第12話 百人の先生、作戦会議でまた揉める
百人の英雄を先生に持ち、少しずつ強くなってきた悠真。
そして彼は、百一人目の先生となった謎の男、ゼルから問いかけられました。
「君は、なぜ勇者になりたい?」
その答えを、悠真はまだ持っていません。
そんな彼に訪れた次の舞台は、四学院対抗勇者選抜戦。
学院最弱。
職業《無職》。
本来なら、誰も代表に選ぶはずのない悠真が、まさかの代表候補に選ばれます。
しかし、第2部で試されるのは、単純な「強さ」だけではありません。
百人の先生がいれば、百通りの答えがある。
では、その中から何を選ぶのか。
そして、いつか先生たちの答えすらない状況に立たされた時、悠真は自分で決断できるのか。
教わる者から、選ぶ者へ。
セレスとの距離。
悠真を待ち受けるライバルたち。
百人の英雄が隠している過去。
そして、初代魔王でありながら悠真の「先生」となったゼルの謎。
第1部で蒔かれた物語が、ここから少しずつ動き始めます。
第2部「学院対抗戦編」
学院最弱の《無職》が挑む、初めての大舞台。
悠真はまだ知らない。
この戦いの先で問われるのが、
「どうすれば勝てるか」ではなく、
「自分は何を選ぶのか」
だということを。
百人の先生がいれば、百倍強くなれると思っていた
『正面から斬れ!』
『逃げろ』
『まず観察しなさい』
『魔法を覚えましょう』
「今から!?」
『間合いを詰めろ!』
『距離を取れ!』
『剣を捨てろ!』
『剣士なら剣で勝て!』
『罠だ!』
『毒を使え』
「学院の代表選考だからね!?」
英雄墓廟に。
百人分の声が飛び交っていた。
俺は頭を抱えた。
明日。
俺は学院ランキング第七位と戦う。
まともにやれば、まず勝てない。
だから百人の英雄へ相談した。
その結果が。
これだ。
「……先生が百人いれば、百倍強くなれると思ってた」
少し離れた墓石に腰掛けていたゼルが笑う。
「百倍うるさくはなったね」
「そこは否定できない!」
剣聖ガルディオが木剣を肩に担いだ。
『何を迷う! 相手は剣士だろう!』
「はい」
『なら剣で倒せ!』
「その途中を教えて!」
『斬る!』
「短い!」
壁際からクロウ。
『逃げろ』
「大会で逃げ続けたら代表になれないだろ!」
『生き残れる』
「目的が変わってる!」
『命より大切な目的があるのか?』
「急に正論を混ぜないで!」
そこへ。
リリアが元気よく手を挙げた。
『はい!』
「嫌な予感しかしません」
『まず栄養をつけるべきです!』
「却下!」
『まだ料理とは言ってません!』
「じゃあ何?」
『滋養強壮の特製スープを』
「クロウ先生、逃走経路を!」
『任せろ』
『どうして私の料理の時だけクロウの教えを素直に聞くんですか!?』
「命がかかってるから!」
『失礼です!』
いつもの。
騒がしい墓廟。
でも。
今日は。
少しだけ違って見えた。
今までの俺は。
この百人の中から。
正しい答えを探していた。
ガルディオが正しいのか。
クロウが正しいのか。
エレノアが正しいのか。
でも。
昨日。
ゼルは俺に言った。
――先生が百人いるからって、百人の答えから一つを選ばなきゃいけないなんて、誰が決めたの?
