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Silver tails ―少女は禍星の下を駆ける―  作者: 百七花亭
【Ⅶ】 月下の異境遊戯
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8 自分最優先でとりあえず良心は捨てる?

「えっ、ルーは幽玄図書館に行ったの?」


「すぐ追い返されちゃったけどね」


 話をしながらカフェを出ると、小雪がちらついていた。

 完璧な変装でバレないだろうと思ってはいても、つい黒フードを深くかぶってしまう。

 追われるがゆえに身についた癖である。

 相方もまた濃緑フードマントについた防寒ベールで、顔をきっちり隠している。


 なぜか、じっとこっちを見ているようだが、気のせいだろうか?


 傘を持っていないルーの右手は、ラムロードがいつのまにかにぎっていた。

 双方、手袋越しだが、あまりに自然な動作だったので、ふり払うことも頭になかった。


 ……前は子供だと思っていたから、まったく気にならなかったけど。

 改めて中身、三十代のヒトと知った今、手をつなぐってどうなんだろ。


 ふと、そんな考えがよぎる。


 ラムロードにとっては、おいらの方がきっと子供なんだろうけど。


 たぶん、相方、それを言いたいのではなかろうか──とも気づく。


 ちなみに相方によく雑踏で迷子になるからと手を引かれる自分だが、あれは手首をつかまれて誘導されているのであって、仲良く手をつないでいるわけではない。


「あのさ、手はつながなくてもいいよ」

 となりを歩く、やや目線が下の少年に言ったところ、彼は「人が多いし迷子になっちゃうからね」と、にぎったまま。いつもは少し前をさっさか歩く相方が、なぜか今はうしろを歩いている。背中に視線が刺さる。

