第19話 問い合わせから見えるもの
センサーの活用度合いは施設によって大きく異なる。モニターを見て遠隔で入居者がベッドにいるかどうかを把握するためだけに使用している施設もあれば、真壁をはじめとする伴走支援チームのデータ分析報告書を活用して日々のケアに生かそうと試みている施設もある。
もちろん、その介護施設が理想とするケアに見守りセンサーが役に立っていれば、こちらとしても役に立てていることに満足感を感じることができる。しかし、本当に活用しているのか?と疑問に思うことが多々ある。
例えば、入居者がベッドに臥床しているのに、モニター上では『ベッドにいません』と表示されていたとする。日中は居室と共有スペースを移動している入居者もいるし、ステーションに設置されているモニターの前にスタッフがずっといるわけではないのだから、気づかずに見逃してしまう事もあるだろう。
しかし、夜勤者は絶対に気づくはずだ。見守りセンサーを導入したことによる最大のメリットは、夜勤者の負担削減といっても過言ではない。
従来は一定の時間ごとに訪室し入居者の安否を確認する必要があったが、見守りセンサーを導入することで、モニター上で一括管理ができるようになった。本来寝ているはずの時間帯に、モニター上で入居者が『ベッドにいません』と表示されれば、心配になって居室に確認しに行くだろう。実際に入居者が臥床していれば、モニター上に表示されている状態に不一致が生じていることに気づくはずだ。
そういった不一致にすぐに気付いて問い合わせがくる施設もあれば、数日間バイタルセンサーのデータが取れていない状態でやっと問い合わせをしてくる施設もある。そのような施設から問い合わせが来ると石原は決まって「なぜ使いこなそうとしないのだろう」と疑問に感じてしまう。
細かい値段は知らないが、決して安いものではないはずだ。ランニングコストだって毎月かかっている。見守りセンサーをどのように活用するのかは介護施設の勝手だが、高性能なものだけに勿体ないと思えてならない。
再び社内に電話が鳴り響き、石原は思考を中断させて受話器を取った。
「はい。お電話ありがとうございます。イマココの石原が承ります」
『お忙しいところ申し訳ございません。御社の見守りセンサーで、扱い方についてご教示頂きたいのですが、よろしいでしょうか』
大変丁寧で物腰が低い言い方に、石原は驚きながらも施設名を伺うとその施設のモニター画面を開いた。
『二〇八号室のトイレで使用している呼び出しボタンが壊れてしまって、空室の一〇九号室の呼び出しボタンを使用しようと試したんですが、鳴らないんです』
問い合わせ内容を聞いて石原はチラリと導入時期を確認した。もう少しで一年が経つ。
イマココの見守りセンサーは各センサーが取得したデータを、ゲートウェイを経由してクラウドに保存する仕組みになっている。そのため、各センサーとゲートウェイはペアリングされており、セットで使用するのが基本だ。例えばAゲートウェイにペアリングされているセンサーをBゲートウェイに使用するなら、Aゲートウェイとセンサーのペアリングを解除し、Bゲートウェイにペアリングをし直さなければならない。
そのため、ペアリングされている各センサーとゲートウェイはナンバーシールが必ず貼られている。同じ番号のものを居室でお使いください、と必ず説明はしているのだが、なぜそのことが定着しないのだろうか。
石原はため息を堪えて、懇切丁寧に説明をした。すると相手は困ったような声を上げた。
『そうなんですね……。実は二〇八号室のお客様がこの呼び出しボタンを投げてしまった時に、電池を入れる部分が破損してしまったんです。今日中に何とかならないでしょうか』
「……今日中ですか。本日、代替え機を送るので、明日の午前に届くように手配する形では難しいでしょうか」
離床センサーやトイレセンサー等は遠隔でペアリングの解除、再登録ができるのだが、困ったことにトイレで使用する呼び出しボタンは遠隔でペアリングができない仕様になっている。トイレ用の呼び出しボタンは、社員が使用するパソコンにインストールされたソフトで設定をしなければならない。
『申し訳ございません。二〇八号室の方はどうしても必要なんです』
時計で時間を確認し、カスタマーサクセス部のチームメンバーの予定をざっと確認した。今日はメンテナンスや導入設置が重なり、ほとんどのメンバーが社外に出ているため、社内で電話対応しているサポートチームは石原を含めて二人しかいない。ただでさえ全国からくる問い合わせを二人で捌くのはきつい。会社からだと二時間程で施設に到着可能だが、流石にこれ以上社内から人がいなくなるのは困る。




