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『私とヤるか、ゲームやるか』〜正体を隠した憧れの『神プレイヤー』が、タワマンで小悪魔JKを最強の指揮官(IGL)に育て上げる〜  作者: 夕姫


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18. 後悔する軍師

 18. 後悔する軍師





「……よし。センセ、これで『デバイス調達任務』は完了だね?」


「ああ。帰ったら早速、新しい相棒でエイム練習だ。前の腐った感覚を上書きするぞ」


「はいはーい」


 オレのスパルタな宣告に対し、柚葉はどこ吹く風で笑うと、くるりとこちらを振り返った。


 休日の歩行者天国。春の風に白いプリーツスカートがふわりと揺れ、彼女は小悪魔全開の笑みを浮かべる。


「それじゃあ、ここからはお待ちかね。柚葉ちゃんとの『秋葉原デェト・後半戦』を始めまーす!」


「……お前、まだ言うか。用が済んだら帰るぞ」


「えーっ!?休日におめかしした女の子を連れ出して、買い物だけして直帰!?センセ、それだから26歳無職彼女なしなんだよ!」


「うるせえ!誰のせいで毎日胃をすり減らしてると思ってるんだ!」


 痛いところを突かれて声を荒げるオレの腕に、柚葉は「はいはい」と笑いながら、ごく自然に自分の腕を絡めてきた。


「ちょっと付き合ってよ。せっかくセンセと外に出たんだからさ」


 上目遣いでそう言われると、オレもそれ以上無下にはできなかった。


 何だかんだ言って、この1ヶ月、彼女はオレの課す地獄のような座学とランクマッチに弱音を吐かずについてきている。たまの息抜きくらい、付き合ってやるのが大人の、そしてコーチとしての甲斐性というやつだろう。


「……ハァ。少しだけだぞ。どこ行きたいんだよ?」


「やった!えっとね……あ、あれ!あのケバブ屋さんのやつ食べたい!」


 柚葉がビシッと指差したのは、陽気な外国人店員が肉の塊を削いでいる、秋葉原名物のケバブスタンドだった。


「は?お前、そんな気合いの入った白い服着て、よりによってソースたっぷりのジャンクフードかよ。一滴でもオーロラソースこぼしたら、お前のその『デート服』とやら、即ゲームオーバーだぞ?」


「平気だって! エイムには自信ないけど、食べるのには自信あるもん!」


「何の自慢にもなってねえけどな」


 オレの忠告も聞かず、柚葉はたっぷりのお肉とキャベツ、そして溢れんばかりのソースがかかったピタパンを受け取ると、大口を開けてカプリと噛みついた。


「ん〜っ!美味しい!お肉めっちゃジューシー!」


「ほら、口の端にソースついてるぞ。子どもか」


「えへへ。センセも食べる?ほら、あーん」


 柚葉は自分がかじったばかりのケバブを、悪戯っぽい笑顔でオレの口元に突き出してきた。


「いらん。手がベタベタになる」


「えー、間接キスでセンセをドキドキさせようと思ったのにー。つまんないの」


「子供か。お前のその安いハニートラップ、もう慣れたから全く効かねえよ」


 そう口では冷たくあしらいながらも、オレの視線は無意識に、ケバブのソースが微かに残る彼女の艶やかな唇へと吸い寄せられていた。


 (……いや。よく考えなくても、柚葉は普通にめちゃくちゃ可愛い女の子なんだよな……)


 春の陽差しの下、気合いの入った白いワンピース姿で無邪気に笑うその顔は、深夜にゲーミングモニターを睨みつけているポンコツ指揮官と同一人物とは到底思えないほど、目を引く可憐さがあった。


 オレが不意に黙り込んでしまったせいだろう。


 柚葉が不思議そうに小首を傾げ、オレの顔を下から覗き込んできた。


 「……センセ?」


 「……っ、何でもない」


 慌てて視線を逸らし、缶のブラックコーヒーを煽って動揺をごまかす。しかし、そのわずかな『隙(硬直)』を、目の前の小悪魔が見逃すはずもなかった。柚葉はニヤリと口角を上げ、さらに距離を詰めてくる。