俺は。
百人の英雄を見る。
剣聖。
暗殺者。
魔導師。
聖女。
騎士。
弓使い。
格闘家。
全員が。
違う人生を生き。
違う戦い方で。
英雄になった。
なら。
「……混ぜればいいのか」
声が漏れた。
『何?』
ガルディオが振り向く。
「一人を選ぶ必要がないなら」
俺は木剣を握る。
「先生たちの教えを、組み合わせればいい」
墓廟が。
静かになった。
一秒。
二秒。
そして。
『邪道だ!』
ガルディオが叫んだ。
「早いよ!」
『剣とは一つの道を極めるものだ!』
クロウ。
『賛成だ』
「クロウ!」
『勝てばいい』
『貴様には美学がないのか!』
『死体に美学は必要ない』
『表へ出ろ!』
『ここが表だ』
「死者同士で喧嘩するな!」
その中で。
エレノアだけが。
眼鏡の奥の目を細めていた。
『面白いわね』
「エレノア?」
『悠真』
彼女は俺を見る。
『何を組み合わせるつもり?』
俺は。
対戦表を見る。
学院ランキング第七位。
三年生。
剣術上位。
実戦経験豊富。
正面から戦えば。
負ける。
だったら。
正面から戦わなければいい。
その考えに至った瞬間。
少しだけ。
怖くなくなった。
見切れないなら、一回だけ見切ればいい
翌日。
最初に俺を待っていたのは。
剣聖ガルディオだった。
『構えろ』
「お願いします」
『行くぞ!』
木剣が。
消えた。
「っ!」
俺は。
剣を見ない。
肩。
腰。
足。
エレノアから教わった観察。
人間は。
攻撃する前に。
必ずどこかが動く。
右肩が沈む。
右から来る。
「そこ!」
次の瞬間。
左から木剣が飛んできた。
「うそおおおっ!?」
ごん。
「いったあああ!」
地面を転がった。
『馬鹿者!』
「今、右肩動いたじゃん!」
『フェイントだ!』
「初心者にフェイント使うなよ!」
『敵に言え!』
「敵より先生のほうが容赦ない!」
ガルディオが鼻を鳴らす。
だが。
『今のは悪くない』
「殴ってから褒める方式やめてもらえる?」
『最初の動きを見たところまではな』
ガルディオが自分の目を指さす。
『剣を見るな』
「うん」
『相手を見ろ』
ガルディオの《見切り》。
相手の動きから。
次の攻撃を読む技。
当然。
俺が剣聖と同じことをできるわけがない。
でも。
全部じゃなくていい。
試合の中で。
たった一度。
決定的な攻撃を読めれば。
それだけで。
何かが変わるかもしれない。
『次』
声がした。
クロウだ。
「先生が交代制なんだ……」
『足だけ見ろ』
「足?」
『剣で勝つ必要はない』
クロウが俺の前に立つ。
『まず、斬られない場所へ行け』
一歩。
クロウが。
消えた。
「え?」
首筋に。
指が触れた。
いつの間にか。
背後にいる。
『死んだ』
「今のどうやった!?」
『歩いた』
「人間の歩き方じゃない!」
『俺は人間だった』
「過去形やめて!」
もう一度。
クロウが構える。
今度は。
足を見る。
右。
左。
そして。
踏み込む直前。
重心が。
ほんの少し沈む。
「……ここ!」
半歩。
身体をずらす。
クロウの指が。
俺の肩をかすめた。
『ほう』
「避けた!」
『三センチだ』
「三センチでも避けた!」
『実戦なら腕が飛んでいる』
「少しくらい喜ばせて!」
クロウの口元が。
ほんのわずかに。
上がった。
『なら次は』
再び構える。
『五センチ生き残れ』
「単位が怖いんだよ!」
でも。
見えてきた。
ガルディオの《見切り》で。
相手が動く瞬間を読む。
クロウの足運びで。
攻撃の軸から外れる。
そこへ。
別の英雄から教わった呼吸法を合わせる。
呼吸を乱さず。
最低限の動きで。
生き残る。
「……これなら」
勝てる。
とは。
まだ思えない。
だけど。
戦えるかもしれない。
英雄にならなくていい
一時間後。
「ぜえ……ぜえ……」
俺は墓石の横で。
大の字になっていた。
空が。
やけに綺麗だ。
