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3/25

第3話 首席令嬢は落ちこぼれが気になる

もし、誰からも「才能がない」と言われた少年の先生が、歴史に名を残した最強の英雄たちだったら。




この物語は、そんな逆転から始まります。




主人公・神谷悠真は十五歳。




勇者を育てる名門・勇者学院で待っていたのは、輝かしい才能の開花ではありませんでした。




魔力量は最低。


剣術適性も最低。


魔法適性なし。




そして与えられた職業は、まさかの、




《無職》




周囲から笑われ、落ちこぼれの烙印を押された悠真。




けれど、彼には誰にも知られていない力がありました。




死者の姿を見ることができる。




その力に導かれて学院地下の《英雄墓廟》へ足を踏み入れた夜、悠真の人生は一変します。




そこで待っていたのは、剣聖、大魔導師、聖女、暗殺王、竜騎士、そして歴代の勇者たち。




その数、なんと百人。




「才能がない?」




「なら、俺たちが教えればいい」




こうして学院最弱の少年は、死んだ英雄たちだけが知る技、知識、経験、そして彼ら自身の失敗まで受け継ぎながら、少しずつ成長していきます。




ただし。




先生が百人もいれば、授業がまともに進むはずもありません。




「まず剣だ!」




「魔法でしょう!」




「逃げ方を覚えろ」




「健康管理が先です」




「龍を捕まえに行くぞ!」




最強なのに、全員ちょっと面倒くさい。




そんな英雄たちに振り回されながら、悠真は学院生活を送り、仲間と出会い、友情を育て、やがて一人の少女へ特別な想いを抱いていきます。




けれど、この物語には一つだけ、大きな秘密があります。




百人の英雄の中に。




決して英雄と呼んではならない者が、一人だけ混じっている。




その正体を、悠真はまだ知りません。




これは、生まれながらの天才が無双する物語ではありません。




何も持たなかった少年が、昨日できなかったことを今日一つできるようになり、何度も負け、迷いながら、自分だけの強さを見つけていく物語です。




最弱の少年と、最強の死者百人。




そして、英雄たちさえ恐れる百一人目の存在。




悠真が強くなるほど、千年前に葬られた秘密もまた目を覚ましていく。




それでは、




『勇者学院の落ちこぼれ、死んだ英雄たちにだけ教えてもらえる』


〜最弱の俺の先生は、歴代最強の勇者百人でした〜




落ちこぼれ少年の、とんでもなく騒がしい英雄授業をお楽しみください。

昨日まで何もできなかった少年が、今日ひとつだけ前へ進む。その小さな変化を、天才少女だけが見逃さなかった。


セレスティア・アルヴェインには、理解できないことがあった。


神谷悠真。


魔力量E。


剣術適性E。


魔法適性なし。


固有スキルなし。


そして職業。


《無職》。


王立アストリア勇者学院の歴史をひっくり返して探しても、ここまで見事に「何も持っていない」生徒は、おそらく存在しない。


それなのに。


「……まただわ」


午前の剣術授業。


セレスは木剣を構えながら、視線だけを隣の訓練場へ向けた。


悠真がいる。


相手は昨日と同じ、大柄な男子生徒バルト。


当然。


勝負になっていない。


「遅い!」


「うわっ!」


木剣が悠真の肩を打つ。


悠真が転ぶ。


周囲から笑い声。


「やっぱ弱ぇ!」


「昨日と同じじゃん!」


「無職に剣術は無理だろ!」


悠真は土まみれになりながら起き上がった。


「痛ってぇ……」


弱い。


間違いなく弱い。


けれど。


セレスの眉がわずかに動いた。


「違う」


昨日なら。


最初の一撃で終わっていた。


相手が踏み込んだことすら分からないまま、地面へ転がされていた。


今日は違う。


一撃目。


避けた。


三撃目。


半歩だけ後ろへ下がり、剣先を外した。


六撃目。


直撃する直前に肩を引いた。


結果だけ見れば。


負けている。


けれど。


昨日できなかったことが。


今日はできている。


「セレスティア!」


教官の声。


「!」


セレスは正面へ向き直った。


対戦相手の木剣が迫る。


一歩。


踏み込む。


剣を払う。


相手の手首へ軽く当てる。


「勝負あり!」


「ありがとうございました」


セレスは一礼した。


相手は苦笑する。


「相変わらず強いな、セレス」


「あなたも昨日より踏み込みが速くなっています」


「本当か?」


「ええ」


相手が嬉しそうに笑う。


だが。


セレスの視線は。


また。


悠真へ向いていた。


本人は。


自分が見られていることなど。


まったく気づいていなかった。


1 天才には、落ちこぼれが分からない

昼休み。


セレスは図書館へ向かっていた。


いつもなら。


食堂で軽く食事を取り。


午後の授業前まで。


魔法理論か魔物生態学の復習をする。


それが。


日課だった。


なのに今日は。


足が止まった。


中庭。


木の下。


悠真が一人でパンを食べている。


「……」


セレスは自分でも分からなかった。


なぜ。


気になるのか。


弱い生徒なら。


他にもいる。


努力している生徒も。


珍しくない。


王立アストリア勇者学院へ入った以上。


誰だって。


強くなりたい。


けれど。


悠真は少し違った。


普通。


才能がない人間ほど。


変化は遅い。


昨日できなかったことが。


今日できるようになる。


そんな単純な成長は。


実際には。


めったに起きない。


剣術は。


一日で上達するほど甘くない。


それなのに。


悠真は。


一晩ごとに。


ほんの少しだけ。


変わっている。


「誰かに教わっている……?」


昨日。


本人は。


自主練だと言った。


嘘。


とは思わない。


ただ。


全部ではない。


そんな気がした。


セレスは。


しばらく悠真を見る。


パンを食べている。


「……普通ね」


英雄の血を引いているようにも見えない。


隠された魔力があるようにも。


見えない。


むしろ。


パンを喉に詰まらせて。


胸を叩いている。


「げほっ! げほっ!」


慌てて水を飲む。


「……本当に普通ね」


なぜ。


そんな人が。


毎日。


少しずつ。


変わるのだろう。


気づいた時。


セレスは。


悠真の方へ歩いていた。


2 昼食は戦闘より難しい

「隣、いい?」


「ぶふっ!」


悠真が。


水を噴きそうになった。


ぎりぎり耐える。


「だ、大丈夫?」


「大丈夫!」


声が裏返る。


セレスは少し首を傾げる。


「では座るわね」


「どうぞ!」


なぜか敬語。


セレスがベンチへ腰掛ける。


悠真。


硬直。


近い。


距離。


肩。


あと三十センチ。


いや。


何を測ってるんだ俺。


悠真の頭の中は。


剣術授業より。


忙しかった。


理由は。


セレスが隣にいるから。


だけではない。


さらに。


背後。


木の陰。


百人近い半透明の死者。


ぞろぞろ。


『来たぞ』


ガルディオ。


腕を組む。


『好機だ』


エレノア。


目を輝かせる。


『自然に会話するのよ』


聖女リリア。


胸の前で手を組む。


『笑顔です』


暗殺王クロウ。


木の後ろ。


『沈黙しろ』


悠真は。


心の中で叫んだ。


なんで全員いるんだよ!


昨日。


一日一教師制にしただろ!


