第33話 数字の先に日常
「ご利用者様の心拍数が百を頻繁に超えるようになってきたら、お看取りの方向けのアラートを設定することを推奨致します。また、ご家族の方に連絡をする目安としてもご活用ください」
モニターにお看取りの方向けのアラートを表示しながら、真壁はさりげなく職員の表情に注視した。それぞれの理解度を把握しながら進めていかないと、介護職員がデータを見て日々のケアに生かすことはなかなか難しい。
「また、再々のお伝えになりますが、弊社のイマココは医療機器ではございません。心拍数や呼吸数はデータの精度を重要視しているため、五分間の平均をモニターに表示させています。ここまでで、何か質問がある方、いらしゃいますか」
ベテランといった雰囲気の女性介護職員がすかさず「はい」と手を挙げた。
「なぜ、データは五分間の平均なのですか?」
真壁は頷くと、できる限りかみ砕いて説明を意識した。
「バイタルセンサーは検知した振動を解析して、ご利用者様の状態をデータとして表示する仕組みとなっています。検知する振動の中には、建物全体の揺れ、ベッドに置かれているラジオや携帯など、人間が発する振動とは異なる振動も検知してしまうので、余計な振動を除去し、人間が発している振動だけを抽出して解析を行う必要があります。そのため情報処理の関係で五分間の平均を出す使用になっています」
「もっと短くできますか?いつ亡くなってもおかしくない方は、早めに異変に気づきたいんです」
これもよく受ける質問だ。一分単位でリアルタイムにバイタルデータをチェックできた方が安心、という介護職員の気持ちは分からなくはないが、そもそも一分単位でバイタルデータのチェックが必要なくらい深刻な状態なら、医療機器を使用した方がよい。
「三分平均でデータを表示させることも可能ですが、多少精度は落ちます。ただ、目安として使用して頂く分には十分な精度を誇っています。もし、終末期の方を見守るとしたら、心肺停止を検知すると発報するアラートを設定することをお勧めします。これは、平均心拍数に関係なく、心肺停止した時点でアラート音がなります」
真壁の説明に質問をした介護職員は納得したように頷いた。
医療機器のように一分ごとにリアルタイムで心拍数や呼吸数をモニター上に表示できるに越したことは無いが、イマココの開発方針はスピードより精度を重要視している。なぜなら、将来的に介護予防に見守りセンサーを役立てるために、データ分析を活用することを視野に入れているからだ。精度の良いデータを分析できれば、その分、分析結果も信頼に値する。
もちろん、医療機器並みに精度とスピード、両方良いものであれば扱う側としては嬉しいが、そうなると開発費がとんでもなく高くなり、その開発費を回収するために販売価格を上げざるをえない。そこが医療機器と見守りセンサーの価格に差が出るゆえんだろう。
介護職員から次々に飛び交う質問を真壁は感心しながら答えていった。質問が出るのは興味が高い証拠だ。自分事としてセンサーを使って行こうと意識が高い施設程、導入当初は多くの質問が出る。




