着々と準備
秘密部隊はサンセットの街に到着し、エリシアからの指示を胸に、さっそく勧誘活動を開始した。彼らは分散して街中を歩き回り、酒場、カフェ、スラムなど、人々が集まる場所を一つ一つ訪れていった。
酒場の中では、部隊の一人がカウンターに腰掛け、酒を飲みながら周囲の様子を観察していた。彼の目は職に困っていそうな人々を鋭く見定める。ある程度目星をつけたところで、彼は声をかけた。
「ここで読み書きができて、職を探している人はいないか?」
その問いかけに、数人が興味を示し、彼の周りに集まってきた。彼はにっこりと微笑み、ギルドの特典や待遇について説明し始めた。
一方、カフェでは別の部隊員が静かにコーヒーを飲みながら、店内にいる客たちの会話に耳を傾けていた。仕事について話している客がいると、彼はさりげなく近づき、話を切り出した。
「職に困っているなら、ギルドの仕事に興味はないか?」
その言葉に、いくつかのテーブルから視線が向けられた。彼は丁寧にギルドの魅力を説明し、興味を引いた者たちに詳しい情報を提供した。
スラム街では、別の部隊員が薄暗い路地を歩き回り、困窮している人々に声をかけていた。彼は読み書きができるかどうかを確認し、ギルドでの仕事を提案した。
「ここでの生活が厳しいなら、ギルドに来てみないか?仕事は豊富だし、待遇も悪くない」
その言葉に、スラム街の住人たちは少しずつ興味を持ち始めた。彼は具体的な仕事内容や給料についても説明し、彼らの信頼を得るために努力した。
こうして、秘密部隊はサンセットの街中を歩き回り、読み書きができて職を探している人々を次々と勧誘していった。彼らの活動は順調に進み、街には新たな仕事の機会が広がり始めていた。
宿場町のギルド職員たちは、サンセットの市場に繰り出し、それぞれの職務を遂行するための資材を買い付けていた。彼らは忙しく動き回り、必要な物資を手に入れるために様々な店舗や屋台を訪れていた。
医療スタッフは、ポーション用のハーブや薬剤を求めて市場の薬草屋を訪れた。
店主に向かって、どの薬草が一番新鮮で効果が高いかを尋ねると、店主は自慢げに新しい薬草の束を見せた。医療スタッフはそれを丁寧にチェックし、必要な分を買い揃えた。
一方、資材管理スタッフは、各消耗品関係や生活用品を求めて市場を回っていた。
彼らは頑丈なロープや油灯、寝袋など、冒険者たちが必要とするアイテムを一つ一つ選び取っていた。品質を確かめながら、最良の品を手に入れるために交渉を繰り広げる。
経理スタッフは、市場の一角で支出の見込みを現地で計算していた。
彼らは購入する物品のリストを手に持ち、各商品の価格を確認しながら、予算内で必要な資材をすべて揃えるために頭を悩ませていた。市場の賑やかな雰囲気の中、彼らは冷静に数字を計算し、最適な買い物を進めていた。
市場は活気に満ちており、職員たちは忙しそうに動き回っていた。各自が担当する分野で最高の成果を出すために、真剣な表情で作業を続ける。彼らはサンセットの街での活動を成功させるために、一丸となって努力していた。
医療スタッフはハーブを袋に詰め込み、資材管理スタッフは手に入れた物品を大きな袋に詰め込む。経理スタッフは最後の計算を終え、全員が集まって市場を後にした。
彼らは各自の職務を全うし、ギルドのために必要な物資を揃えることができたのだった。こうして、宿場町のギルド職員たちは市場での買い付けを終え、再びギルドのキャンプに戻っていった。
宿場町から来た奇妙な一団は、まだ戦場に出ていないにもかかわらず、すでに噂のネタになっていた。
彼らの集団には明らかに非戦闘員が混じっており、しきりにテントの中で冒険者のサポートを行ったり、資材を運び入れている。その様子は他の冒険者や騎士団員たちにとって非常に奇妙に映った。
「見てみろよ、あの連中。何やってんだ?」
ある冒険者が仲間に囁いた。
「まるで戦場の準備じゃなくて、なんかのキャンプでもしてるみたいだな」
別の冒険者が同意する。
宿場町の一団は、自分たちのテントを設営し、内部で冒険者たちのサポートに必要な物資や装備を整えていた。
非戦闘員たちは手際よく道具や薬品を整理し、戦闘員たちが必要とする物品を次々と運び入れている。その様子を見ていたサンセットの冒険者や騎士団員たちは、ますます彼らの行動に戸惑いを感じていた。
「何なんだ、あいつら?戦うつもりはないのか?」
騎士団員の一人が疑問を口にした。
「いや、戦うための準備をしてるみたいだが……」
別の騎士団員が答えた。
宿場町の一団は、他の冒険者や騎士団員たちの注目を集めつつも、自分たちの作業に集中していた。彼らは非戦闘員を含むサポートチームをしっかりと組織し、戦場での活動を円滑に進めるための準備を進めていた。
「何か特別な訓練でも受けてるのか?」
ある冒険者が興味津々に尋ねた。
「さあな。でも、あの装備や物資の量を見ろ。相当な準備をしてるに違いない」
仲間が答えた。
——それから程なくして。
騎士団員はセリスたちにミーティングに参加するよう指示を出したが、全く相手にされずに戻ってきた。彼は焦りと苛立ちを隠せないまま、他の騎士団員に報告する。
「セリスにミーティングに参加するように言ったんだが、あいつらまるで相手にしやがらない。セリスなんて『あ、忙しいんで勝手にやっといてくださいまし』だってさ」
