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第11話 学院最弱、代表候補になる

百人の英雄を先生に持ち、少しずつ強くなってきた悠真。


そして彼は、百一人目の先生となった謎の男、ゼルから問いかけられました。


「君は、なぜ勇者になりたい?」


その答えを、悠真はまだ持っていません。


そんな彼に訪れた次の舞台は、四学院対抗勇者選抜戦。


学院最弱。


職業《無職》。


本来なら、誰も代表に選ぶはずのない悠真が、まさかの代表候補に選ばれます。


しかし、第2部で試されるのは、単純な「強さ」だけではありません。


百人の先生がいれば、百通りの答えがある。


では、その中から何を選ぶのか。


そして、いつか先生たちの答えすらない状況に立たされた時、悠真は自分で決断できるのか。


教わる者から、選ぶ者へ。


セレスとの距離。


悠真を待ち受けるライバルたち。


百人の英雄が隠している過去。


そして、初代魔王でありながら悠真の「先生」となったゼルの謎。


第1部で蒔かれた物語が、ここから少しずつ動き始めます。


第2部「学院対抗戦編」


学院最弱の《無職》が挑む、初めての大舞台。


悠真はまだ知らない。


この戦いの先で問われるのが、


「どうすれば勝てるか」ではなく、

「自分は何を選ぶのか」


だということを。

「神谷悠真って、知ってる?」


「ほら、《無職》の」


「迷宮で首席を助けたって噂の?」


「いやいや、さすがに盛ってるだろ。《無職》だぞ?」


「……全部聞こえてるんだけどな」


昼休み。


王立アストリア勇者学院の食堂で、俺はスープに浮かぶ豆を睨んでいた。


豆に罪はない。


分かっている。


それでも今は、何かを睨んでいたかった。


ダンジョン実習から帰ってきて以来、学院での俺の扱いが少し変わった。


以前の俺は簡単だった。


《無職》。


魔力最低。


剣術最低。


魔法適性ほぼなし。


つまり、学院最弱の落ちこぼれ。


廊下を歩いても誰も振り向かない。


授業で失敗すれば笑われることはあっても、普段は景色の一部。


それが今では。


「魔物の弱点を見抜いたらしいぞ」


「首席と一緒に最深部から生還したって」


「でも無職だろ?」


「どうやったんだ?」


視線が。


集まる。


「前のほうが楽だったかも……」


俺が呟くと。


「何が?」


正面から声が返ってきた。


顔を上げる。


金色の髪。


青い瞳。


学院首席、セレス・アルヴェイン。


何でもない顔でパンを食べている。


「誰にも注目されてなかった頃」


「どうして?」


「気楽だったから」


「気にしなければいいでしょう」


「それ、学院首席だから言えるんだよ」


「そう?」


本気で分かっていない。


天才という生き物は、時々ものすごく残酷だ。


その時。


少し離れた席から声が飛んできた。


「なあ、神谷」


「ん?」


同じ学年の男子生徒だった。


今までまともに話した記憶はない。


「本当に迷宮で戦ったのか?」


食堂の声が。


少しだけ小さくなる。


みんな聞いている。


「まあ……一応」


「セレスに助けてもらったんじゃなくて?」


「ああ、それは」


どう答えるべきか迷った。


実際、俺一人の力じゃない。


百人の先生たちがいた。


セレスがいた。


そして。


あの迷宮では。


百人の英雄ですら知らない敵を、俺たち自身で観察して倒した。


だから。


俺が一人で倒した。


なんて言うのは違う。


そう考えていたら。


「逆よ」


セレスが言った。


「え?」


男子生徒が固まる。


俺も固まる。


セレスだけが平然としていた。


「私は悠真に助けられた」


ざわっ。


食堂の空気が跳ねた。


「セレス!」


「何?」


「なんで言っちゃうの!?」


