第5話 分析者、現場へ向かう
秋晴れという言葉がピッタリなほど晴れ渡った空に、薄い和紙のような雲がたなびいている。集合場所である駅のロータリーには早くも、キッティングチームの荒木徹と、営業部の白川知夏が揃っていた。真壁に気づいた二人は「おはようございます」と言い、キャリーケースを転がしながら眞壁の元へ集まった。
「おはよう。朝倉さんは?」
「レンタカー取りに行っています」
はきはきと答えた荒木徹は、入社十三年目のベテランだ。キッティングチームの中でもセンサーの設置が一番早く正確で、トラブル対応にも長けている。
荒木に相槌を返すと真壁は白川に軽く頭を下げた。
「白川さん、営業部なのにごめんね。納品手伝わせて」
「いえいえ!全然、大丈夫です。この時期は商談件数が減るので、少し業務に余裕があるんですよ。それに、真壁さんのデータ分析の講座が聞けるって朝倉さんが教えてくれたので、楽しみです」
慌てたように顔の前で手を振る白川知夏は、入社二年目のインサイド営業だ。インサイド営業は週の半分はリモートのため、直接顔を合わせる機会はあまりない。真壁は首の後ろに手をやりながら、困ったように笑った。
「そんなの、いつでも社内でやるよ」
「現場で聞いた方が、スタッフさんが疑問に思う箇所とか知れるので、商談に役立たせて頂きます」
ニッコリ笑いながら話す白川の爪先が、秋らしい色合いにネイルされていることに気づき真壁は真顔で尋ねた。
「やっぱり白川さんも爪を守るためにネイルしてきたの?」
「はい?」
きょとんとしている白川に、以前、石原とやり取りした内容を話していると、短くクラクションを鳴らしながら、駅前のロータリーに乗用車が止まった。車から降りた朝倉が「お待たせしました」と手を振りながら言っている。
トランクに荷物を詰めていると、朝倉が驚いたように真壁のトートバッグを指さした。
「え、真壁さん、荷物それだけですか?」
「まぁ、男性の荷物なんてこんなもんだろ」
「そんなにコンパクトには収まらないですよ。二泊ならキャリーケースは必須です」
「何をそんなに入れているんだ?」
「着替えでしょ。スキンケアセットでしょ。美顔器でしょ。あとは」
「えー!美意識高い!」
入っているものを指折り数えている朝倉に、白川が笑いながら声を上げた。朝倉と白川の賑やかなおしゃべりを聞きながら真壁が車の後部座席に乗り込むと、隣に白川が座り、助手席には荒木が腰かけた。荒木が入れたナビに従って朝倉がハンドルを回していく。
「ここからどのくらいで着く?」
後部座席からナビを覗き込みながら真壁が聞くと、「三十分くらいですね」と荒木が答えた。駅前のささやかな繁華街を抜けると、ひたすらに長閑な田園風景が広がる。すっかり稲刈りが終了し、薄い空模様が早くも冬の訪れを感じさせた。
「ちなみに、これから行く施設、白川さんのお兄さんが働いているんですよ」
「えっ!そうなの?」
ぼんやりと窓の外の風景を見つめていた真壁は朝倉の発言にびっくりして、隣に座っている白川に顔を向けると、白川はおかしそうに笑いながら答えた。
「そうなんです。相談員やっているんです」
「ウェブ商談をやった相手が二番目のお兄さんだったですよね?」
「そうなんですよ。びっくりしました」
朝倉の話に頷く白川は楽しそうだ。
「二番目?」
真壁が聞くと白川は指を三本立てながら言った。
「私、兄が三人いるんです。相談員やっている兄は次男なんです」
「へぇ!兄弟が多いね。上にお兄ちゃんが三人もいたら可愛がられるでしょ」
「だいぶ甘やかされたと思います」
謙遜することなく頷きながら答えた白川は、助手席の荒木に話しかけた。
「荒木さんのお子さんも四人兄弟ですよね」
「そうだね。毎日うるさいよ」
振り返りながら困ったように笑う荒木は幸せそうだ。真壁は深く背もたれにもたれながら、そういえば、と言った。
「一番下の子、もう二歳だっけ?」
「そうです。真壁さんから頂いた出産祝いのお皿とコップ、今でも使っていますよ」
「そりゃ、良かった」
「ほら、これがそれです。だいぶ柄がはげてきちゃいましたが」
嬉しそうにコップを持った子供の写真を見せてくる荒木は、ただのパパの顔になる。白川が可愛いですね、と言いながら写真を覗き込んだ。
「もうそろそろ着きますけど、コンビに寄ります?」
朝倉の言葉に真壁は片手を挙げた。
「一服だけしてもいい?」




