ、大きな秘密があります。
百人の英雄の中に。
決して英雄と呼んではならない者が、一人だけ混じっている。
その正体を、悠真はまだ知りません。
これは、生まれながらの天才が無双する物語ではありません。
何も持たなかった少年が、昨日できなかったことを今日一つできるようになり、何度も負け、迷いながら、自分だけの強さを見つけていく物語です。
最弱の少年と、最強の死者百人。
そして、英雄たちさえ恐れる百一人目の存在。
悠真が強くなるほど、千年前に葬られた秘密もまた目を覚ましていく。
それでは、
『勇者学院の落ちこぼれ、死んだ英雄たちにだけ教えてもらえる』
〜最弱の俺の先生は、歴代最強の勇者百人でした〜
落ちこぼれ少年の、とんでもなく騒がしい英雄授業をお楽しみください。
第1部 英雄墓廟編
第2話 先生が百人いると授業にならない
サブタイトル
最強の先生が百人いても、全員が同時に教えたらただの地獄だった。
「俺たち百人が、お前の先生だ」
剣聖ガルディオは。
確かにそう言った。
昨日の夜。
学院地下の《英雄墓廟》。
剣聖。
大魔導師。
聖女。
暗殺王。
竜騎士。
歴代勇者。
教科書でしか見たことのない英雄たち百人が、俺を弟子にすると宣言した。
だから俺は。
当然。
思った。
これで。
強くなれる。
魔力量E。
剣術適性E。
魔法適性なし。
固有スキルなし。
職業《無職》。
学院史上最低。
そんな俺でも。
百人の英雄から教えてもらえるなら。
もしかしたら。
本当に。
何かになれるかもしれない。
そんな。
夢みたいなことを。
少しだけ。
信じた。
そして。
翌日の夜。
俺は理解した。
先生が百人いる。
それは。
必ずしも。
恵まれた環境ではない。
「まず剣だ!」
「魔法でしょう!」
「体力づくりが先です!」
「毒耐性から始めろ」
「礼儀作法だ!」
「龍を捕まえに行くぞ!」
「待て待て待て!」
俺は。
両手を上げた。
「一人ずつ喋れ!」
百人。
一斉に。
黙る。
三秒。
そして。
「では私から」
「いや俺だ!」
「私です!」
「剣!」
「魔法!」
「筋肉!」
「毒!」
「龍!」
「だから!」
俺は叫んだ。
「授業が一ミリも進んでない!」
1 死人百人、教育方針で揉める
《英雄墓廟》。
昨日は。
神秘的に見えた。
青白い光。
百基の墓。
歴史に名を残した英雄たち。
今日は。
職員会議に失敗した学校だった。
「剣術が最優先だ!」
剣聖ガルディオ。
腕。
組む。
「この小僧は剣の握り方すら知らん!」
「だから面白いのでしょう?」
大魔導師エレノア。
紫の髪。
笑う。
「魔法適性がない人間へ魔法を教える。これほど研究価値の高い素材はありません」
俺。
「素材って言った?」
「気のせいよ」
「絶対言ったよね?」
聖女リリア。
割って入る。
「その前に健康管理です」
「健康?」
「はい」
「俺、元気だけど」
リリア。
俺を見る。
頭。
肩。
胸。
脚。
「体力不足」
「はい」
「筋力不足」
「はい」
「柔軟性不足」
「……はい」
「睡眠不足」
「昨日ここに呼ばれたせいだけど?」
リリア。
無視。
「食生活も確認します」
「母親みたいになってきた」
暗殺王クロウ。
柱の影。
「全部不要だ」
全員。
見る。
黒衣。
腕。
組む。
「最初に覚えるべきことは」
一拍。
「逃げ方」
ガルディオ。
「勇者候補へ逃げ方を教える馬鹿がいるか!」
クロウ。
「死んだ英雄が言うと説得力があるな」
「何だと!」
「勝てない敵と戦って死んだ奴が何人いる?」
百人。
少し。
目。
逸らす。
俺。
「結構いるんだ……」
竜騎士ヴァルガ。
突然。
「龍だ」
俺。
「何が?」
「龍を捕まえる」
「話聞いてた?」
「最高の修行になる」
「死ぬよ!」
「安心しろ」
「何が?」
「龍に食われれば、一瞬だ」
「安心要素ゼロ!」
英雄たち。
笑う。
俺。
頭。
抱える。
昨日まで。
憧れ。
今日。
うるさい親戚。
