↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/45

第9話 はじめまして、コヨリ

 狐火の模様が、淡く光っていた。

「……おなまえ、なあに?」

 うーちゃんが、えんじ色の巾着をじっと見つめる。

『それは――』

「あっ!」

「?」

 突然、ユイが声を上げた。

「そういえば!」

「なに?」

「結局、今日なんで来たの?」

「…………」

 イズナが、なんとも言えない顔をする。

「お姉ちゃん」

「ん?」

「昨日のメッセージ」

「…………」

「読んでないでしょ」

「よ、読んだよ?」

「じゃあ言ってみて」

「…………」

「もう」

 イズナはため息をつくと、バッグを開けた。

 どさっ。

 教科書。

 ノート。

 問題集。

「…………」

「今度、テストだから」

「うん」

「勉強、教えて」

「…………それだけ!?」

「それだけって何?」

「だってさっき!」

 ユイは思わず身を乗り出す。

「『お姉ちゃんも見つけたんだね』とか!」

「言ったね」

「『まだ秘密』とか!」

「言った」

「すっごく意味深だったじゃん!」

「勉強は別」

「別なんだ……」

 完全に肩透かしだった。

 そんな姉妹の横で――。

「…………」

 うーちゃんだけは、まだ巾着を見つめていた。

     ◇

「じゃあ、ここからね」

「うん」

 しばらくして。

 ユイとイズナは、テーブルに並んで座っていた。

「この式に数字を入れて――」

「…………」

 さらさら。

 イズナがノートに答えを書いていく。

「そう。そこまでは合ってる」

「じゃあ、次は?」

「ここを先に計算して――」

 姉妹が勉強を続ける、その少し離れた床では。

「…………」

 ちょこん。

 うーちゃんが座っていた。

 その目の前には、イズナが置いていったえんじ色の巾着。

「…………」

 じーーーーっ。

『…………』

「……いる?」

 返事はない。

「…………」

 つん。

 小さな指で巾着を触る。

「……コヨリ?」

 しーん。

 もう一度。

 つん。

「……コヨリ?」

 そのときだった。

 もぞっ。

「!」

 巾着が動いた。

 もぞ。

 もぞもぞ。

「……!」

 うーちゃんの大きな瞳が、きらきらと輝く。

「……でてくる?」

 もぞ。

 そして――。

 ひょこっ。

「!」

 巾着の口から、小さな狐耳。

 さらに。

 ひょこ。

 小さな顔が現れた。

「…………」

「…………」

 じーーーーーっ。

 うーちゃんと、小さなキツネの女の子。

 二人の視線がぶつかる。

「……そんなに見ないで」

「……しゃべった♡」

「昨日もしゃべったでしょ」

「……おなまえ」

「…………」

 小さなキツネの女の子は、少しだけ視線をそらした。

「……コヨリ」

「こより……」

「そう」

「コヨリ♡」

「……うん」

 名前を呼ばれただけなのに。

 コヨリは、ほんの少し照れくさそうだった。

 そして――。

 巾着の口から身体を出す。

 ぴょこん。

 そのまま、うーちゃんのすぐ横へ降りた。

「……!」

 うーちゃんは嬉しそうにコヨリを見る。

「…………」

 コヨリは、そんなうーちゃんを横目で見る。

 二人はそのまま、床に並んだ。

 その瞬間――。

 きらっ!

