しまっていたもの
――その日の夜。
ユイの家。
海から帰ってきた――
みんな。
「…………。」
カナタは――
すぅ……。
すぅ……。
クッションの上で、
ぐっすり。
その近く。
「すぅ……♡」
うーちゃんも――
ぐっすり。
「ふふっ。」
ユイが二人を見て笑います。
「二人とも早かったね。」
少し離れたところでは――
「…………。」
コヨリも、
座ったまま眠そうにしています。
イズナがそんなコヨリを見て、
「コヨリも眠い?」
「……ちょっと。」
「海、楽しかったもんね。」
「……うん。」
ユイは――
眠っているうーちゃんを見ます。
「うーちゃんも。」
「?」
「最初は怖がってたけど――」
なで。
なで。
「最後は楽しそうだった。」
「うん。」
イズナも――
うーちゃんを見ます。
「じゃあ、そろそろ帰るね。」
「うん。」
「おやすみ。」
「おやすみ。」
「またね。」
がちゃ。
しーん……。
「…………。」
眠っている――
うーちゃん。
カナタ。
コヨリは――
イズナのそばで、小さくあくびをします。
「コヨリ、帰るよ。」
「……うん。」
「じゃあね。」
「またね。」
がちゃ。
二人が帰って――
ユイは、海で使った荷物を片付け始めます。
「これは洗濯。」
ぽいっ。
「これは……。」
砂のついた袋。
「明日かな。」
そして――
押し入れ。
がらっ。
「…………。」
荷物を――
しまおうとして。
ぴたっ。
押し入れの奥。
一つの――
古い箱。
「…………。」
以前。
母のひざ掛けを――
取り出した箱。
今、そのひざ掛けは。
カナタを包む――
大切な外套になっています。
でも。
箱の中には――
まだ。
残っているものがある。
「…………。」
すっ。
箱へ――
手を伸ばします。
ずずっ。
箱を――
手前へ。
「…………。」
少しだけ、
埃を払って。
ぽん。
ぽん。
「…………。」
ぱかっ。
古い写真。
小さな思い出の品。
もう使われなくなった――
いくつかのもの。
そして。
「…………。」
奥へ――
手を伸ばします。
でも。
ぴたっ。
指先が――
止まります。
「…………。」
そのとき。
がちゃ。
「お姉ちゃん。」
「イズナ?」
「忘れ物。」
イズナの後ろから――
コヨリも顔を出します。
「……コヨリも?」
「……ついてきただけ。」
「ふふっ。」
「…………何よ。」
「なんでもない。」
イズナは――
開いている箱を見ます。
ぴたっ。
「…………。」
その箱。
その前に座る――
ユイ。
「その箱。」
「うん。」
イズナも――
ゆっくり近づきます。
コヨリも――
少し離れたところから箱を見ます。
「…………。」
イズナが――
箱の中を見る。
「まだ、あったんだ。」
「捨ててないよ。」
「うん。」
「捨てられない。」
「…………。」
ユイは――
箱の縁をそっと撫でます。
「イズナは?」
「え?」
「捨てられる?」
「…………。」
イズナは――
箱を見る。
しばらく――
沈黙。
「…………無理。」
「…………。」
ふっ。
ユイが笑います。
「だよね。」
「うん。」
コヨリは――
二人を見ながら、
「…………。」
何も言わず、
静かにそばにいます。
「あのひざ掛けは――」
「カナタが大事にしてるよ。」
「うん。」
「あれは……。」
ユイは少し笑って。
「出してよかった。」
「…………。」
イズナは――
箱の中へ視線を戻します。
コヨリも――
箱の中を覗きます。
「じゃあ。」
「…………。」
「これは?」
「…………。」
さっき止まった――
ユイの手。
「…………。」
もう一度――
手を伸ばします。
すっ。
あと少し。
でも。
ぴたっ。
また――
止まります。
「…………。」
「…………。」
「まだ――」
ユイは小さく、
「ちょっと無理かな。」
「そっか。」
イズナは――
それ以上、何も言いません。
コヨリも――
何も聞きません。
ただ。
三人で――
その箱を見ています。
「じゃあ、まだいいんじゃない?」
「…………。」
イズナが言います。
「いつかは――」
「うん。」
「ちゃんと見ないとね。」
「…………。」
イズナは――
静かに頷きます。
