第七話:2010年9月20日(前編)
……ピピピピピピッ
……そこそこ寝れた。おそらく、昨日の夜に焼肉をたらふく頂いたおかげだろう。まあそれはともかく、学校へ行こう──
──そうこうして現在、16時前。学校はひとまず終わり、しかし部活を休んで今、例のアパートに来ている。一応、今日の内にT-メールの内容を決めたいものだが。とりあえず呼び鈴を鳴らすか。
──ピンポーン……
……
……
……ガチャッ。
「へーい……ん、少年か。どうしたんじゃ?」
「え、どうもこうも……周さんから今日来ること聞いてないのか?」
「知らんが。なんで来たんじゃ?」
「ああ。T-メールの内容が決まったんだ、一応。」
「そうか、早いな。まあともかく、上がりたまえ。
──それで、周のやつは来るのか?」
「そのはずだが、まあ俺たちとは違って忙しいからな。」
「……ワシも一日中ぐーたらしている訳ではない。常に学生として研究に没頭している。」
「学生なのか。その体たらくで。」
「一言余計じゃ。……まあそれはいい。どんな内容を送るんじゃ?」
「俺、昨日に周さんから事件について聞いていたんだ。……やっぱり、紘海は自殺の可能性が高い。だから俺は、紘海の自殺を止めるために事件当日の朝に、紘海が自殺してしまうから止めろ、って送るつもりだ。」
「ふむ……自殺、か。ちなみに聞くが、角倉はなぜ自殺したんじゃ?話を聞いている限り、動機が見えてこないんじゃが。」
事件の流れからして、紘海が自ら命を絶ったことはほぼ間違いない。……しかし、なぜ紘海がそうしたのかは考えてなかった……いや、わかるはずもない。なぜ、沢登に手を貸したのか。そもそも手を貸したのか?それすらも分からない。
「……その顔からして、わからんようじゃな。」
「……ああ。」
「でも、動機が分からないと自殺を止めることは難しいのではないか?普通は何かしらの原因に苦しんでいて、その苦しみから脱却できないから自殺するのではないのか?じゃから、その苦しみを根本的に解決することが、すなわち少年のやることではないのか?」
「……たしかにそうだ。でも、紘海にはもっと何か別の要因がある気がしてならないんだ……動機というものに留まらない、なにか別のものが。だからひとまずはこれでいいんだ。仮にこのメールで失敗しても、次があるからな。」
「次?少年、そんなものはないと思え。」
「ない、だと?どういうことだ?」
「まあ簡単に言うと、性質上T-メールは一度しか送れないんじゃ。」
「一度しか送れない?なんでだ?」
「まあ厳密に言うと、一度しか送れないというのは語弊があるが……最も大きい理由として世界の因果律が関係してるんじゃ。ところで少年、因果律って何か分かるか?」
「因果律……?多分、その言葉から読み取って考えると、因果関係がなんたらとかか?」
「まあそうじゃ。簡単に言うとあらゆる結果には何かしら必ず原因があるという意味じゃ。それを踏まえてじゃが、過去にメールを送ったら、どうなると思う?」
「どうなるって……過去に転送されて終わりだろ。それか、今生きている現実が変わるとかそういうことか?」
「どっちも不正解じゃ。仮にこの世界に世界線という世界のパターンが沢山存在すると仮定すれば、過去にメールを送っても、送った先という別の世界線の未来が、送り手の世界線での未来と違ってくるじゃろう。その理論だと、少年が言うただ過去に転送されるのみというのも正しくなる。しかし、それを否定する証拠がある。」
「……その証拠ってなんだ?」
「これじゃ。」
何やら今宮がケータイを取り出したが、これは……メール?しかもこの内容というのが……
『○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○』
「……なんだ、これは。全部が丸じゃないか。これのどこが証拠なんだ?」
「それについてじゃが……それが、この送り手というのがワシなんじゃ。」
「????」
「……厳密に言えば、ワシのケータイから送られたようなんじゃ。」
……話が見えてこない。なんでこんなのを自分で……いや待てよ。今、なんで“ようだ”って言ったんだ?
