小麦の生育の戦争
1月15日を過ぎたが、小麦の生育は恐ろしく悪かった。
大商人の言いなりに、大金を出して小麦を買い付けているが、これで3億の人口を養えるかどうかは、やってみないと分からないのだ。
「これで8割いけると思うか?ルーン君・・・」
リサはいい加減な事を言ったキートンに、理不尽な怒りを向けた。
「我々の努力次第ではと言う意味だと思いますよ。キートンは流石です」西方太守クビにして、南部太守に任命する訳にはいかないのだろうか?
あのそつなく仕事をこなす事しか出来ない御崎より、キートンの方が良い。
キートン一味の魔法にて救われた南部の民はキートン太守就任を希望した。
あの火山より怖いファーリとファリがいれば、災害など怖くない。
「お前ら。キートン様は今、お金に困っているらしい。キートン様の窮状をお救いして、ご恩を返すのだぁ」
恩や義理を感じられない奴など、全うな人間ではない。
盗賊だって、それなりにだが、恩も義理も感じて行動をしている。
よってこの寄付を要求する男の募金箱に、ミスリル硬貨が放り込まれた。
その一部はこの貧しい老人の生活費になる事も、南部の民は分かっている。
「必ずキートン様に届けるのだぞ。多少の資財流用は認めるから」
この老人の幸せも、エルザス帝国の民として、考えてやらないといけない。
多分募金の金を一部流用して、この男の親族が潤うのだろう。
「必ず届ける。約束守らないと、募金で儲けられなくなるからな」
この募金は即日魔法でキートンの下に届けられ、本人に感謝された。
老人の家族は、寒村に住居を与えられ、優遇待遇が与えられてるらしい。
親族の数名が、キートンの部下として、料理人に抜擢された。
「老人殿。上手くやりましたな」
人から集めた寄付を流用して、親族を就職させるとは、流石は老人。
知恵のキャリアが、我々若造などとは違い過ぎる。
「キートン様は喜んでいた。都にアパートを建設するそうだ」
それは良かった。
この問題は解決した。
しかし日照不足を解決したら今度は暑くなってきたぞ。
雲を殆ど地上に落としてしまった事により気候が変化したのかもしれない。
「各地で小規模な洪水と井戸水の枯渇が起こってきています」
厄介な、火山の噴火だ。
そう簡単には火山噴火の影響から解放されそうにないな。
「失った森には再び木を植えよ。エルザス帝国は絶対に諦めないぞ」
火山噴火ごときで、国を滅ぼされてたまるか。
「分かりました。作物の方はどういたしましょうか?」
農民は聞いてきたが、植物促成の能力は、そう簡単には使えない。
使えば多分状況は改善されるが、収穫の方まで期待は出来ないだろう。
「神様に依頼して、食糧を降らせて貰って。牛肉がいいわ」
キャベツやキュウリを降らせる神様など私は聞いた事がない。
それなら牛肉を降らせて貰って、飼料用の穀物を節約しよう。
「良いか?この状況で南部を大豊作にしたら、皇帝と大臣以外の好きな職に任命してやるぞ。報酬も支払う」
リサのこの言葉を聞いた農家の次男三男は、農業改革を断行させる事に成功して、多少小麦の生育が良くなった。
秘伝の肥料を小麦の土に混ぜてみただけだが。
「最近食糧の配給が減って来て困ります。我々の栄養状態が悪くなれば、農作物の収穫が減ると思いますよ」
農民は配給制を断行したリサに抗議する事になった。
そんな事言っても、将来の基金に備えて食糧は節約しないといけない。
邪神教徒の魔法によって、肉は調達出来たが、偏食は良くないだろう。
「肉ばかり食ってると、痛風になる可能性が高いと言う噂じゃないか」
「野菜が食いたい・・・」
1月16日には、作業は遅れがちになり、作物の生育状況は悪くなった。
「配給は増やすべきだろう。このままでは作物の収穫が激減するぞ」
そんな意見もあったが、飢饉が来るかも知れない状況で、手持ちの食糧の配給を減らす事など、出来る訳がないだろう。
「兵士の中にも、配給に不満を持つ者が大勢います」
確かに冬用の食糧を取り上げて、配給してるから農民も不満に思うだろう。
だがエルザス帝国の民衆の為に我慢してくれ。
「この重労働でもう動けませんよ。山に山菜取りに行っても言いですか?」
国が食糧を配給してくれないなら、自力で調達するしかない。
「構わないぞ。作業能率が落ちるよりマシだな」
早速部隊を組織して、山に山菜取りに行く事になった。
多少人数が減るが、こうなったらもうしょうがない。
「今夜の夕食は、私が用意する、お前らは食材を用意して来い」
キートンやファーリほど上手くはないが、私とて料理は作れる。
「リサ姫の料理が食べられるんですか?」
おにぎり位は配給されていたが、本格的な料理は食った事がない農民達だ。
「分かりました。最高の材料を調達してきます」
この夜にリサが料理を披露したが、中々高評だったらしい。
この料理なら、やる気がモリモリ出てくると言うものだ。
「てめえら。今夜は徹夜だ。作物を育てて収穫を上げるぞ・・・」
農業のレベルの高い人間が小麦の世話をすると多少は収穫が上がるかも。
