まもりたい
――翌朝。
ユイの家。
うーちゃんは、床に置いてある――
小さなバッグを、両手で持ち上げようとしていた。
「よいしょ……。」
「ん〜……。」
そこへ。
「あ、うーちゃん。」
「?」
「持つよ。」
ひょいっ。
「…………。」
「重かったでしょ?」
「……うん。」
*
玄関。
「よいしょ。」
うーちゃんは、自分で靴を履こうとして――
「あ、待って。」
ユイがしゃがんで、
「やってあげる。」
「…………。」
その隣では――
「できた!」
「カナタ早いね。」
「うん♡」
うーちゃんは、自分の足元を――
じっ。
「はい、できた。」
「……ありがと。」
*
「じゃあ行こっか。」
「いこー!」
「いこ♡」
ぺた。
ぺた。
三人で――
いつもの森へ。
いつもの五人。
*
「おはよ。」
「おはよう。」
「おはよー。」
「おはよ!」
「コヨリ〜♡」
ぺたぺたぺた!
*
「おはよ♡」
ぎゅっ。
「おはよ。」
「今日は元気そうだね。」
「うん。」
「げんき♡」
*
少しして――
「あ!」
道の向こうに、
小さな花。
「あっち♡」
ぺたぺた。
「あ、待って。」
「?」
「私も行く。」
「…………。」
「ほら。」
きゅっ。
手をつなぎます。
「……うん♡」
「…………。」
*
少し大きな石。
「のぼる!」
よいしょ。
「私も。」
ひょいっ。
「…………。」
「うーちゃんも♡」
よいしょ……。
短い足を――
ぐっ。
「あ、危ないよ。」
ひょいっ。
「!」
*
ぽすっ。
石の上。
「はい。」
「…………。」
「登れたね。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
*
今度は――
降りようとします。
「よいしょ……。」
「待って待って。」
ひょいっ。
ぽすっ。
「危ないからね。」
「…………。」
*
「お姉ちゃん。」
「なに?」
「最近――」
うーちゃんを見る。
「ちょっと、やりすぎじゃない?」
「何が?」
*
「抱っこ。」
「…………。」
「すぐ抱っこする。」
「そう?」
「する。」
「いっぱいする!」
「だっこ、すき♡」
「ほら。」
「そういう話じゃない。」
「…………。」
「?」
「お姉ちゃん。」
少しだけ――
真面目な顔。
*
「あの日からでしょ。」
「…………。」
あの日。
黒いフレイ。
動けなくなった――
うーちゃん。
「…………。」
*
「だって……。」
「うん。」
「また怖い思いしたらって。」
「…………。」
「ケガしたらって思ったら……。」
「うん。」
*
「まだ小さいし。」
「…………。」
「私が守れることなら――」
うーちゃんを見ます。
「守ってあげたい。」
「ユイ……。」
*
「分かるよ。」
「…………。」
「でも。」
少し離れたところでは――
カナタとコヨリが、
自分たちで遊んでいます。
「全部やってあげたら。」
*
「うーちゃん。」
「?」
「自分でできることも――」
「…………。」
「できないままになっちゃうよ。」
「…………。」
*
ユイの頭に――
あの日の声。
『うーちゃん……』
『なにも、できなかった。』
「…………。」
うーちゃんは――
自分の両手を見ています。
*
「…………。」
ぽつり。
「難しいね。」
「何が?」
「守るのって。」
「…………。」
少し笑って。
「うん。」
*
しばらくして――
五人で森の奥へ。
「あ!」
小さな沢。
さら。
さら。
「みず!」
*
沢には――
向こう岸まで続く、
小さな飛び石。
「いく!」
ぴょん!
「気をつけてね。」
「うん!」
*
「私も。」
ぴょん。
ぴょん。
「コヨリ、はやい!」
「普通。」
二人は――
向こう岸へ。
*
「…………。」
飛び石を――
じっ。
「うーちゃん?」
「…………。」
一歩。
前へ。
*
「渡りたい?」
「うん。」
「じゃあ――」
両手を伸ばして。
「抱っこする?」
「…………。」
*
いつもなら――
両手を広げて、
「だっこ♡」
でも。
「…………。」
ふるふる。
「?」
「じぶんで。」
「…………。」
*
「自分で?」
「うん。」
飛び石を見る。
「やってみる。」
「…………。」
心配。
でも――
「分かった。」
*
「…………。」
よいしょ。
ぴょん。
ぺたっ。
「!」
「できた!」
「あとちょっと。」
「うん♡」
*
次の石。
「よいしょ……。」
ぴょん。
ぐらっ。
「……!」
「うーちゃん!」
思わず――
手が伸びます。
*
その手を――
すっ。
イズナが止めます。
「イズナ。」
「…………。」
うーちゃんを見る。
「…………。」
ぐっ。
自分で――
踏ん張ります。
*
「…………!」
ぐらぐら。
そして――
ぴたっ。
「…………。」
ぱあっ♡
「できた♡」
「できたー!」
「…………。」
ほっ。
*
残る石は――
あと一つ。
でも。
少しだけ、
遠い。
「…………。」
さっきまでより――
長く見つめます。
*
「…………。」
耳が――
少し下がります。
「うーちゃん。」
「?」
ユイは――
抱き上げません。
代わりに。
すっ。
手を差し出します。
*
「ここにいるよ。」
「…………。」
「怖かったら、呼んで。」
33話と――
同じ言葉。
「…………。」
「でも。」
にこっ。
「できそうなら、やってみて。」
*
「…………。」
向こう岸を見る。
カナタ。
コヨリ。
そして――
ユイ。
「…………!」
たっ!
ぴょん!
ぽすっ!
*
「…………。」
自分の足。
向こう岸。
「…………!」
ぱああっ♡
「できた〜♡!」
「できたー!」
「できたね。」
「うん!」
ユイも――
満面の笑顔。
*
次の瞬間。
「ユイ〜♡」
ぺたぺたぺた!
ぎゅっ♡
「わっ。」
「だっこ♡」
「自分で渡った直後なのに?」
「だっこする♡」
「ふふっ。」
ひょいっ。
ぎゅっ♡
「えへへ♡」
「ぼくも!」
「カナタは歩いて。」
「えー!」
「私も。」
「増えないで。」
みんなの笑い声。
ユイは――
腕の中のうーちゃんを見ます。
守りたい。
ずっと――
そう思っている。
でも。
手を伸ばすことだけが、
守ることじゃない。
ときには――
その小さな一歩を、
信じて待つことも。
きっと――
守ることだから。