「!」

 少し離れたテーブルで、イズナの赤いペンダントが強く光った。

「え?」

 ユイが隣を見る。

「イズナ……?」

 さら……。

 イズナの身体を包んでいた白から狐色の羽織が、光の粒へ変わり始めた。

「えっ……?」

 赤い組紐。

 狐火の模様。

 換装によって現れていたものが、一つずつ光となってほどけていく。

 ふわっ――。

 光がおさまった。

 そこには、黒い長袖の制服姿になったイズナ。

 そして少し離れた床には――。

 うーちゃんの横に座っている、コヨリ。

「…………」

 ユイはイズナを見る。

 次に、コヨリを見る。

 もう一度イズナを見る。

「…………イズナ?」

「なに?」

「服!」

「うん」

「変わった!」

「うん」

「なんで!?」

「解除されたから」

「解除!?」

「換装」

「…………換装?」

 初めて聞く言葉だった。

 けれど。

 ユイの頭に、昨日の出来事が蘇る。

 光になったうーちゃん。

 空っぽになった自分の腕。

 そして、制服の上に現れたアイボリーのパーカー。

「…………まさか」

 ユイはコヨリを見る。

 イズナを見る。

 赤いペンダントを見る。

「イズナも……?」

「うん」

「私とうーちゃんみたいに?」

「そういうこと」

「いつから?」

「けっこう前から」

「聞いてない!」

「聞かれてないし」

「そういう問題!?」

「ふふっ」

「もう!」

 そのころ。

 少し離れた床では――。

「…………」

「…………」

 うーちゃんとコヨリが、向かい合っていた。

「……なに?」

 コヨリが尋ねる。

 うーちゃんはじーーーーっとコヨリを見て。

「きつね♡」

「うさぎ」

「えへへ♡」

「なんで笑うの?」

「…………」

「……?」

「きつね♡」

「だから、なんで嬉しそうなの?」

     ◇

 ユイとイズナは、再び勉強へ戻った。

「じゃあ、次」

「まだやるの?」

「テストなんでしょ?」

「……はい」

 そして床では。

 ぺた。

 ぺた。

 うーちゃんがお気に入りのボールを持ってきた。

 よいしょ。

 よいしょ。

 コヨリの前へ。

 ころん。

「……あそぶ?」

「…………」

「…………」

 期待いっぱいの目。

「……ちょっとだけ」

「!」

 ぱあっ♡

「う〜♡」

 ころころ。

 うーちゃんがボールを転がす。

「えいっ」

 ころころ。

「きた♡」

 また。

 ころころ。

「ほら」

「えへへ♡」

 いつの間にか。

 二人とも夢中になっていた。

     ◇

「じゃあ、この問題は――」

 ユイがイズナのノートを指さす。

 ころころころ。

「…………」

 ユイの目が、そちらへ動く。

「お姉ちゃん」

「ん?」

「集中」

「してるよ」

「今、あっち見てた」

「だって気になるじゃん」

 きゃっ♡

「コヨリ、もういっかい♡」

「いいよ!」

「ほら!」

「……だって、うーちゃんに初めてお友達ができたんだよ?」

「まだ会って一時間も経ってないけど」

「もう仲良しじゃん」

「……まあね」

 イズナも、ちらりと二人を見る。

「イズナも見てるじゃん」

「見てない」

「見てた!」

「勉強するよ」

「ごまかした!」

     ◇

 ころころ。

 そのとき。

 ボールが家具の下へ転がっていった。

「あ……」

 うーちゃんは床にぺたんと座る。

 ぐーーーっ。

「ん〜……」

 手を伸ばす。

 でも。

「……とどかない」

「まかせて」

「……?」

 コヨリが前へ出る。

 ふわっ。

「!」

 小さな狐火が現れた。

 淡い光が、家具の下を照らす。

「そこ」

「……きらきら♡」

 うーちゃんの瞳まで、きらきらしている。

 ボールを取り出すと、うーちゃんはますます目を輝かせた。

「コヨリ、すごい♡」

「これくらい普通だよ」

 ちょっと得意げ。

「…………」

 うーちゃんは自分の両手を見る。

 そして。

 すっ。

 前へ。

「むむむ……」

「……?」

「……ぽうっ」

「…………」

「…………」

 何も出ない。

「……ぽうっ」

「出ないね」

「…………」

 長いたれ耳が。

 しゅん……。

「あ……」

 コヨリが少し困った顔になる。

「……うーちゃんは、うさぎでしょ」

「……うん」

「私と違うことができるんじゃない?」

「…………」

「たぶんだけど」

 うーちゃんが顔を上げる。

「……できる?」

「たぶん」

「…………」

 ぱあっ♡

「できる♡」

「だから、たぶんって――」

「えへへ♡」

「……まあ、いいか」

     ◇

「終わったー……」

 しばらくして。

 イズナがテーブルへ突っ伏した。

「おつかれさま」

「疲れた……」

「ちゃんとできてたじゃん」

「お姉ちゃん、教えるの上手くなったね」

「ほんと?」

「前よりは」

「一言多い」

 ユイが時計を見る。

「あ」

「?」

「もうこんな時間」

 窓の外は、すっかり暗くなっていた。

 床では――。

「コヨリ♡」

「はいはい」

「もういっかい♡」

「何回やるの?」

 まだ二人で遊んでいる。

「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」

 イズナが立ち上がる。

 その言葉に。

 ぴくっ。

「…………」

 うーちゃんの耳が動いた。

「?」

 コヨリが振り返る。

「……かえる?」

「そのつもりだけど」

「…………」

 しゅん……。

 うーちゃんの耳が垂れる。

 そして。

 コヨリの袖を――。

 きゅっ。

「?」

「……もうちょっと」

「…………」

「あそびたい……」

「…………」

 コヨリも困ったようにうーちゃんを見る。

 そんな二人を見て。

「…………」

「…………」

 ユイとイズナが顔を見合わせた。

「……泊まってけば?」

「え?」

 イズナが目を丸くする。

「明日休みだし」

「いいの?」

「もちろん」

「…………」

 うーちゃんは、まだ意味が分かっていない。

 数秒。

「…………!」

 理解した。

 ぱあああっ♡

「コヨリ!」

「わっ!」

 ぎゅっ♡

「おとまり♡」

「ちょ、ちょっと……!」

「おとまり♡ おとまり♡」

「分かったから……!」

 そう言いながら。

 コヨリも、少しだけ嬉しそうだった。

     ◇

「じゃあ、お布団出さないとね」

「ありがとう、お姉ちゃん」

「どういたしまして」

 ユイが立ち上がる。

 その足元では。

「コヨリ、いっしょにねる?♡」

「えっ」

「いっしょ♡」

「…………」

 コヨリは少し考えて。

「……まあ、いいけど」

「えへへ〜♡」

 嬉しそうに揺れる、うーちゃんの長いたれ耳。

 それを見て、ユイとイズナも笑った。

 青いペンダント。

 赤いペンダント。

 二つの宝石が――。

 きらっ。

 そして。

 うーちゃんとコヨリのそばでは、小さな狐火が――。

 ぽうっ♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。