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『私とヤるか、ゲームやるか』〜正体を隠した憧れの『神プレイヤー』が、タワマンで小悪魔JKを最強の指揮官(IGL)に育て上げる〜  作者: 夕姫


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19. 長期戦への宣戦布告

 19. 長期戦への宣戦布告




「……だから、引っ張るなって!」


「えへへー、センセ、こっちこっち!」


 秋葉原の巨大なゲームセンター。クレーンゲームのフロアを抜け、エスカレーターを上がった先は、けたたましい銃声と爆発音が鳴り響く大型アーケードゲームのエリアだった。


 柚葉は梟のぬいぐるみを小脇に抱えたまま、オレの腕をグイグイと引っ張り、一台の古びたガンシューティング筐体の前で足を止めた。


『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド 4』


 レトロなゾンビ映画のようなパッケージが描かれた、画面が巨大なガンシューティングの名作だ。


「これ!これやりたい!昔ちょっとやったことあるんだけど、難しくてクリアできなかったんだよね」


「……お前、これから新しいデバイスでタクティカルな『TwelveOrder』を極めようって時に、こんなエイム全振りのレトロゲームかよ……」


「いいじゃん、これも特訓!はい、100円!」


 柚葉に強引に小銭を握らされ、オレたちは筐体の前に並んだ。


 オレが左側(1P)、柚葉が右側(2P)に立ち、ずっしりと重いサブマシンガン型のコントローラーを構える。


『START!』


 画面が暗転し、ゲームが始まると同時に、オレたちのスイッチが切り替わった。


「センセ、右!窓からゾンビ!」


「分かってる、リロード中、カバーしろ!」


 ダダダダダダダッ!! ダダダダダダッ!!


 画面狭しと襲いかかるゾンビの群れに対し、オレたちはごく自然に、FPSのランクマッチと同じように声を出し合い始めた。


 クレーンゲームでの呆れた空気は微塵もない。そこにあるのは、無職のおじさんと女子高生ではなく、戦場を共有する二人の『ゲーマー』だった。


「左フランク注意!ドラム缶撃て!」


「了解! ……ああっ、リロード忘れてた!」


「焦るな、オレがヘイト買う!柚葉はヘッド狙え!」


 オレはArchitectとしての本能で、瞬時に画面上の敵の優先順位を計算し、柚葉に指示を出す。


 柚葉はその指示に一切の疑問を持たず、手に入れたばかりの完璧な感覚を信じて、ゾンビの頭を的確に撃ち抜いていった。


 ダダダダッ!!


「センセ、上!ぶら下がってるやつ!」


「ボム撃つ、下がれ!」


 画面いっぱいに広がる爆発のエフェクト。


 ステージが進むにつれ、敵の攻撃は苛烈を極め、初見では絶対に不可能な弾幕が襲いかかる。だが、オレの頭の中には、かつてこのゲームを完璧に攻略した時のロジック(パターン)が刻まれている。


「次、ボスの弱点変わる!画面中央にエイム置いとけ!」


「うんっ!」


 絶妙な連携。オレが敵の動きを止め、柚葉がトドメを刺す。

 二人の完璧な『フォーカス合わせ(集団射撃)』によって、難攻不落と言われるボスが、次々と塵に還っていく。


 そして――。


『CONGRATULATIONS! ALL STAGE CLEAR!!』


 画面に表示された『NO MISS COMPLETE』の文字。


 オレたちは思わず顔を見合わせ、ガシッと自然にハイタッチを交わした。


「やったぁぁっ!!クリアできたぁぁッ!!」


「……ふぅ。意外と指が覚えてるもんだな」


 充実感に包まれ、ずっしりと重いガンコンを筐体に置いた、その時だった。


 ザワザワ……。


「……え?」


 不意に、周囲の空気が変わったことに気づいた。振り返ると、オレたちの後ろには、いつの間にか十数人もの人だかりができていた。


「すげぇ……ノーミスクリアじゃん……」


「あの二人、プロか?声掛け合っててマジでヤバかった」


 周囲からの賞賛と好奇の視線。それはかつてドーム会場で浴びたものとは違う、もっと身近で、ひどく居心地の悪いものだった。


「…………っ!」


 オレは瞬時に顔を真っ赤にし、パーカーのフードを深く被って顔を隠した。26歳の無職が、女子高生とゲーセンで声を出し合いながらガンシューティングで無双……。その客観的な事実が、冷静になったオレの精神を粉砕する。


