はじめてのアルバイト
――ある日の休日。
商店街。
「今日は何か買って帰ろっか。」
「ほんと!?」
「う〜♡」
三人で――
てくてく。
「あっ!」
ぴたっ!
「?」
カナタは――
おもちゃ屋さんの前。
ショーウィンドウへ――
ぺたっ。
「ユイ!」
「はいはい。」
飾られているのは――
小さな飛行機のおもちゃ。
「これ!」
「飛行機?」
「うん!」
目が――
きらきら。
「カナタ、自分で飛べるでしょ。」
「それとこれとは違うの!」
「そういうもの?」
「そういうもの!」
「そっか。」
「うーちゃんは何か欲しい?」
「う?」
きょろ。
きょろ。
「…………。」
少し先。
雑貨屋さん。
店先に――
ふわふわの、
小さなうさぎクッション。
「…………!」
耳が――
ぴくっ。
ぺた。
ぺた。
クッションの前へ。
「…………。」
そーっ。
ふわ。
「う〜♡」
ほっぺ――
すりすり。
「気に入った?」
「うん♡」
「欲しい?」
「…………。」
クッションを見る。
ユイを見る。
「…………。」
ちらっ。
値札。
それから――
カナタの飛行機。
さらに――
財布。
「…………。」
ぱかっ。
「ごめん。」
「?」
「今日は――」
少し困ったように笑って。
「見るだけにしよっか。」
「…………。」
クッションを――
そっと戻します。
「うーちゃん……。」
「だいじょうぶ♡」
「…………。」
「みるだけ♡」
「僕もいいよ!」
「カナタ。」
「僕――」
両腕を――
ぱっ!
「飛行機なくても飛べるし!」
「…………。」
「ね!」
帰り道。
「うーちゃん!」
「う?」
「競争!」
たっ!
「う〜!」
ぺたぺたぺた!
少し後ろから――
ユイ。
楽しそうな二人を見ます。
「…………。」
ふふっ。
でも――
さっきのお店を、
ちらっ。
その夜。
「すぅ……♡」
「すぅ……。」
二人とも――
ぐっすり。
「…………。」
机の上。
ぱかっ。
財布。
「…………。」
ちゃりん。
「食費も――」
「前より増えたし。」
うーちゃん。
カナタ。
二人を見る。
「そりゃそうだよね。」
精霊が――
二人。
食べるものも。
必要なものも。
二人分。
「…………。」
眠っているうーちゃんが――
ユイからもらったパーカーを、
ぎゅっ♡
「…………。」
カナタのそばには――
大切に畳まれた外套。
「…………。」
ふふっ。
「困ってるわけじゃないんだけどなぁ。」
二人を見ながら――
小さく。
「もっと――」
「いろいろ買ってあげたいんだよなぁ。」
「すぅ……♡」
「…………。」
「…………。」
そして。
ぱたん。
財布を閉じます。
「よし。」
――翌日。
学校。
休み時間。
「…………。」
掲示板の前。
じーーっ。
「ユイ?」
「ん?」
「何見てるの?」
「これ。」
『アルバイト募集』
「バイト?」
「うん。」
「ユイ、バイトするの?」
「何か欲しいものあるの?」
「ある。」
「何?」
「…………。」
少し考えて。
「私のじゃないけど。」
「?」
「うーちゃんとカナタに。」
「…………。」
「もっと――」
少し照れながら。
「いろいろ買ってあげたくて。」
「…………。」
「ふふっ。」
「何?」
「ユイ――」
「お母さんみたい。」
「お母さん!?」
「だって。」
「でも――」
少し考えて。
「分かるかも。」
「え?」
「私も。」
「ルゥが喜びそうなもの見つけると――」
「買って帰りたくなる。」
「…………。」
「…………。」
「なるよね。」
「なる。」
「お菓子とか。」
「買う。」
「服とか。」
「見る。」
「…………。」
「…………。」
「私たち――」
「…………。」
「結構同じかもね。」
「……かも。」
二人――
ふふっ。
放課後。
商店街。
「…………。」
一軒の――
小さなケーキ屋さん。
店頭。
『アルバイト募集』
「ここ……。」
数日後。
「接客は初めて?」
「はい。」
「学校との両立は大丈夫?」
「はい!」
「じゃあ――」
にこっ。
「やってみる?」
「…………!」
「はい!」
初出勤の日。
「じゃあ――」
「行ってくるね。」
「いってらっしゃい!」
「…………。」
「うーちゃん?」
「うー……。」
ユイの服を――
きゅっ。
「…………。」
「ユイ。」
「また、おでかけ?」
「うん。」
「いっしょ……。」
「だめ?」
「今日はダメなの。」
「…………。」
しゅん。
長い耳も――
しゅん。
「うーちゃん!」
「う?」
「大丈夫!」
胸を――
ぽんっ。
「僕がいるよ!」
「…………。」
「僕とうーちゃんで――」
「お留守番!」
「…………。」
「ユイが帰ってきたら――」
「おかえりって言お!」
「…………!」
「…………。」
ユイの服から――
そっと手を離します。
「いってらっしゃい♡」
「…………。」
なで。
なで。
「行ってきます。」
「う〜♡」
ケーキ屋。
エプロン姿のユイ。
「…………。」
「似合ってるよ。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、まずは――」
「はい!」
がちゃ。
お客さん。
「…………!」
「い――」
「いらっしゃいませ!」
「そんなに力入れなくて大丈夫。」
「はい……。」
「こちらですね。」
ケーキを――
そーっ。
箱へ。
「…………。」
ぐらっ。
「!」
「ゆっくりでいいよ。」
