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威光を示せ

 馬車の中で揺られながら、冒険者たちはそれぞれの思いを抱えていた。

 志願したとはいえ、これから向かうサンセット街での任務に少なからず不安を感じている者も少なくなかった。


「大丈夫かな…」と、一人の冒険者が呟いた。


 その声に応えるように、セリスが口を開いた。


「心配しなくてもいいですわよ」


 彼女の声は柔らかく、しかし力強い響きを持っていた。


「ギルドの運営サイドからも何人か出張してきます。他の冒険者を勧誘できれば、報酬ももらえますし、戦力も増える。そうなれば戦いも楽になるはずですわ」


 セリスの言葉に、他の冒険者たちは少しずつ安堵の表情を浮かべ始めた。彼女の自信と冷静さが、彼らの不安を和らげていった。


「そうか…それなら少しは安心だな」


「確かに、戦力が増えれば、俺たちももっと楽に戦えるだろう」


「勧誘の報酬もあるなら、現地での活動も楽しみだな」


 冒険者たちは口々に話し始め、少しずつ士気が高まっていくのを感じた。セリスは彼らの様子を見て微笑んだ。彼女の言葉が彼らに勇気を与えていることを実感したからだ。


「みんな、無事にサンセット街に着いたら、一緒に頑張りましょう」


 セリスの言葉に、冒険者たちは力強く頷いた。彼らの心には新たな決意と希望が芽生えていた。馬車は揺れ続け、彼らをサンセット街へと運んでいった。


 ——それからしばらくして。


 サンセット街に到着した馬車から、冒険者たちは次々と降り立った。


 彼らは、宿場町のギルド職員が指定した場所に集まり、待機していた。その中で、代表としてセリスと数人の交渉担当者が、サンセット街のギルドへと向かった。


 ギルドの入口に立つと、セリスは深呼吸をしてから中に入った。


 彼女の後ろには、緊張しながらも毅然とした態度の交渉担当者たちが続く。ギルドの中は賑やかで、多くの冒険者たちが行き交っていた。


 セリスたちはギルドの受付に近づき、職員に声をかけた。


「私たちは宿場町からの冒険者です。ギルドマスターに会わせてください」


 受付の職員は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに連絡を取った。少しして、ギルドマスターが現れた。彼はセリスたちを見て、軽く眉をひそめたが、すぐに笑顔を浮かべた。


「ようこそ、宿場町からの冒険者たち。どうぞ、こちらへ」


 ギルドマスターはセリスたちを会議室へと案内した。セリスは冷静な表情でギルドマスターを見つめ、口を開いた。


「ご迷惑をおかけしますが、私たちはあなた方の管理下には入りません」


 その言葉に、ギルドマスターは驚きを隠せなかった。


「何ですって?」


 セリスは続けた。


「私たちは直接、現地でキャンプを設営します。ここに来たのは、あくまで宿場町からの冒険者が到着したという報告だけです」


 ギルドマスターは険しい表情で返答した。


「我々は騎士団と協力関係にあるので、手続きに従ってもらわないと困る」


 しかし、セリスたちは強気であった。交渉担当者の一人が前に出て、鋭い視線でギルドマスターを見据えた。


「騎士団と直接交渉させてもらう」


 ギルドマスターはしばし黙り込み、考え込んだ。そして、深いため息をついた後、口を開いた。


「あなた達がそうするならば、我々からの援助は期待しないでくれ」


 その言葉に対し、セリスは微笑んで答えた。


「心配には及びません。我々は現地でのキャンプ設営を行える最低限の人員を確保していますので」


 彼女たちはギルドを後にし、外に待機していた冒険者たちの元に戻った。セリスは彼らに向かって告げた。


「準備を始めましょう。我々はここで自分たちのキャンプを設営します」


 セリスたちがキャンプの設営に取り掛かっている間、宿場町のギルド職員たちはサンセットの騎士団の元へと向かった。彼らの目的は挨拶ではなく、むしろ威光を振りかざすためだった。


 サンセットの騎士団の本部に到着すると、職員たちはすぐに騎士団長に会いに行った。騎士団長のオフィスに通されると、職員たちは毅然とした態度で挨拶を始めた。


「お忙しいところ、お邪魔いたします。我々は宿場町から派遣されてきた冒険者ギルドの者です」


 騎士団長は少し驚いた様子で職員たちを見たが、すぐに表情を引き締めた。職員たちは続けた。


「戦場で混乱がないように、挨拶だけさせてもらいに来ました。派遣期間の一ヶ月間、どうぞよろしくお願いいたします」


 その言葉に騎士団長は一瞬困惑の表情を見せたが、すぐに冷静を取り戻し、応じた。


「こちらこそよろしくお願いいたします。しかし、戦場での指揮系統に従っていただけるのか?」


 職員の一人が前に出て、毅然とした態度で答えた。


「我々は現地でのキャンプを設営し、独自の作戦を展開する予定です。騎士団との協力は考えていますが、指揮系統については柔軟に対応させていただきます」


 騎士団長はその言葉に対し、少し眉をひそめた。


「なるほど。それで問題がないと?」


 職員たちは頷いた。


「はい。宿場町のギルドはこれまでに数多くの任務を成功させてきました。今回も我々のやり方で最善を尽くすつもりです」


 騎士団長はしばらく黙って考え込んだ後、深いため息をついた。


「分かりました。一ヶ月間、どうぞよろしくお願いいたします」


 職員たちは一礼し、その場を後にした。彼らは騎士団の本部を出ると、すぐにセリスたちのキャンプに戻った。キャンプでは、セリスたちが既に設営を進めており、テントが次々と立ち上がっていた。


