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1/25

第1話 学院史上最低の勇者候補

勇者を育てる名門「王立勇者学院」。

そこで最低評価を受ける落ちこぼれの少年には、誰にも言えない秘密があった。


彼にだけ、死んだ英雄たちの姿が見える。


剣聖、賢者、大魔導師、聖女、軍師。歴代最強と呼ばれた百人の英雄から教えを受け、最弱だった少年は仲間との友情や恋、冒険を通して成長していく。


しかし、百人の中には一人だけ「英雄ではない者」が紛れていた。


その正体は、かつて世界を滅亡寸前まで追い込んだ初代魔王。


なぜ英雄たちは少年を選んだのか。

そして、魔王の本当の目的とは。


これは落ちこぼれの少年が、百一人目の英雄を目指す物語。

サブタイトル


異世界まで来て《無職》だった俺を、百人の死者だけが「才能がある」と笑った。


異世界へ転移したら。


普通は。


剣聖。


大魔導師。


勇者。


最低でも。


何か一つくらい。


格好いい職業をもらえるものだと思っていた。


少なくとも。


《無職》


だけは。


ないと思っていた。


「神谷悠真」


試験官が。


震える声で俺の名前を呼んだ。


「はい」


巨大な水晶板。


その中央。


白い文字。


《神谷悠真》


《魔力量:E》


《剣術適性:E》


《魔法適性:なし》


《固有スキル:なし》


ここまでは。


まあ。


予想していた。


問題は。


最後。


《職業》


少し。


間。


そして。


《無職》


大講堂。


静寂。


一秒。


二秒。


三秒。


そして。


爆発した。


「ぶはっ!」


誰かが吹いた。


そこから。


笑いが広がる。


「無職!?」


「勇者学院に!?」


「そんな職業あるのかよ!」


「異世界人なんだろ!?」


「転移者って、特別な力を持ってるんじゃなかったのか?」


俺は。


水晶板を見上げた。


もう一回。


《無職》


変わらない。


「……異世界まで来て無職って何だよ」


人生。


なかなか。


攻めた展開をしてくる。


こうして。


俺。


神谷悠真、十五歳。


日本では高校入学直前だった普通の少年は。


異世界アルカディアで。


学院史上最低の勇者候補


として。


華々しく。


いや。


かなり地味に。


勇者への第一歩を踏み出した。


1 異世界転移は、思っていたより親切だった


話は。


三週間前に戻る。


その日の俺は。


普通に死ぬ予定だった。


……いや。


予定していたわけじゃない。


普通に事故に遭っただけだ。


高校入学を目前にした春休み。


コンビニから帰る途中。


道路へ飛び出した子ども。


迫るトラック。


よくある展開。


俺は。


気づいたら走っていた。


子どもを押した。


次の瞬間。


強い衝撃。


音。


そして。


暗闇。


最後に思ったのは。


勇者になりたい。


でも。


異世界へ行きたい。


でもない。


「買ったアイス食べたかったな」


だった。


我ながら。


最期の台詞としては。


かなり弱い。


ところが。


次に目を開けると。


「……ここ、病院?」


知らない天井。


石造り。


木製の梁。


白いカーテン。


窓の外には。


巨大な城。


そして。


空を飛ぶ。


竜。


「……」


俺は。


もう一度。


目を閉じた。


三秒。


開く。


竜。


「閉じても消えないな」


「何がですか?」


声。


横。


白い服を着た女性。


俺は聞いた。


「ここ、日本ですか?」


女性は。


首を傾げた。


「ニホン?」


終わった。


いや。


始まった。


異世界。


本当に。


あるらしい。


事情は。


思っていたより早く分かった。


この世界。


《アルカディア》。


俺が現れたのは。


人間国家。


アストリア王国。


王都郊外。


しかも。


転移者。


この世界では。


何十年かに一度。


別世界の人間が。


突然。


現れるらしい。


過去の転移者には。


英雄もいた。


革命家も。


大魔導師も。


そして。


世界を救った勇者まで。


「つまり」


王国の役人が。


真剣な顔で俺を見る。


「あなたにも、何らかの特殊能力が存在する可能性があります」


来た。


俺は。


心の中で。


少しだけ。


ガッツポーズした。


いや。


分かっている。


トラック。


異世界。


特殊能力。


あまりにも。


王道。


でも。


王道には。


王道の良さがある。


「例えば?」


