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こわくても

――翌日。

ユイの家。

朝ごはんを食べながら――

「ユイ。」

「ん?」

「きょうも、れんしゅうする♡」

「練習?」

「なおす♡」

自分の両手を――

ぱっ。

「いっぱい、れんしゅうする♡」

「いっぱいって……。」

「ぼくもする!」

「カナタは何の練習?」

「とぶ♡」

「いつもしてるね。」

「いっぱいなおせたら――」

「うん。」

「いっぱい、なおせる♡」

「…………。」

「同じこと言ってるね。」

「?」

「?」

「……まあいっか。」

朝ごはんを食べて――

準備完了。

「いこー!」

「いこ♡」

「はいはい。」

三人で――

いつもの森へ。

いつもの森

「おはよ、お姉ちゃん。」

「おはよう。」

「うーちゃん。」

「コヨリ〜♡」

ぺたぺたぺた!

ぎゅっ♡

「おはよ。」

「コヨリ。」

「なに?」

「きょうも、なおす♡」

「…………。」

自分の膝を――

確認。

「今日はケガしてない。」

「…………。」

「イズナ。」

「私もケガしてないよ。」

「…………。」

「ぼくも!」

「…………。」

きょろ。

きょろ。

「ケガしてる人を探さないの。」

「…………。」

しゅん。

「れんしゅう……。」

「ケガする練習はできないからね。」

「…………。」

「お姉ちゃん。」

「ん?」

「治す練習より――」

「?」

「別の練習した方がいいかも。」

「別の?」

「うん。」

イズナは――

うーちゃんを見ます。

「うーちゃん。」

「?」

「この前。」

「…………。」

「フレイが来たとき――」

ぴくっ。

うーちゃんの耳が、

少し下がります。

「うーちゃんが動けなかったのって。」

「…………。」

「治し方が分からなかったから?」

「…………。」

ふるふる。

「じゃあ――」

「…………。」

小さな手を――

ぎゅっ。

「……こわかった。」

「…………。」

「いっぱい……。」

もう一度。

小さく――

「こわかった。」

「うん。」

うーちゃん

「…………。」

ユイは――

うーちゃんの前にしゃがみます。

「私も怖かったよ。」

「…………?」

顔を――

上げます。

「ぼくも。」

「カナタも?」

「うん。」

「すっごく、おおきかった。」

両手を――

いっぱいに広げます。

「これくらい!」

「そこまでじゃないかな。」

「私も怖かった。」

「…………!」

「怖くないわけじゃないよ。」

「イズナも……?」

「うん。」

「コヨリは?」

「怖かった。」

「…………。」

きょろ。

ユイ。

カナタ。

イズナ。

コヨリ。

「…………。」

「みんな、こわかった?」

「うん。」

「うん。」

「うん。」

「うん。」

「…………。」

「うーちゃんだけじゃない?」

「うーちゃんだけじゃないよ。」

「…………。」

耳が――

ほんの少し、

戻ります。

「いっしょ?」

「一緒。」

今日の練習

「だから今日は――」

「?」

「怖くなくなる練習じゃなくて。」

「うん。」

「怖くなったときの練習。」

「…………?」

「やることは一つ。」

「ひとつ?」

「うん。」

イズナは――

ユイを指します。

「お姉ちゃんを呼ぶ。」

「ユイ?」

「そう。」

「なおさない?」

「まだ治さなくていい。」

「たたかわない?」

「戦わなくていい。」

「…………。」

「ただ――」

「ユイを呼ぶだけ。」

「…………。」

ユイを見る。

「私はここにいるよ。」

「…………。」

ぺた。

ぺた。

ぎゅっ♡

「よぶ♡」

「今はもう呼ばなくてもいるけどね。」

「でも……。」

「?」

「どうやって練習するの?」

「…………。」

「…………。」

「!」

ぱっ。

「ぼく、フレイやる!」

「カナタが?」

「うん!」

少し離れて――

ばっ!

「がおーーー!」

「…………。」

「…………。」

「…………。」

「フレイ、がおーって言わない。」

「…………。」

「じゃあ……。」

少し考えて――

「ぐおーーー!」

「そういうことじゃない。」

「むずかしい……。」

「まあ……。」

「?」

「練習だから。」

「!」

「やる!」

「じゃあ、うーちゃん。」

「うん。」

一回目

うーちゃんが――

少し離れたところへ。

ユイは――

その後ろ。

「いい?」

「うん。」

「じゃあ――」

「始めるよ。」

木の陰から――

ひょこっ。

「がおー!」

「…………。」

「がおーー!」

「…………。」

「…………。」

くるっ。

「ユイ♡」

「はい。」

ぺたぺたぺた!

ぎゅっ♡

「できた♡」

「できたね。」

「…………。」

「うーちゃん。」

「?」

「こわかった?」

「…………。」

ふるふる。

「…………。」

「カナタだから。」

「えー!」

もう少しだけ

「じゃあ。」

「?」

「今度は、いつ来るか言わない。」

「…………。」

「無理しなくていいよ。」

「…………。」

少し考えて。

こくん。

「やる。」

それから――

みんなで、

いつものように遊びます。

「コヨリ〜♡」

「こっち。」

ぺたぺたぺた!

「まって〜♡」

そのとき――

がさっ!

「!」

木の陰から――

ばっ!

「がおー!」

「……っ!」

びくっ。

長い耳が――

ぺたん。

小さな身体が、

ぷる。

「…………。」

「…………。」

30話と――

同じ。

「…………。」

呼びません。

近づきません。

ただ――

そこにいます。

「…………っ。」

ぷる。

ぷる。

そして――

「…………ユイ。」

小さな声。

「うん。」

「ユイ……!」

ぺたっ。

ぺたっ。

ぺたっ!

ユイのところへ――

走ります。

ぎゅうっ!

「うん。」

「…………。」

ぎゅううっ。

ユイも――

ぎゅっ。

なで。

なで。

「…………。」

「ユイ。」

「ん?」

「こわかった。」

「うん。」

「でも……。」

少しだけ――

顔を上げます。

「ユイ、よべた。」

「うん。」

にこっ。

「呼べたね。」

「…………♡」

帰り道

――夕方。

五人で、

帰ります。

「カナタ。」

「なに?」

「がおー……。」

「うん!」

「へた♡」

「えーーー!」

「下手だった。」

「コヨリまで!」

「ふふっ。」

「ふふ。」

うーちゃんも――

えへへ♡

そして。

ユイの手を――

きゅっ。

まだ――

怖いものは、

怖い。

怖くなくなったわけじゃない。

でも。

怖くなったとき――

呼べる名前がある。

「ユイ♡」

「なに?」

「えへへ♡」

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