「えぇと、おいらもう、十四だし、子供あつかいは」

 困るかな~と言いかけると、おどろいた顔でこちらを見るラムロード。

「そっか、てっきり十一ぐらいかと……」

 それでも手を放す気はないらしい。

 聖女祭でにぎわう街はとても混みあっている。

 そんな中を、たわいもない話をラムロードとしながら歩いた。

 サディスに時々話をふるも、彼は不機嫌そうに「ああ」とか「そうか」と返すだけ。

 しばらくして、あきらかにイラッとしたような声で彼は言った。


「館長捕獲の説明をするのに何処まで行くつもりだ」


「王立図書館だよ」


 ラムロードはちら、とうしろに視線を向けそう答える。

「何のために?」

「説明はもうすこし静かな場所でね」

「聖女祭の間は公共施設は休みだ」

 サディスの言葉に、彼は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「その方が好都合」

 到着したグライヒル王立図書館の重厚な扉には、〈本日、休館〉の札がかけられていた。

 森にかこまれた広い敷地をまわりこみ、建物の裏手へと向かう。職員用の入口も閉まっていた。

 ラムロードがルーの髪飾りを貸してほしいというので、黒桃布で作った花ピンを貸すと、それを使って、あっという間に鍵をあけてしまった。


「ごめんね、ピンが戻らなくなっちゃった。お詫びに今度、あたらしい髪飾りを贈るから」


 特になくて困るものでもないので、「気にしなくていいよ」とルーは言う。

 それより、鍵あけに手馴れていることにおどろいた。

 そのまま、図書館内へと三人は侵入。

 休館日とはいえ、警備員はいるようで館内を巡回する足音が遠くから聞こえた。

 祭のせいなのかどうなのか、警備は意外と手薄だ。

 警備員の中に魔力もちがいるようすもないと、相方が言う。

 閲覧禁止区域の廊下にはいると、いくつかの扉があり、そのひとつにだけ魔法による鍵がかかっていた。

「おそらくこの国の歴史における禁忌や、危険な術を記した書があるのだろう」

 サディスがそう推測しつつ、近くにいる少年の顔を見る。

「この部屋でいいのか?」

 確認すると、彼はうなずき「開けてくれるかい?」と頼んだ。

 わざわざこんなところで内緒話をするんだろうか、と疑問に思いつつも、ルーはふと気になった。

「魔法痕跡で追手に見つからないかな」

「このていどの鍵あけなら、魔力消費はさほどない──ただ」

 そう言って難なく魔法の鍵を解除する。

 同時に現れたのは、扉から生えるように一体化した巨大ヘビ。

 毒々しい赤黒まだらで、頭が人頭の三倍はある。そして首が五つある。


「うわっ!」


「こういった侵入者用の仕掛けが、ままある」


 微塵も表情を変えることのないサディスによって、扉限定で結界が展開。

 その内側で光熱を発する銀糸で拘束され、ローストポークならぬローストスネークとなって、あえなくヘビは消滅した。


 なるほど、これがあるから警備が手薄だったのか。


 閲覧禁止の部屋へと踏みこむ。重そうな書がぎっしりつまった書架がならぶ。

 かたい革の背表紙に鉄のリングがはめられ、書架と鎖でつながれている。

 盗難防止なのだろうが、なんという囚人待遇。

 ざっと見回し、本自体に術がかけられているものはないな、とサディスがつぶやく。


「幽玄図書館の館長はね、あちらこちらの世界を行き来できる不思議なヒトなんだ」


 ふいに発したラムロードの言葉に、ルーが小首をかしげる。

「あちらこちら?」


「人の世界と、精霊の天涯、魔性の地涯……ほかにも空間を越えて隣接すると云われる数多の世界。くわしくはボクも知らないけどね」


 近くの本を手にとりながら、彼はつづける。


「幽玄図書館の館長の仕事は主にふたつ。ひとつは本を愛する者に入館証を渡すこと。もうひとつは貴重本の魂の蒐集───本は複写されたものがよく出回っているけど、本の魂というものは、最初の一冊目に書かれた〈原本〉にだけ宿るらしいんだ。つまり、原本の寿命が尽きると、その魂を蒐集しにアミをもった館長がやってくるってわけでね」