「炎を自在に操った転移者」


「おお」


「未来を予知した者」


「おお!」


「一人で千人の軍隊を退けた者」


「おおお!」


俺の期待。


膨張。


役人が。


書類を閉じる。


「そこで」


「はい!」


「神谷悠真殿を」


「はい!」


「王立アストリア勇者学院へ推薦します」


勇者学院。


名前からして。


強い。


俺は。


その時。


まだ知らなかった。


異世界転移で。


人生のスタート地点まで。


必ず強くてニューゲームになるとは。


限らないことを。


2 勇者学院


王立アストリア勇者学院。


初めて見た時。


俺は。


本気で。


声が出た。


「でっか……」


城。


いや。


城より大きい。


白い石造りの校舎。


中央には時計塔。


左右に。


訓練場。


魔法塔。


図書館。


学生寮。


さらに。


巨大な競技場。


その奥には。


山。


正確には。


山の一部まで。


学院らしい。


「学校の規模じゃないだろ」


校門。


剣。


杖。


鎧。


制服姿の生徒たち。


みんな。


俺と。


同じくらいの年齢。


でも。


雰囲気が違う。


一目で。


強そう。


というか。


本当に。


武器持ってる。


日本だったら。


朝の持ち物検査で。


全員アウトだ。


「次」


受付。


俺の番。


「名前」


「神谷悠真です」


女性職員が。


紙を見る。


「カミヤ……ユウマ?」


「神谷が名字です」


「珍しい名前ですね」


「異世界人なので」


「ああ」


納得された。


異世界人。


便利な説明だ。


「試験会場は第三訓練棟です」


「ありがとうございます」


紙を受け取る。


その時。


横。


香り。


花。


誰かが。


通り過ぎた。


金色。


だった。


長い髪。


陽光をそのまま糸にしたような。


綺麗な金髪。


制服の上からでも分かる。


細い身体。


腰には。


銀色の剣。


周囲の生徒が。


道を空ける。


「あれ」


誰かが。


小声。


「セレスティア様だ」


「今年の首席確実って」


「《聖剣姫》だろ」


少女。


一瞬。


こちらを見る。


青い瞳。


目が。


合った。


俺。


固まる。


少女も。


ほんの少し。


足を止める。


「……?」


「……」


何か。


言わなければ。


日本人として。


いや。


異世界転移者として。


いや。


十五歳男子として。


何か。


「こんにちは」


普通。


少女は。


少し驚いて。


それから。


軽く笑った。


「こんにちは」


通り過ぎる。


俺。


立ち尽くす。


「……やば」


何が。


やばいのか。


自分でも分からない。


ただ。


この世界へ来て。


初めて。


少し。


ここに来てよかったと思った。


3 魔力測定、最低


そして。


現実が。


始まった。


最初。


魔力測定。


巨大な水晶へ。


手を置く。


周囲。


生徒。


百人近い。


教官。


「魔力を流せ」


「流し方が分かりません」


「感覚で」


一番困る回答。


感覚。


俺は。


目を閉じる。


魔力。


魔力。


魔力。


それっぽいもの。


腹。


胸。


手。


「……」


何も。


ない。


「出ません」


「もう少し集中しろ」


集中。


「……」


水晶。


薄く。


光った。


「お」


俺。


期待。


教官。


表情。


微妙。


「測定値」


補助員。


確認。


「……Eです」


静寂。


「E?」


教官。


「最低値だ」


「ちなみに」


聞きたくない。


でも。


聞く。


「最高は?」


「S」


「遠いな」


その時。


別の水晶。


光。


黄金。


周囲。


歓声。


さっきの。


金髪少女。


セレスティア。


《魔力量:S》


「同じ人間?」


思わず呟く。


隣の生徒。


「アルヴェイン公爵家だぞ」


「家系で魔力決まるの?」


「血統は重要だ」


「異世界人にその説明、結構刺さるよ」


俺。


血統。


完全に。


対象外。


4 剣術試験、もっと最低


次。


剣。


教官が。


木剣を渡す。


「構えろ」


俺は。


持つ。


「……」


教官。


眉。


寄せる。


「それは何だ」


「構えです」


「何流だ」


「体育の授業で一回剣道やった流」


「知らん」


当然。


対戦相手。


大柄。


十五歳。


本当に?