「その口ぶりからして、そのメールに身に覚えがなかったようだが……まさか、あんたが送ったものではないのか?」
「そうじゃ。ワシは送ってない。」
「……それじゃあ誰かがあんたのケータイを盗って送ったのか?」
「それはない。このメールが送られた時はワシがしっかり手に持っていた時じゃ。」
「それじゃあ一体、誰が送ったんだ?」
「まあおそらく、ワシじゃろう。」
「え?さっき違うって……」
「そうじゃ。今のワシじゃない。未来のワシじゃ。」
そ、それってつまり……
「……それじゃこれって、T-メールなのか?」
「ああ。そうじゃ。内容を察するに、どれくらい“○”を送れるかの実験じゃろう。」
「そうか、これがT-メール……でもなぜ、これがこの世界に複数の世界線があることを否定するんだ?」
「さっき言った通り、これはどれだけ○を送れるか、すなわちT-メールの文字数の実験じゃ。おそらくやり方として、大雑把に○をいっぱい送って、送れていなさそうか、あるいは送れていても○を一個減らしてまた送信を繰り返したんじゃろう。ここで重要なのは送られているのがこれ一通のみということじゃ。」
「……たしかに、一通だけというのはおかしい。過去に送るだけなら何回だって送れるはずだ。でも、これよりも少ない数の○だけのメールが送られていないということは、何か理由があるのか……?」
「それはもちろん、送れなかったからじゃろう。ではなぜ送れなかったのか。そこで話を戻して、少年が考えたT-メールを送ったらどうなるかについて考えるのじゃ。
まず、過去に送られるだけ、すなわち複数の世界線がある説は、このT-メールが複数個ないとおかしいという点で否定された。次に未来が変わって、今いる現実が変わる説については因果律を考えてみるとおかしいんじゃ。T-メールを送った瞬間に世界が変わるなら、その原因はどこから来るのか?その原因というのがメールの送信先の世界だと仮定するなら、それこそ世界線説が否定された上では成立しなくなる。
要するにじゃ、過去で未来を変えたきっかけがないはずなのに、今の現実が変わるはずがないということじゃ。」
……話が長くてよくわからんな。
「……ええと、つまり俺が言っていたことは違うんだな。それじゃあ、あんたはT-メールを送るとどうなると思うんだ?」
「それはズバリ、メールの送信先の時間まで世界が遡行するんじゃ。」
「……世界が遡行?」
「……まあ、簡単に言えばT-メールを送った瞬間、あらゆるものがT-メールを受け取った時点へと戻るんじゃ。それは、未来で世界が何も起きなかったかのように、元通りにじゃ……ただ一つのT-メールを残して。」
「……たしかにそれなら○だけのT-メールが一つしかないことにも納得できるな。でも、それこそメールの送り手がいないという因果律での矛盾が出るんじゃないのか?」
「だから、実際は過去に送ったメールが、その過去の時点から送られたかのように、世界がそれだけ変わって戻るんじゃ。現にこのT-メールもワシがT-メールを受け取った時にワシが送ったことになっているからな。」
「そうか……でもよ、それってつまりタイムリープじゃないか?それなら満足する結果になるまで何度も……」
「というわけにもいかんのじゃ。現に、ワシはこのT-メールを送ったことを覚えておらん。よくあるSFのご都合展開だと記憶を携えてタイムリープ、だけど現実はそう単純じゃない。
……だからこそここで今、少年が過去の少年に送れるのは一度きりなんじゃ。」
「……そうか、チャンスは一度きり、か。」
……たった一通の、それもおそらくたった数十字のメールで俺は過去の俺を説得できるのか?……やはり、今のままでは判断がつかないというのか?
続く