この落差。
激しすぎる。
2 最弱には、最弱の悩みがある
「そもそも」
俺は。
全員を見る。
「俺って、本当に強くなれるの?」
空気。
少し。
変わった。
「だって」
自分。
見る。
「魔力E」
「……」
「剣術E」
「……」
「魔法適性なし」
「……」
「職業無職」
ガルディオ。
「最後だけ言い方が悲しいな」
「悲しいんだよ!」
笑い。
少し。
でも。
俺は。
笑えなかった。
昼。
学院。
また。
笑われた。
廊下。
教室。
食堂。
「あいつ無職だろ?」
「何で学院残ってるんだ?」
「異世界人ってだけで推薦か」
全部。
聞こえた。
聞こえないふり。
した。
でも。
消えない。
「俺」
声。
少し。
小さくなる。
「向いてないんじゃない?」
誰も。
すぐ。
答えなかった。
最初に。
口。
開いたのは。
意外にも。
クロウ。
「向いてない」
「早い!」
「剣聖にも」
ガルディオ。
「おい」
「魔導師にも」
エレノア。
笑う。
「でしょうね」
「勇者にも」
「……」
「現時点ではな」
俺。
肩。
落ちる。
「そこまで言う?」
クロウ。
続ける。
「だから」
「?」
「今から決める」
「何を?」
「何に向いているか」
俺。
見る。
クロウ。
静か。
「生まれつき向いてる仕事だけで人生が決まるなら」
「……」
「修行なんて言葉は存在しない」
ガルディオ。
鼻。
鳴らす。
「珍しく良いこと言うじゃねえか」
「珍しくは余計だ」
エレノア。
俺へ。
近づく。
「悠真」
初めて。
名前。
呼ばれた。
「はい」
「あなたには」
「……」
「何もない」
「ひどい」
「最後まで聞きなさい」
笑う。
「だから」
指。
立てる。
「何にでもなれる可能性が残っている」
昨日。
ガルディオも。
似たこと。
言った。
空。
まだ。
空っぽ。
空っぽだから。
入る。
俺。
少し。
息。
吐く。
「……じゃあ」
百人。
見る。
「お願いします」
頭。
下げる。
「俺を」
言う。
「鍛えてください」
ガルディオ。
にや。
笑う。
「言ったな」
嫌な。
予感。
「え?」
「取り消すなよ」
「え?」
3 剣聖の授業は説明が足りない
五分後。
俺は。
床に転がっていた。
「痛っっっ!」
「立て!」
ガルディオ。
木剣。
持つ。
どこから出した。
幽霊なのに。
「待って!」
「敵は待たん!」
「先生は待って!」
「立て!」
「説明!」
「立て!」
俺。
立つ。
木剣。
構える。
「構えが違う」
「どこが!?」
「全部」
「便利な言葉使うな!」
ガルディオ。
ため息。
俺の腕。
直す。
「右足」
「はい」
「半歩前」
「はい」
「肩の力抜け」
「抜いてる」
「抜けてない」
「どうやって?」
「抜け」
「それが分からない!」
後ろ。
百英雄。
見学。
「腰が高い」
「重心」
「握りすぎ」
「左肘」
「呼吸」
「瞬きが多い」
「昨日パン食べ過ぎ」
俺。
振り返る。
「最後誰だ!」
リリア。
手。
上げる。
「私です」
「剣と関係ない!」
「健康はすべてに関係します」
強い。
理論。
ガルディオ。
「こっち見ろ!」
木剣。
飛ぶ。
俺。
反射。
避ける。
ぶん。
「うわっ!」
「今のだ」
「何が!?」
「避けた」
「そりゃ怖いから!」
「それでいい」
俺。
固まる。
「え?」
ガルディオ。
剣。
下げる。
「怖いから避ける」
「……」
「痛いから守る」
「……」
「死にたくないから動く」
胸。
指す。
「最初はそれでいい」
俺。
少し。
意外。
もっと。
勇気。
根性。
気合。
言うタイプだと思った。
「剣術って」
ガルディオ。
続ける。
「格好良く剣を振る技術じゃねえ」
「……」
「生き残るための技術だ」
クロウ。
後ろ。
「珍しく正しい」
ガルディオ。
「喧嘩売ってんのか?」
「事実だ」
また。
始まる。
「そこ!」
俺。
指す。
「授業中に喧嘩しない!」
百人。
俺を見る。
あれ?
