表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の笑顔が、本当になるまで  作者: 兎の毛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/34

3-9)無意識の二歩

木曜日。


普段は体育館裏のベンチ――冬真が勝手に「隆中」と呼んでいる場所で昼を食べている。


だが木曜日だけは違う。週に一度だけ学食で蓮と昼飯を食べる日だった。


「お前、そのうち仙人になるだろ」


向かいで唐揚げ定食を食べながら蓮が言う。


「ならない」


「昼休みまで一人とか修行僧じゃん」


「静かだから好きなんだよ」


「陰キャだな」


「うるさい」


いつもの会話。騒がしい学食の中で、その時間だけは妙に落ち着いた。


少し離れた席では澪、柚葉、ひかりの三人が昼食を取っていた。


「やっぱ学食混むね」


柚葉が言う。


「うん」


澪は小さく頷く。


何気なく視線を動かした先に神代君が見えた。向かいには柏木君。


最近知った、毎週木曜日この二人は学食で昼を食べるらしい。


特に会話が弾んでいる訳ではない。それでもどこか居心地が良さそうだった。


そして更に少し離れた場所。一年生の小坂日菜もいた。


友人達と食事をしていたが、学食にいる先輩を見つけてしまう。


ぱっと顔が明るくなる。声を掛けたい。でも柏木先輩もいる。邪魔になるかもしれない。


『どうしよう』そんな事を考えながら席を立とうとした時だった。


「っ……」


近くで女の子の嗚咽が聞こえた。皆がそちらを見る。一年生の女子生徒だった。目を真っ赤にして泣いている。学食の空気が変わる。全員の視線が集まる。


そしてその先には柏木先輩。ざわつきが広がる。


「柏木じゃね?」


「泣かせたの?」


「最低だな」


好き勝手な声が飛び始める。冬真は眉をひそめた蓮は黙ったままだった。


「何したんだよ」


「女の子泣かせるとかないわ」


「やっぱチャラいし」


声は大きくなる。蓮は反論しないで、ただ黙っている。


冬真は小さく声を掛けた。


「……蓮」


「いい」


短い返事。


「放っとけ」


「でも」


「面倒になるだけだ」


冬真は黙る。


だが表情はどんどん険しくなっていく。それを見ていた日菜は拳を握った。


(違う)


先輩の顔を見れば分かる、本当に怒っている。先輩の親友の柏木先輩が悪い人とは思えない。なのに何も出来ない。悔しい、先輩の役に立ちたいのに足が動かない。


一方。


黒田ひかりは別のものを見ていた。柏木君ではない、騒いでいる男子達でもない澪だった。澪は柏木君を見ていない神代君を見ている。その事に黒田は気付いていた。


そして。


神代君が立ち上がる。ガタン、椅子が鳴る。


「お前らさ」


学食が静まり返る。神代君の声。その瞬間だった。


澪が立ち上がった。


「え?」


思わず声が漏れそうになる。柚葉も驚いている。澪は前を見ていた、神代君を見ていた。


焦ったように、困ったように。そして歩き出す。


一歩。


二歩。


黒田の目が大きくなる。


普段なら絶対に動かない、男子同士の揉め事なんて近付かない。


なのに、考えるより先に身体が動いている。


本人も気付いていないのに。


その時だった。


「違う!違うの!」


泣いていた女子生徒が叫んだ。


全員の動きが止まる。


「柏木さんは悪くないです!」


静まり返る学食。


「私が告白して振られただけです!」


空気が変わる。


「ちゃんと断ってくれました!」


「だから柏木さんは悪くないんです!」


深く頭を下げる女子生徒。


周囲の男子達は気まずそうに黙り込んだ。冬真は大きく息を吐く。


蓮は呆れたように笑った。


「だから言ったろ」


「……そういうの先に言えよ」


「面倒だから嫌だったんだよ」


「余計面倒になってるじゃん」


「お前が勝手に突っ込んだからな」


二人はいつもの調子に戻っていく。


日菜は胸を撫で下ろした。


先輩が悪者にならなくて良かった。柏木先輩も悪くなくて良かった。


でも、やっぱり先輩は格好良かった。友達の為にあそこまで怒れる人だから。


澪も何事もなかったように席へ戻る。


「どうしたの?」


黒田が聞く。


「何でも無い」


澪は何故動いてしまったのか本当に分かっていない顔をした。演技ではない、本気だ。黒田は思わず笑いそうになる。


本人は気付いていない。神代君が無茶をしそうになった瞬間。


反射みたいに立ち上がった事を。あの二歩の意味を。


冬真は蓮しか見ていなかった。日菜は冬真しか見ていなかった。


澪は無意識に冬真を見ていた。


そして黒田だけが、その全部を見ていた。


黒田は心の中で呟く。


(澪、それ絶対、神代君だからだよ。)本人はまだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