帝都の客人
フォートレスは、各地で盗賊を討伐しながら、数千人に膨れ上がった人間を引き連れ、帝都の近くに天幕を張った。
ろくな軍隊も持たないフォートレスが盗賊を討伐できるのは、勿論フォートレスが強いからではない。
リサ伯爵領が、年貢2割なのが有名な話だからだ。
そして収入アップと個人的な趣味の為に、密かに他国に売り飛ばしていた、リサとフォートレスのスクール水着風ワンピース水着の写真のおかげで、近隣の盗賊連中は、リサとフォートレスの顔を知っている。
日本人が堂々と居住するファンタジー世界である。
カメラ位べら棒な高値だが売られていた。
真一は仕事用に、壊れたカメラを買い付けてきて修理したのだ。
貧乏水着職人をなめるんじゃない。
壊れた備品の修理ができなくて、今時の水着職人が務まるものか。
その為、フォートレスの顔を見た盗賊は一人の例外もなく彼女に降伏した。
盗賊としてエドワードに殺されるより、リサの奴隷になった方がマシだ。
あの愛らしいリサ姫は、少なくともエドワードよりはマシである。
それに年貢が2割なだけでも有難い。
因みに、良心的なシエル伯爵領ですら年貢は4割だ。
1万騎の騎士団を高給で雇ってるので、年貢は下げられないらしい。
「お前達はここで待て。私は奴隷を買い付けてくる」
フォートレスの命令に、盗賊達は素直に従った。
フォートレスはドラゴンを討伐した英雄でもある。
怒らせて苛められるのは盗賊の趣味ではなかった。
降伏したからには、ひたすらご機嫌を伺い、出世を目指すのが正しい道である。
「ここで逆らう位なら、わざわざ降伏などしませんぜ」
何を馬鹿な事を言ってるのか?
何の為に俺達が一戦も交えずに降伏したと思ってるんだ?
リサ姫の下で栄耀栄華の夢を見たいからじゃないか。
「安心しろ。俺達は人間らしい生活がしたいだけだ。それとたまにはリサ姫の水着写真も見たいが・・・」
そうですか。
リサ姫は魅力的な人だからな。
若干嫉妬したフォートレスだがこの事はリサには黙っていよう。
「馬鹿な事を言ってないで、この場を死守せよ」
フォートレスは不穏当な発言をした部下を叱り付けると帝都の城門に向けて歩きだした。
「止まれ」
城門を守備する屈強な兵士、通称袖の下2人に行く手をさえぎられた。
フォートレスも、袖の下の目的は分かっている。
銀貨を4枚ずつ兵士にくれてやった。
「お通りください。フォートレス様」
水着写真のせいかドラゴン退治の武名か知らぬが、袖の下は話が分かる。
「あまり貧乏人を苛めるなよ」
つい余計な事を言って袖の下を憮然とさせるが、刃傷沙汰にする気はないようだし、構わぬだろう。
「貧乏人はこの街に入れませんよ。法律は知ってるでしょう?」
成る程。
最近は盗賊が多いからなぁ。
「勿論知っている。今回は奴隷を宿屋に泊めるような事はしないので安心するように宿屋に伝えといてくれ」
フォートレスは更に銀貨を3枚袖の下に渡した。
「話の分かるお姫様で有難い」
袖の下は部下の小間使いに言伝して、彼女を去らせた。
名誉の為に言っておくと、この少女は袖の下の愛人などではない。
フォートレスは悠々と城門をくぐっていく。
その足で皇帝エドワードに謁見した。
フォートレスは一応伯爵代理である。
あの馬鹿皇帝に謁見しないといけない。
あいつの妾になるの断ってから、何かにつけて嫌がらせをするから会いたくないんだけどな。
エドワードは62歳の老人である。
フォートレスは14歳だ。
エドワードの妾の数は3万人を超える。
子供だけで自分の親衛隊を編成してしまったくらいだ。
「おお。フォ-トレス。息災であったか?」
あっさりと謁見を許可されたフォートレスはエドワードの前に連れてこられた。
「陛下の威徳を持ちまして、リサ伯爵領で平和に過ごしております」
このお世辞にエドワードはご満悦の様だ。
「そうか。そなたにそう言って貰えると朕も嬉しい」
エドワードは機嫌が良さそうだ。
何故だ?
あんなに嫌がらせをしてきたのにな。
妹を伯爵にしておいて、姉のフォートレスは後見人などどう考えてもおかしい。
因みに長男が公爵となり、次男はエドワードの怒りに触れて処刑された。
長女から5女がエドワードの妾になる事を拒否した嫌がらせである。
「長男を処刑したら、例の5人が妾になる事を承諾してな」
エドワードが決定的な一言をさらりと言ってのけた。
何だと?
カイン公爵を処刑したのか?
