西方の隆盛
1月27日に、ファリに黒土平原への帰還命令がリサ自ら下され困惑した。
ファリは元々リサの部下なので、帰還命令には逆らえないが不安である。
「では私は黒土平原に去る。そなたが暴走しがちなキートンを抑えて、謀反を起こさないように、努力する事をリサ陛下もお求めになる事だろう」
ファーリは眠い目をこすりながら、不機嫌そうに母親に口答えした。
「ご主人様はリサ姫に反乱など起こさないよ。そんな事して何の徳がある」
ファーリもエルシリアも、キートンの忠誠心を疑っていない。
西方の太守になっただけで、贅沢三昧な生活は約束されたのだ。
どうしてエルザす帝国に反乱を起こす必要があるのかと、ファーリは思う。
「ではさらばだ。助力が必要ならいつでも私を呼ぶがいいよ」
ファリは部下を引き連れて、黒土平原に去っていくと、キートンが言った。
「これで食糧が大規模に節約出来る。使える人だが食費がかかりすぎる」
ファリの活躍で、西方は好景気に沸いていたが、まだまだ改革が必要だ。
「エルシリア。反乱軍は降伏させたな。責任者を追放処分にして残りは助けよ。頃合を見て呼び戻してやれ」
反乱者をいちいち処刑していたら、キリがないし、実害は殆どない。
「やっと景気が良くなって来たな。投資に使った金の一部を引き上げよう」
今なら投資の金額を回収しても、企業は倒産しないだろう。
寒村は無税なので、投資の回収は貴重な収入源であり、ドル箱だ。
「130万ディルスですね。思ったより高収入です。本国への税金を差っ引いた純益で、この高収入ですが、貯蓄しますか?それとも使いますか?」
「貯蓄だ。カジノの収入が23万ディルスでイナゴ村のギルドの収益が50万ディルスに跳ね上がったし、これで贅沢が出来るぞ」
借金は600万ディルスほど残ってるが、返済日はまだ遠し・・・。
「キートン様。ファリがいなくなったら、エルザス帝国は攻撃を仕掛けて来ませんか?リサはブラックドラゴンの軍団を編成している噂です」
この食糧難の時代に、戦争を起こすほどリサは愚か者ではないぞ・・・。
南部の富を失った今、西方と戦争をすれば南部で反乱が起こる。
「皇帝陛下は戦争など望まぬ。不穏当な事を言うなら、処刑するぞ」
偽善ではない。
戦争を起こすだけの食糧がないからだ。
「今のうちに食糧を売りさばいて、西方の国力を充実させる」
南部への食糧輸出で潤った、商人からの献金も貴重だった。
「キートン様万歳。西方に栄光あれ」
「キートン様の時代がいつまでも続きますように」
この人気ぶりに、リサは何故か安心する事になった。
キートンが人の評判を気にすれば、少なくとも簒奪は起こせないだろう。
それに、キートンに嫌がらせをするような心の余裕が、今のリサにはない。
「高齢の兵を削減しよう。今のエルザスに軍隊などいらない」
軍縮はエルザす帝国の中枢でも行われた。
高齢の兵を辞職させないといけないのだ。
兵士になる事で生計を立てている者も多いので慎重にやらないといけない。
「リサ姫。俺は宿屋の用心棒の仕事が内定したので、辞職させていただく」
「俺は大商人の婿養子になる事が出来た。辞職する」
リストラの噂が広まると、兵士達は就職活動に熱心になった。
この食糧難の時代に、リストラされても困るんだがな。
それでもリサの熱心な説得により、軍隊は10万人削減された。
殆どの元兵士は、食糧の豊富なリサの故郷に移住したらしい。
「成る程。エルザス帝国も軍縮を始めたか」
キートンは軍縮を進めて、主力軍を1万に削減したが、この一万人はキートン軍の精鋭部隊であり、エルザス帝国の主力軍にも匹敵する勢いだ。
「植林は進んでいるか?出来れば薪を調達したいのだが」
植林した木の一部を使って薪にしてみたが、燃費も思いの他いい。
「良し。大量生産に励めよ。植林した木の20%を伐採する」
材木屋として、薪を大量に売れば、大儲け間違いなしなのだ。
「猪を狩って、食糧の備蓄を増やせ。エルザス帝国に売りさばく」
こうなったら西方の民の所得を倍増させてやる。
税金は無税だし、寒村は好景気だが、この無税をキートン村Aにまで広げる覚悟を固めて、実行に移す事にした。
1月の29日。
エルザス帝国と西方は、取り合えず和解する事になり、本国の商人が大量に寒村と都を訪れる事になったが、これは資金洗浄の為である。
「税金逃れしたい奴ばかり、この寒村に集まってくるよなぁ・・・」
寒村の人口は12万人。
都の人口は25万人に膨れ上がっていた。
驚異的な人口増加率である。
キートンはこの金持ち連中に薪を売って大儲けする心算なのだ。
「流石だ。キートン」
キートンを憎むシエルが、西方の様子を見学して帰っていった。
多分リサ姫にありもしない事を、吹き込む予定なのだろうが。
2月1日になると、リサが菓子折り持ってキートンに詫びに来た。
密告のお詫びのようだったが、中身が気になる。
「勿論、黄金入りのお饅頭だよ・・・」
「・・・」
この姫、本当に賄賂が好きだよなと、キートンは思う。
菓子折りを空けてみると、金貨がぎっしりと詰まっていた。
「露骨じゃないか?」
キートンが嫌味を言うが、リサは無視。
儲かるんだから良いだろう?
