はじめてのうみ
――朝。
ユイの家。
「うみ!?」
カナタが声を上げます。
「うん。」
「うみって――」
ぱあっ!
「とべる!?」
「なんで最初に飛ぼうとするの。」
ユイが呆れたように言います。
「じゃあ、なにするの?」
「泳いだり。」
「およぐ!」
「砂浜で遊んだり。」
「すな!」
「楽しそうでしょ?」
「うん!」
その横。
「…………。」
うーちゃんが、
じっとユイを見ています。
「うーちゃん?」
「ユイ。」
「なに?」
「うみ?」
「うん。」
「うみ、なに?」
「んー……。」
ユイは少し考えて。
「ものすごーく大きなお水。」
「…………。」
うーちゃんは――
両手を、
ぱっ。
「これくらい?」
「もっと。」
「…………。」
さらに――
ぱああっ!
「これくらい?」
「もっともっと。」
「…………。」
うーちゃんは、
自分の腕を――
いっぱいに伸ばします。
「…………。」
これ以上――
広がらない。
「ユイ。」
「ん?」
「できない。」
「ふふっ。」
ユイは、
うーちゃんの頭を――
なで。
なで。
「見れば分かるよ。」
「…………?」
出発
少しして――
「おはよ。」
イズナがやってきます。
「おはよー。」
コヨリも続きます。
「うみいくよ!」
カナタが元気よく宣言します。
「知ってる。」
コヨリが答えます。
「朝からずっとこれ?」
イズナがユイを見る。
「ずっとこれ。」
「うーちゃんも楽しみ?」
「…………。」
うーちゃんは少し考えて。
「おっきいみず。」
「うん。」
「これよりおっきい。」
両手を――
ぱっ。
「だいぶね。」
五人で――
出発。
「まだ?」
「まだ。」
少しして。
「まだ?」
「さっき聞いたでしょ。」
「まだ?」
「まだ。」
「まだ。」
はじめての海
しばらくして――
ざざーん……。
「…………。」
うーちゃんの耳が、
ぴくっ。
「なに!?」
カナタが振り返ります。
「もうすぐだよ。」
道の向こう。
青い空。
そして――
その下に広がる、
大きな青。
「…………!」
カナタが目を見開きます。
うーちゃんも――
「…………。」
「でっかーーーーい!」
カナタが、
たたたたっ!
「カナタ、待って!」
ユイが慌てて呼びます。
「大きい。」
コヨリが海を見ます。
「海だからね。」
イズナが答えます。
「…………。」
うーちゃんは――
海を見たまま。
ぴたっ。
「うーちゃん?」
「…………。」
両手を――
ぱっ。
海を見る。
もう一度――
海を見る。
自分の両手を見る。
「…………。」
「ユイ。」
「なに?」
「できない。」
「だから言ったでしょ。」
波
「いってきまーす!」
カナタが海へ駆けていきます。
ばしゃ!
「遠くまで行っちゃダメだよ!」
「はーい!」
ばしゃばしゃばしゃ!
「絶対ちゃんと聞いてない。」
イズナが呟きます。
コヨリは――
波打ち際。
ざざーっ。
ちゃぷ。
「…………。」
「冷たい?」
イズナが聞きます。
「うん。」
波が――
引いていきます。
「行かないの?」
「待つ。」
「何を?」
「…………。」
ざざーっ。
ちゃぷ。
「きた。」
「波待ってたの?」
そのころ。
「…………。」
うーちゃんは――
ユイの後ろから、
海を、
じーっ。
ざざーん。
「…………。」
波が――
ざざーっ。
「…………!」
ぺた。
一歩――
後ろへ。
波が引きます。
「…………。」
ざざーっ。
もう一度――
波が近づいてくる。
「……!」
ぺた。
また――
一歩後ろへ。
「…………。」
ユイは――
しゃがんで、
目線を合わせます。
「怖い?」
「…………。」
うーちゃんは海を見る。
ざざーん。
「…………。」
こくん。
「そっか。」
「…………。」
ユイは――
抱き上げません。
代わりに。
砂浜へ――
ぽすっ。
「じゃあ――」
隣を、
ぽんぽん。
「ここから見よっか。」
「…………。」
ぺた。
うーちゃんは、
ユイの隣へ。
ぽすっ。
ざざーん。
「…………。」
うーちゃんは――
ユイの手を、
きゅっ♡
ユイも――
握り返します。
きゅっ。
二人で――
海を見ます。
みんなを見て
「イズナー!」
カナタの声が響きます。
「なに?」
ばしゃっ!
