第21話 センサーを入れるだけでは
十七時過ぎに電話が鳴り響いた。ディスプレイに藤倉と表示され、慌てて受話器をとる。
「お疲れ様です。石原です」
『お疲れ様。いやー、施設の人が勘違いしていたみたいで、二〇八号室はタダの電池切れで、壊れていなかったよ。ちなみに破損していたのは二〇一号室だった。こっちは部品が外れていただけだから、すぐに治ったよ』
「えっ、すみません……」
『いいよいいよ。ただ、施設によっては見守りセンサーが定着していないから、スタッフが二〇八号室のトイレ用の呼び出しボタンって言っても、一応シリアル番号確認した方が良いかもね』
「承知いたしました。お手数をおかけしてすみません」
石原は恐縮しつつ見えない相手に頭を下げて電話を切ると、大きなため息をついた。
介護職員から「二〇八号室のトイレ用の呼び出しボタンが壊れた」と問い合わせがあった時点で、「それはほんとうに、二〇八号室のトイレ用の呼び出しボタンですか?」と疑おうと思ったことなど一度もない。
そもそも、そのセンサーがどの居室で使用されているのか、センサーに貼っているシール番号を見ればわかる仕様になっているのだ。介護職員が二〇八号室の呼び出しボタンの話をしていても、実は部屋番号を勘違いしている、なんて普通思うだろうか?
「……私、これから問い合わせしてくるお客様はポンコツだ、って思うことにします」
「さすがにそれは言い過ぎ」
コーヒーを飲んでいた西野は吹き出しそうになりながら笑った。
「藤倉さんに行ってもらった施設、二〇八号室の呼び出しボタンが壊れたってスタッフさんは言ってましたけど、実際はタダの電池切れで、壊れていたのが二〇一号室なんですって」
「あらあら」
「どうして、導入して一年近く経つのにこんな感じなんですかね?」
唇を突き出しながら不満げに言う石原に、首を傾げながら考えるように西野は答えた。
「原因は色々あると思うけど、人の入れ替えが激しいとセンサーの定着はなかなか難しいし、スタッフが納得していないのに役員命令で導入したところとだと、そもそもスタッフの熱量が低いし」
「確かに役員案件でトップダウンで導入した施設ありましたね」
石原は今年の冬にイマココを導入したとある施設を思い出した。様々なメーカーの見守りセンサーをトライアルで試した結果、介護職員が選定した見守りセンサーは競合他社だった。しかし、イマココの役員が先方の理事長とどのような話をしたのか知らないが、なぜか介護職員の総意を無視してイマココが導入されたのだ。
この経緯を営業の朝倉から聞いた時、石原は介護職員に激しく同情した。施設長は見守りセンサーを使う介護職員が一番いいと思ったものを導入できるよう根回しをしていたそうだが、結果としては現場の意見を全力でシカトされたのである。
当然、現場の介護職員の反発が発生し、見守りセンサーを活用するモチベーションはだだ下がりだ。役員は売上を持つ必要がないので、朝倉の売上として社内計上されたが、朝倉は白目をむく勢いで「やりずれぇ」と愚痴をこぼしていた。
熱量が低い介護施設に見守りセンサーを導入したところで定着は思ったように進まず、遠隔でモニターを見る限りあまり使用していないように見える。サポートしたくても、当人たちのやる気が乏しければ暖簾に腕押し。仕方ないとはいえ、もっとやる気のある施設に補助金を出せばいいのに、なんて税金の無駄遣いなんだろう。そう思えてならない。
「一部のスタッフが一生懸命使おうとしてくれても、施設全体で目的をもって使おうとしないと定着は難しいかもね」
西野は「やりにくいよね」と困ったように眉を下げた。
「そもそも、導入目的って営業がヒアリングしますよね?見守りセンサーを使って、どの課題を解決したいのか、ってヒアリングしてから提案しますよね?」
「そうね」
「なのに、どうして施設によってこんなにも活用具合が違うんでしょうか」
コーヒーをゆっくりと飲みながら「そうねぇ」と西野は呟いた。