腕。


俺の。


一・五倍。


「開始!」


相手。


踏み込む。


速い。


俺。


木剣。


上げる。


ばきん。


次。


気づいた時。


空。


見ていた。


「……青いな」


「一本!」


周囲。


笑い。


俺。


起きる。


「何秒?」


「二秒」


「意外と持った」


「前向きだな」


いや。


そうでもしないと。


心が死ぬ。


5 魔法試験、何も起きない


火属性。


水属性。


風。


土。


光。


闇。


どれか。


最低一つ。


適性が出るらしい。


教官。


「この標的へ魔法を撃て」


「呪文は?」


「初級魔法なら、適性があれば詠唱補助が働く」


「便利」


俺。


標的へ。


手。


出す。


「……」


何も。


出ない。


「火!」


何も。


「ファイア!」


何も。


「メラ!」


「何だそれは」


「地球の伝統です」


当然。


出ない。


最終判定。


《魔法適性:なし》


「……」


笑えなくなってきた。


異世界へ来た。


特殊能力。


勇者学院。


ここまで。


王道。


なのに。


俺だけ。


何もない。


まるで。


物語から。


俺だけ。


外れているみたいだった。


6 首席令嬢は笑わなかった


そして。


職業鑑定。


冒頭へ。


《無職》


大講堂。


笑い。


「無職!」


「何しに来たんだよ!」


「帰った方がいいんじゃないか?」


笑い声。


さっきまでは。


何とか。


笑い返せた。


でも。


最後の一言だけは。


痛かった。


帰る。


どこへ?


日本?


帰り方なんて。


誰も知らない。


家族。


友達。


学校。


全部。


なくなった。


その代わり。


新しい世界へ来た。


だから。


せめて。


ここでは。


何かになれると思った。


なのに。


無職。


俺は。


拳を握った。


その時。


「笑う必要があるの?」


声。


静か。


笑いが。


止まる。


セレスティア。


だった。


「適性が低いことと」


青い瞳。


周囲。


「人を笑うことに、何の関係があるの?」


誰も。


答えない。


貴族らしい。


怖いくらい。


堂々とした声。


教官。


咳払い。


「次」


鑑定。


再開。


セレスは。


俺を見ない。


ただ。


自分の席へ戻る。


でも。


俺には。


それで。


十分だった。


試験終了。


廊下。


俺は。


追いかけた。


「ちょっと!」


セレス。


振り返る。


「?」


「さっき」


「何?」


「ありがとう」


少女。


少し。


首を傾げる。


「私は何もしていないわ」


「でも」


「笑う理由がなかっただけ」


「……そういうことにしておく」


セレス。


俺を見る。


「カミヤ・ユウマ」


「あ」


ちゃんと。


覚えていた。


「神谷が名字」


「そうだったわね」


一拍。


「では」


青い瞳が。


少し。


柔らかくなる。


「ユウマ、と呼んでも?」


俺。


心臓。


妙な音。


「え」


「嫌?」


「ぜ、全然」


「なぜ敬語なの?」


「分かりません」


セレスが。


ほんの少し。


笑った。


「変な人」


去る。


俺。


しばらく。


動けなかった。


無職。


最低。


魔法なし。


それでも。


今日一日で。


一つだけ。


いいことがあった。


「……ユウマ、か」


名前。


呼ばれただけ。


なのに。


何なんだろうな。


これ。


7 落ちこぼれの夕食


学生寮。


食堂。


パン。


スープ。


肉。


豪華。


でも。


俺の気分。


底。


同じ試験を受けた生徒たち。


あちこち。


盛り上がっている。


「俺は《重剣士》!」


「《炎術師》だった!」


「私は《治癒士》!」


職業。


職業。


職業。


俺。


パン。


かじる。


「無職は?」


隣。


同じ寮の少年。


声。


明るい。


「職業欄、空白なの?」


「《無職》ってちゃんと書いてある」


「律儀だな!」


笑う。


俺も。


笑った。


少し。


救われる。


少年。


名前。


トーマ。


弓使い。


「でもさ」


「ん?」


「学院に入れたんだろ?」


「推薦」


「ならいいじゃん」


「何が?」


「卒業までに何か見つければ」


俺。


止まる。


「……そういうもの?」


「知らん!」


「適当!」


トーマ。


笑う。


「俺だって勇者になるか分からねえし」


「勇者学院なのに?」


「全員が勇者になれるわけないだろ」


その言葉。


当たり前。


でも。


少し。


気が楽になった。


別に。


今日。


全部決まったわけじゃない。


十五歳。


異世界。


人生。


たぶん。


まだ。


始まったばかり。


そう。


思おうとした。


その夜。


俺は。


声を聞いた。


8 死者の声


『……ユウマ』


目。


開く。


寮。


暗い。


「……誰?」


返事。


ない。


夢?


