第24話 受け継がれる信頼
担当者が来るまで、受付の端で立って待っていると「藤倉君!」と大きな声が響いて思わず首をひねる。声だけでなく、それなりに体の大きな女性が人懐っこい笑顔で近づいてきた。
「半澤さん、ご無沙汰しております」
にこやかに笑いながら腰を折る藤倉に倣って、朝倉も慌てて頭を下げる。
「紅葉、綺麗だったでしょ!」
ガハガハ笑いながら藤倉に、ちょうど施設の畑でサツマイモが取れてさ、と大きな声で話す半澤の案内に従って相談室に通されると、名刺交換が始まった。
「藤倉の後任を務めさせていただきます朝倉です。よろしくお願いいたします」
「あらやだ、ずいぶんと若い子じゃない」
朝倉が両手で差し出した名刺を丁寧に受け取りながら、半澤は目を輝かせながら朝倉の顔を凝視した。ザ・オバチャン、といった言葉がぴったりの半澤は「藤倉君の子どもと同い年くらいなんじゃない?」と言いながら藤倉を見やる。
「そうですね。一番下の息子と同い年です」
「ひゃー!もうそんなに?私らもジジババになるわけだ」
ひとしきり驚くと半澤はぷっくりした指で名刺を差し出しながら、ゆっくりと腰を折った。
「理事長の半澤です。こちらこそよろしくお願いします」
半澤のことを施設長だと思い込んでいた朝倉は、思わず目の前で名刺を差し出している相手の顔を凝視してしまった。よく言えばおおらか、悪く言えばがさつな印象を受けた朝倉は、今まで面識のある理事長たちのイメージと合わず、つい本音が目に出てしまう。
マスクに顔の半分を覆われていても、雄弁に物語る朝倉の目を見て半澤は豪快に笑いながら「おばちゃんが理事長でびっくりした?」と言った。その言葉に朝倉は慌てて手を顔の前で振る。
「いえ、理事長にしてはお若いな、と思ったので」
「やだ、口が上手いじゃない。もう私は藤倉君より年上だよ」
「えっ!」
素直に驚きを口にすると、愉快そうにガハハと半澤が笑う。そんな理事長を見て藤倉は首の後ろに手をやり「実は高校時代の先輩なんだ」とはにかんだ。
「お互い剣道部でさ。藤倉君、全国に出場した強者なんだよ」
「半澤さんも全国に行ってるじゃないですか」
「あれはたまたまラッキーが重なっただけ」
思い出話に花を咲かせる二人を見つめながら朝倉は、藤倉さんって茨城出身じゃなかったけ、と首を傾げる。そんな朝倉の表情を読み取った半澤はニコニコしながら「こっちに嫁いできたのよ」と言った。
チラリと左手を見れば銀色の指輪がきつそうに収まっている。ありゃ、絶対に抜けないな、と思いながら「そうなんですね。世間って狭いですね」と相槌を打った。
そんな朝倉を満足そうに見つめると、半澤は穏やかな声で語った。
「ICTが進んでいるとはいえ、やっぱりアナログの世界だからね。人と人のつながりを重要視する人は多い。私はコミュニケーションを何よりも大事にしているから、朝倉さんのように素直な人が担当になってくれて嬉しいよ。長い付き合いになると思う。これからもよろしくね」
「こちらこそ、微力ではございますが精一杯、お力添えさせて頂きます」
この人とは上手くやっていけそうだ。藤倉さんが引き継いでくれたお客様の役に立てるように気合を入れなければ、と朝倉はフンと鼻息を熱くした。