「はい!」
注文。
包装。
会計。
「…………。」
思ったより――
覚えることがいっぱい。
「アルバイトって……。」
小さく。
「大変……。」
そのとき。
「これがいい♡」
「苺のケーキ?」
「うん♡」
「…………。」
その笑顔を見て――
『う〜♡』
『僕、これ!』
「…………。」
ふふっ。
「?」
「いえ。」
「こちらの苺のケーキですね。」
「うん!」
「ありがとうございます。」
今度は――
自然な笑顔。
「…………。」
にこっ。
しばらくして。
がちゃ。
「いらっしゃいませ――」
「…………。」
「…………。」
「カナデさん!?」
「声がでかい。」
「なんでここに!?」
「客に『なんで』はないだろ。」
「いや、だって……。」
ユイは――
店内を見る。
可愛いケーキ。
焼き菓子。
リボン。
そして――
カナデ。
「…………。」
「なんだ。」
「ケーキ屋さんですよ?」
「見れば分かる。」
「エトワールに?」
「…………。」
「ああ、なるほど。」
「なんだその納得した顔。」
「だって。」
「俺だってケーキ屋くらい来る。」
「…………。」
「通り道だしな。」
「いつもの頼む。」
「…………。」
「いつもの?」
「あ、カナデさん。」
「いつもありがとうございます。」
「…………。」
「常連なんですか!?」
「声がでかいって言ってるだろ。」
「だって!」
「普通に注文させろ。」
「は、はい。」
「ご注文は?」
「苺のタルト二つ。」
「はい。」
「あと――」
ショーケースを見て。
「季節のフルーツケーキ。」
「かしこまりました。」
にこっ。
「苺のタルトがエトワール用ですね。」
「違う。」
「?」
「苺のタルトは俺のだ。」
「…………。」
「なんだ。」
「二つとも?」
「ああ。」
「…………。」
「文句あるか。」
「ありません。」
「じゃあ――」
「エトワールはフルーツケーキ?」
「ああ。」
「…………。」
「なんだ。」
「ちゃんと買って帰るんですね。」
「当たり前だ。」
「あいつ――」
「これ好きだからな。」
「…………。」
「なんだ。」
「いえ。」
少し笑って。
「仲いいなって。」
「…………。」
「長いからな。」
「ありがとうございました。」
袋を――
すっ。
「…………。」
受け取ります。
そして。
「ユイ。」
「はい?」
「今日、初日か?」
「はい。」
「そうか。」
「?」
「…………。」
「頑張れよ。」
「…………!」
ぱあっ。
「はい!」
「それと。」
「?」
「俺がここに来てることは――」
少し声を落として。
「イズナには言うな。」
「なんでですか?」
「絶対面白がる。」
「…………。」
「もう遅いかもしれません。」
「は?」
店の外。
「…………。」
「…………。」
二人が――
窓から見ています。
「…………。」
「…………。」
「カナデさん。」
「…………。」
「苺のタルト――」
袋を見る。
「二個も食べるんだ。」
「…………。」
「甘党。」
「帰る。」
「ふふっ。」
それから――
何日も。
「いらっしゃいませ!」
箱詰め。
レジ。
掃除。
失敗する日も。
疲れる日も。
でも――
ユイは続けました。
そして。
初めての――
お給料。
「…………!」
自分で働いて――
初めてもらったお金。
「…………。」
にこっ。
「よし。」
その日の帰り。
まず――
おもちゃ屋さん。
飛行機。
次に――
雑貨屋さん。
ふわふわの、
うさぎクッション。
「…………。」
二つを抱えて。
「ふふっ。」
がちゃ。
「ただいま。」
「ユイ〜♡!」
ぺた!
ぺた!
ぺた!
むぎゅっ♡
「おかえり〜♡」
「ただいま。」
「おかえり!」
「二人とも。」
「?」
「う?」
「ちょっと待ってて。」
がさ。
がさ。
まず――
カナタへ。
「はい。」
「…………!」
あの日の――
飛行機。
「これ……!」
「欲しかったんでしょ?」
「僕の!?」
「うん。」
「…………!」
ぎゅうっ!
「ありがとう、ユイ!」
「わっ!」
「どういたしまして。」
そして――
「うーちゃん。」
「う?」
ふわっ。
目の前に――
あの日の、
うさぎクッション。
「…………。」
固まります。
「覚えてる?」
「…………。」
そーっ。
両手で――
ぎゅっ。
ふわふわ。
「う〜……♡」
「気に入った?」
こくん。
ぎゅううっ♡
「すき♡」
「ユイ。」
「ん?」
「これ――」
クッションを、
ぎゅっ。
「ユイが、くれた?」
「うん。」
「…………♡」
そして――
クッションごと。
ユイへ――
むぎゅっ♡
「だいじにする♡」
「…………。」
なで。
なで。
「うん。」
「僕も大事にする!」
飛行機を抱えて――
むぎゅっ!
「わっ!」
右からカナタ。
左からうーちゃん。
ぎゅうううっ♡
「う〜♡」
「ありがとう、ユイ!」
「…………。」
二人を見て――
ふふっ。
そして。
ぎゅっ。
二人まとめて――
抱きしめます。
アルバイトは――
思っていたより、
大変でした。
覚えることもいっぱい。
失敗もする。
足も疲れる。
それでも。
二人の――
この顔を見たら。
「…………。」
小さく。
「……また頑張ろ。」
「う?」
「なんでもない♡」
「う〜♡」
「ユイ! 飛行機飛ばそ!」
「家の中ではダメ!」
「えー!」
「えへへ……♡」
誰かのために働くって――
ちょっと大変で。
すごく、うれしい。