目を閉じる。


『こっちだ』


今度は。


はっきり。


男。


低い声。


俺は。


起きた。


「トーマ?」


隣のベッド。


寝ている。


いびき。


「違う」


また。


『来い』


声。


廊下の。


向こう。


怖い。


普通に。


怖い。


ホラー映画なら。


絶対。


行ってはいけない。


俺は。


布団へ戻った。


「寝よう」


『来い』


「嫌です」


『来い』


「明日早いので」


『来い』


「圧が強い!」


返事。


ない。


結局。


俺は。


制服の上着だけ羽織り。


廊下へ。


出た。


学院。


夜。


昼間とは。


別物。


月。


石床。


窓。


足音。


自分。


一人。


声を。


追う。


階段。


下。


さらに。


地下。


「こんな場所あった?」


立入禁止。


古い扉。


鎖。


でも。


なぜか。


鎖が。


落ちた。


からん。


「……帰ろうかな」


『遅い』


「聞こえてる!?」


扉。


開く。


冷たい。


空気。


階段。


ずっと。


下。


壁には。


名前。


英雄。


勇者。


聖女。


剣聖。


俺でも。


聞いたことのある。


この世界の歴史書に載っている名前。


そして。


地下。


巨大な扉。


紋章。


剣。


翼。


冠。


開いた。


その先。


俺は。


息を。


忘れた。


9 百基の墓


地下。


巨大な空間。


円形。


天井は。


見えない。


青白い光。


そして。


墓。


一。


二。


三。


数えられない。


いや。


数は。


後から分かった。


百。


百基。


すべてに。


名前。


《聖女リリア》


《大魔導師エレノア》


《暗殺王クロウ》


《竜騎士ヴァルガ》


そして。


正面。


巨大な石碑。


《剣聖ガルディオ》


俺。


知っている。


学院の教科書。


英雄史。


千年前から。


現在まで。


世界を救った。


英雄たち。


「ここ……」


喉。


乾く。


「墓?」


その時。


背後。


「正解だ」


俺。


振り返る。


誰も。


いない。


「……」


いや。


いる。


薄い。


人。


半透明。


大男。


巨大な剣。


肩。


傷。


髭。


笑顔。


「うわあああああ!」


俺。


転ぶ。


「幽霊!」


男。


眉。


寄せる。


「英雄に向かって幽霊とは失礼な小僧だな」


「幽霊が喋った!」


「死者だからな」


「認めた!」


別の声。


「うるさいわね」


女。


今度。


横。


若い女性。


紫色の髪。


杖。


その奥。


白い服の聖女。


黒衣の男。


甲冑。


老人。


少女。


次々。


人影。


現れる。


一人。


二人。


十人。


二十。


五十。


そして。


百。


「……」


俺。


声。


出ない。


死者。


百人。


全員。


俺を見ている。


逃げる。


俺は。


扉へ。


走る。


一歩。


男。


目の前。


「落ち着け」


「無理だ!」


「俺はガルディオ」


「誰!?」


「さっき墓読んだろ!」


「あ!」


剣聖。


教科書。


載っていた。


千年前。


魔神を倒した。


英雄。


でも。


「死んでる!」


「そうだ!」


「元気だな!」


「死んでるから疲れねえ!」


理不尽。


俺は。


少し。


呼吸を整える。


そして。


聞いた。


「……なんで」


百人。


見る。


「俺が見える?」


ガルディオ。


笑み。


消える。


少しだけ。


「それを」


「?」


「俺たちも」


一拍。


「千年待っていた」


10 才能がないなら、最高だ


「千年?」


俺。


聞き返す。


ガルディオ。


巨大な剣。


肩へ。


「正確には、俺が一番古い」


「じゃあ」


「後から死んだ連中が、どんどん増えた」


「墓場で入学制度みたいに言うな」


女。


紫髪。


笑う。


「面白い子ね」


「誰?」


「エレノア」


「大魔導師!?」


「元、だけど」


白服の女性。


「私はリリアです」


「聖女?」


「はい」


黒衣。


「クロウ」


「暗殺王……」


「声が大きい」


「すみません」