何で。
俺が先生みたいになってる?
4 一日一教師制
一時間後。
俺。
限界。
床。
大の字。
「もう……無理」
ガルディオ。
「まだ一時間だぞ」
「高校の部活でも初日からここまでやらない!」
エレノア。
「では次は私ね」
俺。
飛び起きる。
「今日は終わり!」
「まだ魔法を」
「無理!」
リリア。
「治療なら」
「今日はもう何も教えないで!」
ヴァルガ。
「龍」
「帰れ!」
「もう死んでいる」
「そういう意味じゃない!」
俺は。
座る。
考える。
このまま。
百人。
全員。
好き勝手。
教える。
俺。
死ぬ。
いや。
死んだら。
百一人になる。
墓。
足りる?
……そうじゃない。
「ルール作ろう」
英雄たち。
「ルール?」
「うん」
俺。
指。
一本。
「一日一人」
ざわ。
「一日一教師制」
ガルディオ。
眉。
寄せる。
「少なすぎる」
「百人同時が多すぎるんだよ!」
エレノア。
「効率が悪いわ」
「効率以前に俺の脳が爆発する!」
クロウ。
「合理的だ」
俺。
「ありがとう」
クロウ。
「ただし暗殺訓練日は三日」
「一日!」
リリア。
「健康診断は毎日」
「先生扱いじゃなく生活指導になってる!」
結局。
かなり。
揉めた。
でも。
最終。
決定。
一日一人。
ただし。
他の英雄は。
口を出さない。
これ。
重要。
「いい?」
全員。
「……」
「返事!」
百人。
不満そうに。
「はい」
俺。
「よし」
ガルディオ。
小声。
「何で俺たちが怒られてるんだ」
俺も。
分からない。
5 朝は普通の落ちこぼれ
翌朝。
身体。
痛い。
全部。
痛い。
ベッド。
起きる。
「う……」
隣。
トーマ。
寝台。
見る。
「何だその動き」
「昨日運動した」
「何した?」
「秘密」
「怪しい」
「秘密」
英雄百人と修行。
言えるわけない。
というか。
言って。
信じる?
『昨日、地下墓地で千年前の剣聖に殴られた』
確実。
医務室。
案件。
食堂。
歩く。
太腿。
痛い。
肩。
痛い。
腕。
痛い。
階段。
地獄。
「悠真?」
声。
俺。
止まる。
セレス。
階段。
下。
今日も。
綺麗。
金髪。
青い瞳。
制服。
完璧。
俺。
姿勢。
正す。
身体。
悲鳴。
「……おはよう」
「おはよう」
セレス。
俺を見る。
「どうしたの?」
「何が?」
「動き」
「普通」
一歩。
ぎこちない。
「……普通?」
「かなり」
「怪我?」
「筋肉痛」
「なぜ?」
「昨日」
言葉。
止まる。
「自主練」
セレス。
少し。
驚く。
「あなたが?」
刺さる。
「俺が自主練したら変?」
「あ」
セレス。
少し。
慌てる。
「そういう意味では」
「分かってる」
俺。
笑う。
セレス。
少し。
申し訳なさそう。
「何の練習?」
「剣」
「一人で?」
「……まあ」
嘘。
では。
ない。
先生百人。
いるけど。
生きてる人間は。
俺一人。
「変な癖がつくと危険よ」
「癖」
昨日。
ガルディオ。
何度も。
言った。
俺には。
癖がない。
それが。
良いらしい。
「じゃあ」
俺。
言う。
「今日の授業で見てくれる?」
セレス。
目。
少し。
開く。
「私が?」
「うん」
「どうして?」
「首席だから」
「……」
「駄目?」
少し。
間。
「いいわ」