 職員たちはセリスに報告した。


「騎士団との挨拶は済ませました。これで準備は整いましたね」


 セリスは頷き、笑顔で答えた。


「ありがとうございます。これからの一ヶ月間、全力で取り組みましょう」


 冒険者たちはそれぞれの持ち場に戻り、キャンプの設営を続けた。彼らの新たな拠点が、ここサンセット街で確立されるのだった。


 職員たちの振る舞いを不審に思った騎士団員は、ギルドに問い合わせることにした。ギルドのオフィスに着くと、彼は受付の冒険者に話しかけた。


「すみません、宿場町から来た職員たちのことについて聞きたいんですが、彼らの態度がどうも気になるんです」


 受付の冒険者は、少し戸惑った表情で答えた。


「ああ、彼らですね。実は私たちも少し困っているんです。サンセットのギルドでも同じような態度でしたから」


 騎士団員は眉をひそめた。彼らの態度が一貫していることに違和感を覚えたが、今はとにかく戦力が必要だという現実を思い出した。


「そうですか。分かりました。とにかく、今は戦力が必要ですから、彼らの協力を頼りにするしかないですね」


 受付の冒険者は頷いた。


「そうですね。彼らがどれだけ役に立つかは分かりませんが、少なくとも彼らも協力しようとしています」


 騎士団員は深いため息をつきながら、ギルドを後にした。


 彼の頭の中には、宿場町からの職員たちの態度に対する疑念が残っていたが、今はそれを追求する余裕がなかった。戦力の不足が深刻な状況である以上、彼らの協力を期待するしかなかったのだ。


 キャンプに戻った騎士団員は、他の団員たちに報告した。


「ギルドでも同じような態度だったらしい。どうも彼らは一貫しているみたいだ。でも、今はとにかく戦力が必要だ。彼らの協力を頼りにするしかない」


 他の騎士団員たちは不安げに頷きながらも、それぞれの持ち場に戻っていった。

 彼らの心には疑念が残っていたが、今はその疑念を払拭する時間も余裕もなかった。戦場での戦力を確保することが最優先だったのだ。


 宿場町から来た職員たちと冒険者たちが、サンセット街での戦いにどれだけの影響を与えるのかは、まだ誰も予測できなかった。だが、彼らの存在がこの戦いの行方を大きく左右することになるのは確かだった。


 大体の作業が終わった宿場町組は、これ見よがしに自身の武器を研いだり手入れし始めた。


 サラマンダーの鱗でできた武器が反射し、暖かい光を放つ。彼らの動きには、熟練した職人のような正確さと自信が溢れていた。


 他の冒険者たちは自分たちの作業を行いながらも、チラチラと宿場町組の様子を見ていた。


 その目には、好奇心と少しの嫉妬が混じっている。サラマンダーは宿場町のダンジョンではよく見かけるが、一般的には滅多にお目にかかれない存在であり、他の冒険者たちはその存在すら知らなかったのだ。


「すごいな、あれ……。あんなもん持ってるなんて」


 一人の冒険者が仲間に囁いた。


「確かに。なんの鱗だ?皮か?見るからにヤバそうだ」


 別の冒険者が感嘆の声を漏らした。


 宿場町組の狙い通り、他の冒険者たちは彼らの武器に興味を引かれ、その動向を注視していた。彼らの武器の手入れを見せびらかすことで、自然と周囲の冒険者たちの関心を引き寄せる作戦は、今のところ順調に進んでいる。


「これでいい。あとは勧誘するだけだ」


 セリスは心の中でそうつぶやきながら、氷の剣を丁寧に磨き続けた。


 彼女の冷静な目が、周囲の反応をしっかりと捉えていた。宿場町組の他のメンバーも同様に、自分たちの武器の手入れに集中していたが、その表情には、どこか余裕と自信が漂っていた。


 作業が一段落し、セリスは仲間たちをテントに呼び出した。集まったのは十数名の冒険者たち。セリスは彼らを前に立ち、冷静な声でブリーフィングを開始した。


「皆さま、集まってくださってありがとう存じます。これから今回の任務について説明いたしますわ」


 冒険者たちは真剣な表情でセリスの話に耳を傾ける。セリスは地図を広げ、要注意モンスターについて説明を始めた。


「まず、最も警戒すべきはゴブリンシャーマンと、ドレイクに騎乗したゾンビ兵たちですの」


 彼女の言葉に、冒険者たちは身を引き締めた。セリスは指で地図を指しながら続けた。


「ドレイクの咆哮には注意が必要ですわ。あれにびびってしまうと、一気に攻撃を受けますの。特に後ろに回ると尻尾がムチのように飛んできますから、気をつけてくださいまし」


 彼女は一呼吸置いて、ゴブリンシャーマンについても詳しく説明した。


「ゴブリンシャーマンの魔法も非常に強力ですの。でも、サラマンダーと戦った経験がある皆さまなら、対処できるはずですわ。冷静に、そして迅速に行動してください」


 冒険者たちは頷きながら、セリスの言葉に集中した。彼女の冷静な説明と優雅な口調が、逆に彼らの戦意を高めていた。セリスは微笑みながら最後の言葉を付け加えた。


「皆さまの勇気と力を信じておりますわ。共に頑張りましょう」


 その言葉に、冒険者たちは力強く頷き、テントを出て行った。任務の開始に向け、心を一つにして準備を整え始めた。

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