「そのときでいいよ。」
「…………。」
「うん。」
そのとき。
ぺた。
「?」
三人が振り返ります。
ぺた。
ぺた。
暗い部屋から――
小さな影。
「…………。」
眠そうな顔。
長い耳も――
いつも以上に、
だらーん。
「ユイ……。」
「うーちゃん?」
「…………。」
ぺた。
ぺた。
ユイのところまで来て――
むぎゅっ。
「起きちゃった?」
「ユイ、いなかった……。」
「ああ……。」
なで。
なで。
「ごめんね。」
「…………。」
ぎゅうっ。
「片付けしてただけだよ。」
「……うん。」
「…………。」
うーちゃんは――
ふと。
開いている箱に気づきます。
「ユイ。」
「ん?」
「これ?」
「昔のものだよ。」
「むかし?」
「うん。」
「ユイの?」
「…………。」
ユイは――
イズナを見ます。
イズナも――
ユイを見ます。
コヨリも――
静かに二人を見ています。
「私とイズナの。」
「うん。」
「…………。」
うーちゃんは――
箱を、
じっ。
「だいじ?」
「…………。」
ユイは――
少しだけ考えて。
「うん。」
箱へ――
視線を戻して。
「すごく大事。」
「…………。」
うーちゃんの小さな手が――
箱の方へ。
すっ。
でも。
ぴたっ。
「…………。」
その手を――
引っ込めます。
「?」
「じゃあ――」
小さく。
「さわらない。」
「…………。」
ユイは――
うーちゃんの頭を、
なで。
なで。
「ありがとう。」
「…………♡」
コヨリも――
小さく笑います。
「……やさしいね。」
「?」
うーちゃんが――
コヨリを見る。
「コヨリも?」
「……うん。」
「えへへ♡」
そのとき。
箱の中の写真が――
一枚。
すっ。
少しだけ――
ずれます。
「…………。」
古い写真。
まだ小さな――
ユイ。
その隣には――
幼いイズナ。
そして。
二人の後ろに立つ――
大人の姿。
ただし――
写真の全体は見えません。
「…………。」
ユイは――
写真へ指先を伸ばします。
でも。
取り出さず。
すっ。
元の位置へ。
そして――
ぱたん。
箱を閉じます。
「ユイ。」
「ん?」
うーちゃんは――
ユイの顔を、
じーっ。
「…………。」
「かなしい?」
「…………。」
ユイは――
いつものように、
「大丈夫」とは言わず。
少し考えて。
「……ちょっとだけね。」
「…………。」
むぎゅっ。
「わっ。」
うーちゃんは――
ユイにくっつきます。
ぎゅううっ。
「うーちゃん?」
「うーちゃん、いる♡」
「…………。」
イズナも――
ユイの隣へ。
ぽすっ。
「私もいるけど。」
「…………。」
コヨリも――
その隣へ。
ちょこん。
「……私も。」
ユイは――
少しだけ笑います。
「知ってる。」
四人――
並んで。
「…………。」
ユイは――
うーちゃんを、
ぎゅっ。
そして――
イズナとコヨリを見る。
「…………。」
三人のそばには――
眠っているカナタ。
すぅ……。
しばらくして。
うーちゃんも――
ユイの腕の中で、
「すぅ……♡」
眠ってしまいます。
「…………。」
ユイは――
うーちゃんを抱いたまま。
「今は――」
小さく笑って。
「こっちでいいかな。」
「うん。」
イズナが答えます。
コヨリも――
小さく頷きます。
「……うん。」
「…………。」
ユイは――
そっと立ち上がります。
そして――
箱を押し入れへ。
でも。
以前のように――
一番奥には戻しません。
すっ。
手前へ。
「…………。」
イズナも――
その箱を見ています。
コヨリも――
静かに見ています。
「お姉ちゃん。」
「なに?」
「…………。」
手前に置かれた箱を見る。
そして――
小さく笑って。
「なんでもない。」
「?」
がらっ。
押し入れを――
閉じます。
まだ――
開けられない思い出もある。
まだ――
触れられないものもある。
それでも。
ずっと奥に、
しまっておかなくてもいいと――
少しだけ、
思えるようになった。
ユイの腕の中。
「すぅ……♡」
「…………。」
なで。
なで。
いつか――
ちゃんと向き合える日まで。
今は、
もう少しだけ。
大切な人たちの――
そばで。