セレス。
前。
歩く。
「ただし」
振り返る。
「厳しく見るわよ」
笑う。
俺。
心臓。
妙な。
動き。
「……はい」
「なぜ敬語なの?」
「分かりません」
セレス。
笑う。
昨日と。
同じ。
俺。
少し。
嬉しくなる。
6 昨日まで避けられなかった剣
午前。
剣術授業。
教官。
二人一組。
組ませる。
俺。
相手。
大柄。
昨日の試験。
俺を。
二秒で倒した。
生徒。
バルト。
「またお前か」
「こちらこそ」
「今度は一秒で終わらせてやる」
「記録更新の方向が逆だろ」
周囲。
笑う。
バルト。
むっ。
教官。
「構え!」
俺。
木剣。
握る。
昨日。
ガルディオ。
言葉。
思い出す。
肩。
力。
抜く。
右足。
半歩。
剣。
握りすぎない。
怖い。
普通に。
怖い。
でも。
昨日。
もっと。
怖かった。
ガルディオの剣。
本気で。
当たる気がした。
「開始!」
バルト。
踏み込む。
速い。
昨日。
何も。
見えなかった。
今日。
少し。
見えた。
肩。
動く。
右足。
踏む。
剣。
斜め。
来る。
俺。
避ける。
一歩。
横。
ぶん。
木剣。
鼻先。
通る。
「……え?」
俺。
自分。
驚く。
バルトも。
驚く。
教官。
眉。
上げる。
セレス。
離れた場所。
見る。
目。
変わる。
バルト。
「今のは偶然だ!」
また。
攻撃。
俺。
今度。
遅い。
肩。
食らう。
「痛っ!」
転ぶ。
周囲。
笑う。
でも。
俺。
地面。
笑った。
「……避けた」
一回。
だけ。
たった。
一回。
でも。
昨日。
できなかった。
「何笑ってんだ」
バルト。
苛立つ。
俺。
立つ。
「嬉しいから」
「負けてるぞ」
「知ってる」
俺。
構える。
「でも」
笑う。
「昨日より、一秒長く立ってる」
教官。
少し。
目。
細める。
「続けろ」
バルト。
攻める。
俺。
避ける。
当たる。
転ぶ。
また。
立つ。
十回。
十一回。
十二。
勝てない。
全然。
でも。
確かに。
昨日とは。
違う。
最後。
木剣。
飛ばされ。
終了。
「勝者、バルト!」
周囲。
拍手。
バルト。
息。
荒い。
「何なんだよ、お前」
俺。
地面。
座る。
「無職」
「知ってるよ!」
少し。
笑った。
7 セレスだけが気づいた
授業。
終わる。
俺。
水。
飲む。
背後。
「悠真」
名前。
呼ばれる。
振り返る。
セレス。
立っている。
「何?」
「昨日」
「うん」
「剣術試験」
「うん」
「あなたは」
少し。
考える。
「相手が動いたことすら、ほとんど見えていなかった」
「ひどい」
「事実よ」
「はい」
「でも今日は」
青い瞳。
俺。
見る。
「二回」
「え?」
「最初と」
「……」
「四撃目」
「数えてた?」
「見ていたから」
心臓。
少し。
速い。
「ちゃんと避けた」
「……うん」
「どうやったの?」
質問。
来た。
困る。
『千年前の剣聖に教わりました』
言えない。
「自主練」
「一晩で?」
「頑張った」
セレス。
疑う。
「誰かに教わった?」
俺。
止まる。
ちょうど。
その時。
後ろ。
声。
『女に隠し事する男は嫌われるぞ』
ガルディオ。
俺。
振り返りそうになる。
待て。
何でいる?
今。
昼。
『墓から少しなら出られる』
先に言え!