「事実だから」


「世の中には黙っていたほうが平和な事実もあるんだよ!」


「どうして?」


「俺の平穏な学院生活のため!」


「平穏だった?」


「そこ確認しないで!」


食堂のあちこちから笑い声が起きた。


けれど。


以前とは少し違う。


俺を馬鹿にして笑っているわけじゃない。


俺とセレスのやり取りを見て笑っている。


その違いが。


なんとなく。


くすぐったい。


「……やっぱり食堂変えようかな」


「逃げるの?」


「戦略的撤退」


「クロウみたいね」


「ぶっ!」


危うくスープを吹くところだった。


「急にその名前出すなよ!」


「以前、あなたが言っていたでしょう」


「そ、そうだった」


危ない。


死んだ英雄たちのことは、まだ誰にも詳しく話していない。


セレスは俺に何か秘密があることには気づいている。


それでも。


無理に聞こうとはしない。


その距離感が。


俺にはありがたかった。


カーン。


その時。


学院中に大鐘が鳴り響いた。


カーン。


カーン。


食堂のざわめきが止まる。


セレスが顔を上げた。


「招集鐘ね」


「何それ?」


「全生徒への招集よ」


「今?」


「今」


俺は食べかけのパンを見る。


「まだ半分残ってるんだけど」


「持っていけば?」


「学院首席が行儀悪いこと勧めるなよ」


セレスは立ち上がった。


俺も慌てて続く。


この時の俺は。


まだ知らなかった。


この鐘が。


俺の学院生活を。


もう一段。


面倒で。


でも少しだけ面白い場所へ運んでいく鐘だったことを。


四学院対抗勇者選抜戦


中央講堂には、学院中の生徒が集まっていた。


壇上には教師陣。


その中央に学院長。


「何が始まるんだ?」


「魔王軍でも攻めてきた?」


「そんな軽い調子で言うなよ」


俺は後方でセレスの隣に立っていた。


少し離れたところには、赤茶色の髪の青年。


ディラン。


学院上位の実力者だ。


剣も魔法も優秀。


俺とは最初から立っている場所が違う。


いや。


今も違う。


学院長が一歩前へ出た。


「諸君」


講堂が静まる。


「今年も、四学院対抗勇者選抜戦の開催が正式に決定した」


一瞬。


沈黙。


そして。


「おおおっ!」


講堂が沸いた。


「今年か!」


「代表は誰だ!?」


「セレスは確定だろ!」


俺だけ。


完全に置いていかれていた。


「……何それ?」


小声で聞く。


セレスが俺を見る。


「知らないの?」


「異世界人に常識を要求しないでください」


セレスは小さく息を吐いた。


「王国にある四つの勇者学院が、それぞれ代表を出して競う大会よ」


「へえ」


「剣術だけじゃない。魔法、戦術、チーム戦。総合的な実戦能力を競う」


「へえ」


「優秀な成績を残せば騎士団や王宮から声がかかることもあるわ」


「へえ」


「歴代の勇者も多く出場している」


「……へえ」


よし。


俺には関係ない。


安心した。


そういう華々しい大会は、首席とか天才とか、立派な職業を持った人たちに任せればいい。


俺は墓廟で。


死んだ英雄たちに剣を教わって。


時々吹っ飛ばされて。


リリアの料理から逃げているくらいがちょうどいい。


学院長が続ける。


「王立アストリア勇者学院から出場する代表は五名」


講堂が再び静まった。


「ただし、今年の代表は成績のみでは選出しない」


空気が変わる。


「実戦における判断力」


「仲間との連携」


「未知の状況への対応力」


そして。


学院長は。


ゆっくりと言った。


「自分で選び、決断できる人間であること」


胸の奥が。


少しだけ揺れた。


――本人の人生なんだから、本人が決めればいい。


昨日。


ゼルに言われた言葉が蘇る。


――君は、なぜ勇者になりたい?


