ユイにないしょ♡
――ある日の夕方。
がちゃ。
「ただいま〜……。」
「…………!」
ぱあっ♡
ぺた!
ぺた!
ぺた!
「ユイ〜♡」
むぎゅっ♡
「わっ。」
「おかえり〜♡」
「ただいま。」
なで。
なで。
「う〜♡」
「ユイ!」
たたたっ。
「おかえり!」
「ただいま、カナタ。」
「今日もバイトだった?」
「うん。」
「ケーキいっぱいだった?」
「いっぱいだったよ。」
「食べた?」
「売り物だから食べません。」
「一個も?」
「一個も。」
「…………。」
「たいへんだ。」
「そこ?」
「…………。」
ユイの顔を――
じーーっ。
「?」
「ユイ。」
「なあに?」
「つかれた?」
「え?」
「…………。」
じーーっ。
「…………。」
少し笑って。
「ちょっとだけ。」
「でも――」
うーちゃんの頭を、
なで。
なで。
「うーちゃんたちの顔見たら、元気になった。」
「…………♡」
「ほんとだよ。」
「ユイ。」
「ん?」
「きょうも――」
「がんばった?」
「…………。」
「うん。」
「…………。」
背伸びして――
小さな手。
ぽん。
ユイの頭へ。
なで。
なで。
「いいこ♡」
「…………。」
「私がいい子なの?」
「うん♡」
なで。
なで。
「ユイ、いいこ♡」
「ふふっ。」
「ありがとう。」
「僕もやる!」
「え?」
なでなでなでなで!
「ちょ、カナタ!」
「いいこ! いいこ!」
「激しい!」
「えへへ……♡」
――翌朝。
「今日は学校から、そのままバイト行ってくるね。」
「分かった!」
「…………。」
「帰るの、ちょっと遅くなるから。」
「二人でお留守番できる?」
「できる!」
「…………。」
「うーちゃん?」
「できる♡」
「知らない人が来ても、勝手に開けちゃダメだよ。」
「うん!」
「外にも勝手に行かない。」
「うん!」
「それから――」
「分かってるって!」
「ほんとかなぁ。」
「じゃあ。」
靴を履いて。
「行ってきます。」
「いってらっしゃい!」
「…………。」
ぺた。
ユイのところへ。
むぎゅっ♡
「…………。」
「いってらっしゃい♡」
「うん。」
ぎゅっ。
「行ってきます。」
がちゃ。
しーん。
「…………。」
「…………。」
「行っちゃった。」
「うん。」
「…………。」
昨日。
『ちょっとだけ。』
疲れた顔のユイ。
それでも――
自分たちを撫でてくれた。
「カナタ。」
「なに?」
「ユイ……。」
「いっぱい、がんばってる。」
「うん!」
「僕たちにいっぱい買ってあげたいからでしょ?」
「…………。」
自分の――
うさぎクッションを見る。
ぎゅっ。
「ユイ――」
クッションを、
ぎゅうっ♡
「これ、くれた。」
「僕も!」
飛行機のおもちゃ。
「これ!」
「…………。」
考えて。
考えて――
ぱあっ♡
「こんどは――」
「?」
「うーちゃんが、ユイに♡」
「僕も!」
「ふたりで♡」
「プレゼントしよう!」
「ぷれぜんと♡」
二人――
「…………!」
「何あげる?」
「…………。」
「…………。」
「うー……。」
「買いに行く?」
「…………。」
「…………。」
二人――
ポケット。
ごそ。
ごそ。
何もない。
「僕、お金ない。」
「うーちゃんも……ない。」
「…………。」
しーん。
「じゃあ!」
ぱあっ!