ガルディオ。


『授業ではない』


悠真。


『じゃあ何だよ!』


エレノア。


『観察』


『帰れ!』


セレス。


悠真を見る。


「……どうしたの?」


「何でもない!」


「また?」


「またとは」


「昨日も一人で百面相していたでしょう」


「気のせいです」


「なぜ敬語なの?」


「緊張してるからです!」


言った。


セレス。


目を丸くする。


悠真。


固まる。


しまった。


本人に言った。


後ろ。


ガルディオ。


『潔い!』


エレノア。


『悪くないわ』


クロウ。


『撤退しろ』


悠真。


『だから恋愛から離れろ!』


「神谷悠真」


「はい!」


セレスが少し笑う。


「私、そんなに怖い?」


「いや」


悠真。


首。


全力で振る。


「むしろ逆というか」


「逆?」


まずい。


言葉がない。


後ろ。


英雄たち。


一斉。


『褒めろ!』


『髪!』


『瞳!』


『姿勢!』


『剣筋!』


『家柄!』


『健康そうな歯!』


悠真。


『最後誰だよ!』


リリア。


手を上げる。


『私です』


いらない。


悠真は。


セレスを見る。


金髪。


昼の光を受け。


きれいに輝いている。


青い瞳。


真っ直ぐ。


こちらを見ている。


褒めろ。


髪。


悠真。


口を開く。


「今日も」


セレス。


「?」


「髪が」


英雄たち。


期待。


「ちゃんと頭についてるな」


沈黙。


風。


一枚。


葉っぱ。


落ちる。


セレス。


「……」


悠真。


「……」


英雄百人。


『…………』


セレスの眉。


少し。


上がる。


「馬鹿にしているの?」


「違う!」


悠真。


頭を抱える。


「本当に違うんだ!」


「では、どういう意味?」


「俺にも分からない!」


「もっと駄目でしょう!」


セレス。


珍しく。


声を上げた。


その瞬間。


悠真は。


彼女の顔を見る。


怒っている。


でも。


少し。


口元。


震えている。


「……セレス?」


「何?」


「笑ってない?」


「笑ってないわ」


「いや」


「笑っていない」


「でも」


「笑っていません!」


顔を背ける。


肩。


小さく。


揺れる。


悠真。


「やっぱり笑ってるじゃん!」


「だって!」


セレスが。


とうとう。


吹き出した。


「髪が頭についてるって……!」


「俺だって言った瞬間に失敗したと思ったよ!」


「普通、途中で止めるでしょう!」


「後ろがうるさくて!」


「後ろ?」


「人生が!」


「また人生なの!?」


二人。


笑う。


英雄百人。


背後。


静か。


ガルディオ。


目頭。


押さえる。


『若いっていいな』


エレノア。


『死んでから見る青春って、かなり腹立つわね』


リリア。


『尊いです』


クロウ。


『理解不能』


全員。


『お前は黙ってろ』


クロウ。


『なぜだ』


悠真は。


初めて。


セレスと普通に笑った。


いや。


普通。


ではなかったかもしれない。


でも。


学院へ来てから。


一番。


楽しい昼休みだった。


3 どうして勇者になりたいの?

笑いが落ち着いたあと。


セレスが。


パンをちぎりながら聞いた。


「悠真」


「ん?」


悠真。


一瞬。


止まる。


今。


「悠真」って。


呼んだ?


