第5話 うーちゃんのおふとん
ある日の朝。
ユイが部屋を片づけていると――。
もぞ。
もぞ。
「……ん?」
ベッドの上。
毛布の中から、長いたれ耳の先がひょこっと飛び出していた。
「……うーちゃん?」
そっと毛布をめくる。
すると。
「…………」
すぅ……。
すぅ……。
ユイの枕へほっぺをくっつけて、小さな身体を丸くしたうーちゃんが眠っていた。
毛布の中へ、すっぽり。
「また私のベッドで寝てる……」
ユイは苦笑した。
「昨日はちゃんと、うーちゃんのお布団に寝かせたよね?」
「すぅ……♡」
「いつ移動してきたんだろ」
もちろん答えはない。
ユイは眠っている頭を、そっと撫でた。
なで。
なで。
「もう……」
最近。
朝になると、こうしてユイの近くにいることが増えた。
夜中に目を覚まして、こっそりやってきているらしい。
「…………」
しばらくすると。
ぱちっ。
「……?」
うーちゃんの目が開いた。
「おはよう」
「…………」
まだ少しぼんやりした顔。
けれど、ユイを見つけると――。
「……ユイ♡」
ぱあっ。
ぺたっ♡
「わっ」
起きた瞬間、ユイへくっついた。
「はいはい。おはよう♡」
「う〜♡」
ぎゅっ。
ユイも小さな身体を抱き返した。
◇
その日の午前。
ユイはふと思った。
「そういえば……」
うーちゃんには、ちゃんとした寝る場所がない。
今までは余っていたクッションや毛布を重ねて、簡単な寝床を作っていた。
それでも十分だと思っていたけれど。
「…………」
最近のうーちゃんを見ていると。
自分だけの場所があってもいい気がした。
「そうだ」
「……?」
「うーちゃん」
ユイが笑う。
「ちゃんと、うーちゃんの寝る場所を作ろうか」
「……?」
何のことか分かっていないらしい。
首を傾げている。
「ちょっと待っててね」
◇
ユイが持ってきたのは。
小さなかご。
ふわふわの毛布。
小さな枕。
柔らかいクッション。
「…………」
うーちゃんは、じーーーーーっと見ている。
「そんなに見なくても逃げないよ」
「…………」
じーーーーーっ。
何を始めるのか気になって仕方がないらしい。
ユイがかごの中へ毛布を敷く。
ふわっ。
「……!」
小さな目が輝く。
枕を置く。
ぽふっ。
「……!」
さらに輝く。
「ふふっ」
分かりやすい。
クッションも置いて。
毛布の形を整えて。
「よし」
ユイは満足そうに手を叩いた。
「できた!」
「……?」
「これはね――」
小さな寝床を指さす。
「うーちゃんのお布団」
「…………」
「うーちゃんだけのお布団だよ」
「……うーちゃんの?」
「そう」
ユイは頷いた。
「好きに使っていいんだよ」
「…………」
うーちゃんは、ぽかーん。
まだよく分かっていないようだった。
◇
ぺた。
ぺた。
うーちゃんは、お布団の前まで歩いていった。
「…………」
つん。
毛布に触れる。
ふわっ。
「……」
もう一度。
つん。
つん。
「……ふわふわ」
「でしょ?」
「…………」
そして。
そーっと。
ぽすっ♡
「……!」
小さな身体が、ふわふわの毛布へ沈んだ。
長いたれ耳も。
ふわぁ……。
「…………」
一瞬、固まって。
「う〜♡」
ごろん。
「う〜〜♡」
ころん。
さらに。
ごろ〜ん。
「そんなに気に入った?」
「う〜♡」
「よかった」
ユイも嬉しくなる。
ところが。
しばらくすると――。
うーちゃんが、お布団から出てきた。
「……?」
ぺた。
ぺた。
何かを取りに行く。
そして。
「よいしょ」
小さなおもちゃを抱えて戻ってきた。
ことん。
お布団の中へ。
「……持ってくるんだ」
「う〜」
また。
ぺた。
ぺた。
今度は、お気に入りのクッション。
うーちゃんの身体より少し大きい。
「…………」
ずる。
ずる。
「それも持っていくの?」
「う〜」
「大変そうだけど……」
ずる。
ずる。
どうしても持っていくらしい。
さらに。
お気に入りのブラシ。
ユイにもらった小さなもの。
ひとつ。
またひとつ。
自分のお布団へ運んでいく。
「…………」
気づけば。
「……どんどん増えてる」
お布団の中は、お気に入りのものでいっぱいになっていた。
その真ん中。
ちょこん♡
うーちゃんが座っている。
とっても得意そうだ。
「ふふっ」
ユイは笑った。
「うーちゃんのお部屋みたい」
「えへ〜♡」
◇
そして夜。
「そろそろ寝ようか」
「う〜」
いつもなら、ユイのそばへ来るところだけれど。
今日は違った。
ぺた。
ぺた。
「おっ」
うーちゃんが自分から、新しいお布団へ向かう。
ぽすっ。