「作ろう!」
「…………!」
「つくる♡」
「ユイがびっくりするやつ!」
テーブル。
紙。
リボン。
工作道具。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「どうやって?」
「うー……。」
そのとき。
ピンポーン。
「!」
「…………。」
「誰?」
カナタが――
玄関へ。
でも。
ぴたっ。
ユイの言葉。
『知らない人が来ても、勝手に開けちゃダメだよ。』
「…………。」
「だれですかー?」
扉の向こう。
「私よ。」
「…………!」
「う?」
「おばちゃん!」
がちゃ。
「こんにちは。」
「こんにちは!」
「…………。」
叔母さんの手には――
大きな袋。
「ユイちゃん、今日はバイトでしょう?」
「うん!」
「夕飯の足しにと思って。」
袋の中。
作り置きのおかず。
野菜。
果物。
両親がいなくなってから――
ずっと。
ユイとイズナを、
気にかけてくれていた叔母さん。
最近は――
うーちゃんとカナタが増えたこともあって。
ときどき、
こうしてユイの家へ――
様子を見に来てくれます。
「二人とも、お留守番できてる?」
「できてる!」
「偉いね。」
「…………。」
少し離れたところから――
じっ。
「うーちゃん。」
「……!」
「こんにちは。」
「…………。」
少しだけ――
もじ。
もじ。
「…………。」
ぺこっ。
「こんにちは。」
「はい、こんにちは。」
にこっ。
「…………。」
少しだけ――
安心。
「…………?」
テーブルの上。
紙。
リボン。
散らかった工作道具。
「何か作ってたの?」
「ユイに――」
「…………!」
「ないしょ!」
「!」
「…………。」
「…………。」
慌てて――
両手で口を、
むぎゅっ。
「…………。」
ふふっ。
「分かった。」
「う?」
「ユイちゃんには――」
口元へ指。
「内緒ね。」
「…………!」
こくこく♡
「おばちゃん。」
「なあに?」
「…………。」
もじ。
もじ。
「おねがい……ある。」
「?」
「ユイに――」
一生懸命。
「ぷれぜんと……つくりたい。」
「僕も!」
「でも……。」
工作道具を見る。
「できない。」
「…………。」
しゃがんで――
二人と同じ高さへ。
「じゃあ。」
にこっ。
「おばちゃんが、お手伝いしようか?」
「…………!」
「…………。」
ぺこっ。
「おねがいします♡」
「お願いします!」
「はい。」
「じゃあ――」
「ユイちゃんが帰ってくるまでに、作っちゃいましょう。」
「うん!」
「まずは――」
「何をあげたい?」
「うーちゃん!」
「う?」
「?」
「ユイ、うーちゃん大好き!」
「…………♡」
「ふふっ。」
「それは知ってる。」
「じゃあ、うーちゃんあげる!」
「…………。」
ぱっ♡
「うーちゃん、あげる♡」
「…………。」
少し困って笑って。
「それはもう――」
「毎日ユイちゃんのそばにいるでしょう?」
「…………。」
「そっか。」
「ユイちゃんが好きそうなもの。」
「何か思いつく?」
「うー……。」
考えます。
ユイ。
笑った顔。
制服。
長い茶髪。
そして――
「…………!」
自分の髪の横を――
ちょん。
「おはな。」
「お花?」
「ユイ――」
「いつも、おはな♡」
「ああ。」
ユイの――
白い花の髪飾り。
「昔から好きだったものね。」
「…………。」
「じゃあ――」
「お花を使ったものにしよっか。」
「う〜♡!」
叔母さんが――
持ってきた裁縫箱。
家にあったリボン。
小さな布。
飾り。
「ブレスレットにしてみる?」
「ぶれす……?」
「腕につける飾り。」
叔母さんが――
自分の腕を指します。
「…………!」
ぱあっ。
「ユイ、つける?」
「つけてくれるといいね。」
「つくる♡」
小さな花飾りを――
いくつか並べます。
「どれがいい?」
「…………。」
真剣。
じーーっ。
「これ♡」
淡いピンクの花。
「ピンク?」
「ユイ、にあう♡」
「うん。」
「私もそう思う。」
「…………。」
白い花。
「これも♡」
「じゃあ二つにする?」
「…………。」
別の花。
「これも♡」
「これも♡」
「これも♡」
「うーちゃん。」
「う?」
「全部つけたら――」
「ユイちゃんの腕がお花畑になっちゃう。」
「…………!」
ぱあっ♡
「おはなばたけ♡」
「喜ばないで。」
「それにしよう!」
「しません。」
「カナタはリボンを選んで。」
「僕に任せて!」
がさっ。
「これ!」
「…………。」
ものすごく大きい。
「もう少し小さい方がいいかな。」
「じゃあ――」
「これ!」
さらに大きい。
「なんで大きくなったの?」
「かっこいい!」
「おっきい♡」
「似た者同士ね……。」
しばらくして。
ちく。
ちく。
叔母さんが危ない作業。
うーちゃんとカナタは――
飾りを選びます。
そのとき。
がちゃ。
「お姉ちゃん、まだ帰ってな――」
ぴたっ。
「…………。」
「何してるの?」
「…………!」
さっ!
