はじめてのおまつり
――ある日の夕方。
ユイの家。
外から――
どん。
どん。
太鼓の音。
「…………。」
ぴくっ。
長い耳が――
動きます。
どん。
どん。
「ユイ。」
「ん?」
「なんのおと?」
「ああ。」
ユイは窓の外を見て――
「お祭りだよ。」
「おまつり?」
「おまつり!」
カナタが、ぱあっと顔を輝かせます。
うーちゃんは――
「…………。」
「うーちゃん、おまつり知らないの?」
カナタが首を傾げます。
「しらない。」
「ぼくもよく知らない!」
「ふふっ」
「ユイ。」
「なに?」
「おまつり、なにする?」
「んー……。」
ユイは少し考えて――
「おいしいもの食べたり。」
「!」
カナタの目が輝きます。
「ゲームしたり。」
「!」
「最後には花火も――」
「はなび?」
うーちゃんが聞き返します。
「うん。夜になると、大きな花火が上がるんだよ。」
「…………。」
「見てみる?」
「うん♡」
うーちゃんは――
ユイを、
じーっ。
そして――
「ユイ。」
「はい。」
「いきたい♡」
「ふふっ。」
ユイは笑って――
「じゃあ、行こっか。」
「おまつり!」
少しして――
ピンポーン。
がちゃ。
「お待たせ。」
イズナとコヨリがやってきます。
「おまつり。」
コヨリが小さく呟きます。
「うん。」
「はやくいこ!」
カナタが先に玄関へ向かいます。
五人で――
家を出ます。
遠くから聞こえる、
笛と太鼓。
たくさんの人の声。
「…………。」
うーちゃんは――
ユイの手を、
きゅっ。
少しずつ――
提灯の明かりが、
見えてきます。
「…………!」
赤。
黄色。
橙色。
たくさんの光。
「ぴかぴか♡」
そして――
お祭り会場。
わい。
わい。
たくさんの人。
たくさんの屋台。
「…………。」
うーちゃんが、
ぴたっ。
「うーちゃん?」
「…………。」
人、人、人。
「ユイ。」
「ん?」
「ひと、いっぱい。」
「うん。」
「迷子にならないようにね。」
「まいご?」
「私がどこにいるか分からなくなっちゃうこと。」
「…………。」
ぎゅうっ!
うーちゃんは、
ユイの手を――
両手で握ります。
「ならない♡」
「ふふっ。」
「じゃあ、離さないでね。」
「うん♡」
「ユイ!」
カナタが声を上げます。
「ん?」
「あれなに!?」
「焼きそば。」
「あっちは!?」
「わたあめ。」
「あれ!」
イズナがカナタを見る。
「カナタ。」
「なに?」
「一個ずつ。」
ふわふわ。
大きなわたあめ。
「…………!」
うーちゃんが、
じーーっ。
「食べてみる?」
ユイが聞きます。
「これ、くも?」
「違うよ。」
ユイが少しちぎって――
「はい。」
ぱくっ。
「…………。」
口の中で――
すうっ。
「!」
うーちゃんは口の中を――
確認。
「なくなった!」
もう一口。
ぱくっ。
すうっ。
「…………!」
ぱくっ。
ぱくっ。
「気に入った?」
「なくなるの、おもしろい♡」
その隣。
「…………。」
コヨリが、
じーーっ。
焼きとうもろこしを見ています。
「コヨリ。」
イズナが声をかけます。
「なに?」
「食べたい?」
「見てるだけ。」
「じゃあ行こっか。」
「…………。」
イズナが歩き出そうとすると――
「…………。」
コヨリが焼きとうもろこしを見る。
「…………。」
「…………。」
「ちょっと食べたい。」
「やっぱり。」
イズナは笑います。
「熱いから気をつけて。」
「うん。」
コヨリは、
はむっ。
「…………。」
「どう?」
イズナが聞きます。
「…………。」
もう一口。
はむっ。
「気に入ってるじゃん。」
「あ!」
カナタが声を上げます。
水の中を――
すい。
すい。
「おさかな!」
うーちゃんも――
「…………!」
ぺたぺたぺた。
「あ、手!」
ユイが慌てて声をかけます。
うーちゃんは――
すぐ戻って。
きゅっ♡
ユイの手を握ります。
「ちゃんといる♡」
「はいはい。」
「これなに!?」
カナタが水槽を覗き込みます。
「金魚すくい。」
イズナが答えます。
「やる!」
カナタが元気よく手を上げます。
「うーちゃんも♡」
うーちゃんも手を上げます。
「じゃあ一回ずつね。」
二人に――
ポイ。
「…………。」
うーちゃんは、
じっ。
「そーっとね。」
「そーっと。」
水へ――
すっ。
金魚が――
すいっ。
「!」
追いかけて――
すっ。
びりっ。
「…………。」
ポイに――
穴。
「…………。」
「破れちゃったね。」
ユイが言います。
「…………。」
水の中。
金魚は――
すいすい。
うーちゃんは、
金魚を見て。
破れたポイを見て。
「おさかな……。」
「うん?」
「つよい。」
「そういう勝負じゃないよ。」
「ぼくはとる!」
カナタが挑戦します。
すっ!
