第9話 見守りの準備
荒木は一番のシールが貼ってあるセンサー一式を抱えて、軽く頭を下げると一丁目一番地と書かれている部屋に入室した。荒木の後に続いて、他のメンバーたちも各々頭を下げながら一番初めの部屋に入室する。十一時半から共有スペースでお昼ご飯が始まるので居室に入居者はおらず、生活感が詰まった居室に白川は「へぇ。綺麗ですね」と物珍しそうにキョロキョロと室内を見渡した。
「ここ、建物は古いけど、掃除ロボットを入れているんですよ。けっこう先進的な取り組みをしているでしょ」
なぜかドヤ顔で自慢げに話す朝倉に苦笑を返しつつ白川は言った。
「介護施設ってどこも、こう、独特の匂いがするものだと思っていました」
「まぁ、施設によりますね。床掃除が行き届いてない施設は当然あるし、ポータブルトイレが置いてあるところは、しょうがないとは言えやはり匂いが気になります」
荒木は白川の率直な感想に笑いながらゲートウェイのコンセントを電源に刺した。
「この前、設置に行ったところなんて、軍手をしないとセンサーの設置ができないほどひどかったですよ」
「えっ、そんなに?」
「どこも人手不足だから仕方ない面もあるかもしれませんが、ああいう施設に自分の親は入れたくない、って正直なところ思いますね」
真面目一辺倒で通っている荒木の珍しい悪口に、おやっと真壁は軽く眉を上げたが、それに気づく様子もなく「さてと」と手を叩くと荒木が説明を始めた。
「では、皆さん、ご存知かと思いますが、手順をおさらいします。部屋に入ったら先にゲートウェイの電源を差してください。起動するのに五分くらいかかります。その間にバイタルセンサーと離床センサーの設置をお願いします。バイタルセンサーはベッドにこの紐でしっかりと括り付けてください。バイタルセンサーのコードは、ベッドの高さ調整や背上げした時に引っ張られないよう、ゆとりをもって設置してください。ただ、清掃の方がベッド下を掃除した時にコードが引っ張られて抜けたり、断線することがあるので、なるべくコードは床に付かないように、クリップで長さが調整できるようにして下ください。そして、断線を防ぐためにバイタルセンサーの頭の部分を結束バンドできつめに縛ってください」
棒状をしたバイタルセンサーの本体と、ゲートウェイは有線で接続する仕様になっており、このバイタルセンサーは医療機器並みの精度を誇っているだけに、扱いには十分注意が必要だ。
なぜなら、見守りセンサーを設置している介護施設で最も不具合が生じてしまうセンサーがこのバイタルセンサーだ。不具合の多くの原因は内部断線であり、清掃の時やベッドを背上げした時にコードが引っ張られてしまい、バイタルセンサーの本体と有線の接続箇所が損傷してしまう事が多い。バイタルセンサーは一本で数万円もするので、できる限り故障を防ぐために、バイタルセンサーの設置には最も神経を使う。
「離床センサーはご入居者様がベッドから移動する時、足を下す位置に設置をお願いします。この赤外線センサーは約百五十度の角度でレーダーが出ているので、真下に向けるのではなく、少しだけ角度をつけて設置をお願いします」
荒木がベッドに設置した離床センサーとバイタルセンサーの位置を全員で確認する。
「ゲートウェイの電源が入ったらカメラのコンセントを差してください。ゲートウェイの電源が入っているかどうかは、ここのランプを確認してください。Powerと書かれているこのランプとNetと書かれているランプが二つとも黄緑色に光っていればオッケーです。五分以上たってもランプがつかなければコンセントの抜き差しをしてみてください。それでも、起動しないようなら私に連絡ください。」
続いて、トイレセンサー、ドアセンサーの設置方法について荒木はレクチャーし、「ここまでで何か質問はありますか?」との問いに全員が首を横に振った。
「補助金申請用の写真撮影を忘れないようにお願い致します。では、白川さんは設置にあまり慣れていないと思うので、最初は私と一緒に回りましょうか。真壁さんと朝倉さんは慣れていると思うので、一人でもいいですか?本日の目標は最低三十床、できれば四十床目指して頑張りましょう」
各々頷くと早速、設置に取り掛かる。真壁は三番のシールが貼られているセンサー一式を抱えて一丁目三番地と書かれている部屋に入った。