教科書の中。


人物。


目の前。


いや。


死者。


意味。


分からない。


「何で俺?」


俺は。


聞いた。


「俺」


今日。


結果。


「魔力、最低」


「知ってる」


「剣も最低」


「見てた」


「見てたの!?」


「転び方は良かったぞ」


「褒めるところそこ!?」


エレノア。


俺へ。


近づく。


「魔法適性」


「ありません」


「知ってる」


「固有スキル」


「なし」


「はい」


「職業」


俺。


言いたくない。


ガルディオ。


笑う。


「無職!」


英雄たち。


笑う。


「お前らまで笑うのかよ!」


腹。


立つ。


「帰る!」


ガルディオ。


「待て」


「何だよ!」


「才能がない?」


俺。


止まる。


今日。


何度。


聞いた。


才能なし。


最低。


無職。


ガルディオは。


俺を。


見て。


笑った。


でも。


学院の連中とは。


違う。


馬鹿にする。


笑いじゃない。


楽しそうだった。


「最高じゃねえか」


「……は?」


「何もないんだろ?」


「ああ」


「剣術の癖もない」


「ない」


「魔法の型もない」


「魔法使えない」


「職業の制限もない」


「無職だけどな」


「なら」


大剣。


地面へ。


突き立てる。


どん。


空気。


震える。


「全部入る」


俺。


息。


止まる。


後ろ。


エレノア。


笑う。


「魔法」


クロウ。


「索敵」


リリア。


「治療」


竜騎士。


「騎乗」


別の声。


「弓」


「槍」


「戦術」


「鍛冶」


「結界」


「薬学」


「生存術」


次々。


声。


百人。


ガルディオ。


最後。


俺へ。


手を。


差し出す。


「神谷悠真」


俺。


その手を見る。


触れられるのか。


分からない。


「俺たち百人が」


笑う。


「お前の先生だ」


俺は。


百人の死者を。


見た。


剣聖。


大魔導師。


聖女。


暗殺王。


竜騎士。


賢者。


歴代勇者。


この世界の。


教科書に載る。


英雄。


百人。


その全員が。


学院史上最低の。


《無職》を。


見ている。


誰一人。


笑っていなかった。


いや。


一人。


ガルディオだけ。


笑っていた。


期待するように。


「……俺」


声。


震える。


「強くなれる?」


ガルディオ。


即答。


「知らん」


「知らないの!?」


「お前次第だ」


「格好いい場面返せ!」


百人。


笑った。


俺も。


少し。


笑った。


今日。


初めて。


《無職》という言葉が。


悪くないものに。


思えた。


でも。


その時。


俺は。


一つ。


気づかなかった。


百基。


墓がある。


そして。


百人。


死者がいる。


はずだった。


なのに。


一番奥。


暗がり。


誰も。


近づかない場所。


そこに。


もう一基。


いや。


正確には。


墓なのかすら。


分からない。


黒い石碑。


名前。


削られている。


誰かが。


意図的に。


消したみたいに。


俺は。


そちらを見る。


「……あれは?」


その瞬間。


百人の英雄。


全員。


黙った。


さっきまで。


あれほど。


うるさかったのに。


完全な。


沈黙。


ガルディオの。


表情から。


笑みが消える。


「悠真」


初めて。


声が。


低い。


「そこには」


そして。


暗闇。


誰もいないはずの。


黒い墓の向こうから。


声。


とても。


穏やかな。


男の声。


『やっと』


俺。


目を見開く。


『見つけた』


ガルディオが。


大剣を。


抜いた。


百人の英雄たちも。


一斉に。


武器を構える。


「下がれ、悠真!」


「え?」


「今すぐ!」


暗闇の奥。


何か。


笑った。


そして。


名前の削られた黒い石碑に。


一瞬だけ。


赤い文字。


浮かぶ。


俺には。


最後の二文字しか。


読めなかった。


《――魔王》


「……は?」


次の瞬間。


光が。


消えた。





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