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デルダの潜入

 デルダはギルド職員としての日々を送りながら、アリスの動向を探ろうとしていた。


 彼はギルドの業務に精通しながらも、常にアリスの行動を観察していた。だが、アリスは一見すると普通のギルドスタッフのように見え、特に不審な点は見当たらなかった。


「どうも……妙なことはないな」


 デルダはデスクに座りながら、書類を整理する手を止め、ふと考え込んだ。彼はアリスが何か秘密を抱えているのではないかと疑っていたが、彼女の行動には特に怪しいところは見受けられなかった。


「もっと確かな情報が欲しい……」


 彼は焦りを感じながらも、冷静に状況を見極めようと努めた。ギルドの業務は忙しく、アリスも常に他のスタッフと共に働いていたため、彼女の動向をじっくり観察する機会は限られていた。


「このままでは情報が得られない……」


 デルダは、ギルドのオフィスで行われる定期的な職員会議に出席しようと意気込んでいた。会議の時間が近づくと、他の職員たちが次々と会議室に向かって行くのを見て、彼もその流れに乗ろうとした。


「今日は職員会議か……何か有益な情報が得られるかもしれないな」


 彼は自分のデスクから立ち上がり、会議室に向かおうとしたが、突然、先輩職員の一人に呼び止められた。


「デルダ、どこに行くんだ?」


「会議に出席しようと思って。何か問題でも?」


 その職員は苦笑いを浮かべながら首を横に振った。


「あんたはまだ出なくていい。新人の職員は呼ばれないんだよ」


 デルダは驚きと失望を隠せなかった。彼はもう少しで重要な情報に近づけると思っていたが、どうやらそれは簡単にはいかないようだった。


「そうか……」


 彼は一瞬ため息をつきながらも、すぐに表情を引き締めた。


「わかった。ありがとう」


 彼は会議室の前から立ち去り、自分のデスクに戻った。


 デルダは内心で焦りを感じながらも、今後の行動を練り直す必要があると悟った。職員会議に出席できないとなると、他の方法でアリスやギルドの内部情報を探る手段を見つけなければならなかった。


「もっと別の方法を考えないと……」


 デルダは心の中でつぶやき、次の手を考えるために頭を働かせ始めた。


 職員会議が始まり、ガレンとアリスが会議室に籠った。


 デルダはこの機会を逃すまいと、慎重に計画を立てた。彼は物を運ぶふりをして、ギルドのいろいろな場所を歩き回ることにした。


「今がチャンスだ。彼らが会議中なら、少しぐらい探索しても問題ないだろう」


 デルダは手元の箱を持ち上げ、廊下を歩き始めた。


 彼はまず倉庫の方に向かい、物資の整理をしているように見せかけた。その後、静かに他の部屋やオフィスを覗きながら、ギルドの内部を探索した。


「ここはどうだ?」


 デルダは資料室の扉を開け、中を覗き込んだ。古い書類や記録が山積みになっている。彼は慎重に数枚の書類を手に取り、中身を確認したが、特に目新しい情報は見つからなかった。


「次は……」


 デルダは廊下を進み、次に目を付けたのはギルドの図書室だった。彼は扉を開け、中に入り、棚に並ぶ本や記録を眺めた。しかし、ここでも特に目立った情報は見つからなかった。


「もっと別の場所を探さないと」


 デルダは心の中で焦りを感じながらも、冷静さを保とうと努力した。


 デルダは職員が寄りつかない地下倉庫に向かった。


 薄暗い廊下を進みながら、彼は不安と期待の入り混じった気持ちを抱えていた。


「ここには何か重要な情報が隠されているかもしれない……」


 彼は心の中でそう呟きながら、扉の一つに手をかけた。しかし、ほとんどの扉はしっかりと施錠されており、中に入ることはできなかった。


「鍵がないと開けられないか……」


 デルダは鍵を持っていないことに苛立ちながらも、諦めずに探索を続けた。地下倉庫の奥へと進むと、ようやく一つの扉が開いているのを見つけた。


 彼は慎重に扉を開け、中に入った。


「ここは……」


 部屋の中には備蓄品が所狭しと置かれていた。食料や医療品、武器などが並んでいるが、特に目立ったものは見当たらなかった。


「ただの備蓄品か……」


 デルダはがっかりしながらも、何か見落としているかもしれないと考え、部屋の隅々まで調べることにした。しかし、どれも日常的な物資ばかりで、特別な情報は見つからなかった。