「い、行くぞ、柚葉!」


「あ、あはは……ちょっとやりすぎちゃった?」


 柚葉も梟のぬいぐるみを抱えながら、頬を赤く染めて苦笑いしている。オレたちは逃げるように人混みをかき分け、ゲーセンの出口へと全速力で脱出した。


 春の秋葉原。ネオンが灯り始めた街並みを、オレたちは少し離れた距離で歩いていた。


「……はぁ。死ぬかと思った」


「あはは、センセ顔真っ赤!意外とシャイなんだねー」


「うるせえ。お前が変なゲームに付き合わせるからだろ」


 胃の痛みを覚えながら、オレは缶コーヒーをすする。隣を歩く柚葉は、両手で枭のぬいぐるみを大切そうに抱え、夕暮れの街並みを見上げていた。


「……でもさ」


 ぽつり、と。柚葉が呟いた。その声は、いつもの小悪魔なからかいの色は消え、歳相応の少女の、純粋で甘い響きを帯びていた。


「……すっごく楽しかった。ありがと、センセ」


 梟のぬいぐるみに顔を埋めるようにして、上目遣いでオレを見つめる柚葉。その瞳は、夕日に照らされて少し潤んでいるようで、普段の強がりからは想像もつかないほど、ひどく可憐だった。


 その素直な感謝に、オレは一瞬、言葉を失った。心の中で短くため息をつく。


(……まぁ。この1ヶ月、地獄のような特訓ばっかりだったしな。たまには、こういう日があっても悪くないか)


 楽しんだなら、良かった。


 コーチとして、そしてこの奔放な少女の保護者(仮)として、オレは内心でふっと表情を和らげた。


 だが。


 オレがそのエモい余韻に浸ろうとした、その瞬間。


「センセ、今日はいっぱいデートしたから――夜は私の部屋で、もっと『難しいゲーム』、クリアしよっか?」


 不意に、柚葉がオレの腕にギュッと胸を押し付けるようにして抱きついてきた。女子高生特有の少し甘い香りと、柔らかな感触が、距離ゼロで飛び込んでくる。


「……おい。今すぐ自陣に『フォールバック(後退)』しろ。その無防備な『ピーク(飛び出し)』は完全にルール違反だぞ?」


 オレは表情を崩さず、あくまで冷静なIGLの声色で警告した。


「えー? これはタクティカルな『ラーク(遊撃)』だよ。完全にセンセの死角を突いて、インファイト(近距離戦)に持ち込んだんだから。……ねえ、センセの『エイム』、今どこ見てるの?」


 柚葉はさらに腕に絡みつき、上目遣いでオレの顔を覗き込んでくる。


「クロスヘア(照準)は完全に地面に固定してある。いいか、これ以上、未成年からの不法な『エントリー(突入)』を許せば、オレは社会的な『ハードウェアBAN(逮捕)』を食らうことになる。大人しく引け」


「あははっ! 無職のおじさんが社会からBANされたらもう後がないもんね! でも大丈夫、私の部屋は防音完備だから『足音インフォ』は外に漏れないよ? 今夜はスキルの使用禁止、武器なしの――」


「――甘いな。オレの『カウンター』の方が早い」


 パチンッ!


「あだっ!?」


 オレは空いている方の手で、柚葉の無防備な額に、容赦のないデコピンを叩き込んだ。


「うう〜……!痛い!センセ、女の子の顔面にヘッドショット(クリティカル)入れないでよぉ!」


 柚葉は涙目で額を押さえ、たまらずオレの腕から離れてしゃがみ込んだ。


「『クリアリング(安全確認)』を怠って、馬鹿みたいに突っ込んでくるからだ。……ほら、アホなこと言ってないでさっさと帰るぞ。新しいマウスの初期設定と、お前のその腐ったエイムの矯正が待ってるんだからな」


 オレが呆れたように言うと、柚葉は「うぅー……」と唸りながら立ち上がり、不格好な梟のぬいぐるみを抱え直した。


「もう……せっかくの完璧なラッシュだったのに!」


「10歳も下のポンコツのトラップに引っかかるほど、オレのセキュリティ(理性)はガバガバじゃねえよ。いい加減理解しろ」


 オレはパーカーのポケットに手を突っ込み、呆れ半分で歩き出した。すると、柚葉は梟のぬいぐるみを抱えたままオレの少し前を歩き、くるりとこちらを振り返った。


 そして、不満げに唇を尖らせながらジッとオレの顔を見つめ、わざとらしくため息をついてみせる。


「……ふーん。じゃあ、センセが自分から引っかかってくれるまで、『待ちエイム』するか〜」


 それは、防衛側が有利な射線をロックして、敵が顔を出すのをひたすら待つという、FPSにおける基本戦術。彼女なりの、長期戦への宣戦布告らしい。


 だが、オレは全く歩みを緩めることなく、その生意気な小悪魔の横をすり抜けながら、冷たく言い放った。


「そこは通らないから意味ないぞ」


「……むぐぐっ!センセのバカ!」


「はいはい。大人をからかう前に、まずはゲームの中でキル取れるようになってから言え」


 秋葉原の夜の街に、柚葉の悔しそうな声と、オレの呆れたため息が溶けていく。こうして久々の休日を有意義に過ごすことができた。

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