 ──異なる世界を渡る……そんなすごい能力者が、アミをもって本の魂を追いかけるのか。まるで川で魚獲りしてる村の子みたいだな……


 旅の道中みかけたのどかな風景を、ルーは思いだした。


「館長を捕まえるにはね、彼の欲しがってる原本を先に押さえればいいんだよ。ここにあるのはまちがいなく、世に出回ることが許されない貴重な原本だからね」


「でも、本の寿命が尽きないとダメなんだよね?」

 ルーがまた首をかしげつつ、たずねる。

「もちろんだよ」

 彼はとてもイイ笑顔をみせた。


 あれ? いまなんか寒気した。


「でもさ、これだけたくさんの原本があると、持ち出すってわけにもいかないよね……?」

 部屋はこじんまりとしているが、その分ぎっちりつまった書架がところせましと立っているのだ。千冊か、それ以上はあるだろう。

「この部屋にだけ結界をかける。防音も必要だな。館長がすぐ来るとは限らないが、どうする?」

 サディスがラムロードに問いかける。

「原本の魂はボクに任せて、今後の取引材料にもなるからね」

 急に話についていけなくなったルーが、二人を交互にみる。

「簡易魔道具か?」

「そう、試作を知り合いの魔道具屋がくれたんだ。使い道ないなぁとは思ってたけど、今回は重宝するよ。じゃ、先に出てる」

 ラムロードがルーの手を引き廊下へと出た。

 少しして、サディスも扉から出てくる。

 扉をしめる直前、彼の背後でまっ赤な火の手が渦巻くのが見えた。

 しかし、結界のせいなのか燃える音も臭いもしない。


「さ、……サディスっ、うしろ!」


「結界内で行う術は敵に感知されない」


「や、そうじゃなくて! 燃えてる! 本が燃えてるよっ!」


「燃やしたのだから当然だ、出るぞ」


 彼に首ねっこをつかまれ、その場を後にした。

 ラムロードがいないことに気づいたのは、王立図書館の庭に出てからだ。





 王立図書館を離れて、人通りの多い広場へと連れて行かれた。

「ラムロードは?」

「原本の魂を集めている。火が回るまですこし時間がかかるからな。あらかた燃えたら結界は解除するようにしてある」

「……あそこの本って、一冊しかなくてすごい貴重だったんじゃ……」

「原本に寿命があると、アレが言っただろう」


 剣の師匠をアレ、呼ばわりはないんじゃないだろうか。


「だから燃やしたの?」

「そうだ。原本の魂を狩りにくる館長を捕まえるためには、必要なことだ」

 人垣の向こうで、ワッと声が上がる。

 ここからでは見えないが、悲鳴が混じっている。

 通り過ぎた人たちの会話で、乱闘騒ぎが起きてるのだと知った。

 流血沙汰になっているらしい。走って逃げてくる男に、ルーはつき飛ばされよろけた。

 そばにいた相方に二の腕をつかまれたことで、転倒をまぬがれたが……そのあとに駆けてくる男たちがいたため、尻餅なんてつこうものなら踏まれたかもしれない。

「あ、」

 ありがと、と言う前に、彼に胴をひょいと抱えられた。小脇に腕一本で。


「ちょ、サディス!?」


 彼は混みあう人の波を縫うようにその場を離れ、通りに面した雑貨屋へとはいる。

 ここも人は多いが、外ほど密集はしていない。すとん、と床に下ろされた。

「ここで待つ」

「う、うん…」

 気を遣わせたようだ。

 また、パレードを見に行ったときのように、怪我をすると思ったのかも知れない。

「サディスって、やさしいよね」

 いきなり鼻を、ぎゆっとつままれた。

 おまけに防寒ベール越しで顔が近づいてきた。向こうはルーの顔が見えてはいるだろうが、こちらから彼の顔は見えない。どんな表情か読めず。

 あきらかに彼の不興を買った気がする。ひんやりとした空気を感じる。


 え、なんか、おかしいこと言った?


「ずいぶん、アレに懐いてるようだが」


 アレ……というと、この場合、ラムロードのことか? 

 さっきアレ呼ばわりしてたし。……師匠なのに。

 もしかして、彼とはそんなに仲がよくないのか?


 とりあえず鼻が痛いので、彼の手をべしっと、いつものように払おうとしたが出来なかったので、両手でつかんでぐいっと外す。


 どんだけ力いれてんだよ。


「仲良くしちゃ、ダメなのか?」

「……………別に」


 別に?


 その先を待っていたが、彼はフイと、ルーから顔をそらした。

 雑貨屋の扉がひらいて、大荷を背負った少年がはいってくる。

「こんな所にいた」

 ルーにかけよると「じゃあ、次行こっか」と、あたり前のように彼女の手を引き外へ出ようとする。

「待て、報告ぐらいしろ」

 すかさず、サディスが呼び止めた。

 ラムロードはマント内から、金属の円筒を出して見せる。

 幅三センチ、長さ二十センチほどで精緻な細工がほどこされたものだ。

 その紋様の中に精霊言語が含まれていることに、サディスは気づく。簡易魔道具だ。


「原本の魂はひとつのこらず捕まえたよ。警備員は全部燃えつきてから気づいたからね。今ごろ、大騒ぎになってるよ。館長は来てない。というわけで、次の標的を燃やしに行こう。派手にやってればイヤでも気づくよ」


 なんかすっごい良心が痛むことを、さらっと言った……


「あの、ほんとに……いいのかな……? 今さらなんだけど」

 店を出ようとする二人に声をかける。

「大丈夫だよ。閲覧禁止の本なんて、それこそ頭でっかちの学者以外はだれも読まないんだし」


 それって……学者さんが困るんじゃ……


「どうせ館長に原本の魂を渡せば、それらは幽玄図書館の所有になる。完全に消失するわけではない。おまえが気にすることはない」


 幽玄図書館に行ける人が限られてるの知ってて、それ言うのはちょっと……

 この世で読めないのと同じだし……


 足の止まってしまったルーの手を、ラムロードが笑顔でひっぱる。

 うしろから軽くサディスに背中を押された。

 ──このリスクある悪事を率先してやってくれてる二人に対し、自分の良心ごときで足を止めるのは卑怯だと思った。


 幽玄図書館に行かなければならない。そのために館長を捕まえなくてはならない。

 それは、呪詛を解くため。呪詛や追手に脅かされぬ未来をつかむためにも。

 サディスによって封印されているクトリの呪詛は、完全ではなくて。

 あのリデッド遺跡で解けたように、また何が原因で〈クトリの殺人鬼〉と化すかわからないのだ。

 気持ちを切り替えよう。自分が最優先でいいじゃないか。

 ………でも、この国の知的財産損失とも言えるんじゃ………、マリエッタ王女様には心の中で謝っとく! ごめんな! 館長捕まえたら、この国の学者さんたちに入館証を発行してもらえるよう、頼んでおくから!

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