第14話 眠りの中にあるサイン
一通り説明が終わったところで、荒木は予備のバイタルセンサーを手に持ちながら最後の説明をした。
「では、最後に、本日から一週間ほど、職員の方に注意して見て頂きたいことをお伝えします。イマココのバイタルセンサーはご入居者様の体動や心臓の動き、呼吸による微弱な振動を検知し、それを解析して状態をモニターに表示する仕組みになっています」
何人かが頷き、気持ちが良いほどの真剣な眼差しを荒木に向けている介護職員を見て、真壁はますます感心してしまった。
「ご利用者様によっては体動が大きい人は当然振動が大きくなりますし、終末期に入ると振動はごく微弱なものになります。ご入居者様の振動を正確に拾うために、感度調整という機能があります。これは体動が大きな方の振動はキャッチしすぎないように、逆に終末期の方に対しては微細な振動もキャッチできるように設定を変える機能です。自動調整機能がついていますが、このバイタルセンサーの感度が合っていないと、臥床しているにも拘らず、モニター上ではベッドに不在表示になったり、ベッドにいないにもかかわらず、モニター上では臥床状態として映し出されます。実際のご様子とモニターの誤差が無いか、一週間ほど注意して見てください。誤差が生じた際には、弊社へご連絡お願い致します。遠隔で感度調整を行います。ここまで何か質問がある方はいらっしゃいますか?」
ぐるっと荒木が職員を見渡したが、誰も発言はしなかった。荒木は「ありがとうございました」と言って頭を下げると施設長に目線をやった。
「この後はデータの見方についての説明ですが、このまま続けた方がよろしいでしょうか?」
「そうですね、そのデータの見方って後日でもお聞きすることってできますか?先ずはセンサーを使うことに慣れる必要があるので、データの見方については、今から私と相談員、看護師でいったん話を聞いて、後日、フロアリーダーを集めて説明会を開いて頂ければありがたいんですが、いかがでしょうか」
荒木がちらりと真壁を見やると、真壁は心得たように頷くと施設長に向き直った。
「大丈夫です。必要でしたら訪問して説明を行うことも可能です」
「ありがとうございます。ではスタッフは各ユニットに戻って、どのご入居者様になんのアラートをつけるのか、相談してください。決まったら、まとめて私のこところに持ってきてください」
各々会釈をしながら去っていく介護職員を見送ると、荒木は真壁とバトンタッチをした。
「では、データの見方のご説明にうつってもよろしいでしょうか?」
施設長が頷き、再びスマホで録画を開始した青樹に軽く会釈をした。データの見方の説明には慣れているが、録画されることには慣れていないので、真壁は若干緊張しつつモニターを操作する。
「えー、データといっても色々あるので、先ずは睡眠データの見方を覚えて頂ければと思います。データを見るためにはモニターの左上にある『データ閲覧』のボタンを押してください。画面が切り替わりましたら、対象者を選んでいただき、表示させたいデータを選んで、『データを取得』のボタンを押してください。昨日、設置したばかりなので、データはほとんど蓄積されていませんが、一ヶ月以上ご使用いただくとこのような表示になります」
真壁は自分のノートパソコンでデモデータを見せた。施設長と看護師がグッと画面に近寄り、青樹は手をめい一杯伸ばしながら撮影を続けている。
「睡眠データは一日単位に横の棒グラフで表示されます。薄い灰色の部分はベットにいない時間帯です。黄色の部分はベットに臥床していて覚醒状態であることを示しています。水色が浅い眠り、青色が深い眠りの状態です。理想の睡眠状態はこのようなグラフになります」
画面をスライドさせると、規則正しく色分けされたグラフが表示される。
「これは理想的な睡眠状況のグラフです。起床時間、入眠時間が毎日ほぼ同じで、日中帯はベッド上では過ごさず、自室やフロアで過ごしています。入眠時間は短く、浅い眠りと深い眠りを繰り返し、夜間帯における覚醒回数は二回以下が熟睡している条件として見てください」
グラフの色を指さしながら真壁は説明を続ける。
「しかし、実際にはこんな理想的な睡眠状況を過ごされる方は多くはありません。ご入居中様に見られる睡眠状況は主にいくつかパターンあります」
なぜかメモを取り始めた朝倉と白川をちらりと見やり、真壁は画面を更にスライドさせた。