 「ふ~ん。やっぱり食べたいんじゃんw……ねえ、それってケバブ?それとも、私?」


 「……下らないこと言ってないでさっさと食えよ。行くぞ」


 「あははっ!センセ、耳真っ赤!」


 ケラケラと笑う柚葉の隣で、オレはこれ以上ペースを乱されないように足早に歩き出した。


 10歳も下の女子高生にからかわれるこの状況にも、悲しいかな、すっかり慣れてしまっていた。


 「あ、センセ! 次あそこ! ゲーセン行こ!」


 ケバブを綺麗に平らげた、柚葉が次に指差した先は、大型のアミューズメント施設だった。


 中に入ると、1階は巨大なクレーンゲームのフロアになっている。柚葉は、ある一台のキャッチャーの前で足を止めた。

 中に入っていたのは、丸っこくデフォルメされた『フクロウ』の巨大なぬいぐるみだった。


「あ! センセ、これ梟、Owlだよ!可愛い、私これ欲しい!」


 柚葉は目を輝かせ、財布から100円玉を取り出して筐体に投入した。


 ウィィィン……という音と共にアームが動き、ぬいぐるみを持ち上げる。だが、頂点まで持ち上がった瞬間にアームがパカッと開き、ぬいぐるみは無情にも元の位置へと転がり落ちた。


「ああっ!もうちょいだったのに!」


「……素人か。あれは『確率機』だ。設定された金額を注ぎ込むまで、アームの握力が意図的に抜ける仕様になってるんだよ。まともに持ち上げようとするだけ無駄だ」


「ううっ、そんなのズルじゃん……!でもどうしても欲しい……あと100円……」


 ムキになって小銭を投入し続ける柚葉。


 5回、10回と失敗を繰り返し、次第にその顔から余裕が消え、涙目になっていく。……FPSでエイムが合わず、ボコボコにされている時の顔と完全に一致していた。


「……貸せ」


 見かねたオレは、柚葉を軽く手で押しのけ、筐体の前に立った。


「えっ、センセ?」


「オレのロジックを舐めるなよ。盤面の仕様ルールが分かっているなら、それを出し抜く最適解バグを突けばいいだけだ」


 オレは100円玉を投入し、アームを動かした。


 狙うのは、ぬいぐるみの中心(重心)ではない。ぬいぐるみの頭についている『タグの輪っか』の、わずか数ミリの隙間だ。


「……そこだ」


 オレがボタンから手を離すと、アームが下降し、その爪の先端が、見事にタグの小さな輪っかの中へと滑り込んだ。


『ガコンッ!』


 アームの握力など関係ない。タグに爪が引っかかったままアームが元の位置に戻る動きを利用し、ぬいぐるみは強制的に持ち上げられ、そのままダストシュートへと引きずり落とされた。


「……ほらよ」


 取り出し口から巨大な梟のぬいぐるみを引っ張り出し、オレは呆然としている柚葉の胸にそれを押し付けた。


「えっ……嘘、一発!?センセ、今のどうやったの!?」


「タグ掛けという初歩的なグリッチ(裏技)だ。相手がプログラムされた盤面である以上、必ず突破口はある。……ほら、目的のブツも手に入れたし、帰る――」


 オレが踵を返して歩き出そうとした、その時だった。ドンッ、と背後から柔らかい衝撃がぶつかってきた。柚葉が、梟のぬいぐるみごと、オレの背中に思い切り抱きついてきたのだ。


「……おいっ、お前離れろ!」


「えへへー、ありがと!めちゃくちゃカッコよかった!」


 オレの背中に頬を擦り付けながら、柚葉は心の底から嬉しそうな声を上げた。周囲の客からの痛い視線が突き刺さるが、彼女は全く気にする素振りを見せない。


「おい、満足したならさっさと離れろ。さっさと帰って、新しいマウスでエイム練習するぞ!」


「練習はする!センセって……いれんの得意なんだねw」


「黙れ!早く帰る……」


 オレが強引に引き剥がそうとすると、柚葉はパッと腕を解き、今度はオレの正面に回り込んで、その腕をギュッとホールドする。


「えーっ?まだ帰らないよ!せっかくゲーセンにいるのに、クレーンゲームだけで終わるわけないじゃん!」


「だから、マウス買いに来ただけだって――」


「マウスは買った!ぬいぐるみも取れた!つまりここからは、純度100%の『ゲーセン・デート』の時間です!」


 柚葉は梟のぬいぐるみを片手に抱えたまま、もう片方の手でオレの腕をグイグイと引っ張り始めた。


「ほらセンセ、あっち! あっちの大型筐体のフロア行こ!」


「おい、引っ張るな!帰るぞ!」


 オレの抵抗も虚しく、新しい相棒を手に入れてテンションがカンストしている小悪魔JKの腕力を振り切ることはできず。


 オレは出口とは真逆の、さらにけたたましい電子音が鳴り響くアーケードゲームの奥のフロアへと、ズルズルと引きずり込まれていくのだった。

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