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第6話 煙草一本分の会話

 無駄に広い駐車場の隅に置かれた灰皿に、灰を落としながらゆっくりと煙を吐き出す。

禁煙に挫折してから、煙草は一日三本までと決めている。その貴重な一本をゆっくりと味わうように、真壁は息を吸い込んだ。

「紙派ですか?最近少なくなりましたよね」

 ホットコーヒーを両手で包み込みながら白川が隣にやってきた。

「煙草臭くてごめんね」

「いえいえ。私も元喫煙者なので」

「へぇ。意外だね。どうやって辞めたの?」

「辞められてないです。一年に一本か二本吸っています」

「それ、もう禁煙成功しているよ」

 くつくつと笑う真壁の隣で白川が美味しそうな表情で深呼吸をしている。

「こうやって煙草の匂いを嗅いでいるだけで、吸っている気持ちになれるんです。こうすればお財布にも優しいでしょ」

 その発想がおかしくて真壁は声をあげて笑った。

「旦那さんは煙草嫌いなの?」

「あんまりいい顔しないですね。体に良くないって顔をしかめます」

「まぁ、百害あって一利なしだからな。つい最近結婚したんだよね?」

「はい。半年前に式を挙げました」

「そっか。新婚なのに出張に引っ張り出してきてごめんね」

「気にしないでください。私はインサイドなので、施設に訪問することってめったにないんですよ。だから今日、凄く楽しみです」

 営業部はカスタマーサクセス部同様、三つのチームに分かれている。リードを獲得するテレアポチーム、テレアポチームが獲得したリードに対してウェブ商談を行うインサイドチーム、インサイドチームが見込みありと判断した案件を引き継いで、成約まで持って行くフロントチーム。

 インサイドチームの繁忙期は冬から春だ。見守りセンサーの補助金の申請を視野に入れた介護施設から問い合わせが増え、ウェブ商談が激増する。その代わり、見守りセンサーの納品が始まる秋ごろになると少し落ち着いてくるので、リモート業務メインであるにもかかわらずインサイドチームは、キッティングチームの補佐として出社することが増える。

 真壁が所属している伴走支援チームの繫忙期は春から夏だ。一年を通して既存施設のデータ分析依頼をこなす必要があるが、この時期は見守りセンサーの導入を検討している介護施設はメーカーの選定をするためにトライアルを行うことが多い。そのため、トライアルの一環として分析した入居者のデータを報告し、「弊社のセンサーを導入すれば、データを分析するだけでなく、日々のケアにどのように生かせばよいのか助言ができます」と他社との差別化を図るためにアピールするのだ。

 補助金の申請が終わる時期が近づくと、トライアルの件数がグッと下がるため業務に余裕が少し出てくる。そのため、人手が足りなくなる秋から冬にかけて、インサイドチームと伴走支援チームは納品作業に駆り出される。結果的に一年を通してかなり忙しいのである。

眞壁はギリギリまで煙草を吸うと、灰皿に吸い殻を落とした。

 再び車に乗り込み三分ほど走らせると、白い壁に黒っぽい屋根の建物が見えてきた。朝倉が広い駐車場の端に車を止めると荒木が振り返り、今日の段取りを説明する。

「今日の設置は有料です。五ユニットで全て個室、全床で五十床です。一階に一ユニット、二階に四ユニットあって、中庭を囲むような回廊式の建物になっています。今日と明日の午後に近くの公園に紅葉狩りに行くそうなので、比較的設置しやすいかと思います。十一時から食堂でお昼ご飯を食べるためにご入居者様が移動を開始するので、そのタイミングで設置を開始します。それまでは設置の下準備をお願いします」

 有料とは有料老人ホームの略称だ。有料老人ホームは介護付きと住宅型の二種類あり、住宅型有料老人ホームは介護テクノロジー導入支援事業の補助金を使うことができない。よって、ここでの有料とは介護付き有料老人ホームのことになる。ユニットとは介護施設で使われる単位であり、個別ケアを行うために一ユニットは五人から十人で構成されている。

 荒木は全員が頷くのを確認すると手元の書類に目を落とした。


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