「死ぬ……」
クロウが見下ろしてくる。
『まだ死んでいない』
「暗殺者の励まし方、怖いんだよ……」
問題があった。
見る。
読む。
避ける。
呼吸する。
踏み込む。
剣を振る。
全部。
同時にできない。
「人間の頭って、そんなに器用じゃないよ……」
『慣れだ!』
ガルディオ。
「先生、それで全部解決するよね!」
『できるまでやれば、できる!』
「名言っぽく言ってるけど力技だからね!?」
その時。
エレノアが。
俺の横へしゃがんだ。
『悠真』
「何?」
『あなたは今、誰になろうとしているの?』
「……え?」
『ガルディオ?』
違う。
『クロウ?』
違う。
『それとも私?』
「俺は……」
答えられなかった。
ガルディオの技を。
ガルディオと同じように使おうとしていた。
クロウの動きを。
クロウと同じように再現しようとしていた。
でも。
できるわけがない。
彼らは。
英雄だ。
俺は。
《無職》の落ちこぼれ。
すると。
墓石の上から。
声が降ってきた。
「悠真」
ゼルだった。
「君は英雄じゃないよ」
胸に。
ちくりと刺さった。
分かっている。
そんなこと。
最初から。
でも。
ゼルは続けた。
「だから」
黒い瞳が。
俺を見る。
「英雄と同じことをする必要もない」
「……同じことをしなくていい?」
「うん」
ゼルが。
当たり前のように言う。
「技ってさ」
「うん」
「作った人と同じ使い方をしなきゃいけないの?」
ガルディオの眉が動いた。
『おい』
「例えば」
ゼルは俺を見る。
「悠真には、ガルディオみたいに一撃で相手を倒す力はない」
「知ってる」
『そこは悔しがれ!』
「でも」
ゼルは続ける。
「全部の攻撃を見切る必要もない」
俺は。
瞬きをした。
「全部じゃなくていい?」
「一回でいいんじゃない?」
一回。
その言葉が。
胸に落ちた。
全部じゃない。
試合の中で。
一度だけ。
決定的な一撃を読む。
クロウみたいに。
姿を消す必要もない。
半歩でいい。
相手の剣が。
俺から外れるだけでいい。
呼吸法だって。
達人になる必要はない。
最後まで。
息が続けばいい。
「……そうか」
俺は。
立ち上がった。
木剣を拾う。
英雄の技を。
英雄と同じように使う必要はない。
小さくする。
不完全にする。
俺の身体でも使える形へ。
削る。
そして。
組み合わせる。
「ガルディオ」
『何だ』
「もう一回」
『ほう』
ガルディオが。
木剣を構える。
『行くぞ』
今度は。
剣を見ない。
肩。
腰。
足。
呼吸。
全部を。
ぼんやり見る。
右肩。
動く。
でも。
肩だけじゃない。
腰。
足。
踏み込み。
来る。
左。
《見切り》。
完全じゃない。
ただの予測。
それでいい。
同時に。
半歩。
クロウの足運び。
ガルディオの木剣が。
俺の鼻先を通り過ぎた。
「っ!」
避けた。
息を。
吐く。
呼吸を止めない。
そのまま。
踏み込む。
木剣を振る。
ぱしっ。
小さな音。
俺の木剣が。
ガルディオの腕へ触れた。
「…………」
沈黙。
俺は。
自分の木剣を見る。
「……当たった?」
『……』
「ガルディオ?」
『もう一度だ』
「当たったよね!?」
『もう一度だ!』
「照れてる!?」
『殺すぞ!』
「先生が生徒に言っていい台詞じゃない!」
墓廟に。
笑い声が広がった。
百人の英雄。
百通りの戦い方。
そのどれでもない。
小さくて。
不格好で。
まだ。
名前すらない。
でも。
初めて。
俺自身の戦い方が。
生まれた。
《無職》対、学院第七位
翌日。
代表候補者実戦選抜。
訓練場の観客席は。
生徒で埋まっていた。
「神谷、本当に出るのか」
「相手、第七位だぞ」
「さすがに無理だろ」
「瞬殺じゃない?」
全部。
聞こえている。
「……人気者はつらい」
「人気とは違うと思うわ」
隣から。
セレス。
「試合前くらい優しくして」