騎士団員は頭を抱えた。
「なんだそれ?ありえないだろう…どうすればいいんだ?」
別の騎士団員が困惑しながら尋ねた。
騎士団の一部のメンバーは宿場町組の独立した行動に対して怒りを露わにしていた。
「来てくれるのはありがたいが、指示には従ってほしいものだ」
ある騎士団員が苛立ちを隠さずに言った。
「まるでピクニック気分じゃないか。戦場を舐めているとしか思えない」
別の騎士団員が同意した。
「でも、クレームを入れてもどうしようもないだろう」
リーダーが深いため息をついた。
「そうだな。ここで揉め事を起こしても無駄だ。ひとまず静観するしかない」
騎士団員たちは不満を抱えながらも、宿場町組の動向を注意深く見守ることに決めた。彼らがどのように戦場で活躍するのか、その実力を確認するためには、実際に戦闘が始まるのを待つしかなかった。
「俺たちも準備を怠らないようにしよう。いざという時に備えておくんだ」
リーダーが指示を出し、騎士団員たちは再び各自の準備に取り掛かった。宿場町組との協力は期待できないが、自分たちの力で戦場を切り抜ける覚悟を新たにしたのだった。
セリスは準備の陣頭指揮をとりながら思案していた。
前回の派遣で騎士団と他の冒険者達の力量は把握している。
ゴブリンシャーマンやドレイクとの力関係、それに対してダンジョンのモンスターを日常的に相手にしている我々の実力の差は歴然としていた。
魔族側が新たな脅威を差し向けない限りは、大きなアドバンテージを保有している。
「とにかくここは強気に出るしかないわね」
セリスは心の中でそう決意した。完全にこちらのペースに持ち込むことで、交渉において有利な位置につくことができる。強い態度で臨むことが重要だ。
「皆さん、しっかり準備を進めてください。これからの戦いが我々の未来を左右することになります」
彼女は声を張り上げ、仲間たちに指示を出し続けた。冒険者たちはその声に応え、真剣な表情で準備を進めていた。彼らもまた、セリスの決意を共有していた。
「我らが力を見せつけてやるのですわ。相手にこちらの実力を見せつけ、交渉の場でも有利に立ちましょう」
セリスは内心で自分に言い聞かせた。これからの戦いに向けて、気を引き締めながら準備を進める彼女の姿は、一行にとって頼もしいリーダーそのものだった。
——そんな宿場町組の態度は早くもマルコスの耳に入った。
サンセットのギルドや騎士団との連携を断ち、独自の支援スタッフまで引き連れているという報告が届いた。
「どういう意図があるんだ……?」
マルコスはデスクに肘をつき、額に手を当てながら考え込んだ。
宿場町からの派遣は一回目にはたった二人だった。
それが今回は十数人という大規模な派遣となり、しかも彼らは独立して動いている。これは単なる偶然なのか、それとも何かの計画が進行しているのか。
「一回目の派遣は偵察だったのか? 今回の二回目が本番だとでも?」
マルコスは思案を続けた。もしこれが何かの企みであるとするならば、今回の人数増加はその計画を実行に移すための準備だろうか。しかし、その目的が何であるかは見当がつかない。
「何か企みがあるとするならば……」
彼はデスクの上に広げられた地図を見つめ、ため息をついた。
「宿場町の連中が何を考えているのか、全く訳がわからない。」
マルコスは一瞬、騎士団たちを事故に見せかけて壊滅させる気なのかと考えた。しかし、すぐにその考えを振り払った。
「流石にそれは考えすぎだ……」
彼はつぶやきながら、デスクに広げられた地図をじっと見つめた。宿場町組が持つ独自の武器や装備、そして支援スタッフたちの配置は確かに奇妙だが、そこまで極端な結論には至らないだろう。
「おそらく狙いは普通にモンスター討伐だが、もしかすれば何か別の思惑がある可能性もある」
彼の眉間に皺が寄った。何か隠された意図があるかもしれないという考えが頭を離れない。しかし、それすらも考えすぎで、ただ独自の活動でこちらを支援したいだけなのかもしれない。
マルコスは支援スタッフたちが何らかの資材を大量に買い付けていたことについても疑問を感じていた。
彼はその光景を思い浮かべ、眉をひそめた。
「本来であれば騎士団とサンセットのギルドが連携して冒険者をサポートするはずなのに……」
彼は騎士団からの報告を思い出している。
確か、さまざまな資材や消耗品がテントに運び込まれていたという。これらはすべて、宿場町組が自前で用意したものと考えられる。
「これらはすべてこちら側がやるべきことだ。それに、いくら派遣の報酬があったとしても、あれでは赤字が出るのではないか」
マルコスは頭を抱えた。宿場町のギルドがこのような過剰な準備をしている理由が理解できなかった。
「彼らの行動には何か裏があるに違いない……」
彼は再び考え込んだ。支援スタッフたちが資材を大量に買い付ける必要があるのか?その行動の背後にはどんな目的が隠されているのか?
「何か大きな計画が進行しているのか……?」
マルコスは深い疑念を抱えつつも、冷静に状況を分析し続けた。宿場町組の行動が何を意味するのか、真実を見極めるためには更なる情報収集が必要だと感じた。彼は次の一手を考えながら、報告書に目を通し続けた。