何と言う事だ。
私に対する嫌がらせなのか。
「であるからしてお前は用済みになった。金貨の3枚もくれてやるから明日中に我が領内から立ち去れ。二度とリサ伯爵の私兵を我が領内に入れるでない」
この暴君が。
いつの日にか一族の怨みを晴らして見せるぞ。
逆らっても無駄なので大人しく逃げ出す事にした。
「分かりました。明日中に領内から立ち去ります」
別にドラゴン退治の恩賞を期待していた訳ではないが。
こんなのあんまりだ。
そのうちにエドワードの気が変わったらしい。
フォートレスの財産を取り上げると部下に命じた。
「何をしてる?そのあばずれを帝都から叩きだせ」
エドワードはフォートレスを兵士に部屋から連れ出させると、言い放った。
「カイン公爵領は謀反の罪で断絶。罰として9公1民の臨時税を10年間取り立てる」
後日この命令を聞いたカイン公爵領の700万人の人間が、全員難民となってリサ伯爵領に押し寄せたのは言うまでもない。
「フォートレス様。どうなさったのですか?」
盗賊がフォートレスに尋ねた。
7千人近くに膨れ上がっている。
フォートレスはどう考えても尋常ではない手段で兵士達に城門から叩きだされた。
「すまない。私の力が足らないばかりにな」
兵士達の長、香坂恵がフォートレスに謝罪した。
香坂恵は、エドワードの姪である。
青い目をしてるから、外国人の血が混じっているのだろう。
「陛下に逆らえば、翌日には私の領土もカインの二の舞になるだろう。それだけは避けないとならない」
「誰だ、あんたは?」
フォートレスの部下達は敵意の目で恵を見た。
「香坂恵。フォートレスさんの事はリサから聞いている」
リサの友人なのか?
「今は耐え忍んでくれ。時がたてば名誉を回復する事もあるだろう」
領地を理不尽に没収されたのに耐えろと?
「どうしようもないのだ。今反逆してもリサ伯爵領ごと滅ぼされるだけだぞ」
恵は諭すようにフォートレスに言った。
「早く立ち去れ。陛下には上手く言っておく。リサ伯爵領にはお咎めはないだろう」
「何者か知らぬが感謝する」
香坂恵なる陛下の姪をフォートレスは知らなかった。
恐らくは偽名だろう。
余り意味がないと思うのだけど。
「私の資金で奴隷を4千人買っておいた。連れて行くといい」
何故こいつ私に親切なんだ?
「何故私に親切なのだ?」
フォートレスが恵に尋ねた。
「リサとは友人だしな。こんな事になって申し訳ない」
恵の力ではエドワードの暴走を止められない。
武勇には自信があるが、武勇だけで政治ができるか?
「フォートレス様。奴隷と兵を連れてさっさと帰りましょうぜ」
盗賊の部下がフォートレスに進言した。
「ああ。こんな国は二度と来たくない。強行軍でリサ伯爵領に行く事にする」
フォートレスは、エドワードに余計な命令を下される前に一目散に立ち去った。
逃げるしかない。
リサ伯爵領に向かって、ひたすらに行軍した。
サザニール男爵領にある盗賊の村に盗賊7千人を居住させ、人口7500人とすると、頂き物の奴隷を引き連れてリサ伯爵領に入った。
「姉さん聞いたよ。兄さんが処刑されたんだって?」
フォートレスは頭を抱えた。
もしかして兄が処刑されたのは、私がエドワードの誘いを拒否したせい?
「分かってると思うけど当分は領地に引き篭もってるべきだわ。下手に言い訳するとカイン兄さんの二の舞よ」
あの女好きの皇帝にも困ったものだ。
「ところで香坂恵なる女の子に奴隷を買ってもらったんだが、リサ姫の知り合いか?恵の方は知ってるみたいだったが」
嫌な事はさっさと忘れて、領地経営に励もうぞ。
別に仇討ちしてやるような恩を受けた覚えもないしな。
因みにリサ、フォートレスと本家筋とは異母姉妹と異母兄妹である。
それ故に苛められた経験もある。
仇討ちする気になれない。
自業自得だ。
「恵?知らないけど」
リサの友人ではないのか?
「私の友人はシエルだけよ。友達面して私達を助けてくれたのは誰かしらね?」
リサは奴隷達をリサ村の郊外に住まわせる事にした。
ここで反乱を起こす訳には行かない。
家族は見殺しにする。
「臨時税を取り立てて。一応付け届けはしとくに限るわ」
無駄だと思うが、皇帝にゴマすっておこう。
「ところで私が与えた奴隷購入用の資金どうなったの?」
「全て皇帝に取り上げられました」
金貨3枚くれるとか言っていたが、結局貰えなかった。
「だとすると恵は何故私に奴隷を譲ってくれたのだろう?やはり知り合いなのだろうか?」
フォートレスに尋ねた。
それは私が知りたい。
「私にも分かりません。ただ青い目の少女でした」
名前が香坂恵で青い目?
「まあ考えても仕方ないよ」
リサは兵士を国境に20名配備すると、エドワードの侵攻に備えた。
いつ理不尽に攻め込んで来るか分からない。
幸運にもここで収穫期に差し掛かった。
今年は豊作で、去年の2倍の収穫がある。
5千ディルス分売りさばいても、まだ蓄えが残っていた。
これに冬に向けての猪の大量処分で、3千ディルスの税収が集まる事になる。
この3千ディルスで、リサ伯爵領とサザニールの獣道の出口にある草原を買い占めたのだ。
この平原には、2千人の人口が農業で生計を立てている。
リサは買い取った翌日に臨時税を調達して2千ディルスを回収した。
この行為でリサの平原領でのリサの人気は低下する。
「平原領が豊作でなかったら大暴動が起きてるぞ」
だがリサは思う。
この豊かな領地が売りにだされるとは、サザニールも財政難だと思える。
エドワードの難題に苦しめられているのだろう。
この1月で酷く痩せてしまっていた。
「難題に備えて財力を蓄えないと」
リサはこの7千ディルスをドラゴンに守らせる事にした。
エドワードがいかに邪悪でも、ドラゴンに手はだせまい。
我ながら良い考えだ。
「リピームさん。貴女は香坂恵について調べて。貴重な味方に出来るかも知れないし」
リサは当面の目的として、領土の生産力向上を計る事にした。
それからゆっくりと一族の名誉を回復させる事にしよう。
エドワードの元ネタはイギリス国王ですね。
正確は元ネタより極悪非道で気紛れです。