「ここには何もないのか……」


 彼は再び廊下に戻り、別の部屋を探ることにした。しかし、次に試した部屋もまた施錠されており、中に入ることはできなかった。


「この先に何かがあるはずだ……」


 彼は心の中で呟きながら、廊下の端にある奥の部屋に向かった。しかし、廊下の端に差し掛かると、そこには黒ずくめの人物が座り込んでいた。その姿はまるで酔っ払いのようで、頭を垂れている。


「なんだ、酔っ払いか?」


 デルダは怪訝な表情を浮かべながらも、その人物に近づいた。黒ずくめの人物はふらふらと立ち上がり、まるで酔っているかのようにふらついている。


「……何か用か?」


 その声は低く、かすかに笑みを含んでいた。デルダは一瞬驚いたが、すぐに冷静を取り戻し、その人物に答えた。


「いや、特に。ただ、少し歩いていただけだ」


 デルダは慎重に言葉を選びながら、黒ずくめの人物を観察した。その人物の顔はフードでほとんど隠れており、表情は伺えなかった。


「気をつけろよ……ここは危険だ」


 その言葉に、デルダはさらに警戒心を強めた。しかし、何も言わずにその場を離れ、奥の部屋へ向かおうとした。


「ふふ、面白い……」


 黒ずくめの人物は再び座り込み、酔っ払いのようなふりを続けた。その背後でデルダが奥の部屋に向かう姿を見送りながら、彼の動きを監視していた。


 デルダは気を取り直して奥の部屋に向かい、扉に手をかけた。しかし、扉はしっかりと施錠されており、中に入ることはできなかった。


「鍵が必要か……」


 デルダは諦めずに他の手段を考え始めた。


 彼の心には、黒ずくめの人物の存在が気になりながらも、奥の部屋に隠された何かを見つける決意が強まっていた。

 

 ——その後。


 デルダたち新人職員はギルドの大広間に集められ、先輩職員たちが前方に並んで立っていた。彼らは真剣な表情で、新たな方針について説明を始めた。


「ギルド会議の結果、新人職員への教育を充実させることになりました」


 先輩職員の一人が口火を切った。


「今日から、冒険者の対応の仕方、火災発生時の避難経路、書類の取り扱い方など、基本的なことをしっかり学んでもらいます」


 デルダは一瞬、期待と興奮で胸が高鳴ったが、すぐにそれが無駄な期待であることを悟った。説明される内容は全て基礎的なことばかりだった。


「冒険者がギルドに来た時は、まず彼らに笑顔で挨拶をし、クエストの内容を丁寧に説明するように心がけてください」


 先輩職員の一人が指示を出す。


「火災が発生した場合は、落ち着いて避難経路を確認し、迅速に行動してください。避難経路は事前に覚えておくことが重要です」


 別の先輩職員が強調する。


 デルダは退屈そうに話を聞きながら、心の中で苛立ちを感じていた。重要な情報が聞けると思ったのに、これでは何も得られない。


「書類の取り扱い方も重要です。紛失や誤って情報を漏洩しないように、常に注意を払ってください」


 最後に、もう一人の先輩職員が書類の取り扱いについて説明した。


 デルダは内心ため息をつきながら、他の新人職員たちと同じく真剣なふりをして聞いていた。この教育プログラムが何の役に立つのか、自分には理解できなかったが、とりあえずは従うしかなかった。


