第20話 サポートという仕事
「それでは営業に確認してから折り返しでもよろしいでしょうか?」
『すみません、それで大丈夫です。よろしくお願いいたします』
相手の申し訳なさそうな言い方に「大丈夫ですよ」と答えてから電話を切った。担当営業である藤倉のスケジュールを確認し、彼の携帯に電話をかけるとすぐに繋がる。
『もしもーし』
年齢を感じさせる深みのある声が受話器越しに響いた。背後でカーナビの案内音声が聞こえるので、どうやら運転しているようだ。
「運転中すみません。ちょっとご相談があるんですが、今、大丈夫ですか?」
『いいよ』
石原は手短にことの経緯を相談した。
『あー、なるほどね。そしたら、僕が行くよ。その施設の近くを回っているから。今から一件アポがあるから、それ終わってからだと、十七時くらいには到着できると思う』
「ほんとうにすみません。でも、呼び出しボタンが壊れているそうなので、多分交換しないといけないと思うんです。なので、他の居室の呼び出しボタンのペアリングを解除して二〇八にペアリングし直して頂きたいんです」
『あ、予備の呼び出しボタン持ってるよ』
「それって藤倉さんのデモ機ですか?」
『いや、何かあった時用に各センサー一個づつ、いつも車に積んであるんだ』
「さすがすぎます!そしたらそれを使ってください。在庫のシステム入力はこちらで対応します」
心の中でもろ手を挙げながら石原は、埼玉で営業回りをしている藤倉に頭を下げた。
『うん。ペアリングの仕方はよくわからないから、施設に到着したら電話で教えてもらってもいい?』
「もちろんです。施設には藤倉さんが十七時頃に到着することを伝えておきます」
『よろしく』
電話が切れると思わず石原は「藤倉さん、神!」と言いながら天を仰いだ。斜め向かいに座っている西野がこちらに顔を向けたので、ことの経緯を説明すると、「さすが創業当時のメンバーだね」と微笑んだ。
「営業統括部長なのに、営業部で一番売上げ持っているってすごくないですか?ずっと現役で施設を回っていますよね」
「私が知る限りトップをずっと走ってるよ。私、ここに入社した時は営業部だったけど、とにかく小まめにお客様に連絡してて、凄いなって思った」
「藤倉さん、すごすぎる。西野さん、何年目でしたっけ?」
「八年目だね。あっという間に三十五歳だよ」
肩をすくめながら西野が答えた。いつもニコニコ微笑んでいる西野は、実年齢よりずっと若く見える。深く椅子にもたれながら石原も「私もあっという間に三十代になってしまいました」とため息をついた。
「そういえば、藤倉さんって、そろそろ定年退職ですよね?」
「そうだね。たしか、来年かじゃなかったかな」
「うちの会社の定年って六十五歳ですか?」
「そうそう。藤倉さんが初めての定年退職者になる予定らしいんだけど、本人の希望を聞いて定 年退職の年齢を六十歳から六十五歳に引き上げたらしいよ」
「へぇ!凄いですね」
「社長がこの会社を立ち上げる時に、よそから引っ張ってきたのが藤倉さんだから、やっぱ長くいてもらいたいんじゃない?」
「藤倉さん、優秀ですもんね」
感心したように頷く石原に西野はにっこり微笑みながら言った。
「ところで施設には電話しなくていいの?」
石原は深く寄りかかっていた姿勢を慌てて正して受話器を取った。