答えは。


まだ出ていない。


学院長が羊皮紙を開いた。


「以上を踏まえ、教師陣が三十二名の代表候補を選出した」


名前が。


次々と読み上げられていく。


学院ランキング上位。


剣術科の実力者。


魔法科の優等生。


知っている名前ばかりだ。


「セレス・アルヴェイン」


「はい」


隣でセレスが答える。


誰も驚かない。


当然だ。


「ディラン・クロフォード」


「はい」


これも当然。


さらに名前が続く。


俺は途中から。


今日の修行のことを考えていた。


ガルディオが重心移動を教えるとか言ってたな。


まあ。


「教える」と言いながら、また百回くらい地面に転がされるんだろうけど。


嫌だな。


でも。


昨日できなかったことが。


今日は少しできる。


それが最近。


ちょっとだけ楽しい。


「そして」


学院長の声で。


意識が戻る。


「最後の候補者」


なぜか。


セレスが俺を見た。


嫌な予感がした。


ものすごく。


嫌な予感がした。


「神谷悠真」


「…………」


誰も。


声を出さなかった。


俺も。


出せなかった。


学院長が顔を上げる。


「神谷悠真」


「…………俺?」


自分を指さした。


次の瞬間。


講堂が爆発した。


「はあ!?」


「無職だぞ!?」


「なんで!?」


「神谷が代表候補!?」


「何かの間違いだろ!」


大丈夫。


俺も同じ気持ちだ。


《無職》の名前が呼ばれた日


「ちょっと待ってください!」


気づけば。


俺は手を上げていた。


学院長が俺を見る。


「なんだ」


「間違いじゃないですか?」


講堂のあちこちから笑いが漏れる。


「本人が否定したぞ」


「そこは堂々としろよ」


うるさい。


こっちだって混乱している。


「神谷悠真」


学院長は。


もう一度言った。


「間違いではない」


「でも俺、《無職》ですよ?」


今度は大きな笑いが起きた。


自分で言っていて悲しくなってきた。


「承知している」


「魔力も低いです」


「承知している」


「剣術成績も」


「承知している」


「魔法なんて」


「承知している」


「筆記も別に」


「それ以上、自分を傷つけなくていい」


学院長に止められた。


全校生徒の前で。


俺は何をやっているんだ。


「じゃあ、どうして俺なんですか?」


笑いが。


止まった。


学院長の目が。


少しだけ鋭くなる。


「迷宮実習の報告書を読んだ」


空気が変わった。


「お前には、圧倒的な魔力はない」


はい。


「卓越した剣術もない」


はい。


「強力な魔法もない」


もういいです。


「それでも」


学院長が言った。


「お前は生きて帰った」


俺は。


黙った。


「そして」


学院長の視線が。


セレスへ向く。


「仲間を生きて帰した」


セレスと目が合う。


青い瞳は。


逸れなかった。


「勇者学院が育てる人間を」


学院長は講堂全体へ告げた。


「私は職業名だけで決めるつもりはない」


誰も。


笑わなかった。


「ゆえに、神谷悠真」


「……はい」


「お前を代表候補に加える」


胸の奥が。


妙に熱くなった。


嬉しい。


たぶん。


そうなんだと思う。


ずっと。


《無職》だから。


才能がないから。


向いていないから。


そうやって。


最初から数えられなかった俺の名前が。


今。


学院中の前で。


候補者の一人として呼ばれた。


「悠真」


隣から。


小さな声。


「何?」


「返事」


「あ」


俺は慌てて姿勢を正した。


「はい!」


また笑いが起きた。


くそ。


今のところ。


ちょっと格好よかったのに。


「当然でしょう」


招集が終わったあとも。


視線は消えなかった。


「本当に神谷が?」


「迷宮で何があったんだ?」


「でも代表は無理だろ」


「いや、候補に選ばれたってことは……」


俺は逃げるように廊下へ出た。


「疲れた……」


「何もしていないでしょう」


後ろから。


セレス。


「精神的には決勝戦くらい戦ったよ」


「まだ代表にもなっていないのに?」


「正論で刺すな」


並んで歩く。


しばらくして。


俺は聞いた。


「セレス」


「何?」


「驚かなかったな」


「何に?」


「俺が候補に選ばれたこと」


本当に。


それが不思議だった。


講堂にいたほぼ全員が驚いた。


名前を呼ばれた本人すら。


何かの間違いだと思った。


でも。


セレスだけは。


最初から。


何も変わらなかった。


「当然でしょう」