「緊張しているの?」
「してないように見える?」
セレスの視線が。
俺の手へ落ちる。
木剣を握る指が。
少し震えていた。
「……見えないわね」
「嘘つけ」
「でも」
セレスが。
俺を見る。
「迷宮の時よりは、いい顔をしている」
「それ褒めてる?」
「たぶん」
「そこは断言して!」
ほんの少し。
セレスの口元が緩む。
「悠真」
「何?」
「勝ちなさい」
「簡単に言うなあ……」
「あなたが出ると決めたのでしょう?」
「うん」
「なら」
青い瞳が。
真っ直ぐ。
俺を見る。
「最後まで、自分で決めなさい」
一瞬。
ゼルの顔が浮かんだ。
不思議だ。
ゼルも。
セレスも。
答えはくれない。
でも。
それが今は。
少しだけ。
嬉しい。
「行ってくる」
「ええ」
訓練場へ出る。
向こう側には。
昨日の三年生。
学院ランキング第七位。
俺より。
強い。
それだけは。
疑いようがない。
「逃げなかったか」
「何度か考えました」
「……そうか」
「特に今朝」
「正直だな」
審判が。
俺たちの間に立つ。
「両者、構え!」
三年生が。
剣を構えた。
綺麗だ。
素人の俺でも分かる。
無駄がない。
対して。
俺は。
木剣を握る。
ガルディオの構えじゃない。
クロウの立ち方でもない。
俺が。
一番動きやすい形。
「始め!」
相手が。
消えた。
違う。
速い。
正面。
「っ!」
受ける。
がんっ!
腕が。
痺れた。
「うわっ!」
身体ごと。
後ろへ飛ばされる。
観客席から。
声が上がる。
「やっぱり力が違う!」
「無理だろ!」
その通り。
正面から。
受けたら。
勝てない。
二撃目。
受ける。
三撃目。
避ける。
遅い。
肩へ入る。
「ぐっ!」
痛い。
でも。
倒れない。
男の眉が。
わずかに動いた。
「なるほど」
「何が……?」
「噂ほど弱くはない」
「それ、褒めてます?」
「だが」
男が。
踏み込む。
「代表には届かない」
速い。
剣だけを見るな。
相手を見る。
肩。
腰。
足。
呼吸。
来る。
突き。
「ここ!」
半歩。
身体を外す。
木剣が。
胸の横を抜けた。
男の目が。
見開かれる。
俺は。
息を吐く。
止めない。
踏み込む。
木剣を振る。
しかし。
簡単に。
受けられた。
「浅い」
「知ってます!」
弾かれる。
でも。
笑いそうになった。
使えた。
英雄の技が。
俺にも。
使えた。
英雄と同じようには。
できない。
なら。
俺の使い方をすればいい。
負けながら、勝ち方を作る
そこから。
俺は。
負け続けた。
肩。
腕。
脇腹。
太腿。
木剣が。
何度も入る。
痛い。
息も。
苦しい。
それでも。
立つ。
「……しぶといな」
「それだけは……よく言われます」
観客席の声が。
変わり始めていた。
「まだ立つのか?」
「神谷、こんなに動けたか?」
「いや……」
「さっきから、少しずつ避けてないか?」
そう。
最初は。
十回。
全部食らっていた。
今は。
十回に二回。
避けられる。
相手の肩。
腰。
足。
見る。
読む。
外れる。
また。
見る。
少しずつ。
分かってくる。
この人は。
強い。
でも。
同じ人間だ。
癖がある。
呼吸がある。
得意な方向がある。
男の表情に。
苛立ちが混じった。
「なぜ倒れない」
昔の俺なら。
答えは簡単だった。
怖いから。
痛いから。
勝てないから。
だから。
逃げる。
でも。
今は。
「俺が」
息を吸う。
「まだ、倒れたくないから!」
男の剣が。
振り下ろされる。
速い。
強い。
でも。
見た。
右肩。
腰。
踏み込み。
今。
《見切り》。
半歩。
剣が。
空を切る。
初めて。
完全に。
相手の横へ回り込んだ。
男が。
振り返る。
俺は。
木剣を振る。
「甘い!」
受けられた。
当然だ。
俺の剣は。
ガルディオほど速くない。
力もない。
なら。
どうする?