「以上が今日の教育内容です。何か質問があれば、今のうちにどうぞ」


 先輩職員が話を終え、広間は静まり返った。デルダは質問する気も起きず、ただ黙ってその場を後にした。重要な情報を得るためには、まだまだ試行錯誤が必要だと感じていた。


 ——数日後。


 あるとき、デルダはギルドの裏手でアリスが忙しそうに動いているのを目撃した。


 彼女は大きな荷物を馬車に詰め込んでいる。荷物の中身はどうやら食材らしい。


「何してるんだろう…」


 デルダは好奇心に駆られ、近くにいた職員に声をかけた。


「ねぇ、あれ何してるんだ?アリスが食材を馬車に詰め込んでるみたいだけど。」


 職員はちらっとアリスの方を見てから、肩をすくめて答えた。


「さあな。何かの取引じゃないか?詳しいことは知らないよ。」


 デルダはその返答に少し不満を感じたが、これ以上問い詰めるのも無意味だと判断した。


 デルダは決心し、アリスに近づいた。


「手伝いますよ」と声をかけた。


 アリスは一瞬だけデルダを見つめ、冷静な表情で言った。


「持ち場にお戻りくださいまし。」


 その一言でデルダは言葉を失い、結局何も聞き出せずに引き下がるしかなかった。


 アリスの態度は冷たいが、何か大きな計画が進行中であることを感じさせた。デルダはますますアリスの動向に興味を抱き、彼女の謎を解き明かすための手がかりを求めていた。


 デルダは業務中、ファイルを整理しながら近くの先輩職員に話しかけた。


「アリスさんについて、少し教えてもらえますか?」


 先輩職員は一瞬考え、淡々と答えた。


「アリスさんはガレンさんの優秀な右腕だよ。ギルドの発展に力を入れてる。何か具体的に知りたいことでもあるのか?」


 デルダは少しがっかりしながらも続けた。


「例えば、彼女が普段どんな仕事をしているのかとか、何か特別なプロジェクトに関わっているのかとか…」


 先輩職員は肩をすくめた。


「特別なことは何もないと思うよ。とにかく彼女は忙しいんだ。ギルドの運営全般に関わってるから、あまり細かいことは知らないな。」


 デルダは内心で溜息をつきながら、再びファイルの整理に戻った。アリスの謎を解く手がかりは依然として見つからず、焦りだけが募っていった。


 数日後、デルダは建物の周りでゴミ拾いをするふりをしながら、アリスが馬車に何本かのハードケースを積んで戻ってくるのを目撃した。


 アリスは忙しそうに動き回り、馬車の荷台からハードケースを慎重に荷下ろししていた。


 デルダはゆっくりと馬車の近くまで接近し、ゴミを拾いながらその様子を観察した。ハードケースの中身が何か気になったが、アリスの注意を引かないように慎重に動いた。


「何を積んでいるんだろう…?」


 デルダは心の中でつぶやき、視線をケースに集中させた。


 アリスは一瞬、デルダの存在に気付いたかのように振り返ったが、すぐに再び荷物に集中した。


 デルダは息をひそめ、さらに慎重に行動した。ゴミ拾いを続けながら、ハードケースの詳細を観察しようと試みたが、ケースには特に目立った特徴やラベルは見当たらなかった。


 デルダは物陰に身を潜めて観察していると、アリスが馬車から出したハードケースを黒ずくめの酔っ払いが受け取っているのを目撃した。


 あの時の酔っ払いがケースを持ってどこかに運び入れているのだ。


「一体、何を運んでいるんだ…?」


 デルダは眉をひそめながら、黒ずくめの人物の動きを見守った。黒ずくめの人物は、周囲に誰もいないのを確認すると、素早く動き出し、地下倉庫の奥へと進んでいった。


 デルダは心の中で緊張感を高めながら、その動きを見逃さないように注意深く観察した。


 そして意を決して近づき、積み下ろしを手伝おうと声をかけた。


「手伝いましょうか?」


 デルダが言うと、黒ずくめの酔っ払いが鋭い目で睨みつけてきた。


「俺のクエストだ。邪魔するな」


 黒ずくめの男が低い声で答えた。


「資材運搬クエストなんですね…」


 デルダは言いながらも、男の態度に一瞬ひるんだが、さらに疑念を深めた。


 黒ずくめの男は何も言わず、ハードケースを持ち上げると、そのまま地下倉庫の奥へと進んでいった。デルダはその後ろ姿を見送りながら、心の中で独り言のように呟いた。


「ただの資材運搬クエストにしては、やけに厳重だな…」


 デルダはこれ以上近づくことを避け、その場から離れることにした。


 だが、アリスと黒ずくめの男の関係、そして地下倉庫で行われている何かについての疑念はますます深まっていった。これからも注意深く観察し、さらに情報を集める必要があると感じながら、デルダは静かにその場を後にした。


 デルダがその場を去るのを見届けたシェイドは、唇の端を歪めて冷笑を浮かべた。


「……ふふ」


 その笑みには何か含みがあるように見えたが、その真意を察することは誰にもできなかった。シェイドの冷たい視線は一瞬だけデルダの背中に注がれ、その後、彼の興味は再び別の方向に向けられた。

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