第16話 家族という日常
群馬のお土産を片手に帰宅すると、いい匂いが鼻孔をくすぐった。
「ただいま」
声をかけると娘たちが、どたどたと玄関に姿を現した。一日で一番幸せを感じる瞬間である。
毛先が可愛らしくカールした父親譲りの髪質をした由奈に、子どもたち用に買ってきたお土産を手渡し、まだまだ体重が軽い由衣を片手で抱き上げると、ぞろぞろとリビングへ入った。
「おかえり」
対面式キッチンで調理をしている妻の恵子が、皿に肉を並べながら言った。
「お!すき焼きかぁ!豪華だな」
「ふるさと納税のお肉が届いたのよ」
嬉しそうに美しい霜降りの肉を並べた皿を見せながら、恵子はニカっと歯を見せて笑った。
「先にご飯にする?」
「いや、風呂に入ってからにするよ」
「じゃあ、子供たちも一緒に入れてくれる?」
「わかった」
紙袋からお土産を取り出している子供たちに声をかけ、浴室で順番に頭を洗ってやる。来年に小学生になる長女の由奈は、シャンプーハットは卒業するのだ、と息巻いて目を思いっきり閉じるだけでなく体全体に力を入れて、シャンプーが流されてるのを耐えていた。
その様子に微笑みながら長女の頭を洗い終わると、今度は次女の頭を洗った。
「今日はこれがいい」
由奈がピンク色の袋を手に取った。入浴剤好きの恵子の影響で、湯船にはかならず入浴剤を入れている。入浴剤の袋を破って渡すと、娘たちは嬉しそうに入浴剤を湯船に投入した。瞬く間にピンクの絵具を水に混ぜたような色になる。
「みて、いちご牛乳みたいで美味しそう」
その発想に真壁は思わず笑った。のびのびと足を広げながら真壁は肩まで湯船に浸かった。その様子を見て娘たちも真似して湯船に浸かる様子を温かい気持ちで見守る。広い湯船に浸かれるよう、家をリフォームして正解だったな、とつくづく思う。
風呂から上がるとはしゃぐ娘たちを捕まえてドライヤーで髪を乾かし、真壁自身は自然乾燥に任せた。食卓に豪華なすき焼きが用意されている様をみて、特別な日でもないのにお腹も心もウキウキと騒ぎ出す。
微笑みながら恵子がビールをお酌し、真壁も妻にお酌し返すと軽く乾杯した。何でも真似したがる年頃の娘たちも、麦茶の入ったプラスチックのコップをぶつけてくる。
由奈が欲しがるランドセルの色に耳を傾け、出張の疲労もあってかあっという間にほろ酔い気分になった。
子どもたちを先に寝かしつけて、ベランダで本日最後の煙草をじっくりと堪能した。 中秋の名月からすっかりかけてしまった月を眺めていると「おーい」と言いながら妻がベランダに顔をだした。
「もしかして飲み比べ用の地酒を買ってきてくれた?」
どうやら勝手にお土産を入れた紙袋の中身を除いたらしい。真壁はニヤッと笑いながら「晩酌しちゃう?」と振り向いた。
おつまみとして買ってきた群馬のお土産を小皿に移している恵子に、真壁はあきれたように言った。
「わざわざ皿に移さなくても、そのまま食べれば良くない?」
「お皿に盛った方が、もっと美味しく感じるのよ」
恵子は十年以上も前に新婚旅行で買った伊万里焼の小皿に、ネギ味噌と味玉こんにゃくをよそうと、お揃いのおちょこをテーブルの上に並べた。
「なんだ。また買ったのか」
富士山をイメージしたかのような色合いのおちょこを手に取りながら、真壁は妻の顔を見た。非難の目線を投げたものの、恵子はケロッとした様子で「だって一目惚れしたんだもん」と悪びれることなく肩をすくめる。
恵子の収集癖はおそらく義母譲りだろうが、食器好きな妻のおかげで我が家の食器棚には四人家族とは思えないほどの量の食器が収納されている。妻の実家に娘たちを連れていくたびに、見たこともない食器が食卓に並ぶものだから、義母の収集癖も相当なものだ。