「……え?」


思わず足が止まる。


「当然なの!?」


「ええ」


「どの辺が!?」


セレスも立ち止まった。


そして。


俺を見る。


「私と一緒に」


その声から。


いつもの少し刺々しい調子が消える。


「あなたは、あの迷宮から帰ってきた」


「……」


「私一人だったら」


ほんの少し。


セレスの視線が揺れた。


「帰れなかったかもしれない」


「いや。でも」


「悠真」


遮られた。


「私は」


青い瞳が。


真っ直ぐ俺を見る。


「あなたに助けられたと思っている」


心臓が。


強く鳴った。


「だから」


セレスは。


何でもないことのように言う。


「あなたが候補になることを、不思議だとは思わない」


困る。


本当に。


最近のセレスは。


時々。


ものすごく困ることを言う。


「……ありがとう」


「どうしてお礼を?」


「そういうところ!」


「?」


本人だけ。


何も分かっていない。


俺は前を向いた。


顔が少し熱い。


学院長に認められたことは。


もちろん嬉しい。


でも。


それより。


セレスだけは。


俺が名前を呼ばれる前から。


俺を認めてくれていた。


そのことのほうが。


ずっと。


嬉しかった。


百一人目の先生の答え


その夜。


英雄墓廟。


「学院対抗戦だと!?」


ガルディオの声が。


墓廟中に響いた。


「まだ代表候補だけど」


『出ろ!』


「話聞いてた!?」


『当然だ! 学院代表! 勇者への登竜門! ここで名を上げずいつ上げる!』


「だからまだ候補!」


エレノアが眼鏡を押し上げる。


『対戦相手の情報が必要ね。各学院の過去十年分の戦闘記録を集めましょう』


「どこから?」


『調べなさい』


「雑!」


クロウが壁際から言った。


『辞退しろ』


「極端!」


『能力を晒すだけだ』


「俺、晒して困るほど能力ないんだけど」


『なら、なおさら出るな』


「説得力あるのやめて!」


リリアが手を合わせた。


『大会前なら栄養が必要ですね』


嫌な予感。


『私が特製スープを』


「辞退します」


『まだ作ってません!』


「俺には未来が見えた」


『失礼です!』


墓廟が。


いつもの騒がしさに包まれる。


百人。


百通りの意見。


その中で。


一人だけ。


何も言っていない男がいた。


黒髪の青年。


ゼル。


百一人目の先生。


初めて会った時から。


こいつだけは。


他の英雄と違う。


強くなれ。


とは言わない。


勇者になれ。


とも言わない。


いつも。


俺に聞く。


だから。


俺は。


ゼルへ向き直った。


「ゼルは?」


「何が?」


「俺、出たほうがいいと思う?」


ゼルは。


少し考えて。


「出たくないなら、断れば?」


静寂。


直後。


『貴様ァ!』


ガルディオが吠えた。


「また喧嘩するな!」


『悠真の成長の機会だぞ!』


「だから?」


『学院代表は名誉だ!』


「悠真が名誉を欲しいと言った?」


『勇者になるなら必要だ!』


「悠真が勇者になると決めた?」


『昨日からそればかりだな貴様!』


「ガルディオ!」


俺は。


二人の間に入った。


本当に。


何なんだ、この二人。


百年以上前から何かあるらしいけど。


俺の人生を使って口喧嘩するのはやめてほしい。


「ゼル」


「何?」


「本当に、断ってもいいと思う?」


「もちろん」


即答だった。


「君の人生だろう?」


その言葉が。


妙に。


胸へ落ちた。


出るべきだから。


出る。


先生に言われたから。


出る。


学院に選ばれたから。


出る。


それは。


たぶん。


違う。


「俺さ」


自分の手を見る。


木剣を握り続けて。


皮が硬くなった手。


この世界へ来た時。


俺には。


何もなかった。


職業すら。


なかった。


でも。


ガルディオに剣を教わった。


クロウに生き残り方を教わった。


エレノアに観察することを教わった。


リリアに。


料理から逃げる大切さを教わった。


『最後だけ違います!』


「心読まないで!」


咳払い。


「とにかく」


俺は続ける。


「百人から、いろんなことを教わった」


まだ。


弱い。


学院上位には。


きっと遠く及ばない。


だからこそ。


知りたかった。


「俺が」


ゼルを見る。


「どこまで通用するのか知りたい」


ゼルの目が。


わずかに細くなる。


「先生たちに教わったことが」


百人の英雄を見る。


「学院の外でも通用するのか」