真ん中へ座った。
「ちゃんと覚えてたんだ」
「う〜」
ユイは小さな身体へ毛布をかけてあげる。
ふわっ。
「どう?」
「…………」
毛布をぎゅっ。
「……あったかい♡」
「よかった」
なで。
なで。
「う〜♡」
「おやすみ、うーちゃん」
「…………」
少し間があって。
「……おやすみ」
「……!」
ユイが目を丸くする。
「今、おやすみって……」
「……?」
「ふふっ。なんでもない」
またひとつ。
うーちゃんが使える言葉が増えた。
「おやすみ」
「……おやすみ♡」
ぱちっ。
部屋の明かりが消えた。
◇
しーん。
「…………」
ふわふわ。
あったかい。
お気に入りのものもいっぱいある。
とっても素敵な、自分のお布団。
「…………」
でも。
ちらっ。
少し離れたところ。
ユイのベッド。
「…………」
うーちゃんは目を閉じた。
ぎゅっ。
毛布を握る。
「…………」
少しして。
ぱちっ。
また目が開いた。
「…………」
じーっ。
ユイのベッドを見る。
「…………」
もぞ。
もぞ。
長いたれ耳が、お布団から出てくる。
ひょこっ。
そして。
ぺた。
ぺた。
暗い部屋を、小さな足で歩いていく。
◇
ユイのベッドの前。
ちょこん。
「…………」
うーちゃんは、じーーーーーっと見上げていた。
「すぅ……」
ユイは眠っている。
「…………」
「……ユイ」
「…………」
「……ユイ」
「ん……?」
ユイが薄く目を開ける。
「……ん?」
ベッドの下。
そこには。
「…………」
うーちゃん。
両手をいっぱいに広げている。
「……だっこ」
「……うーちゃん?」
眠い目をこすりながら、ユイが身体を起こす。
「自分のお布団は?」
「…………」
ちらっ。
うーちゃんが後ろを見る。
自分のお布団。
ふわふわで。
お気に入りもいっぱい。
でも。
「…………」
またユイを見る。
「……いっしょ」
「…………」
「いっしょ……ねる」
「…………」
ユイは少しだけ笑った。
「そっか」
ひょい。
「……!」
ぎゅっ♡
「う〜〜♡」
さっきまでの寂しそうな顔は、どこへやら。
ユイの胸元へ。
すり。
すり。
「せっかく素敵なお布団作ったのになぁ」
「…………」
きゅっ。
うーちゃんの小さな手が、ユイの服を握る。
「今日はこっち?」
「…………」
こくん♡
「しょうがないなぁ」
ぎゅっ。
「う〜♡」
そして。
ものの数分もしないうちに――。
「…………」
すぅ……。
すぅ……。
「……もう寝た」
ユイは腕の中のうーちゃんを見る。
「やっぱり、ここが一番なの?」
「……う〜……♡」
眠ったまま。
少しだけ幸せそうに笑った。
◇
翌朝。
「ん……」
ユイが目を覚ます。
「…………」
ふと。
「あれ?」
胸元を見る。
いない。
「うーちゃん?」
昨夜、確かに抱っこしたまま眠ったはずだった。
「…………」
部屋を見渡す。
すると。
「……!」
新しく作ったお布団。
そこから。
長いたれ耳が。
ひょこ。
「…………」
ユイはそっと近づいた。
そして、覗き込む。
「……あ」
すぅ……。
すぅ……。
うーちゃんが眠っていた。
お気に入りのクッションを。
ぎゅっ。
ユイにかけてもらった毛布に、すっぽり包まれている。
「…………」
どうやら。
夜中に一度目を覚まして。
自分で戻ってきたらしい。
「……ひとりで戻れたんだ」
ユイの顔が、少し嬉しそうに緩む。
なで。
なで。
「う〜……♡」
「ふふっ」
しばらくして。
ぱちっ。
「……?」
「おはよう」
「…………」
うーちゃんがユイを見つける。
「……おはよ」
「……!」
またひとつ。
「おはよう、うーちゃん」
「……おはよ♡」
「ちゃんと自分のお布団で寝られたね」
「…………」
うーちゃんは、自分の周りを見る。
ふわふわの毛布。
クッション。
お気に入りのもの。
「…………」
にこっ♡
そして。
毛布を両手で。
ぎゅっ♡
「……うーちゃんの♡」
「うん」
ユイも笑った。
「うーちゃんのお布団」
「う〜♡」
◇
それから。
うーちゃんには。
もうひとつ、大好きな場所ができた。
眠たくなると。
ぺた。
ぺた。
自分のお布団まで歩いて。
ぽすっ♡
「う〜……」
すやすや。
でも。
寂しい夜には――。
ぺた。
ぺた。
ユイのところまでやってきて。
両手をいっぱいに広げる。
「……だっこ♡」
「はいはい♡」
ひょいっ。
「う〜♡」
ぎゅっ。
ユイの腕の中と。
うーちゃんだけのお布団。
どちらも。
うーちゃんにとって、
安心して眠れる――
大切な居場所になりました。




