第8話 五十人の暮らしの中へ
十時ピッタリに入口に入るとスリッパに履き替え、手の消毒と検温を行い相談室に通された。ほどなくして人の良さそうな男性が入室してきた。
「わざわざ東京から来ていただきありがとうございます。相談員の青樹です」
自分の兄である相談員に嬉しそうに小さく手を振る白川を見て、確かに四人兄弟の末っ子って感じだな、と思いながら真壁は自分の名刺を差し出した。
「伴走支援チームの真壁知久です。本日はよろしくお願いします」
お互い名刺交換を済ませると、早速、荒木が段取りを説明した。テキパキと要領よく話している姿は、仕事ができる男そのものだ。
事前に送付したセンサーを保管している空き部屋に通されると、荒木の指示に従って段ボールを開封していく。
「まず、一階のユニットから設置していきます。一番から十番のシールが貼ってあるセンサーを出してください。最初は全員で設置場所を確認します。お看取りの方のお部屋は先ほどグループチャットで共有しました。このお部屋に入る時にはスタッフの方に声掛けをお願い致します。それ以外の部屋は、ノックして入れば問題ないそうです」
荒木は腕時計をちらりと見やると「まだ時間がありますね」とつぶやき、「ここでできる限り下準備をお願い致します」と声をかけた。
様々なメーカーが見守りセンサーを販売しているが、見守りセンサーの多くは次のような仕組みになっている。
まず、各センターが検知したデータを本体通信機であるゲートウェイに送信し、ゲートウェイからクラウドにデータを送信する。そして、クラウドに保存されているデータが随時、モニターやスマホに映し出されている、といった具合だ。
ゲートウェイは邪魔にならない用、小型化が進んでおりベッド周りに設置するタイプが多い。真壁達が扱っている見守りセンサー『イマココ』はゲートウェイにフックをつけて、ベッドボードに引っ掛けるタイプのものだ。バイタルセンサーとナースコールは、有線でゲートウェイに繋げて使用し、離床センサーやトイレセンサー、ドアセンサーは電池を入れて使用する。カメラは設置場所に一番近いコンセントに差す必要がある。
真壁は四苦八苦しながらゲートウェイにフックをつける作業をしていると、隣で息を飲む音が聞こえた。振り向けば白川が真っ青な顔をしながら、フックを見つめている。
「ごめんなさい……。折れちゃいました」
「これ、設計ミスじゃないですか?なんでこんなにつけにくいんです?」
すかさず朝倉が文句と共にフォローを言いながら、手に持っている折れかけたフックを睨んでいる。どうやら朝倉もフックを折ってしまったようだ。
「フックが外れちゃうって意見がお客様から上がってきたから、つい最近、フックの形を変えたんですよ。確かに入れにくいんですけど、一度入れちゃえば外れないですよ」
コツがありますよ、と荒木は言いながら全員に見えるようにゲートウェイにフックをつける方法を披露していく。皆も荒木のやり方に倣って一通り、一ユニット分のフックをつけ終わると、必要なセンサー類を台車に乗せて最初に設置するユニットへ移動した。
月ユニット、と名付けられた一階のユニットはユニット名にちなんでいるのか、入口に満月の写真が飾られていた。「失礼します」と声をそろえて引き戸を開けると、透かし彫りの衝立があり、台車が通れるように少しだけずらして元に戻す。
「見守りセンサーの設置に伺いました。よろしくお願いします」
荒木の呼びかけに全員でお辞儀をすると、配膳をしていた介護職員が会釈を返してくれた。食卓についている入居者たちにじろじろ見られながら、邪魔にならないように台車を廊下の端まで持って行く。