そして。


自分の胸を指さした。


「今の俺が、どこまで行けるのか」


勝てる。


なんて思っていない。


勇者になれる。


とも思っていない。


でも。


昨日までの俺なら。


どうせ無理だ。


そう言って。


戦う前から逃げていた。


今は。


少し違う。


「試してみたい」


それが。


俺の答えだった。


ゼルは。


しばらく黙っていた。


やがて。


小さく笑う。


「なら」


「うん」


「それが、君が出る理由だ」


ああ。


そうか。


簡単だった。


学院のためじゃない。


名誉のためでもない。


勇者になるためですらない。


俺が。


知りたいから。


俺が。


やってみたいから。


「分かった」


俺は笑った。


「出るよ」


『よし!』


ガルディオが拳を握る。


『明日から訓練を三倍にする!』


「やっぱり辞退しようかな」


『なぜだ!』


「人間には限界というものが!」


『限界を越えろ!』


「昨日ゼルに人生について考えろって言われて、今日はガルディオに人生終わらされそうなんだけど!」


エレノアがため息をつく。


クロウが。


『辞退なら今だ』


と囁く。


リリアは。


『では出場決定祝いのスープを!』


「そっちを止めろおおお!」


百一人の死者と。


一人の《無職》。


俺の人生は。


代表候補になった夜も。


相変わらず騒がしかった。


最初の相手


翌朝。


教室へ入った瞬間。


分かった。


何かある。


全員が。


俺を見たからだ。


「……おはよう」


返事がない。


怖い。


俺は自分の席へ向かう。


机の上に。


一枚の紙。


《代表候補者実戦選抜 対戦表》


「……実戦選抜?」


紙を取る。


代表候補三十二名。


そこから。


学院代表五名を選ぶ。


選考の第一段階。


一対一による実戦。


勝敗だけでなく。


戦術。


判断。


対応力。


すべてが評価対象。


「なるほど」


俺は。


自分の名前を探した。


神谷悠真。


あった。


対戦相手は。


知らない名前。


「誰だ?」


指で追う。


その瞬間。


隣から。


「……運が悪いわね」


セレスの声。


「うわっ!」


「何?」


「いつ来た!?」


「今」


気配薄すぎない?


俺は対戦表を指さした。


「この人、知ってる?」


「ええ」


セレスの顔が。


少しだけ真剣になる。


「三年生」


「うん」


「剣術上位」


「うん」


「実戦経験も豊富」


「うん……」


嫌な予感がする。


「学院ランキング第七位よ」


「…………」


もう一度。


紙を見る。


神谷悠真。


学院ランキング。


対象外。


相手。


学院第七位。


「運営!」


思わず叫んだ。


「組み合わせおかしくない!?」


「抽選よ」


「神はいないのか!」


「英雄なら百人いるでしょう」


「死んでる!」


教室のあちこちから。


笑いが起きた。


でも。


俺は笑えない。


学院第七位。


昨日。


どこまで通用するか知りたい。


なんて。


ちょっと格好つけて言った。


ごめんなさい。


もう十分分かりました。


たぶん通用しません。


クロウ先生。


今から辞退できますか?


そんなことを考えた時だった。


「神谷悠真はいるか」


低い声。


教室が。


静かになった。


入口。


大柄な男子生徒が立っていた。


三年生。


腰に剣。


鍛えられた腕。


立っているだけで。


強い。


分かる。


俺より。


圧倒的に強い。


生徒たちが。


自然に道を開ける。


男が。


俺の前まで来た。


「お前が神谷悠真か」


「……はい」


逃げたい。


すごく逃げたい。


男の視線が。


俺の学院章へ落ちる。


そこには。


俺の職業が刻まれている。


《無職》。


男の口元が。


わずかに歪んだ。


「噂は聞いた」


「どの噂でしょう」


「迷宮で首席を助けたそうだな」


「まあ……いろいろありまして」


「だが」


男の目が。


冷たくなる。


「無職が代表候補?」


教室から。


音が消えた。


「笑わせるな」


その言葉が。


胸に刺さる。


昔なら。


俯いていた。


だって。


俺自身が。


一番そう思っていたから。


才能がない。


職業もない。


どうせ勝てない。


でも。


今は。


少しだけ違う。


俺には。


百人の先生がいる。


そして。


百一人目の先生は。


答えを教えてくれない。


――君はどうしたい?