びりっ。
「…………。」
「…………。」
二人で――
金魚を見る。
「つよい。」
カナタが呟きます。
「つよいね。」
うーちゃんも頷きます。
「仲間が増えた。」
ユイが笑います。
次の屋台。
色とりどりの――
お面。
「…………。」
「どれか欲しい?」
ユイが聞きます。
「…………。」
うーちゃんは、
じーーっ。
そして――
指をさします。
うーちゃんが選んだのは――
うさぎのお面。
「うさぎ?」
「うん♡」
イズナが少し笑って――
「そのままじゃない?」
「本人が気に入ってるからいいの。」
ユイが答えます。
頭の横には――
長いうーちゃんの耳。
頭には――
うさぎのお面。
「うーちゃん。」
「?」
カナタがうーちゃんを見る。
「みみ、いっぱい。」
「…………。」
うーちゃんは、
自分の耳を触って――
お面を触ります。
「いっぱい♡」
「ユイ!」
カナタがまた声を上げます。
「今度は何?」
「あれ!」
射的。
「やる!」
「できるかな?」
「できる!」
カナタは銃を構えます。
「…………。」
真剣な顔。
じーーっ。
狙うのは――
小さなお菓子。
「いくよ。」
ぱんっ!
全然違うところへ――
ぽん。
「…………。」
うーちゃんも、
じっ。
「どこいった?」
カナタが首を傾げます。
「あっち。」
コヨリが指をさします。
「なんで!?」
二発目。
「こんどこそ!」
ぱんっ!
ぽすっ。
お菓子が――
ぐらっ。
「!」
でも。
戻る。
「ああー!」
カナタが悔しそうに声を上げます。
「カナタ。」
うーちゃんが呼びます。
「?」
「がんばれ〜♡」
「…………!」
カナタの顔が明るくなります。
「うん!」
三発目。
ぱんっ!
ぽとっ。
「…………!」
「…………!」
「とれたー!」
「とれた〜♡!」
二人で――
ぴょこぴょこ。
「自分が取ったみたいに喜んでる。」
イズナが呟きます。
「ふふっ。」
ユイも笑います。
たくさん遊んで――
少し休憩。
「…………。」
うーちゃんは、
ユイの隣で――
ぽすっ。
「つかれたー。」
カナタがベンチに座ります。
「食べすぎた。」
コヨリが呟きます。
「自分で食べたんでしょ。」
イズナが返します。
「うーちゃん。」
「?」
「初めてのお祭り、どう?」
ユイが聞きます。
「…………。」
うーちゃんは、
辺りを――
きょろ。
提灯。
屋台。
みんな。
「たのしい♡」
「そっか。」
「ユイも?」
「うん。」
「イズナも?」
「楽しいよ。」
「コヨリ。」
「楽しい。」
「カナタ。」
「すっごくたのしい!」
「…………。」
うーちゃんは――
にこっ♡
「みんな、たのしい♡」
いつの間にか――
空は、
すっかり暗くなっています。
「そろそろかな。」
ユイが呟きます。
「?」
うーちゃんがユイを見る。
「なにが?」
カナタも聞きます。
「もうすぐ分かるよ。」
イズナが答えます。
みんなで――
少し開けた場所へ。
周りにも、
たくさんの人。
「…………。」
また――
ユイの手を、
きゅっ。
しーん……。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
そのとき。
ひゅるるるる――。
「!」
ドンッ!!
夜空いっぱいに――
大きな花。
「……!」
うーちゃんが、
びくっ!
そして――
ぎゅうっ!
「うーちゃん?」
ユイが声をかけます。
うーちゃんは、
ユイに――
ぎゅっ。
でも。
そーっと――
空を見ます。
ぱああっ――。
「…………!」
初めて見る――
大きな光。
ドンッ。
ぱあっ。
また一つ。
「…………。」
ぱあっ♡
「きれい♡」
「うん。」
「すごーーい!」
カナタが両手を――
ぱっ!
「ぼくもあそこまで飛べるかな!?」
「花火のところには行っちゃダメ。」
「なんで?」
「危ないから。」
イズナが答えます。
「…………。」
「…………。」
コヨリも空を見上げます。
「きれい。」
「うん。」
イズナが頷きます。
「…………。」
コヨリはそっと――
イズナの袖を、
きゅっ。
「…………。」
ドンッ――!
大きな花火。
ユイ。
うーちゃん。
カナタ。
イズナ。
コヨリ。
五人並んで――
夜空を見上げます。
誰も――
戦っていない。
誰も――
傷ついていない。
「ユイ。」
「ん?」
「おまつり。」
「うん。」
「また、くる?」
「…………。」
ユイは、
にこっ。
「来ようね。」
「…………。」
「?」
うーちゃんは、
ユイを見上げて――
「みんなも?」
「もちろん。」
「…………!」
ぱあっ♡
「ぼくもくる!」
カナタがすぐに言います。
「私も。」
コヨリが続けます。
「うん。」
イズナも頷きます。
「…………。」
うーちゃんは、
きょろ。
きょろ。
みんなを見て――
ぱあっ♡
「えへへ♡」
ひゅるるる――。
ドンッ!
夜空に――
大きな花。
その下で。
うーちゃんは――
ユイの手を、
きゅっ♡
反対側には、
カナタ。
その隣には――
イズナとコヨリ。
「えへへ♡」
初めて見るもの。
初めて食べるもの。
初めて遊ぶもの。
いっぱいあったけれど――
一番うれしかったのは。
きっと。
大好きなみんなと――
一緒だったこと。