「…………。」
カナタが水をかけます。
「カナタ。」
「ごめんなさい。」
コヨリも――
「イズナ。」
「なに?」
「これ。」
ぱしゃ。
「…………。」
「水。」
「分かってる。」
「あはは!」
カナタが笑います。
「…………。」
コヨリも――
少し。
にこっ。
「もう……。」
イズナが呟きます。
「楽しそうだね。」
ユイが言います。
「…………。」
うーちゃんは――
みんなを見ます。
カナタ。
コヨリ。
イズナ。
そして――
海。
「…………。」
「ユイ。」
「ん?」
うーちゃんは――
海を指して。
「いく。」
「…………。」
小さな一歩
「海のところまで?」
「…………。」
こくん。
「分かった。」
ユイは、
すっ。
手を――
差し出します。
「…………。」
うーちゃんは――
その手を、
きゅっ。
立ち上がります。
ぺた。
一歩。
ぺた。
もう一歩。
ざざーん。
さっきより――
ずっと近い。
「…………。」
「大丈夫?」
「…………。」
こくん。
波が――
ざざーっ。
「……!」
うーちゃんは、
ユイの手を――
ぎゅうっ!
「…………。」
でも――
ユイは手を出しません。
ちゃぷ。
小さな波が――
うーちゃんの足先へ。
「…………!」
ぴたっ。
逃げない。
足元を――
じっ。
もう一度。
ちゃぷ。
「…………!」
ぱあっ♡
「ユイ!」
「なに?」
「つめたい♡」
「ふふっ。」
カナタ
遠くから――
「うーちゃーん!」
「?」
ばしゃ。
ばしゃ。
ばしゃ!
カナタが走ってきます。
「いっしょに――」
ばしゃあっ!!
「…………。」
「…………。」
「…………。」
頭から――
びしょびしょ。
「…………。」
「…………。」
カナタは――
そーっ。
「ごめん。」
「…………。」
「おこった?」
「…………。」
うーちゃんは――
水へ手を。
ぱしゃっ。
「!」
「えへへ♡」
「…………!」
カナタの顔が、
ぱあっ!
「やったなー!」
ぱしゃ!
ぱしゃ!
「きゃっ♡」
「あはは!」
「えへへ♡」
「ちょっと、二人とも――」
ばしゃっ!
「…………。」
参戦
カナタ。
うーちゃん。
ユイ。
三人とも――
「…………。」
すっ。
ユイも――
水へ手を。
「?」
カナタがユイを見る。
「やったね。」
ばしゃっ!
「わー!」
砂遊び
しばらくして――
砂浜。
五人で――
砂遊び。
「おしろつくる!」
カナタが張り切ります。
「私も。」
コヨリも砂を集めます。
「じゃあ大きいの作ろうか。」
イズナが言います。
うーちゃんは――
少し離れたところで。
ぺた。
ぺた。
小さな砂山。
「うーちゃんは何作ってるの?」
ユイが聞きます。
「…………。」
うーちゃんは――
ぱあっ♡
「ユイのおうち♡」
「私の家?」
「うん♡」
「…………。」
小さな砂山。
「私、入れるかな。」
「…………。」
うーちゃんは、
砂山を見る。
ユイを見る。
「…………!」
砂を――
ざっ。
ぺたぺた!
「おっきくする♡」
「そこから!?」
「ぼくもやる!」
カナタが駆け寄ります。
「私も。」
コヨリも続きます。
「じゃあ全員で作ろっか。」
イズナも加わります。
夕暮れ
夕方――。
砂浜には。
ちょっと不格好な――
大きなお城。
「できたー!」
「できた♡」
「大きい。」
「頑張ったね。」
「うん。」
夕焼け。
五人並んで――
砂浜へ。
ざざーん。
今度は――
うーちゃんの足元まで、
ちゃぷ。
もう――
下がりません。
「うーちゃん。」
「?」
「海、どうだった?」
「…………。」
海を見る。
「おっきい。」
「うん。」
「つめたい。」
「うん。」
少し考えて――
ぱあっ♡
「たのしい♡」
「そっか。」
「またこよう!」
カナタが言います。
「来たい。」
コヨリも頷きます。
「うん。」
イズナも笑います。
帰り道
――帰り道。
ユイの腕の中。
「…………。」
すぅ……。
すぅ……♡
「寝ちゃった。」
カナタが言います。
「いっぱいあそんだからね。」
イズナが答えます。
「カナタも眠そうだけど。」
「ねむくない……。」
「眠そう。」
コヨリが言います。
「…………ねむくない。」
「ふふっ。」
ユイが笑います。
腕の中。
うーちゃんの顔は――
とっても満足そう。
最初は、
ちょっぴり怖かった。
大きな海。
でも――
見て。
近づいて。
触れて。
遊んで。
今日。
怖かったものが、
ひとつ――
楽しいものになりました。