頭の中に。
百人の声が浮かぶ。
斬れ。
逃げろ。
見ろ。
詰めろ。
離れろ。
呼吸しろ。
剣を捨てろ。
百通りの答え。
でも。
今。
選ぶのは。
俺だ。
俺は。
木剣から。
手を離した。
男の目が。
見開かれる。
「何!?」
木剣が。
地面へ落ちる。
男の視線が。
一瞬。
下へ向いた。
そこだ。
踏み込む。
剣を拾うためじゃない。
男の懐へ。
身体ごと。
飛び込む。
「なっ!」
肩を。
ぶつけた。
「いったあああ!」
俺のほうが痛い!
でも。
男の体勢が。
わずかに崩れた。
それでいい。
落ちた木剣を。
蹴る。
木剣が。
地面を滑る。
男の足元へ。
反射的に。
男が避ける。
その方向。
知っている。
ずっと。
観察していたから。
一歩。
先へ回る。
相手の手首を。
両手で掴む。
「離せ!」
「嫌です!」
「剣士が剣を捨てるな!」
「俺、剣士じゃないんで!」
《無職》。
こんな時だけ。
便利だ。
男が。
一瞬。
固まる。
そこへ。
足をかけた。
クロウから教わった。
重心の崩し方。
当然。
綺麗には決まらない。
だから。
俺も。
一緒に倒れる。
「うおおおおっ!」
「なっ!?」
どさっ!
二人で。
地面を転がった。
全身。
痛い。
でも。
先に。
起きたのは。
俺だった。
地面の木剣を。
拾う。
そして。
男の喉元へ。
突きつけた。
「…………」
訓練場から。
音が消えた。
審判が。
俺を見る。
相手を見る。
そして。
腕を上げた。
「勝者」
一拍。
「神谷悠真!」
歓声が。
爆発した。
「…………え?」
俺は。
木剣を握ったまま。
動けなかった。
勝った?
学院ランキング第七位に?
俺が?
観客席。
セレスと。
目が合う。
笑ってはいない。
でも。
ほんの少し。
嬉しそうに見えた。
その瞬間。
やっと。
実感が追いついた。
「……勝った」
声に出す。
胸の奥から。
何かが。
一気に込み上げた。
「勝ったあああああ!」
直後。
足から。
力が抜けた。
「うわっ」
尻もち。
観客席から。
大笑い。
「最後くらい格好よく終わらせてくれよ!」
でも。
俺も。
笑っていた。
学院最弱。
《無職》。
そんな俺が。
初めて。
自分で作った戦い方で。
勝った。
「それでいい」
その夜。
英雄墓廟。
『なぜ剣を捨てた!』
第一声が。
それだった。
「勝ったんだからいいだろ!」
『剣士が自ら剣を捨てるなど!』
「だから俺、《無職》!」
『便利に使うな!』
エレノアが。
笑っている。
クロウは。
いつも通り壁際。
でも。
たぶん。
少しだけ。
機嫌がいい。
リリアが。
手を挙げた。
『では勝利祝いに』
「料理以外でお願いします」
『まだ何も言ってません!』
「じゃあ何?」
『特製シチューを』
「料理じゃん!」
墓廟に。
笑い声が広がる。
その時。
ガルディオが。
ふっと。
黙った。
『悠真』
「何?」
『最後の戦い方』
声が。
少し低い。
『あれは、俺の剣じゃねえ』
胸が。
冷えた。
怒られる。
そう思った。
確かに。
《見切り》を。
勝手に変えた。
クロウの足運びも。
エレノアの観察も。
全部。
本物とは程遠い。
「……ごめん」
『何で謝る?』
「え?」
ガルディオが。
笑った。
『それでいい』
俺は。
瞬きをした。
『俺の剣を覚えたところで』
ガルディオが。
自分の胸を指す。
『お前は俺にはなれねえ』
「うん」
『クロウにも』
『なる必要はない』
クロウが言う。
