第25話 人を中心にした介護
やる気に燃えている朝倉の肩に手を置きながら、藤倉が優しいまなざしを向けて頭を下げる。
「半澤さん、こいつは若いけどいい着眼点をもっています。何卒、今後ともお引き立てのほど、よろしくお願いいたします」
「えぇ。色々と相談させて頂きます」
一通り挨拶が終わったところで、施設内をざっと案内してもらう。半澤理事長が率いる法人は規模も敷地もかなり大きい。特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、有料老人ホーム、デイサービスがあり、訪問介護、訪問看護が各地域に点在している。
現在、イマココは入所施設である特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、有料老人ホームに導入済であり、訪問介護、訪問看護が担当している十軒の自宅に設置されている。
半澤の案内に従って施設内を見学しながら、朝倉は感心のあまり内心唸った。
とにかく雰囲気が明るい。建物が開放的な作りで、至る所に木材が使用されているため、温かみのある空間に仕上げられているが、それ以上に働いている職員の表情が明るいのだ。すれ違う清掃スタッフの方までもが笑顔で挨拶をしてくれる。
忙しいはずの介護現場が、なぜかゆったりと時間が流れている。窓辺に飾られている花までも、くつろいで咲いているように見えた。なぜこんな雰囲気なのか、理由を知りたくなった朝倉は半歩先を歩いている半澤に声をかけた。
「あの、半澤理事長、質問してもよろしいでしょうか」
「もちろん」
「職員の方々の雰囲気がとても明るいですよね。何か特別な取り組みをされているんでしょうか」
「そうねぇ。参考になるかわからないけれど」
そう前置きして半澤は施設で行っている様々な取り組みを教えてくれた。
まず、できる限りシステム化すること。機械に任せられることは任せて、人にしかできないケアを重要視する取り組みを行う。様々なICT商材を導入する際には、必ず職員が話し合い、当事者意識を持って導入を進めること。
食事介助、入浴介助など、人手不足になりがちな時間帯に、スポットでシフトに入れる仕組みを取り入れていること。育休明けの職員が復帰しやすいように、小さいながらも託児所を設けていること。
法人内で運営している障害者施設に通っている利用者を清掃員として雇い、月一で職員同士が業務の振り返りを行うことで、業務の効率化を図るようにすること等、次々と出てくる取り組みを朝倉はしっかりと頭の中に刻み込んだ。
営業で様々な施設に訪問すると、必ずと言っていいほど聞かれる質問が「他の施設ではどのように見守りセンサーを活用しているのか?」だ。
試行錯誤で進めるよりも、上手くいっている事例をお手本にした方がずっと物事は上手く運ぶ。しかし、見守りセンサーはあくまでもケアを支える一部にしか過ぎない。どのような施設作りを目指すかは十人十色だが、理想とするケアを行うためには様々な視点から物事を見て改善を行う必要がある。
営業が商談を進める中で、他の施設の事例は武器になる。一つでも多く引き出しを増やすために、朝倉は一言も漏らすまいと耳を傾けた。
「見守りセンサーが定着するまでに、それなりに時間も労力もかかるからね。各ユニットに見守りセンサー係を設けて、多くはないけど手当てをつけているよ」
「それは職員の方、喜ぶでしょうね」
「何といっても、給与に反映されるのならモチベーションの維持もしやすいからね」
ニカっと笑うと半澤は、家族と利用者が面談できる談話室に朝倉たちを案内した。可愛らしいテーブルクロスがかけられているテーブルを指さして、半澤は少し誇らしげに胸をはる。
「このテーブルクロスは、法人内の障害者施設に通っている利用者が作ったものを買い取ったもの」
その言葉に朝倉は、えっ、と小さくつぶやいた。
「わざわざ買い取るんですか?」
「そう。必ず買い取るの。地産地消って程ではないけれど、自分が作ったものが売れることが利用者の喜びになり、モチベーションにもつながる。自分が社会の役に立っている、という自尊心を育むことはとても重要なことだと私は考えているから、適正価格で買い取る。ちなみにうちの施設のご利用者様が食事の時に使う箸置きも、障害者施設で作られたもの」
ほら、これ、と言って半澤が談話室に設けられたカウンターに並べられている箸置きを指さした。すこしいびつな野菜の形をした箸置きはどれも味がある。
朝倉はその箸置きをじっくり見ると、テーブルクロスに再び視線を戻した。意外だ、と感じる自分がいることに少なからず、羞恥心を覚える。仕事で障害者施設にイマココを導入したことはもちろんあるが、朝倉が知っている障害者と言えば、何をするにも補助が必要、というイメージしかない。
しかし、半澤理事長は障害の有無にかかわらず対等に接しようと心がけ、実践している。そのことに器の大きさを感じ、自分が無自覚のまま差別していたことに後ろめたさを感じた。