昨日までは。


確か。


「神谷」。


だった気がする。


後ろ。


英雄たち。


ざわ。


『名前!』


『名前呼び!』


『進展!』


悠真。


心の中。


『静かにして!』


セレス。


「何?」


「いや」


悠真。


耳。


少し。


熱い。


「何でもない」


「そう」


セレスは。


パンを一口。


「どうして勇者学院へ来たの?」


質問。


悠真。


少し。


考える。


「俺の場合」


「ええ」


「来たっていうより、来させられた感じだけど」


「異世界から来たのよね」


「うん」


事故。


目覚めたら。


知らない世界。


王国。


異世界人。


特別な力。


勇者候補。


全部。


自分の意思より。


先に。


決められた。


「最初は」


悠真。


空を見る。


「特殊能力とかあると思ってた」


セレス。


「なかった」


「はい」


「魔力も」


「最低」


「剣術も」


「最低」


「職業」


悠真。


「そこは言わなくていい」


セレス。


少し笑う。


「でも」


悠真。


続ける。


「昨日から」


墓廟。


英雄たち。


思い浮かべる。


「少しだけ」


拳。


握る。


「強くなってみたいと思った」


「少し?」


「俺」


悠真。


自嘲する。


「自分が強くなれるって、本気で思ったことなかったから」


セレス。


悠真を見る。


「日本でも?」


「普通だったよ」


「普通?」


「勉強も普通。運動も普通」


一拍。


「顔も普通」


セレス。


「そこは私に聞かれていないわ」


「自分で言って傷ついた」


セレス。


また。


少し笑う。


「でも」


悠真。


続ける。


「何もない人間でも」


胸。


奥。


昨日。


エレノア。


言葉。


思い出す。


空っぽだから。


何にでもなれる。


「頑張ったら」


「……」


「少しくらい変われるなら」


セレス。


黙る。


「それを」


悠真。


笑う。


「見てみたい」


その言葉。


セレスの胸に。


なぜか。


残った。


天才。


首席。


公爵令嬢。


《聖剣姫》。


生まれた時から。


何度も。


言われた。


あなたならできる。


あなたは特別。


あなたは選ばれている。


だから。


逆の人間を。


知らなかった。


「できる」と。


一度も言われなかった人間。


それでも。


やってみたいと。


笑う人間。


「……変な人」


セレス。


小さく。


言う。


悠真。


「今日二回目だよ」


「褒めているの」


「どの辺が?」


「私にも分からない」


「それさっき俺が怒られた答え!」


また。


笑った。


4 昨日できなかったこと

午後。


魔力制御授業。


悠真にとって。


もっとも嫌いな時間。


理由。


単純。


魔力が。


ほぼない。


教官。


「では、魔力球を維持しろ」


生徒たち。


掌。


光。


赤。


青。


緑。


黄。


属性。


輝く。


セレス。


白銀。


圧倒的。


周囲。


ため息。


「さすが《聖剣姫》」


「密度が違う」


悠真。


手。


出す。


「……来い」


何も。


ない。


「来い」


何も。


「お願いだから来い」


沈黙。


隣。


バルト。


「魔力にお願いしてる奴初めて見た」


「うるさい!」


笑い。


教官。


ため息。


「神谷」


「はい」


「無理に出そうとするな」


「はい」


「魔力回路が未発達なら、まず感覚からだ」


「はい」


言われても。


分からない。


感覚。


とは。


何だ。


その時。


遠く。


柱。


エレノア。


いる。


今日。


担当。


大魔導師。


満面。


笑顔。


口。


動く。


『呼吸』


悠真。


目。


細める。


『何?』


『朝教えたでしょう』


そう。


今朝。


墓廟。


エレノアの修行。


魔法。


ではなく。


ひたすら。


呼吸。


一時間。


『吸って』


『吐いて』


『吸って』


『吐いて』


悠真。


途中。


『これヨガ?』


エレノア。


『魔力制御よ』


『魔力一回も出てないけど』


『黙って呼吸しなさい』


意味。


分からなかった。


でも。


今。


悠真は。


目を閉じる。


吸う。


吐く。


身体。


