無礼講
真一は早速村人から道具を借りて、献上用の水着を造り始めた。
水着は最近の日本では、ミシンか何かで造る筈なので、自ら縫って仕上げる事は滅多にやらない。
だが、奴隷から解放してくれた恩人の命令だし、一応造ってみる事にした。
食う為に自ら奴隷になったが、やはり奴隷よりは平民の方がマシに決まってる。
因みに真一の得意な水着のジャンルはスクール水着系のワンピース水着であった。
ビキニタイプの水着が得意なら、店が潰れる前に趣旨かえをしてる。
それに年齢11歳のリサにはワンピース水着がよく似合うはずだ。
「お前らは普通の服を造っていろ。一週間は手が離せん」
真一の部下になった元職人奴隷の15人に命令した。
暫くは部下の収入をピンハネして生きる事になるだろう。
リサ姫に頼んで、サイズを測らせてもらわないとな。
あの可愛らしい姫の下着姿が見れるのか。
水着職人は役得だ。
「真一様。あんたの言ったとおりクローバーとやらの成長は早いな」
村人がおべっか使いにやってきた。
「猪3頭程度なら十分養える」
ホクホク顔で村人が報告に訪れた。
え~いおまえら、水着製作の邪魔するんじゃない。
だが真一は思った。
村人に知恵を授けてから3週間が過ぎたが、もう育ったのか。
「知恵を授けてくれたお礼に村人から貢がせていただきと思います」
農業より酪農の方が儲かりそうだ。
農業の収穫で猪を飼育できれば、確実に儲かる。
村人はミスリル硬貨の入った袋を真一に差し出した。
「何だ軽いな」
金貨のディルスの重みしか知らない真一はつい本音をもらしてしまった。
俺は聖人ではない。
欲深な元サラリーマンの元課長である。
「よくご覧になってください」
流石にムッときたらしい村人が、それでも怒りを抑えて真一に言った。
怒らせたら損だからだ。
真一は袋の封印を解くと、中身のミスリル硬貨を見た。
「宝石なのか?」
真一は村人に尋ねた。
「ミスリル硬貨をご存じないのか?それ一枚が100ディルスの価値がある」
「何?」
真一が慌ててミスリル硬貨を数え始めた。
5枚ある。
「狩で捕まえた猪の肉をサザニールに売りにいって入手したのです。リサ姫には3枚だけ献上いたしました。我らの分も4枚残っています」
そうか。
儲かったんだな。
よかったね。
だがこれは貴重な収入だ。
木綿の水着の予定が絹にできる。
「サザニール男爵は話の分かる男ですな。次からはこんなに儲からないだろうけどそれでも良い取引先です」
猪好きのあの男爵がいる限り、リサ伯爵領は安泰だろう。
真一は村人に聞いてみた。
「姫はどうしておられる?水着製作には、具体的なサイズを測らねばならないので、是非店に来ていただきたいのだが」
真一がこの際言ってみた。
姫がいないと水着製作に取り掛かれんのだ。
「私なら来ているわ。そろそろ水着が完成してると思ってたんだけど、これから造るの?」
村人をかき分けてリサ本人がやってきた。
リサの顔が失望に変わる。
「全く。この3週間でやっとリサ村の家と私の屋敷が完成したのに。屋敷の完成記念に献上させようと思っていたのに、これから造るの?この3週間。寝床を確保する為に地獄の様な強制労働を部下にさせていたのよ。せめてもの安らぎに、私の水着ショーで部下の機嫌を取ろうと思っていたのに」
そんな事言われても困るな。
最初の頃は忙しそうだったし、最後は過労がたたって7回も吐血してたじゃねえか。
病魔で苦しんでる姫に、サイズ測らせてくれなどと言えるか?
「申し訳ありません。それなら私が料理を作りましょう。パンとスープとジャガイモ位しか用意できませんが、それでもここの料理人が作るよりはマシかと」
部下の料理担当はリピームさんだ。
確かにドワーフ好みの料理は人間にとっては、あまり美味しくない。
栄養は満点なんだがな。
地獄の様な強制労働に部下が耐えて来られたのは、リピームの料理のおかげである。
だが今日位は美味いものを食わせてやろう。
作るのは真一ではないが。
「料理は私が作る。さっさとサイズを測って水着製作に取り掛かりなさい」
リサの料理も一流だ。
リサの薬膳料理はどんな疲れでもたちまち吹き飛ぶと評判である。
「分かりました。では失礼させていただく」
真一は早速リサのサイズを測り始めた。
別に下着姿になる事に抵抗はない姫のようである。
「極上の水着を製作させていただきますぞ」
「流石はリサ姫の薬膳料理だ」
部下達の評判は上々だった。
真一は水着製作に没頭して、欠席である。
リサは真一の造る水着に、過大な期待をしているらしい。
「何故真一様は来られないのか?」
サンとサド辺りがそんな質問をしたが、アトルピーに黙らされた。
姫の薬膳料理は美味い。
「姫。この料理売りだしたら収入が上がるんじゃないですか?」
部下の1人がそんな提案をした。
料理人の+1少尉である。
故郷で名前をつける習慣がなかったらしく、こう呼ばれていた。
「知ってますか?この山高価な薬草が沢山採れるんですよ。かき集めて売れば、600ディルス位にはなる計算です」
え?
リサは驚いた。
結構気軽に料理に使っていたが、もしかして薬草って高価なのか?
病気の治療に使ってる薬草ももしかしたら採れるんだろうか?