セレス。
「どうしたの?」
「何でもない」
ガルディオ。
『言え! 俺だ! 剣聖ガルディオだ!』
俺。
心。
『絶対言えない!』
『何でだ! 名誉だぞ!』
『幽霊見えるって言ったら俺が怖い人になる!』
『幽霊じゃなく英雄だ!』
俺。
顔。
変だったらしい。
セレス。
少し。
近づく。
「本当に大丈夫?」
近い。
青い瞳。
顔。
綺麗。
俺。
後ろ。
下がる。
「大丈夫!」
声。
裏返る。
セレス。
「……そう」
ガルディオ。
『情けねえ』
俺。
『黙れ!』
「え?」
セレス。
俺。
固まる。
「……自分に」
「自分に黙れって言ったの?」
「心の整理」
セレス。
しばらく。
俺を見る。
そして。
小さく。
笑った。
「やっぱり変な人」
去る。
俺。
顔。
覆う。
「終わった」
ガルディオ。
横。
「始まってもねえよ」
「恋愛方面の先生変えたい」
「俺は剣術担当だ!」
「なら口出すな!」
8 初めて褒められた
夜。
英雄墓廟。
俺。
ガルディオの前。
立つ。
「昨日より」
ガルディオ。
言う。
「少しマシだった」
「本当?」
「ああ」
嬉しい。
でも。
すぐ。
「ゴミから木屑くらいにはなった」
「褒め方!」
英雄百人。
笑う。
「でも」
ガルディオ。
真面目。
「よく見た」
「何を?」
「相手」
「……」
「昨日のお前は」
剣。
肩。
「自分がどう剣を振るかしか考えてなかった」
「うん」
「今日は」
胸。
指す。
「相手がどう動くかを見た」
俺。
今日。
思い出す。
肩。
足。
剣。
一瞬。
見えた。
「戦いってのは」
ガルディオ。
言う。
「自分の技を披露する場所じゃない」
「……」
「相手を見る場所だ」
クロウ。
後ろ。
「だから逃げ方から」
「黙れ!」
一日一教師制。
早くも。
破られてる。
「でも」
俺。
言う。
「一回避けただけ」
ガルディオ。
「最初は」
「……」
「一回でいい」
木剣。
俺へ。
投げる。
受け取る。
「明日は?」
俺。
聞く。
「明日は俺じゃねえ」
エレノア。
前。
出る。
満面。
笑顔。
「私よ」
嫌な。
予感。
「魔法適性ないけど」
「だから面白いの」
「その笑顔怖い」
エレノア。
俺の肩。
掴む。
「安心なさい」
「何を?」
「死なない程度に試すから」
俺。
ガルディオ。
見る。
「先生変えていい?」
「ルールは守れ」
「急にルール大事にするな!」
百人。
笑う。
また。
うるさい。
でも。
昨日とは。
少し。
違う。
俺も。
笑っていた。
9 名前のない墓
修行。
終わり。
帰ろうとする。
その時。
俺。
足。
止まる。
一番奥。
黒い石碑。
名前。
削られている。
第1話。
そこで。
声。
聞いた。
『やっと見つけた』
あれ。
夢じゃない。
「ガルディオ」
「何だ」
俺。
黒い墓。
指す。
「昨日」
英雄たち。
一斉。
静か。
分かりやすい。
「ここから」
「……」
「声が聞こえた」
ガルディオ。
表情。
変わる。
「何て?」
「やっと見つけた」
エレノア。
笑み。
消える。
リリア。
胸。
手。
クロウ。
影。
目。
細くなる。
「誰なの?」
俺。
聞く。
ガルディオ。
答えない。
「百人いるんだよね?」
「……ああ」
「墓も百?」
「……」
「じゃあ」
黒い石碑。
見る。
「これは何?」
沈黙。
長い。
ガルディオ。
やっと。
口。
開く。
「悠真」
「うん」
「そこには」
次。
言葉。
止まる。
その瞬間。
黒い墓。
赤い光。
一瞬。
「!」
俺。
近づく。
「待て!」
ガルディオ。
叫ぶ。
でも。
遅い。
俺の指。