力。


抜く。


何も。


感じない。


もう一度。


吸う。


吐く。


胸。


奥。


ほんの少し。


温かい。


気がした。


掌。


何も。


ない。


それでも。


そこへ。


意識。


向ける。


「……」


ぽっ。


光。


本当に。


小さい。


蛍。


一匹より。


小さな。


光。


悠真。


目。


開く。


「出た」


消える。


一秒。


いや。


半秒。


でも。


確かに。


出た。


「出た!」


周囲。


見る。


「何が?」


「今!」


バルト。


「見えなかったぞ」


「出たんだよ!」


教官。


遠く。


別の生徒。


見ていた。


誰も。


気づいてない。


一人。


除いて。


セレス。


授業場。


反対側。


悠真を見ていた。


白銀の魔力球。


揺れる。


「……また」


昨日。


剣。


今日。


魔力。


昨日まで。


何もできなかった少年が。


また。


一つ。


できるようになった。


5 セレスティアは答えを知りたい

放課後。


セレスは。


悠真を追った。


校舎。


廊下。


「悠真」


「あ」


悠真。


振り返る。


「セレス」


自然。


名前。


呼ばれた。


セレス。


一瞬。


心臓。


揺れる。


「……」


「どうした?」


「何でもないわ」


「今日それ多くない?」


「あなたに言われたくない」


二人。


歩く。


夕日。


窓。


廊下。


伸びる。


セレス。


聞く。


「今日」


「うん?」


「魔力が出たでしょう」


悠真。


止まる。


「見えた?」


「ほんの一瞬」


セレス。


腕。


組む。


「昨日まで、一度も出せなかった」


「うん」


「今日、出た」


「うん」


「剣も」


「……」


「昨日より動けた」


悠真。


少し。


困る。


「自主練」


「それだけ?」


「……」


セレス。


見つめる。


悠真。


弱い。


嘘。


下手。


顔。


分かりやすい。


「誰かに」


セレス。


一歩。


近づく。


「教わっているの?」


悠真。


息。


止まる。


近い。


青い瞳。


真っ直ぐ。


嘘。


つきたくない。


でも。


言えない。


百人の死者。


学院地下。


英雄墓廟。


ゼル。


全部。


「ごめん」


悠真。


言う。


「今は言えない」


セレス。


少し。


目。


細める。


「今は?」


「うん」


「つまり」


一歩。


さらに。


「いつかは教える?」


悠真。


困る。


でも。


セレスなら。


いつか。


そう思った。


「多分」


「多分?」


「絶対」


セレス。


少し。


満足そう。


「なら待つわ」


「いいの?」


「無理に聞いても仕方ないでしょう」


歩き出す。


悠真。


隣。


歩く。


「セレスって」


「何?」


「もっと怖い人だと思ってた」


止まる。


「……どういう意味?」


「あ」


まずい。


「いや」


背後。


ガルディオ。


いつの間にか。


『髪を褒めろ』


悠真。


『まだ言うか!』


セレス。


「悠真?」


「何でもない!」


セレス。


ため息。


「本当に変な人」


でも。


笑っていた。


6 百人の先生、恋愛会議を始める

夜。


英雄墓廟。


悠真が来た瞬間。


百英雄。


円。


組む。


「……何?」


誰も。


答えない。


ガルディオ。


真ん中。


腕。


組む。


「会議を始める」


「何の?」


エレノア。


「セレスティア攻略会議」


「帰る!」


悠真。


踵。


返す。


ガルディオ。


肩。


掴む。


「待て!」


「何で死人に恋愛指導されなきゃいけないんだ!」


リリア。


「失礼です」


「恋愛経験あるの?」


リリア。


沈黙。


「ないんだ!」


エレノア。


「私はあるわよ」


悠真。


「本当?」


「告白された人数なら二百人」


「すごい」


「付き合った人数、ゼロ」


「駄目じゃん!」


クロウ。


影。


「恋愛は弱点になる」


悠真。


「だから参加するなって!」


ヴァルガ。


「龍を贈れ」


「女の子に!?」


「喜ぶ」


「どこの文化!?」


英雄。


次々。


意見。


「花だ!」


「宝石!」