リサ伯爵領で入手困難だから、ボラれてるだけだと思っていたんだが。
「姫も病弱なのですから治療に専念してください」
ドラゴンを屈服させて、凱旋した英雄フォートレスがリサを宥めた。
宴会はこの人の戦勝祝賀会もかねている。
因みに財宝は持っていなかったので、魔法を2つ教えてもらって解放した。
フォートレスは魔術師である。
剣士でもあるが、魔法を使える。
習った魔法は生命力維持と傷治療だ。
リサの病気治療に役立つかもしれない。
他にも魔法の候補はあったが、欲張るのもアレだからこの2つにした。
覚えれば自動的に発動する便利な魔法らしい。
リサの体力も少しは向上する筈だ。
明日から魔法を勉強させよう。
「私の為に覚えてくれたの?功績は忘れないよ」
リサは一応褒めておいた。
人材が少ないから、怒らせて背かれるのも困る。
「でもこれからは私の許可なしに遠出はしないでね」
リサは一応言っておいた。
だがこれは領地経営に失敗したリサが悪いだろう。
「それとドラゴンの死骸の牙を4つ特別にもらって来ました。勝者に敬意を払いくれるらしいです」
「そうなの?武器でも造る心算?」
リサは尋ねた。
ドラゴンの牙など硬くて加工出来ませんよ。
お守りにするんです。
「ところで住処から追い出したの?」
「いえ。軍役に応じる条件で居住を認めました」
殺害した方が良かったですか?
フォートレスはリサに尋ねるが、リサにとってはその辺はどうでも良い。
「人糞は農業にとって重要だけど、龍糞ならもっと収穫が上がるかもと思っただけよ。協力を要請してもらえない?報酬に猪肉をあげても良いわ」
これでは宴会というより、無礼講だな。
「酪農ならやはり牛でしょう。牛を育てて売りだしましょうよ」
牛?
牛は確かに猪よりは高価だと思うけど。
「種牛は高価だ。一頭4千ディルスはする。リサ伯爵領の資産で買えるの?」
「許可さえいただければ、資金を集めて独自に買います。多少の貢物を献上させていただきます」
宴会に参加していた村人が、勢いで言った。
別に4千ディルスが相場でも、ジジイの種牛なら2千ディルスで買える筈だ。
それ位ならリサ伯爵領の牛肉貿易で何とか賄える。
「牛肉は滋養に良い。牛肉生産が起動に乗ったあかつきには、リサ姫に献上させていただきます」
「うん。期待しているよ」
税金は規則通り取り立てるけどね。
人頭税と年貢しか取り立てていないのだから、文句言われる筋合いはない。
だが私は知ってるぞ。
民衆が税金アップを逃れる為に、私に媚びて貢物を寄越した事を。
でもどうせ媚びるなら借金棒引きにしてほしい。
「世の中そんなに甘くありませんぜ」
不満顔のリサをアトルピーが宥めた。
「もう少したてば、リサ村2千人から400ディルスの税金を調達できます。年貢を取り立てれば食糧庫は久しぶりに麦で埋まる」
「サザニール男爵はいつ来るの?」
リピームが答える。
「そろそろ来ると思います」
催促の密偵を送っておいたから、そろそろ来る筈だ。
「この酒は美味いぞ~」
無礼講の意味を知らない部下達は単純に宴会を喜んでいた。
「酒の大量生産もやってね。部下の酒代だけでも深刻な負担になってるから」
「分かっております。酒は小麦酒が一番美味い。小麦の畑が収穫できたら早速作ってみます」
リサ伯爵領で生産してるのは、小麦50%。
ライ麦50%である。
「そういえば」
リサは何か思いついたようだ。
「鍛冶師は税金で雇ってるんだから、農具を造らせなさい」
鉄はリサ伯爵領にも僅かに存在する。
砂鉄だが。
「貴重な鉄を農具につぎ込むんですか?」
ドワーフ隊隊長がリサに尋ねた。
「そうよ。武器より農業生産力の方が大事よ」
リサは言い切った。
武器は一応部下全員剣と皮鎧を装備してるんだから別に良いじゃないか。
「鉄の農具は武器になりますぞ」
村人が反逆の可能性を口にする。
「そなたらに討ち取られるほど私は弱くはない」
リサが嘯いた。
確かに村人レベル3では、魔術師レベル1のリサには勝てないだろう。
「任せたわよ。それから部下を再編成して騎士団を養成して」
私にも軍隊が必要だ。
50名ほど編成してレベルアップに励もうぞ。
「この料理は美味いぞ~」
場の空気を読まない手下が浮かれ騒いでいた。
無礼講は身分を問わない政治会議なんだから、少し黙ってほしい。
「そなたらも良いアイデアはないか?」
部下に水を向けてみた。
「美味い料理と酒さえいただければ文句ありません」
駄目だこいつら。
今の台詞で確実に出世コースから転落したぞ。
「そうか。望みはかなえる故に安心いたせ」
リサは宴会の疲れがでたらしい。
ここまで言うと、気を失って寝込んでしまった。
「姫を寝室に運ばせよ」
アトルピーは困った顔をして、部下に命令した。
全く病弱で酒も飲めないとなると宴会は無理なのではないだろうか?
だがこうして宴会は一応終わってしまった。
主賓がいないのに部下が宴会してもしょうがない。
だが疲れてるだけの様なのでそれは良かった。
次の日からも大変だろうが、今日はゆっくり休まれるといい。
そしてサザニール男爵を迎える準備をするのだ。
酒を飲めない奴が酒の席に参加すると、座がしらけるだけである。