石碑。
触れる。
冷たい。
次の瞬間。
世界。
暗転。
10 百一人目の声
「……ここ」
暗い。
英雄墓廟。
じゃない。
真っ黒。
何も。
ない。
俺。
一人。
「ガルディオ?」
返事。
ない。
「エレノア?」
ない。
「誰か!」
その時。
声。
背後。
『悠真』
俺。
固まる。
名前。
呼ばれた。
それも。
知らない声。
でも。
なぜか。
怖くない。
穏やか。
静か。
振り返る。
遠く。
一人。
男。
黒髪。
細身。
青年。
顔。
よく。
見えない。
「誰?」
男。
少し。
笑う。
『今は』
一歩。
近づく。
『まだ知らなくていい』
「意味分からない」
『そうだね』
また。
一歩。
「英雄?」
男。
止まる。
その質問。
少し。
面白そう。
笑った。
『昔は』
一拍。
『そう呼んでくれた人もいたよ』
俺。
言葉。
詰まる。
「名前は?」
男。
答えようと。
口。
開く。
その瞬間。
遠く。
ガルディオの声。
『悠真!』
世界。
揺れる。
男。
消えかける。
「待って!」
俺。
手。
伸ばす。
男。
最後。
俺を見る。
『また会おう』
「誰なんだよ!」
答え。
返る。
短い。
名前。
一つ。
『ゼル』
世界。
白。
弾ける。
目。
開く。
英雄墓廟。
床。
俺。
倒れている。
ガルディオ。
エレノア。
リリア。
クロウ。
百人。
囲んでる。
「悠真!」
「大丈夫!?」
「聞こえる?」
俺。
起きる。
「ゼル」
全員。
止まる。
空気。
凍る。
「……誰?」
俺。
聞く。
「ゼルって」
ガルディオ。
顔。
初めて。
見た。
恐怖。
剣聖。
千年前。
魔神。
倒した男。
その。
顔から。
血の気が。
消えている。
「悠真」
低い。
声。
「その名前を」
「……」
「どこで聞いた」
俺。
黒い墓。
見る。
「そこ」
ガルディオ。
大剣。
抜く。
エレノア。
杖。
構える。
クロウ。
消える。
他の英雄。
一斉。
武器。
出す。
「何!?」
俺。
驚く。
「何なんだよ!」
ガルディオ。
俺を。
背中。
隠す。
「今日から」
「……」
「その墓には近づくな」
「何で?」
「理由は」
一瞬。
迷う。
「まだ言えん」
「またそれ?」
「悠真」
声。
強い。
「あいつだけは、先生にするな」
俺。
息。
止まる。
「先生?」
誰も。
答えない。
でも。
その言葉。
意味。
分かった。
百人。
先生。
そして。
黒い墓。
一人。
ゼル。
もし。
あそこにも。
死者がいるなら。
百人じゃない。
百一人。
俺が。
黒い墓を見る。
その奥。
誰にも聞こえないほど。
小さく。
声。
した。
『残念』
一拍。
笑う。
『僕はもう、君を弟子にするつもりなんだけどね』
俺だけ。
その声を。
聞いた。
第1部 第2話 完
次回 第3話
首席令嬢は落ちこぼれが気になる
サブタイトル
昨日まで何もできなかった少年が、毎日少しずつ変わっていく。その違和感に、天才少女だけが気づいた。
魔力E。
剣術E。
職業《無職》。
それでも。
昨日できなかったことが。
今日。
一つだけ。
できるようになる。
セレスは。
その小さな変化を。
見逃さない。
そして。
昼食。
偶然。
二人きり。
背後には。
もちろん。
恋愛経験が怪しい英雄たち百人。
『褒めろ!』
『髪よ!』
『瞳だ!』
『黙れ。それが最適解だ』
百人の最強教師に。
恋愛指導まで任せた結果。
神谷悠真は。
人生で初めて。
理解する。
戦闘より、女の子との会話の方が難しい。
そして。
その二人を。
黒い墓の男。
ゼルが。
静かに。
見つめていた。