「詩!」


「決闘!」


「筋肉!」


悠真。


「最後二つ絶対違う!」


わいわい。


また。


うるさい。


でも。


悠真は。


少し。


楽しかった。


この人たちは。


死んでいる。


千年前。


百年前。


五百年前。


生きた時代も。


違う。


なのに。


今。


自分の。


くだらない悩み。


全力。


騒いでいる。


家族。


ではない。


友達。


とも。


違う。


先生。


それだけでも。


足りない。


悠真は。


少しだけ。


この場所を。


好きになり始めていた。


だから。


気づかなかった。


一番奥。


黒い墓。


名前。


削られた石碑。


そこから。


誰かが。


静かに。


こちらを見ていることに。


7 名前のない先生

修行。


終わり。


悠真。


帰る。


百英雄。


次第に。


消えていく。


最後。


ガルディオ。


「明日も来い」


「行くよ」


「逃げるな」


「クロウ先生には逃げろって言われてる」


「俺からは逃げるな」


「理不尽」


ガルディオ。


笑う。


消える。


静寂。


悠真。


出口へ。


歩く。


その時。


『今日は楽しそうだったね』


足。


止まる。


声。


あの声。


悠真。


振り返る。


黒い墓。


誰も。


いない。


「ゼル?」


沈黙。


でも。


いる。


分かる。


『セレスティア』


悠真。


眉。


寄せる。


「何で名前知ってる?」


『ずっと見ていたから』


「……見てた?」


『君を』


悠真。


背筋。


少し。


冷える。


なのに。


怖くない。


声。


穏やか。


優しい。


『いい子だね』


悠真。


「セレス?」


『うん』


「まあ」


少し。


照れる。


「そうだと思う」


黒い墓。


向こう。


男。


笑った。


気がした。


『悠真』


「何?」


『彼女を大切にするといい』


「何だよ急に」


『生きている人間は』


声。


少しだけ。


遠くなる。


『いつか必ず』


一拍。


『いなくなるから』


悠真。


息。


止まる。


「……ゼル?」


返事。


ない。


「どういう意味?」


沈黙。


悠真。


黒い墓。


近づく。


昨日。


ガルディオ。


言った。


あいつだけは。


先生にするな。


「ゼル」


悠真。


石碑。


見る。


「あんた」


誰なんだ。


聞こう。


とした。


その時。


墓の表面。


ほんの一瞬。


赤い文字。


浮かんだ。


見たことのない。


古代文字。


でも。


なぜか。


意味だけが。


頭へ。


入ってきた。


《第一の封印》


《解除条件》


《神谷悠真が》


《一人目の英雄を超えること》


悠真。


固まる。


「……何だよ、これ」


次の瞬間。


文字。


消える。


そして。


墓の奥。


ゼルの声。


さっきまでより。


はっきり。


響いた。


『頑張って』


優しい。


先生のような。


声。


『早く僕のところまで来てね』


悠真は。


まだ。


知らない。


百人の英雄たちが。


その男を。


決して。


英雄とは呼ばないことを。


そして。


千年前。


世界中の歴史書から。


名前を消された男が。


ただ一人。


こう呼ばれていたことを。


初代魔王。


その夜。


学院の遥か地下。


誰にも知られていない石扉に。


千年ぶりに。


一筋の亀裂が入った。


第1部 第3話 完

次回 第4話

最弱、初めて勝つ

勝てと言われたら勝てない。

だから先生は言った。

「十秒だけ、生き残れ」


学院模擬戦。


対戦相手は。


悠真を《無職》と笑い続けてきた貴族生徒。


魔力。


剣術。


経験。


すべて。


相手が上。


勝てる要素。


ゼロ。


それでも。


百人の英雄から教わったものが。


一つだけある。


逃げる。


避ける。


見る。


そして。


生き残る。


たった十秒。


その十秒が。


学院史上最低の少年の運命を。


初めて。


ひっくり返す。


そして観客席では。


セレスだけが。


誰より早く。


気づく。


悠真が。


もう。


昨日までの落ちこぼれではないことに。

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