粉塵との戦い
大噴火で日照不足が深刻な問題になっていたが、風魔法で粉塵を取り除く策が考えられ、一応実行して見る事にした。
巨大風魔法で粉塵を吹き飛ばすなど、どこぞの環境汚染国のアイデアのパクリだと思われるが、ファンタジー世界でなら、多少の効果はある。
兎に角日照不足を何とかしないと、飢饉が訪れ人を食うようになるだろう。
エルザス帝国の人口は肥大化し続けた。
面倒なので個々の領地の人口は省くが、12億まで増えている。
惑星A1も、2億まで膨れ上がっていた。
地球人の移民も、惑星Cに積極的に受け入れており、1億人はいる。
この地球人を利用して、アンドロメダ星雲の実効支配を強める予定だった。
この国で本気で飢餓が訪れたら、共食いで数億は失われるだろう。
「この国を愛するなら、雨ふらしの魔法を使え。多少は粉塵が落ちてくる」
リサはいつもののんびりした政治方針を改め、必死に部下を指導していた。
このままでは民も心配だが、自分の帝位も危ないのである。
「あの雲凍らせて、地上に叩き落したらどうでしょうか?多少は効果あるかも知れません。氷系魔法の専門家を大至急手配いたします」
あの南部の雲が光を遮っているのだ。
ならばその雲を地上に落とせば、光が地上に差し込むだろう。
「何でもいい。可能性のある事は何でも試してみよ。資材は私が用意する」
それとアトルピーにはキートンを呼んでくるように命令しておいた。
あのキートンの部下なら、前の大噴火の惨状を見た事があるかもしれない。
「余りに灰が多くて、取り除くのは不可能です。農民はバテはじめてます」
そんな愚痴をこぼす農民には、エルザス兵を派遣しておいた。
「リサ姫噴火後の火山の噴煙が凄まじく、粉塵を取り除くのは不可能です」
ここは南部を放棄して、帝都から指揮をとる方がよろしいのでは?
万一火砕流でも発生したら、犠牲者が出ます。
「逃げたければお前たちだけで逃げろ。私はこの災害が収まるまでは撤退はしない。大体この土地を見捨てたら、大飢饉が訪れ我々は最後だぞ」
一応邪神教徒に食糧の生産は命じておくが、期待はしない方が良かった。
「リサ。苦労しているようだな。命令通り氷魔法の達人を連れてきた」
シエルが部下の魔法部隊を引き連れてリサの下に訪れた。
こうなったら、エルザス帝国の魔法を動員して、粉塵を追い払ってやる。
「竜巻魔法~」
数件の家を道連れに雲の一部が一瞬吹き飛んだ。
そこから数秒だけ光が差し込む。
「効果があるぞ。今の魔法をもう一度行え・・・」
リサの命令で、シエルの部下達は竜巻魔法を連続して使用した。
「俺の家を壊さないでくれ~」
一部の民衆はリサに敵意の目を向けたが、この場合仕方ないだろう?
「弁償は必ずするから、黙るように伝えてくれ・・・」
リサも住民に悪いと思ったのか、補償に応じる約束をした。
「光が差し込むぞ~。リサ姫万歳」
1月10日。
ここ数日の激闘ぶりで、ようやくリサ側に勝利の希望が見えてきた。
粉塵は幸運な事に、成層圏まで届いてはいないらしいな。
「たたみかけて勝利するぞ。氷魔法と降雨魔法で止めをさせ」
少しでも粉塵を地上に叩き落すかが問題なのだ。
リサは疲れ果てた部下に、おにぎりを配って回った。
粉塵は暫くすると、また南部の空をおおうだろう。
その前に体力を回復させて、次の戦いに備えないといけないのだ。
「少し眠っても良いでしょうか?疲れました」
「酒を飲ませてくれ。もう耐えられない・・・」
取り合えず、酒とおにぎりで部下をもてなすと、農民には一時金金貨50枚を支払った。
今支払っておかないと、手違いから、約束を破る事になりかねない。
そうなっては、信用ががた落ちだし、統治に影響が出る。
「最近は粉塵の出方も少ないな。ゆっくり休んでいても良いだろう」
工兵には、火山灰を取り除く作業員と共に活動をさせている。
南部の食糧を失ったら、本気で人を食うような飢饉になるだろう。
「分かってますよ。いざとなったら邪神教徒に入信しますから、俺は絶対人は食いませんよ。人を食うより、邪神教徒の方がマシでしょう」
神聖教徒も愛の女神団も、食糧は降らしてくれないからなぁ。
生きる為には、邪神教徒に鞍替えするしかないだろうと本気で思う。
この火山の大噴火は、邪神教徒の勢力拡大に貢献してしまうかもしれない。
「大変です。熊が山から降りて来ました。どうしましょう」
冬眠出来ない熊がこの大噴火で、餓え死にしかかっているのか?
熊には災難な事だろうか、殺して食糧にする。
街に下りてくる猪や鹿も同様の処分だ。
「この鬼悪魔~」
「死にたくない。命だけは助けてください・・・」
獣を狩る時だけは、エルフの血を呪うが、生きる為に獣を狩って何が悪い?
「リサ姫。少しはお休みになってください。皇帝に倒れられたら困ります」
私としては、民衆に倒れられる方が困るのだよ。
実益でも偽善的な意味でもな。
南部を失ったら、エルザスの人口は激減する。
アンドロメダ星雲支配の為には、この国力を維持する必要があった。
「リサ姫。火山島周辺の村で、井戸水が涸れました」
井戸水?