昨日。


俺は自分で決めた。


出る。


俺が。


どこまで通用するのか。


知りたい。


なら。


目の前に。


これ以上ない相手がいる。


俺は。


机の横に立てかけていた木剣を取った。


男を見る。


「……実は」


「何だ?」


「俺も」


木剣を肩へ乗せる。


「ちょっとそう思ってます」


「……は?」


誰かが。


吹き出した。


続いて。


教室中から笑いが起きる。


男の眉が。


ぴくりと動く。


セレスが。


額を押さえた。


「悠真……」


「いや、本当にそうだし」


俺は。


笑った。


怖い。


勝てる気なんて。


全然しない。


足だって。


少し震えている。


でも。


不思議と。


逃げようとは思わなかった。


男が。


俺を睨む。


「なら」


低い声。


「身の程を教えてやる」


「お願いします」


「……何?」


「俺も知りたいんです」


木剣を握る。


昨日。


ゼルに言った言葉。


「俺が」


学院最弱。


《無職》。


神谷悠真。


「どこまで通用するのか」


男の顔から。


笑いが消えた。


その瞬間。


初めて。


学院ランキング第七位の男が。


俺を。


対戦相手として見た。


百人の答え、その先へ


放課後。


英雄墓廟。


「先生たち」


俺は。


百一人の死者を前に。


対戦表を広げた。


「初戦の相手」


百人が。


紙を見る。


「学院ランキング第七位です」


沈黙。


そして。


『正面から斬れ!』


ガルディオ。


『逃げろ』


クロウ。


『まず相手を観察しなさい』


エレノア。


『魔法を覚えましょう』


別の英雄。


「今から!?」


『体力をつけるべきだ!』


『間合いを潰せ!』


『いや、距離を取れ!』


『剣を捨てろ!』


『剣士相手に剣で勝ってこそだ!』


『罠だ!』


『毒は?』


「大会だからね!?」


百人。


百通り。


見事なまでに。


意見が合わない。


「ちょっと待って!」


俺は頭を抱えた。


「一人ずつ!」


『悠真! まず千回素振りだ!』


「ガルディオ!」


『その前に栄養です!』


「リリア!」


『辞退届はまだ間に合う』


「クロウ!」


もう。


何が正しいのか分からない。


百人の英雄に教えてもらえる。


それは。


俺だけの力だ。


でも。


百人が。


百通りの答えを出したら。


俺は。


どれを選べばいい?


「……ゼル」


気づけば。


名前を呼んでいた。


少し離れた場所。


黒髪の青年が。


墓石に腰掛けている。


「ゼルなら」


俺は聞いた。


「どう戦う?」


百人の英雄たちも。


静かになった。


ゼルなら。


何か違う答えをくれる。


そう思った。


でも。


ゼルは。


いつものように。


答えなかった。


代わりに。


俺を見る。


そして。


聞いた。


「悠真は」


「え?」


「どう戦いたい?」


「……俺?」


「そう」


ゼルが笑う。


「先生が百人いるからって」


その目だけは。


笑っていなかった。


「百人の答えから、一つを選ばなきゃいけないなんて」


一拍。


「誰が決めたの?」


俺は。


言葉を失った。


ガルディオも。


エレノアも。


クロウも。


百人の英雄たちが。


黙っている。


「悠真」


ゼルが言う。


「先生の答えを探すのは」


静かな墓廟に。


その声が響く。


「そろそろ終わりにしようか」


俺は。


木剣を握った。


百人の先生。


百通りの戦い方。


そして。


一人の《無職》。


学院ランキング第七位との戦いを前に。


初めて。


俺は。


先生に答えを求めるのではなく。


自分の答えを作ることになった。


第11話 完


次回 第12話

「百人の先生、作戦会議でまた揉める」


学院ランキング第七位。


まともに戦えば、勝ち目は薄い。


ガルディオの《見切り》。


クロウの足運び。


英雄たちから教わった呼吸と観察。


百人の教えを、そのまま使うのではなく。


組み合わせる。


そして。


悠真は初めて。


「先生の技」ではない戦い方を作り始める。

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