第4話 群馬出張、決定
真壁はカレンダーを眺めながら隣で立っている石原に訪ねた。
「ちなみに導入時期っていつ?」
「来月ですね。きっと紅葉が綺麗ですよ」
「旅行でいくならウキウキなんだがな」
「ま、そろそろ繫忙期に突入なんで気張ってください」
逞しくガッツポーズしている石原の爪が派手な赤色をしていることに気づき、思わず「凄い色だな」と呟くと石原は嬉しそうに爪を見せてきた。
「可愛くないですか?マグネットネイルです」
見る角度によって微妙に色合いが異なるマグネットネイルとやらは、今時の若い女性の爪といった感じだ。下北沢や高円寺で売っていそうな、大変個性的な柄シャツを着こなし、キッチリ化粧をしている石原は雑誌編集部にいそうな雰囲気である。
おしゃれに気を使うことは結構なことだが介護施設に行くこともあるのに、その派手な色のネイルはいかがなものか、と思ったが、これを言ったらセクハラになるのだろうか、と思案して真壁は言葉を飲み込んだ。そんな真壁の表情を読み取ったかのように、石原はニヤリと笑った。
「ネイルしといたほうが、爪が割れないんです。センサーの設置をしていると、どうしても爪が欠けたり割れたりしますから。会社の福利厚生でネイル代を出して欲しいですよ」
「その理由、絶対に後付けだろ」
「あ、バレました?」
肩をすくめながら笑う石原が「でも、センサーの設置で爪が欠けちゃうのは本当ですよ」と真面目な顔で言っているのを聞き流していると、朝倉が嬉しそうにノートパソコンを片手にやってきた。
「大島さんに許可もらいました!同行よろしくお願いします」
まじか、と思いながら首を伸ばして上司である大島のデスクに目を向けた。会社の創業メンバーでもある大島は真壁の視線に気がつくと、五十代半ばのぽっちゃりとした体を揺らしながら、「頑張れ」と口をパクパクしながら親指を立てて笑っている。
真壁が所属しているカスタマーサクセス部は、三つの部署に分かれている。センサーの組み立て、納品から設置を行うキッティングチーム、導入後の問い合わせを受け、メンテナンスを行うサポートチーム、入居者のデータを分析して施設へフィードバックする伴走支援チーム。それを統括しているのが部長である大島だ。
伴走支援チームは真壁を含む五人で構成されており、全国各地から来る依頼に応じて介護施設に入居している利用者の生体データを分析している。
本来ならば、見守りセンサーの納品作業はキッティングチームの仕事だが、繫忙期になるとキッティングチームだけでは回らないため、カスタマーサクセス部全体で納品作業を行う必要がある。しかし、一年の内で最も忙しい十一月から二月は社内の人間だけでは対応しきれず、昨年は営業部やシステム開発部だけでなく、社員の奥さんや親戚にバイトに来てもらい、納品作業をなんとか間に合わせた。
今年度からキッティングチームは二人増えたが、売り上げ目標は前年度の倍のため、とても回りそうにない。今年もおそらく社内総出で納品作業に追われるだろう。当然、普段の仕事と並行して行う必要があるため残業もそれなりに増える。
真壁の隣に椅子を持ってきて座った朝倉は、旅行サイトを開きながら楽しそうに言った。
「真壁さん、ホテル手配しておきますね。せっかくだから草津温泉に泊まります?」
「……野郎と温泉行ったって全然楽しくない」
「そんなこと言わないでくださいよ。あ、ダメだ。草津温泉は遠すぎた。せっかくだから温泉があるホテルを探しますね。朝ごはんは食べたい派ですか?」
「あればありがたい」
「わかりました。レンタカーと一緒に手配しときますね」
ウキウキと話す朝倉に「よろしく」と言うと、真壁は残りの仕事を片付けるべく、再びモニターに向かい合った。