ブレスレットを隠します。
「ないしょ!」
「私にも?」
「ユイにプレゼント作ってる!」
「…………。」
「あ。」
「…………。」
「…………。」
「言った。」
「まあ、お姉ちゃんに言わなきゃいいんでしょ。」
「…………。」
こくん♡
「いわないで。」
「言わないよ。」
「どこまでできたの?」
「もう少し。」
「じゃあ私も手伝う。」
「…………!」
「イズナも♡」
「私も。」
「みんなで作る!」
夕方――。
小さなブレスレットが、
完成しました。
淡いピンクと白の花。
細いリボン。
少しだけ不揃い。
でも――
「…………♡」
両手で――
そーっと。
「かわいい♡」
「大成功ね。」
「お姉ちゃん、喜ぶよ。」
「絶対!」
「うん。」
「…………。」
ぎゅっ。
「ユイ……うれしい?」
「もちろん。」
時計を見る。
「そろそろ帰ってくるんじゃない?」
「…………!」
そして――
がちゃ。
「ただいま〜。」
「…………!」
「…………!」
二人とも――
さっ!
「?」
「……何?」
「何もない!」
「絶対なんかある。」
「う〜……。」
「うーちゃん?」
「今!」
「…………!」
ぺた。
ぺた。
ユイの前へ。
「ユイ。」
「ん?」
「いつも――」
「ごはん、つくってくれる。」
「うん。」
「なでなで、してくれる。」
「うん。」
「だっこも♡」
「いっぱいしてるね。」
「おようふくも――」
自分のパーカーを、
ぎゅっ♡
「くれた。」
「…………。」
カナタも――
飛行機を抱えて。
「僕にも、いっぱいしてくれる!」
「…………。」
「だから――」
小さな手を、
後ろから。
そーっと――
前へ。
「いつも――」
「いっぱい。」
「ありがとう♡」
手のひらには――
小さな花のブレスレット。
「…………。」
「ぷれぜんと♡」
「僕も作った!」
「おばちゃんも♡」
「イズナも!」
「私も。」
「もう全員言っちゃうんだ。」
「…………。」
「ふふっ。」
ユイは――
そっと。
ブレスレットを受け取ります。
「これ……。」
「ユイの♡」
「…………。」
腕へ――
そっと。
きゅっ。
「…………!」
ぱああっ♡
「ユイ、かわいい♡!」
「似合う!」
「ほんと?」
「うん!」
「…………。」
少し歪んだ花。
ちょっと不揃いなリボン。
その一つ一つを――
そっと撫でます。
「これ。」
「宝物にする。」
「…………♡」
次の瞬間。
むぎゅっ!
「ユイ、だいすき♡」
「わっ。」
「僕も!」
むぎゅっ!
「ちょっと、二人とも……!」
ぎゅうううっ♡
「…………。」
その姿を――
優しく見つめます。
「ユイ。」
「?」
「ずいぶん――」
少し懐かしそうに。
「立派なお姉ちゃんになったわね。」
「…………。」
「私が?」
「ええ。」
「う?」
「だって。」
ユイに抱きついている――
うーちゃん。
カナタ。
「こんなにあなたのことが大好きな子が――」
「二人もいるんだもの。」
「…………。」
腕には――
二人が作ってくれた、
小さな花のブレスレット。
「…………。」
ふふっ。
二人を――
ぎゅっ♡
「う〜♡」
「くるしい!」
「今日は離さない。」
「えー!」
「うーちゃんは、いい♡」
「ふふっ。」
誰かを喜ばせたくて――
ユイが始めたアルバイト。
その気持ちは。
ちゃんと――
二人にも届いていました。
そして今日。
もらった優しさは――
小さな花になって。
ユイのところへ、
帰ってきました。