「やる気がある時にやっておかないと、気力がなえますからねぇ」
雑草を、最後の一本まで抜きまくってやる。
その雑草は、家畜の餌にするのだ。
最近食わせてなかったので、物凄い勢いで餌を食べていた。
1月17日に、西方から大量に家畜用飼料が送られてきた。
南部の農民は大喜びして、リサとキートンに感謝する。
火山の噴火は西方には関係のない話だから、気楽に食糧も売りつけてきた。
「キートン様を反逆者などと言ったのは誰ですか?良き人じゃないですか」
そうだな。
リサも流石にそれは認めないといけない。
「西方の反乱軍3千を討伐にでており、こちらには来られないそうです。用件があるなら、反乱軍を倒してからいくので待っていてくれ」
分かった。
呼ぶ予定はないので、安心して領地を経営するように伝えておけ。
「リサ姫。大丈夫でしょうか?この生育状況だと6割が限界ですよ・・・」
情けない事を言うな。
天災などに負けない国家である事を、アンドロメダ星雲の全ての民に思い知らせてやるのだ。
「穀物の値段は高騰している。この状況で大豊作なら、お前ら間違えなく大金持ちになれるぞ。部下を顎で使える身分になれるんだぞ」
リサが消極的な部下や農民を煽るが、農民はやはり消極的だ。
「俺達は収穫よりも楽な生活を送りたいんですがね」
「飢饉になっても、俺達は生き残れますから」
その通りだが、リサとしてはこんな発想を、見逃す訳にいかない。
「私を信じて、作業を楽しく続けてくれないかね?」
これでは、私が強制労働でもさせているみたいな展開じゃないか。
確かに作業を強要してはいるが、それは民の為になる事だからだ。
だがこんな雰囲気では、無理矢理仕事させても意味はないだろう。
「分かった。昼からは休憩にしよう」
エルフの部隊だけは、作業を続行させるが、農民は休ませる事にした。
「豚を買い上げてくれないか?この春は飢饉になる予定だから、万一に備えて、リサ姫に豚の一部を買い取ってもらいたい」
この農民。
生産の縮小を計る気なのか。
不味いな。
「良いだろう。豚は直増えるからな」
「そうさ。生産を縮小させるなら、牛より豚だろう」
リサは買い取った豚を干し肉にして、南部の帝都に保管させた。
肉の一部は豚祭に使われる。
農民の慰労の為に使う事にしたのだ。
確かに予定収穫率が例年の40%減はキツイが、配給さえ出来れば飢えるほどではない筈だし、農民を苛めて、反乱でも起こされたら困る。
「いいのですか?食糧は貴重なのに・・・」
農民は不安そうにリサを見たが、リサは虚勢を張って言い切った。
「餓え死にだけはさせないから、安心しろ」
農民は安心して、豚祭を楽しむ事にしたが、エルフ達は努力を続けていた。
エルフの努力の御蔭で、農作物の生育はよくなってるが、数が多すぎる。
可能ならば8割まで収穫を伸ばしたいが、贅沢な要求かも知れないようだ。
農民達はお祭り騒ぎで浮かれている。
特別に酒も振舞われた。
「全く。あの娘は俺達の苦労は、労う気はないらしいな・・・」
「文句言うな。リサ姫からは、給料をもらっているんだ」
エルフ達は愚痴りながら、作物の生育状態を良くしている。
魔法薬が使えないのがキツかったが、雇われてるからには文句も言えないのだ。
「雇用契約が終わったら、割増料金を請求してやる」
エルフ達はこの夜に、多くの功績を残す事になる。
1月19日。
物書きの少女がやって来て、リサに忠告をしてきた。
「ドラゴンって、南部にも住んでいますよね?」
そりゃまあ住んでいるだろうが、それがどうしたと言うのだ?
私が急がしいのはお前も知ってるだろうが。
「ファーリの大食漢ぶりを聞く限り、ドラゴンは大食いだと思われます」
そのドラゴンが、この大噴火による食糧不足の被害を受けないと思うか?
多分腹をすかせたドラゴンが、じきに大挙して南部にやってくると思うぞ。
しかももしそのドラゴンが、ファーリ並みに強かったら・・・。
「ドラゴンとの深刻な食糧の争奪戦が起こりかねないな」
リサもやっと事態の深刻さを理解したようだ。
この状況を放っておいては、エルザスは致命的な打撃を受ける。
「南部の全ての村に厳戒態勢を取らせよ」
ドラゴンに勝てるとも思えないが、用心はしないといけない。
「黒龍がファーリとファリだけの筈はないですよ」
黒龍が絶滅危惧種などとは聞いた事ないし、数百頭はいるんじゃないか?
しかも人間の姿をしてるだろうから、見分けがつかない。
「これも神様の試練だと言いたいのか?」
出来れば民衆が迷惑する試練を与えるのは止めてほしいんだが。
「リサ姫。南部東方の港町が、ドラゴンと思われる飛龍に攻撃されました」
その時嫌な報告が部下によってもたらされたのだ。
出来れば聞きたくなかったが、もう仕方がない。
「ネトゲ廃人。そなたの部下を引き連れ、東方港町救援に行って来い」
「分かった」
ネトゲ廃人は、部下のゴーレム隊を数十機従え、東方港街に出撃した。
思いつきでドラゴンを登場させて見ました。