「良いだろう。あんたに飼いならされてやろう」
皇帝にここまで卑屈な態度を取らせて、冷たくしたら戦争が起こる。
そうなったら、エルザスの全ての民が困るのだ。
「有難い。忠誠の証に米5000万石をエルザス帝国に納めるように」
ちょっと多すぎるが、命令なら出来る限りは実行しないとな。
「全て穀物という訳にはいかないぞ。肉も大量に含まれる」
リサの評判がまた落ちるが、南部の危機を救う為に何とかして見せよう。
「俺、キートン公爵は、リサ姫と南部の民を救う為に、食糧の寄付を求める事とする。目標は5千万石」
リサ姫の命令は何気に酷いが南部の危機となれば仕方がないか。
「穀物で5千万石は無理だぜ」
大丈夫。
その辺りはリサ姫も分かっていて命令をくだしたんだと思う。
そう思うが、あのリサ姫ではな・・・。
「3時間お待ちください。可能な限り寄付を集めてまいります」
邪神教徒が移動魔法で各地を巡り、食糧を集めてきた。
暫くすると、リサとキートンの前に食糧が積まれる。
「5千万石は無理だった。肉や野菜も含めて4700万石分が精一杯だ」
「だそうだ。不足分はリサ姫の才覚で何とかしてくれ」
この短期間にこれだけの寄付をかき集めるとは恐ろしい男だ。
この男だけは怒らせないようにしないと、我が身があぶない。
「いずれ報酬を与える事であろう。私はダイヤの都に帰る事にする」
リサはキートンに西方王の位を与えると、リサは去っていった。
「これで西方の穀物の値段が跳ね上がるが仕方ない」
リサに厄介事を押し付けられる事になりそうだが、我慢する事にする。
リサを怒らせるのも厄介だからな。
「国王陛下。この際だからエルザスから独立しませんか?」
重い賦役と寄付に耐えられない寒村の住民は口々にキートンに愚痴った。
キートン王は、2月2日に即位式を挙げると、独立の気運が高まった。
何で南部の民の為に西方が犠牲にならないといけないのだ?
「全く、リサ姫の威光も西方では台無しだよな」
数少ないリサ派の西方人は、必死に仲間を説得するが、反乱を抑える効果しか期待出来ないので、西方から逃げ出す傾向が強い。
西方内ではリサ派は少数派になる一方だった。
キートンを王とする独立派が、急速に台頭する今日この頃であった。
「折角戦争が終わったのに、再び西方を戦火に包む心算なのか?」
南部の民は俺達と同じエルザス人だぞ。
同胞を救う為にある程度の犠牲をこうむるのは、仕方のない事ではないか。
「そりゃあ、国王陛下は資金を供出してないから気楽に言えるんですよ」
「・・・」
そりゃ俺は確かに1ディルスも供出してないが、銀貨1枚はだしたぞ。
こういうので、俺だけ100万ディルスをポンとだすのは不味いだろう。
「確かにそうですね」
国王の主席補佐官に任命されたエルシリアは、大喜びだ。
「キートン様。この山の様な嘆願書を私に押し付けないでください」
こいつら寒村の出身だが、税金支払わないのに、偉そうに嘆願しおって。
「あれだけ寄付をしたのに、何で嘆願書が後回しなんですか?」
確かに税金は1文も支払っていないが、寄付ならしているぞ。
「ああ分かった。俺が自ら精査するから、待っていろ」
反抗的な奴の嘆願書から先に処理するのは、行政の基本である。
「早速金持ちの嘆願を聞き入れ、商品を南部から仕入れてやった。
南部も食糧を保証されれば、交易を再開する事は可能である。
「有難いね。商売が上手くいったら寄付をしてやろう」
「国王陛下に栄光あれ」
リサはこの事態に、国王の位を与えた事を若干後悔した。
これで独立でもされたら、事態は厄介だが、褒美を与えない訳にいかない。
「キートンの反乱に備えようか?」
ルシアとアベルが軍団の再編成を行おうとするが、リサに止められた。
「この状況で戦争など出来るか?独立したいならさせとけばいい。名実共にキートン殿が謀反人になるだけではないか」
キートンの暴走はエルシリアが抑えてくれると思う。
それにあの慎重なキートンが、南部や帝都に攻め込む可能性は極めて低い。
「キートンは物価高に苦しんでおり、他国に攻め寄せる余裕はないし、軍隊も1万人に削減している。
ファーリが幾ら強くったって、こちらにもドラゴン族はいるのだぞ。
それに冬眠中のファーリなどディールギス0があれば何とか倒せるに決まってる。
「暫く捨て置け。この南部の小麦が豊作でなければ西方など維持出来ない」
まさこの時に災害が起こるとは・・・。
キートンを王にする羽目に陥ったのは誤算だったがまだ負けた訳ではない。
「リサ姫。南部の年貢徴収率は例年の2割減まで削減出来そうです」
朗報である。
南部が安定したら、難癖つけてキートンから領地を奪おう。
キートンが怒り出さない程度にな。
リサはキートンの力を弱めて飼い犬化する計画を密かに練りだした。
5000万石は流石に無茶だったな。