エルザス帝国では、地震は来ない筈だが、こうなると心配になってきた。
「一応避難民は受け入れろ。と言っても、農民は女子供までほぼ全員、火山灰の撤去に狩りだしているが・・・」
この無謀な命令に、農民が従ってるのは、リサ姫に道理があるからだ。
南部の農地を失ったら、確かにエルザス人は生きていけない。
「リサ姫。キートンとファーリとファリがやって来ました」
「遅い・・・」
リサ姫はキートンをリサの野営地に呼ぶように命令した。
やってきたキートンに、リサが尋ねる。
「どうすれば良い?どうすればこの災難から民を救える?」
リサの難題に、キートンも困った。
人を便利屋扱いしないでくれ。
「リサ姫の対策で十分なのではないか?ファーリにあの粉塵を吹き飛ばさせたら、何百軒の家が壊滅するか、分からんぞ」
その程度の犠牲でどうにかなるなら、さっさとやってくれないだろうか?
この南部を失ったら、エルザス帝国の未来と、私の栄光は終わりなのだ。
だから絶対に負けない。
災害ごときで、私の栄光と民の命を失ってたまるものか。
「本当に良いのか?被害が並みじゃないぞ・・・」
キートンがファーリに粉塵を吹き飛ばすように命令した。
ファーリが困惑する。
「ご主人様。あれ何?私怖い・・・」
ファーリは火山を見た事がないようだ。
まあ俺だって見た事はない。
あんなもの見ないで、一生を送れるならそれが一番良いだろう。
「竜巻魔法~」
ファーリの竜巻魔法はエルザス帝国のそれとはくらべものにならなかった。
森を3つ道連れにして、粉塵を完全に打ち破る。
「氷魔法」
ファーリは、火山そのものに氷魔法をぶつける事にした。
「馬鹿。それは止めろ・・・」
溶岩に氷をぶつけると、爆発する可能性が高いのだ。
ドドドーン・・・。
火山島が、完全に冷やされた状態で爆発する。
爆発からは、ファリの防護魔法で、畑事守られる。
「ファーリ様万歳~。リサ姫に栄光あれ~」
「こんな恐ろしい小娘共を、俺達は敵に回していたのか・・・」
エルザス帝国の将兵と農民は、作物にこびりついた、火山灰を丹念に洗う作業が開始される事になったが、ファーリは適度な水魔法で効率良く畑を洗う作業に従事していた。
「サボるとお前らが食べられなくなるんだぞ」
分かっているが、疲れる事このうえない。
だが休憩をとったら、再び作業を再開する気力を失うかもしれない。
「全く。税金支払ってるんだから、エルザス帝国で何とかしてもらいたい」
だから、エルザス兵と西方のファーリが協力しているだろう。
「あの高みの見物決め込んでいるファリも、働かせてください」
「・・・」
私は魔法をコントロール出来ない。
魔法を使えば、畑が崩壊するぞ。
「・・・」
民衆は不満に思ったが、こう言われては諦めるしかなかった。
折角火山から救われたのに、ファリの魔法で、畑を失いたくない。
「お前には褒美として、男爵の位を授ける」
ファーリは炎魔法をリサに突きつけて返事した。
仕事の邪魔するんじゃない。
「リサ姫。軍隊を補給させといて。エルザス帝国50万の兵では足りない」
南部は広い。
3億の南部の民は、総動員体制で火山灰の洗浄に勤めていたが、数が足りないので、増員を求める声が、各地に上がっている。
それでも1月12日には、奇跡的に火山灰の除去に成功した。
ファーリの活躍の御蔭である。
「疲れたぁ。報酬なんかいらないから、春まで起こさないで・・・」
ファーリは眠ってしまったので、ファリの背に乗せて寒村に帰っていった。
「リサ姫。俺も西方に帰る。何とか8割位の収穫は見込めるだろう」
複合薬の使用は控えた方が良いと思う。
あれは予算がかかりすぎるから、エルザス帝国経済を、圧迫する。
「そうか、協力に感謝する。エルザス帝国に対する忠誠を認めよう」
「気にするな。エルザス帝国の民は、公務員たる俺にとっては弟や妹も同様だ。妹を助けない兄がどこにいる?」
そのようにキートンは考えているのか?
公務員として、その考え方は立派だ。
褒めてやろう。
「では去らせてもらう。後は自力で何とかしてくれ」
キートンも、エルザス帝国本国を救済出来るほど暇じゃない。
領土を空けた事が国民にばれたら、反乱が起こるかもしれない。
削減した兵では、抑える事は困難だぞ。
「私のせめてもの気持ちだ。災難よけのお守りを持っていけ」
「・・・」
おい。
何の冗談の心算だ?
全く笑えない冗談だ・・・。
しかも災害よけのお守りだぞ、これ。
「有難く受け取っておく」
邪神教徒のお守りなど、信者じゃないおれには何の効果もないだろう。
まあリサを喜ばせて、油断させる効果はあるか。
それなら家内安全のお守りに思えるが。
「大司教たる私の描いたお守りだ。地震雷、火事親父に効能がある筈だ」
未熟者が。
火山には何の効果もなかったぞ。
キートンは心中不安を抱きながら、邪神教徒の魔法で寒村に送り返された。
エルザス帝国に深刻な災いをもたらした、火山騒動は多分これで終わりではないだろう・・・。
ファリの魔法は素晴らしい。