ガルディオは。
少しだけクロウを睨んだ。
でも。
否定しなかった。
『百人の英雄から学んだからって』
ガルディオは。
俺を見る。
『百一人目の英雄になる必要はねえ』
静かな墓廟に。
その声が。
響いた。
『お前は』
ガルディオが。
笑う。
『神谷悠真になれ』
胸の奥が。
熱くなった。
「……うん」
少し離れた墓石。
ゼルが。
俺を見ていた。
いつもの。
何を考えているのか分からない笑顔。
でも。
今日は。
少しだけ。
違って見えた。
「ゼル」
「何?」
「勝ったよ」
「見てたよ」
「先生たちの答えを、そのまま使わなかった」
「うん」
「自分で考えた」
「うん」
「自分で選んだ」
ゼルが。
ほんの少し。
目を細める。
「どうだった?」
俺は。
考えた。
怖かった。
痛かった。
何度も。
負けると思った。
それでも。
最後は。
自分で決めた。
「……楽しかった」
ゼルが。
笑った。
「なら」
昨日と。
同じ言葉。
でも。
今日は。
意味が違って聞こえた。
「それが、君の答えだ」
学院最弱を見つけた少年
その頃。
誰もいなくなった訓練場を。
一人の少年が。
観客席から見下ろしていた。
制服が。
違う。
王立アストリア勇者学院のものではない。
胸元には。
銀色の学院章。
四学院対抗勇者選抜戦。
参加学院の一つ。
少年の手には。
今日の試合記録。
そこに。
一つの名前。
《神谷悠真》
職業。
《無職》。
隣の生徒が言った。
「学院第七位に勝ったらしいな」
「ああ」
「運がよかっただけじゃないか?」
少年は。
記録から目を上げなかった。
「違う」
「何が?」
「最初の三分」
指が。
紙を叩く。
「こいつはずっと負けていた」
「なら、弱いだろ」
「逆だよ」
少年が。
笑った。
「負けながら」
一度。
試合の終わった訓練場を見る。
「勝ち方を作った」
見切り。
足運び。
呼吸。
観察。
そのどれも。
完成していない。
なのに。
最後には。
そのどれでもない戦い方へ変わった。
「剣士じゃない」
少年が呟く。
「魔法使いでもない」
職業すら。
ない。
それでも。
戦いながら。
戦い方そのものを変えた。
少年の口元が。
ゆっくり上がる。
「面白い」
《神谷悠真》
その名前に。
印をつける。
「学院対抗戦」
少年の目が。
楽しそうに細くなった。
「こいつと戦いたい」
学院最弱だった少年は。
まだ知らない。
今日。
自分が勝ったことより。
もっと大きな変化を。
学院の中で。
「無職なのに、なぜ?」
そう言われていた名前が。
学院の外で。
初めて。
別の言葉と一緒に呼ばれた。
面白い。
そして。
その一言が。
次の戦いを。
静かに。
こちらへ連れてきていた。
第12話 完
次回 第13話
「勇者候補なのに、デートすることになった」
学院対抗戦に向けて、新しい装備が必要になった悠真。
買い出しのため王都へ向かうことになったのだが。
隣にいるのは、なぜかセレス。
「これ、デートじゃない?」
「違うわ」
『デートだ!』
「先生たちは黙ってて!」
百人の英雄だけが大騒ぎする、本人たちだけが認めない王都デート。
そして悠真が何気なく選んだ、小さな髪飾り。
その夜。
誰もいない寮の部屋。
セレスは鏡の前で。
その髪飾りをつける。
外す。
少し迷って。
もう一度。
つけた。
学院最弱と学院最強。
二人の距離が。
今度は戦いではない場所で。
ほんの少しだけ変わり始める。




