第32話 命の数字
施設長と看護師、各フロアリーダー、録画用にスマホを構えている青樹の目の前で、真壁は初回のデータ報告会を行った。
全員に印刷した資料を配り、用意してもらったモニターを使って真壁はデータの基本的な見方を伝えていく。入居者五十人分のデータを説明していると、膨大な時間がかかってしまうため、状態が著しく芳しくない方をピックアップして説明をした。
「老衰でご逝去される方のデータの特徴ですが、ある程度段階をふみます。まずは、このように心拍数が瞬間的に百を超えるようになります。なぜ、このようなデータが現れるかというと、心肺機能や心臓機能の低下により酸素の供給が足りなくなるため、心拍数を上げて足りない酸素を補おうとするためです。最初は一日に一回や二回と回数は少ないですが、1日に何回も心拍数が百を超える様になったら要注意です」
モニターに映し出されたデータにパソコンを通じて書き込みをしながら真壁は話を続けた。
「そして、次第に心拍数百以上を維持する時間が数分から数時間続くようになります。これはさらに心肺機能、心臓機能が低下したことにより、生命維持をするために心臓が全力で動く必要があるからです。車のアクセルを全力で踏まないと、動くことができないといったイメージです。生命活動において、最も優先されるのは脳へ酸素を送ることです。この段階になると手足などの酸素供給は後回しにされるため、側からみると静かに眠っているように見えます」
真壁の例え話に何人かが神妙な面持ちで頷いた。その様子を横目で捉えながら、次の資料をモニターに映し出す。
「そして、ご逝去される数時間前、もしくは数日前から心肺停止が断続的にみられるようになります。これは車に例えるとガス欠状態です。アクセル全開で動いていた心臓が持たなくなり、一時的に活動を止めますが、直ぐに動き出します。この症状がで始めましたら、残された時間はほとんどない、と思ってください」
配った資料に各々メモをしている介護職員を見渡しながら、真壁は亡くなる直前に見られるチェーンストークス呼吸や死前喘鳴、下顎呼吸といった特徴をデータでどのように見ることができるのか、説明しようか迷ったが思いとどまった。
ご逝去されるまでの残り時間の目安とされるこれらの特徴的な呼吸は、データでみるよりも目視すれば明らかだ。
チェーンストークス呼吸はご逝去される数時間前から数日前に見られるが、死前喘鳴は数時間前から前日、下顎呼吸は数時間前、場合によっては数分〜数十分前に見られる。
百を超える心拍数が頻繁に確認される、もしくは数十分から数時間維持される状態が確認できたら、死期は近いと判断してもらった方が、現場としては分かりやすいだろう。




